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自作短編集


現在、以下の作品を掲載しています。

 ●天国にいるお父さんへ   <−−−−   Q書房1000字バトル第7回に投稿した作品。面白さではNo1と評価された。

 ●昇天              <−−−−   同じく第11回に投稿した作品。かなり好評を博した(と思う)。

 ●吸血鬼            <−−−−   同じく第14回に投稿した作品。あまり評価されなかったが、自分では気に入っているもの。

 ●プログラマ無残       <−−−−   某ソフトウエア会社が1999年に行った「ネオ2010プログラミングエッセイコンテスト」参加作品

                             当コンテストは、2010年のプログラミング、プログラム業界をテーマにショートショートを募集した

                             もので、この作品は最優秀賞に輝き、20万円分の旅行クーポンを賞品としていただいた。


天国にいるお父さんへ

天国のお父さん、お元気ですか?あの飛行機事故からもう1年に
なります。今日はなぜか、お父さんのことばかり思い出してしまい
ます。お父さんを亡くしてから、私とお母さんにはつらいことばか
り。でもそれは当然のことかもしれません。
 私は悪い娘でした。お父さんの愛情に気付かず、いつも逆らって
ばかりいました。グレて学校は退学になり、煙草や酒どころかシン
ナーまで覚え、挙げ句の果てに、誰のものとも分からない子供を中
絶までして...。
 本当に私が愚かでした。もう少し早くお父さんの愛に気づいてい
れば、こんなことにはならなかったのに。せめてもう一度お父さん
に会って、ひとこと謝りたいのです。でも、それは2度とかなわぬ
ことなのですね。
 お父さんは、こんな娘のことを思い出したくないかもしれません。
でも、お願いです。どうか私のことを忘れないでくださいね。

 天国にいるあなた、お元気ですか?あの事故から1年がたちまし
た。墜落していく飛行機の中で、自分のシートベルトを締めもせず、
私と娘をかばって力一杯抱きしめていてくれましたね。あのとき、
あなたの腕の中で、このまま死んでもずっと3人一緒だと思ってい
ました。なのに、あなただけが天国に召されてしまうなんて・・。
 でも、それも仕方のないことかもしれません。あなたにとって私
はろくでもない妻だったことでしょう。毎日疲れて帰ってくるあな
たにねぎらいの言葉をかけるどころか、やれ稼ぎが少ないだの、出
世が遅くて体裁が悪いだのと文句をいうばかり。あなたの唯一の楽
しみだった、一杯の晩酌に対してさえけちをつけていました。今思
い出しても恥ずかしくてなりません。
 女友達との旅行と偽って、昔の恋人と温泉に行ったこともありま
した。あなたはうすうす気づいていたのにじっと耐えていてくれま
した。あのときは、それがあなたのやさしさとも気づかず、内心で
は、意気地のない男、などと思っていました。
 なんというふしだらで、どうしようもない女だったのでしょう。
あなたを失って、ようやく自分の愚かさに気づきました。でも、ど
うかこれだけは信じて欲しいのです。
...愛しています、今でも...。


「おらおらー、いつまでぼーっとしている。さっさと歩け!この亡者ども
め!」
 血の池地獄からようやく這い出し、わずかばかりの休息を取って
いた母親と娘は、今度は灼熱地獄へと追い立てられていった。



昇天
その男は首を吊って死んだ。保険金で債権者に償いをする以外に方
法がなかったからだ。これまでの努力は何だったのか…。死ぬ寸前
まで、男はおのれの人生を呪っていた。

「そうか、会社が倒産して仕方なく首を吊ったか。不運じゃの」
閻魔大王は、男に顔を近づけるとニタリと笑った。閻魔の吐く息は
硫黄の匂いがする。男は思わず顔をそむけた。
「可哀想じゃが地獄行きだな」
閻魔の言葉に男は驚いた。正直に懸命に働いてきたのに、そんなは
ずはない。
「なぜです?地獄に堕ちるような覚えはありません」
「なんじゃ、知らんのか?自殺した者は無条件に地獄行きなんじゃ
よ。自殺は最大の罪じゃでの」
そんな馬鹿な。男はあまりの理不尽さに声もなかった。

「とまあ、昨日まではそうだったんじゃが…」
歯ぐきをむき出しにしてニタニタ笑いながら閻魔は続けた。
「何しろ昨今の不況じゃ、そういう人間が多くてのう。基準を変更
したんじゃよ。お前のような人間は自殺ではなく事故死扱いにしよ
うとな」
「で、では私は…」
「そう、お前がその適用第一号という訳じゃ。天国に行ってよい」
男はその場に座り込み、安堵のあまり泣き出した。運が良かった。
一日早く死んでいたら地獄行きだったのだ。

「ところで、どうやって天国に行くつもりかの?」
閻魔はさらに顔を近づけて、男に問うた。閻魔の皮膚には無数の老
人斑が浮き出ている。
「どうやってと言われても…」
「本来、天国に行く資格のある者には背中に翼が生えるんじゃよ。
天使の絵によく描かれるようにな」
男は思わず自分の背に手を回したが、そんなものは生えていない。
「何しろ特例じゃでな、お前の背中に翼はない。天国に飛んでいく
訳にはいかんのじゃ。で、どうやって天国に行く?ん?」
どうすれば良いのか、男にわかるわけがない。
「ヒャ、ヒャ、心配するな。ちゃんと考えてある。飛んで行けぬの
なら、天国から引っぱり上げてもらえば良いのじゃ」
閻魔の合図で男の前に一本の縄が出現した。縄の先ははるか上空に
消えて見えない。どうやら天国まで延びているらしい。
「この縄をお前の首に巻き付けて、と。それ、上げろ!」
男の体は猛烈な勢いで上空へと引っぱり上げられた。縄が喉仏に鋭
く食い込む。
「く、苦しい。天国までどのくらいかかるんですか?」
男は吊り上げられながら、はるか足下になった閻魔大王に向かって
叫んだ。
「そうじゃのう、天国まで十万億土。時間にして16億8千万年ほ
どかの」
閻魔大王はけく、けく、けくと笑った。

吸血鬼


 彼女は自分の性格が嫌いだった。幼い頃両親に愛されなかった為
か、自信が持てずいつもくよくよと悩んでいた。人に傷つけられて
は悩み、人を傷つけては悩み、そのつど自己嫌悪が黒い染みのよう
に広がっていった。いっそ死んでしまえばどんなに楽だろう。彼女
がそう思わない日は一日たりとなかった。

 ある夜、彼女の夢に吸血鬼が現れた。黒いマント、白い肌、赤い
唇、そして鋭い犬歯。絵に描いたような吸血鬼である。はまりすぎ
たその姿で、彼女はすぐ夢だと気づいた。
 夢の中で吸血鬼が語りかける。
「君の血を吸わせて欲しい。その代わり、誰にも負けない強い身体
と心を、君に与えよう」
どうせ夢だという気安さと、自分なんかどうなっても構わないとい
う自虐心から、彼女は首肯した。

 目覚めた時、彼女は思った。
「なんてくだらない夢を…、私って本当にダメね」
そうやって常に自分を否定するのが彼女の癖だった。

 夜明けまでまだ間がある。何気なく首筋に手をやって彼女は愕然
とした。この2つの傷は?そして、この感触は……血?まさか?
慌ててベッドサイドの手鏡を引き寄せたが、鏡の中には何も映って
いない。そういえば、聞いたことがある。吸血鬼は鏡に映らないの
だと…。
 彼女は悲鳴とともに跳ね起き、救いを求めて家の外へ走り出た。

 中天の満月が皓として路上を照らしている。昼間とまごうばかり
の明るさだ。月光のなかに大男が一人立っていた。振り乱れた髪、
耳まで裂けた口、太い牙。狼男だ。
 彼女は驚いて立ち尽くす。狼男なんているわけない。が、すぐに
気付いた。
 自分だって…、もはや人間ではない…。

 狼男は唸り声をあげ襲いかかってきた。彼女は振り下ろされた腕
をとっさに左腕で弾き、右肘を相手の鎖骨に叩きつけた。
「どうしてこんなことができるの?これも吸血鬼の力なの?」
ちらっとそう思ったが、今はそれどころではない。狼男は一瞬たじ
ろいだが、すぐまた掴みかかってきた。彼女はその腕をかいくぐり、
相手の膝裏に足刀を蹴り込む。膝から落ちたところを、鞭を振る勢
いで左の回し蹴りを後頭部に叩きつけた。常人なら一瞬で悶絶した
だろう。だが、狼男は平然と起きあがる。

死闘だった。
拳と拳がぶつかり合い、臑と臑がはじけ合う。両者の体に無数の傷
が増えていく。いつ果てるともしれない闘いが続く。だがついに、
彼女の右貫手が狼男の左目を深々と抉った。ひるんだ所をさらに左
の貫手が右の目を…。たまらず狼男は背を向けて逃げ出した。
 彼女はその背に向かって、圧倒的な開放感と共に叫んだ。
「たかが狼男風情が!誇り高き吸血鬼様をなめんじゃないわよ!」

夢の中の吸血鬼は約束を守ったようだ。


プログラマ無惨

始まりは、Y2Kつまり西暦2000年問題である。当時Y2Kについてはさまざまな
方面から警鐘が鳴らされていたが、誰もが内心では大したことにはならないだろうと
たかをくくっていた。ところが、実際には大惨事を引き起こしてしまったのだ。
2000年1月1日になったとたん、飛行機は落ちる、列車は脱線する、ガスは吹き出す、
衛星は落下する、大陸間弾道弾は飛び交う、火事は発生する、ステレオは鳴りっぱ
なしになる、風呂は熱湯になる、テレビは爆発する、犬は吠える、猫は炬燵で丸くなる、
もう無茶苦茶であった。

ようやく騒ぎが収まった時、人々はその被害の大きさにぼう然とした。何しろ日本
だけでも亡くなった人が1千万人を超え、被害総額にいたっては計算不能であった。
もちろん、日本以外の先進諸国もほとんど壊滅状態であり、被害が少なかったのは、
アフリカ大陸の一部の発展途上国のみであった。
人々の怒りは当然のように、この事態を引き起こした張本人たちに向けられた。
「Y2Kの原因は誰にあるのか?」             プログラマたちである。
「Y2Kの危機に気付くべきだったのは誰か?」 プログラマたちである。
「Y2Kに対処すべきだったのは誰か?」       プログラマたちである。
かくしてプログラマに対する弾圧の時代が始まった。もちろん、ソフトウエアは社会
のインフラをなすものであり、プログラマを弾圧することはそのインフラを危うくする
ので得策ではない、という議論はあったが、そういう理屈では人々の怒りは押さえきれ
るものではなかった。また、一部のプログラマの、しょせん社会は我々を必要とするの
さ、という尊大な態度がいっそう人々の怒りに拍車をかけてしまったのだ。

世論に押される形で、国会は2001年にプログラマという職業をあらゆる職業の最下層
であるとする宣言を採択した。俗に言う「士農工商プログラマ」宣言である。宣言の
骨子は以下である。
・ 1999年末にプログラマだった者は、今後プログラマ以外の職業に就く権利を認め
  ない。
・ 上記に該当する者の子女についても同様である。
・ 職業プログラマの選挙権/被選挙権については、これを剥奪する。
・ 職業プログラマとそれ以外の階層の人々との間の婚姻養子縁組は、これを認めない。
・ 職業プログラマの居住地は政府が指定する地区に限る。許可無く居住地を離れては
  ならない。
つまりプログラマという卑賤民階級を定めたのだ。当時の首相の有名な言葉を引用しよう。
  「天は人の上に人を作らず、人の下にプログラマを作った。」

 また、職業プログラマでない一般の人々が、趣味でプログラムを楽しむことは重大
な反社会的行為とみなされ、違反する者は厳重に処分された。にもかかわらず、いっ
たいプログラミングにどのような魅力があるのか、こっそりと隠れてプログラムにい
そしむ人間は後を絶たなかった。人々は彼らを「隠れプログラマ」と呼んだ。
2002年から2003年頃にかけて、隠れプログラマを摘発し、隠し持ったパソコンを破壊
することが一種のブームとなった。「計算機狩り」である。隠れプログラマを発見す
るために、ビル・Gという人物の写真を踏ませるようなことも行われた。踏むのを少し
でもためらったりすると隠れプログラマとみなされるのである。
ただし、隠れプログラマでも喜んで踏む者が大多数だったため、この方法はまったく
効果がなかった。

子供が隠れプログラマだったために近所から村八分にされ、家庭が崩壊してしまう例
も多く見られた。そういう家族の心境を綴った「少年プログラマA、この子を産んで」
という手記がベストセラーになったりもした。
もちろん、プログラマたちが甘んじてこの境遇を受け入れていた訳ではない。もともと
知能もプライドも高い者が多いプログラマにとって、こういう境遇は耐えられるもので
はなかった。彼らは宣言の撤回を求めて、何度も何度も暴動を起こした。
しかし、暴動を起こせば起こすほど、なおいっそう孤立していくのみであった。

ついには日本をあきらめ、アフリカの某国に亡命しようとするプログラマも多く現れた。
某国ではY2Kの被害がほとんどなかったため、プログラマを弾圧するようなことは無
かったのだ。しかし、許可無く居住地を離れられないプログラマにとって、アフリカに
渡るためには夜陰にまぎれて小さなボートをこぎ出すくらいしか手段はなかった。
当然そんな手段で日本を脱出できるはずもなく、多くは海岸に打ち上げられ居住区に連
れ戻された。ごく一部にはそのままボートを住みかとし、近くを航行する一般の船舶を
襲って食料や金品を奪うものが現れた。そういう者たちは「海賊版プログラマ」と呼ば
れた。

2010年になって重大な転機がおとずれた。世界中からアフリカの某国に亡命していた
人々がついに多数派となり、政治の実権を握ったのだ。某国では直ちに世界の各国に
プログラマの解放を要求した。解放されなければ実力行使も辞さず、という強い要求
だった。もちろんたった1国が世界を敵に回して戦えるわけがない。が、各国には虐げ
られたプログラマたちがいる。ひそかに、プログラマたちへ某国から指令が出された。
2011年1月1日になったら、あらゆるプログラムが誤動作するようにバグを作り込め、
というのだ。その効果はY2Kで実証済みである。その混乱に乗じて一気に決着を付け
ようと言うのだ。

この文書を書いている私も実はプログラマの一人である。そして明日がその1月1日なの
だ。結果がどうなるかは誰にも分からない。いや、敵はあまりに強大だ。おそらく我々に
勝ち目はあるまい。
 この文書を読んでいるあなた方はきっと問うだろう。勝ち目のない戦いのために、
再びY2Kの悲劇を繰り返すつもりなのか? と。その問いに答えるすべを、私は持た
ない。だが、考えてみて欲しい。Y2Kで被害に遭ったのは、一般の人々だけではない
のだ。我々プログラマもまた、貴重な財産を失い、愛する家族や恋人を亡くしてきたの
だ。今、差別されている我々にとって、闘う以外に道はないのだ。
 どうか……、お願いだ。我々のために祈ってほしい。そして一般の人々のためにも
祈ってほしい。

 プログラマに自由と平等が戻ることを!