ご主人様志望(前編)
アルマが売られてきたときには十人ほども奴隷仲間がいたが、一人、また一人と売られていくうちに、今ではアルマとカレレーナの二人だけになってしまった。カレレーナは奴隷仲間たちの中では、一番アルマと仲がよかった。アルマと同じ街で買い取られて、馬車ではいつもアルマの隣に座っていた。
がらんとなった馬車の荷台で身を寄せ合いながら、そのカレレーナがいった。
「アルマはどんなご主人様がいい? いや、自分で選べないのは分かってるんだけどさ」
「カレレーナは?」
「私? やっぱりやさしいご主人様がいいかな。少なくとも、いつも鞭を持ち歩いたりしない人」
カレレーナはいい、
「で?」
と好奇心一杯の視線を向けて、アルマを促した。
「えーと…」
アルマはちょっと考え、夢見るように頬を染めて答えた。
「…歳は私と同じくらいで、すごく美人だけど、ちょっと意地悪でわがままで、でも私のことを愛してくれる人」
カレレーナは笑った。
「何、それ。ヘンなの」
「ヘンかなあ」
「意地悪な人がいいの? 前から思ってたけど、アルマっていじめられるのが好きそうだよね」
「そんなことないよ」
アルマは顔を赤らめた。
「それそれ、真っ赤になったところがすごく可愛い。私、アルマのご主人様になりたかったな」
御者台で手綱を握っていた奴隷商人の助手の一人、エルルミアがちらりと荷台を振り返って話しかけてきた。
「何の話をしているの?」
アルマは答えた。
「どんなご主人様がいいかっていう話です。エルルさんはどうですか」
助手はふふんと鼻で笑い、握りこぶしを作っていった。
「クローリリア様が最高のご主人様に決まっているじゃない。美人だし、すっごくやさしいし。あなたもそう思わない?」
アルマは鞭で地面を叩いている奴隷商人の姿を思い出してちょっと身震いした。カレレーナも同じことを考えたらしく、微妙な顔をしている。
アルマは問い返した。
「やさしいですか?」
「やさしいわよ」
「鞭で打たれたりしませんか」
「あれはポーズだけよ。心配しなくても、あなたたちは大事な商品なんだから、傷をつけるようなことをするわけないでしょ」
突然、カレレーナが手を上げていった。
「エルルさん、質問でーす」
「何かしら」
「私たち、一度も競りにかけられてないんですけど、どうなるんですか」
「ああ、それ。もう誰に売るか決めてあるってご主人様がいってた。あなたは確か次の街のお屋敷よ。アルマレーナは都まで連れて行くって」
「次の街…」
カレレーナはショックを受けたようにつぶやいた。
ベッドに拘束されたまま、アルマは放心した様子でぐったりと横たわっていた。何も見ていない瞳は虚ろで、半開きの口元からは唾液と粘液の混合物が溢れ出していた。触手に犯された全身は粘液に汚され、無理やり開かされた股間の周辺は、とりわけ無残な有様になっていた。「明日は早いから、今日の調教はここまでにしましょう」
クローリリアの事務的な声が聞こえ、それに双子の助手たちがちょっと残念そうに答えた。
「はい、ご主人様」
という声が見事にはもる。
両手足に繋がれていた鎖が外され、助手たちが全身を綺麗に拭き終わるころには、アルマもようやく元気を取り戻した。
「ありがとうございました、リリア様」
アルマは決まりどおりにお辞儀して、奴隷商人の天幕を出た。
よろよろしながら奴隷用の天幕へ戻ると、カレレーナが心配そうにいった。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
入り口を閉めると、中はほとんど完全な暗闇になった。奴隷用の天幕には明かりは用意されていないのだ。
寝床に横たわると、カレレーナが体を寄せてきた。
「ねえ、アルマ。キスしてもいい?」
すぐ耳元でカレレーナの声が囁いた。
「えーと」
アルマが戸惑っているうちに、カレレーナの影が覆いかぶさり、唇に生温かいものが押し当てられた。
(カレレーナのくちびる…)
と思うと同時に、心臓がコトンと音を立てた。
カレレーナの舌が唇を割って挿入され、同時にその手が外套の上から胸をまさぐり始める。頭がぼうっとなりかけたところで、アルマは我に返って必死で相手を押し戻した。
「だめっ」
「どうして。私のこと嫌い?」
アルマは暗闇の中にもかかわらず、首を振った。
「だって、私たち奴隷同士だし」
「私、アルマのこと好きなの」
カレレーナの切なげな言葉に、アルマははっとなった。
「で、でも…」
「アルマが好きなの。だから…明日でお別れだから…」
アルマの手から急速に力が抜けていった。
「アルマ、好きよ」
再び唇が重なった。カレレーナが夢中になって自分をむさぼろうとしているのが分かった。アルマの口の中をカレレーナの舌が這い回り、何度も何度も音を立てて唾液が吸い上げられた。
アルマの唇もいつしか相手の唇を求めて蠢いていた。舌と舌がまるで触手同士の愛撫のように淫らに絡まりあった。二人の少女の荒い息遣いと唾液がやり取りされるいやらしい音が暗闇の中に充満した。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
唇が離れると、アルマは空気を求めて喘いだ。
その間にもカレレーナの手がアルマの外套をまさぐり、そのボタンを外していった。外套を脱がされれば、その下にはもう首輪と手足の拘束具だけが取り付けられた剥き出しの裸体しかない。
カレレーナの手が、恐る恐るといった様子でアルマの乳房を揉み始めた。
「ふぁ…」
いつもの激しい調教とは全く違ったやさしい快感に、アルマは思わず声を上げていた。
頭上からはカレレーナの感極まったような興奮した声が聞こえてくる。
「私…私…アルマのおっぱい触ってる…すごい…すごくやわらかいよ…」
「やぁ…そんな風に言われたら…はずかしい…」
「だって…だって…私、アルマのこと好きなんだもん」
愛撫は次第に力強くなり、それにしたがってアルマの乳房は痺れたような快感を覚え始めた。快感は熱となり波動となって、胸から全身へとゆっくりと拡散していく。腰から力が抜け、頭が発熱したように朦朧とし始める。
「ふぁあ…あぁ…んっ…はぁ…ぁ…」
「私…本当にアルマのご主人様になりたかった…そしたら…毎日アルマと気持ちいことできるのに」
「あぁ…あっ…あぁああ…はあっ…んっ…っ…ぁああ」
「ねえアルマ…お願い…一度でいいから…私のことご主人様って呼んで…アルマ…」
闇の中ではかすかな顔の輪郭しか分からなかったが、アルマはなぜかカレレーナが泣いている様な気がした。切なさに胸の奥がちくりと痛み、アルマはごく自然にその言葉を口にしていた。
「ご主人様ぁ…」
カレレーナの愛撫が止まった。それから彼女ははっきりした涙声でいった。
「好き…好きよ、アルマ」
それから彼女はアルマの乳房を揉みしだきながら、唇をむさぼった。その貪欲な唇は首筋から下へとアルマのなめらかな肌に唾液の後をつけながら下がっていき、硬くなった乳首を赤ん坊のように吸い上げた。
「あっ…やぁ…あぁあああ」
アルマの体がびくんと震えた。切羽詰った高い喘ぎ声を上げながら、首を左右に振る。カレレーナの唇が、乳首をくわえ込み、唾液と一緒にしごきながら吸い上げている。
「あぁあああ…駄目…そんなにしたら…やぁ…わたし…わたし…」
カレレーナは顔を上げ、陶酔したようにいった。
「アルマの声、すごく可愛い…もっと…もっと気持ちよくしてあげる」
カレレーナは座りなおすと、アルマの両足を持ち上げて、左右に押し開いた。奴隷商人の調教を受け、今また快楽に全身を侵されつつアルマには、もう抵抗する力も残っていない。カレレーナは手探りでアルマの秘所を探り当てると、そっとその中に指を差し入れた。
「あぁ…アルマの中、すごく熱い…すごく絡み付いてくる…」
「いやぁ…いわないで…」
くちゅくちゅといういやらしい音と共に、カレレーナの指が動き始めた。肉襞が擦れ、愛液がどくどくと溢れ出す。
「あっ…あっ…やあっ…んっ…くっ…」
知らず知らずのうちに、腰が動いてしまう。指先だけでこんなに感じてしまう自分が恥ずかしくて、何とか我慢しようとするが、もう体が言うことを聞かない。
「アルマ…すごい…こんなに溢れてくる…感じてくれてるんだ…」
カレレーナの熱に浮かされたような言葉に、アルマは全身がカッと熱くなるのを感じた。膣が締まり背筋にびりびりと痺れが走りぬける。
「はあっ…やあっ…あっ…だめっ…」
「すごい…こんなに締め付けて…」
「やっ…ああっ…んっ…んんっ…ぁああ…やぁああ…」
「アルマ、もう逝きそうなの?」
「あっ…あっ…いきそう…だめっ…やっ…ああっ…んっ…ぁああ」
「逝っていいよ、アルマ…逝かせてあげる」
カレレーナの指の動きが激しさを増した。腰から下の感覚がなくなり、快感だけが脳髄に向かって押し寄せてくる。股間は愛液にまみれてぐちゃぐちゃになり、いやらしい音を響かせているが、それも頭の中が快感で塗りつぶされていくにつれて聞こえなくなっていく。
「ああっ…やあっ…だめっ…だめぇええ…やぁあ…あああっ…あっ…あっ…あっあっあっあっあぁああああああっっ!」
頭の中が真っ白になり、意識がとんだ。
徐々に意識が戻ってくると、アルマは依然として自分が天幕の暗闇の中に、全裸で横たわっていることに気づいた。違っているのは、もうカレレーナの指先がアルマを犯しておらず、替わりにピチャピチャという控えめな音が聞こえてくることだった。アルマの股間を濡らしている愛液を、カレレーナが舌で舐め取っているのだ。アルマはくすぐったさを感じたが、快楽による疲労のため体を動かすことはできなかった。
「…カレレーナ、くすぐったいよ」
か細い声でいうと、カレレーナの哀願するような声が返ってきた。
「アルマのここ、きれいにしたいの。いいでしょ?」
アルマは少し迷って、いった。
「…うん。すごく恥ずかしいけど」
「ありがとう、アルマ」
しばらくピチャピチャという音が続いていたが、突然天幕の入り口が開いて、アルマもカレレーナも驚きのあまり飛び上がった。
入り口から顔をのぞかせた奴隷商人が抱き合っている二人を見ていった。
「お楽しみ中に悪いわね。だけど、あんな大きな声を出して、私たちに聞こえないと思ったのかしら」
それからクローリリアは冷たく宣告した。
「…カレレーナ、商品に手を出したら鞭打ちが決まりよ」
「カレレーナは悪くないんです。私が…私が…」
アルマは咄嗟に言ったが、そこから先の言葉は出てこなかった。
「ありがとう、アルマ。でもいいの。私のことは心配しないで」
カレレーナはそっとアルマの手に触れると、立ち上がって天幕から出た。
「いい覚悟ね、カレレーナ」
奴隷商人はかすかに笑みを浮かべた。
「…引き渡す直前の商品に傷をつけるわけにはいかないわ。だから今日は特別な調教で許してあげる。ついてきなさい」