Past


歳の差

僕は兄と18年も歳がはなれている。兄は僕が生まれた年大学受験だったらしい。
僕の泣き声は悪魔のささやきに聞こえていたようだ。
「どうせだめなんだから勉強しても無駄だ。」
僕の泣き声はそんなふうに兄に聞こえたらしい。

兄と僕らの母は違う。
姉は知らなかった。けれど、近所の声が姉を困惑させたのだ。
そのせいで、兄と姉はあるときからギクシャクとした関係になったという。
良くある話だ。僕らの母親は兄のお母さんから父を奪った。
それを、心無く近所の伯母ちゃんが姉に・・・
姉は自分が生まれたせいで、
兄は自分のお母さんと一緒にいられなくなったんだと思い込んだ。
姉は自分も母と一緒にいてはいけないと思った。
姉は東京の中学校に行くと言い、東京の祖父の家から通った。

兄は言う。その頃は自分もまだ子供だから、何にもわからなかった。
けれど、お互いの子供心ってやつだな。

まるっきり僕には見えない世界だ。
なぜなら、小さかったときのことでもあるけど、
今の兄と姉からは想像もつかないことだからだ。


初夏の風

僕は寒くもなく暑くもない夏の初めに生まれた。
僕がこの世に生まれて最初に感じたあったかなものは、9歳上の姉のものだったらしい。
もちろん憶えていない。けれど、この話は何度も姉や母から聞いている。
姉が言うには、看護婦さんが無理やりに抱かしたそうだ。
けれど、母が言うには姉が駄々をこねて無理やり僕を一番最初に抱いたらしい。
分娩室で駄々をこねる子供は、世界中でただ一人、僕の姉だけだろう。

僕の名前には「風」と言う文字がついている。
姉がつけたのだ。僕は生まれて何日か「風」くんと呼ばれていた。
しかし、まわりの大人は困惑したらしい。困惑の理由は画数が悪い。
姉は「風」じゃなきゃ、弟じゃない。可愛がらない。
そう言ってまわりの大人を困らせたそうだ。
そして18歳上の兄が知恵を働かせた。
兄は、姉に一枚の紙を見せた。
その紙には父と母と姉と自分の名前を漢字で書いていた。
そして兄は姉を諭した。
漢字で書くとみんな4個の文字だ。このままだと「風くん」だけが3文字だ。
仲間はずれになってしまう。それでも、「風」がいいかと聞いたらしい。姉は観念した。
そして僕の「風」の後に兄が考えた一文字が付け加えられた。
僕の名前は兄と姉が一生懸命考えてつけてくれたんだ。