My Diary

ぼくの日記


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2001年2月4日 (日)

今日の出来事
●日記をはじめる

今日から日記をはじめることにしよう。俺の人生なんて何の起伏もないつまらないものだ。 今までに経験したことについてまとめて紹介しようしたら5秒で終わるだろう。 ではなぜこんな公共の場所 (ウェブサイトが公共なのかどうかはおいておこう) で 28歳をすぎた男のなんの娯楽性もない単調な日常を垂れ流す必要性があるのだろうか。 それを考え出したらこんなことなどやっていられないだろうな。

今までの俺は何ごとも考え過ぎていた。 何にも考えずに形から入るのがいいことだってある。 もしかしたら何かをきっかけにしてあたりまえと思っていた 日常が幻想だったってことに気付く時もあるかもしれない。 だから興味の続く限りはこの日記を書き続けていこう。

●今日は日曜

今日は日曜。といっても普段とあまり変わりばえはしない。 おもしろくもないテレビ番組を見るでもなく独り狭い部屋でゴロゴロしている。 先週は疲れることが多かった。仕事で慣れない作業についたこともあるが そろそろ肉体労働もつらい歳になってきた。 なんとかしないと今後の生活が維持できなくなっていくだろう。 俺は何があろうとも百までは生きるつもりだ。 ゴミをあさり、泥水をすすってでも生き延びでみせる。 社会の底辺をはいずりまわるゴキブリにだって意地のかけら くらいは残っているということだ。

ふと気付くとネコが一匹ベランダにいる。首輪がないので飼い猫ではないようだ。 見たことのない種類だが、なぜか気品のようなものを感じる。 多くの血が混ざりあった結果生まれた偶然だろうか。 この寒いなか外にネコが出歩いているのにも多少違和感を感じる。 目が合うとそれからジッとこちらのほうを見ている。 見つめあっていると何か話しかけてこようとする意志を感じるがそんな訳はない。 多分疲れているのだろう。今日は早く寝よう。明日からはまた職探しだ。

●突然の電話

中学時代からの友人から電話がくる。なにかあせっているようだ。 奴の会社に、ある人間のフリをして奴を呼び出す電話を入れるように頼まれる。

「何だろう」

わざと口に出して考えをまとめてみようとする。 奴が色々と危ない商売に手を出していることは薄々気が付いていた。 以前奴は女とトラブルがあって、こっちの仕事がいそがしいというのに わざわざ4年も帰っていない地元まで呼びだされたことがあった。 ただいっしょに酒を飲んでくれる仲間が欲しかっただけのようだ。 その日は一晩かけてジンのボトルを数本空にした。 昔からそういう寂しがりなところのある男だった。 そういうところに惹かれるのか結構女にはもてたようだ。 あとで聞いたのだがあのときは自殺未遂までやったらしい。

そのころからだろうか、奴は変わってしまった。 気が付いたのはその年の正月に実家へ帰ったときだった。 以前の奴は結構派手な生活をしている割には根は真面目な男だったのだが、 なにかヤバいことに手を出しているようで、しきりと俺にも一口乗るように 誘ってくるようになった。その時は金がなかったので断ったのだが、 今でも続けているようで、俺に地元に戻ってこいと何度も誘ってくる。

「どういうつもりなんだ」

もういちど口に出してみる。 奴は何があろうと友人を巻き込むような人間ではなかった。 こんな電話がまともな用事の訳がない。下手をすれば俺も犯罪の共犯だ。 だが俺がためらったのは一瞬だけだった。 奴は俺の唯一の親友と呼べる男だ。たとえ奴が以前と変わってしまった としても見捨てるようなことはできない。俺は奴の会社に電話をかけた。

「○○です」

直接奴が出た。誰か会社の他の人間が出ることを予想していたので 動揺が声に出てしまった。だがそのあとは俺も多少は落ち着き、打ち合わせ 通り奴に話しを合わせた。周りに聞いている人間がいるのか、かすかに 人の気配を感じる。電話を切ったあと折り返し何かかけて来るのかと思ったが それ以降なんの連絡もない。おれは沸き上がる怒りをなんとか押さえる。 ここは俺のいるべき世界じゃない。俺はじじいになるまで 生きてガキや孫にかこまれてくたばるんだ。奴とはもう連絡を取るのはやめよう。

ふと目をあげるとさっきのネコがまだ窓からこちらをのぞいている。 俺は悪事を誰かに見とがめられような錯覚に襲われ、手許にあった空き缶を投げ付ようとした。 だがその時にはその優雅な動物の姿は消えていた。 もうたくさんだ、俺は明日からまた退屈な日常に戻るんだ。 そうだ、この前見かけたあの会社の面接を受けてみよう。 昨日入った金でスーツを買って書き慣れない履歴書も書こう。 明日食うものの心配をしなくってもいい。それがまともな生活ってもんだ。 俺はそう決めて夕食の準備にかかることにした。

2001年2月6日 (火)

一時のやすらぎ
●戦いのあと

昨日は神経を使う仕事をひとつ終わらせた。準備のために4年を費やした大事な仕事だ 始めは3年でかたづける予定だったんだが1年余計にかかってしまった。 何ごとも順調にはいかないものだとあきらめることが肝心だ。特に俺のように日々緊張の連続で 生きている人間にとってはそうだ。昨日も最後の取り引きの相手が時間になっても現れなかった。 結局30分ほど待たされることになり、しかも途中でトラブルが起きた。冗談じゃない、俺はこの仕事に かけてるんだ。こんなことでご破産になってたまるか。トラブルにも関わらず取り引きはなんとか成功だった。 今おれは昨日の後始末に追われながらも、大きな仕事をやり終えた充実感にひたっている。

●遅く起きた朝

今日はひさしぶりにたっぶり眠ることができた。ただ朝起きる時間が変わったというだけで なにもかもが新鮮に見えてくる。 そう、古い悪友のことやあの猫のことなどまるでなかったことのように思える。 追い詰められていたおれの心が生み出した幻想だったのだろう。 ああ。じっくりと考え事をするにはいい機会だ。

いままで俺を縛ってきた仕事は昨日で終わった。もう奴らに義理はない。この先の人生はすべて おれのものだ。まずは食っていくための職を探さなくてはならない。 だが気になるのはあれ以来連絡の来ない奴のことだ。何をやっているのか知らないがこれ以上俺を 巻き込むようではたまらない。そうだこの街を離れ、別の人間として暮らそう。 これまでの俺の人生なんて思い出したくもないことばかりだ。だったらすべて忘れ、別の人間として やり直すのも悪くはない。隣街まで行けば俺を知っている人間と出会うことも ないだろう。

ポストに差出人不明の妙な封書が入っている。だが今は手紙など読む気にはなれない。 何も考えずに今日はのんびりとしていたい気分だ。 手紙というものは差し出した人間との繋がりを示すものだ。 他人の心など俺にとっては新たなやっかいごとの種にすぎない。 いままでたまった郵便物といっしょに明日にでも片付けてしまおう。 もうすぐ俺は消えてなくなるのだから。

2001年2月10日 (土)

過去の影
●血の盟約

今俺はまだこの街にいる。後始末も色々あったのだが、引越すための金 を用意できないという情けない理由が主なものだ。 昨日は俺に次の仕事を紹介してくれた恩人が尋ねてきた。 俺のような虫けらといは口を利く必要すらないような、 それなりのポジションにいるはずなのだがまったく偉ぶったところがない。 たった一度だけ簡単な仕事を手伝っただけの間柄なのだがそれ以来なにかと世話をやいてくれる。 だから俺もこの人には頭が上がらない。恩に着せるようなこともせず、ただ俺の意志の確認を 事務的な手続きについて2、3説明をして帰っていった。

今日は別になにもやることはなかった。 ただ長い間帰っていなかったために荒れ果てた部屋を整理していた時のことだった。

「。。。」

ドアを軽く叩く音がする。この部屋を知っている者はいないはずだ。たまに新聞の勧誘が 来るくらいで俺を尋ねてくる人間などいるはずもない。俺は嫌な予感に襲われた。 前の仕事のトラブルだろうか。俺はベランダに通じる引き戸を開けておく。いつでも逃げだせる ようにだ。

「。。。」

もういちど今度はすこし強めにドアをノックしてくる。 俺は覚悟を決め、呼吸を整えてからドアを開けた。 そこには二人の見知らぬ男達が立っていた。いや、顔に見覚えはないがなんだろう。 奴らがまとっている雰囲気には馴染みがある。そしてあの指に付けている銀色の。。 その紋章を認知する前に反射的に俺の身体は後ろに飛び退き、確保しておいたベランダへと 逃げ出そうとして、凍り付いた。いつの間にだろう。同じ紋章を身に付けたもう一人の男が そこに立っていた。

奴らと関わったのはいつからだろうか、覚えていない。 ものごころがついた時にはすでにそこに俺はいた。 ただ母親に手をひかれるまま連れて行かれた場所に奴らはいた。 それがどれだけの組織なのかは誰も知らない。 だが奴らがこの国の権力の中枢にまで切り込んでいることは公然の秘密だ。 おれは子供のころから組織の一員として育てあげられた。 最初は母親の喜ぶ顔を見るのが嬉しくて言われるままに 勉強会と称する洗脳を受けるようになった。 なぜ俺がこの状況から抜けだせたのか覚えていない。 ただある時期に何かに気付き、同時にあの女の俺への裏切りを知った瞬間、 永劫の溝が生まれた。

この場所を教えたのはあの女だろう。奴は自分のやっておることに微塵の 後ろめたさを感じることもない。これは俺のためにやっていることだ と思い、俺がそれを望んでいるのかどうかなどは考えもしない。そういうものだ。

目の前にいる男達に殺気は感じない。だがこいつらならこのまま平然と 俺の息の根を止めてのけるだろう。おれはすでに裏切り者であり、秘密を握った危険分子なのだ。

「○○さんですね、お迎えにあがりました」

男の一人がなにごともないかのように話しかけてくる。 俺はかるく左手を握り、そしてその瞬間、男の首が音を立てて床に落ちた。 いきなり仲間の生命が断たれたというのに他の二人はただ怪しい笑みを浮かべて いるだけだ。

「あの方がおっしゃった通り危険な男だ」

別の男が懐に手を差し入れながらつぶやく。俺が倒した男はすでに原形を留めないくらいに 変型し、溶け去ろうとしている。すでに人ではないのだろう。こいつも俺とおなじように 子供のころからあの組織で儀式を受けていたのだ。俺ももしかしたらこの男のように 別のモノになっていたのかもしれない。そう考えると嫌悪感とともに かすかな憐憫が込み上げてくる。だが俺はまだ死ぬわけにはいかない、この男は油断していたから なんとでもなった。だがあとの二人は俺の力ではどうにもならない。なにしろ俺が受けた処理の 数倍の能力を得ているのだろうから。俺が躊躇しているそのときだった。何か耳の奥に突き刺さるよう な衝撃が走り、そして周囲の景色が止まる。

「まさか、この力は。。。」

おれは愕然とする。これほどの高度な術を操ることができる者を俺は3人しか知らない。 だがその誰もが俺を救うことなど有り得ない連中だ。 セピア色に固定された景色の中で、その生き物は唯一生命をもったもののように写った。 その猫は俺を招くかのようにベランダから滑り出してゆく。 俺は考えを中断する。俺の記憶がたしかならば、この術はそう長くはもたないはずだ。 俺はその生き物のあとを追って、ベランダから外を流れる河へと身を投げ出し、 そして意識が遠のいていった。