使い捨て奴隷少女(7)自由
夜更けになりディアトリリスの部屋へ行こうとしていたアルマは、ベッドから降りかけた所で、ドアをノックする音にびくりとなった。「失礼します」
ドアが開き、入ってきたのは、パジャマ姿のメアリアーナだった。
「…リアーナ、どうして」
「アルマ様をお慰めに」
「でも、私、これから…」
「ディア様の所へ行くおつもりだったんですか?」
アルマがこくりとうなずくと、メイドは、
「だめです」
といいながら、アルマをベッドへ押し戻した。
「アルマ様のメイドは私です」
メアリアーナはまっすぐアルマを見つめた。その瞳は一つしかともされていない小さな明かりを浴びて、美しく潤んでいた。アルマは年下の少女が自分に向けているまっすぐな愛情を感じて、胸が痛くなった。
「失礼します」
メアリアーナが小さくいい、アルマの夜着を脱がせ始めた。アルマはもう逆らわなかった。けなげなメイドに対する愛情とも欲情ともつかないものが胸を満たし、否応なしに体が火照り始めていた。
全裸になったアルマは、ベッドの上で、メイドが自分の衣服を脱いでいくのを見つめながらいった。
「あの、明かり消してもいい? 恥ずかしいから」
「あ、私が消します」
下着まで脱ぎ捨てたメイドが、ベッドわきの明かりを吹き消すと、部屋の中は真っ暗になった。アルマの目には、明かりが消える直前の、メアリアーナの少女らしい裸身が残像となって残った。
暗闇の中で動く気配が近づき、アルマの体にあたたかな手が触れた。
「アルマ様」
アルマはその手をたどって相手の体を探り当て、抱きしめながらベッドへと倒れこんだ。
暗闇の中で二人は互いの唇を求め合った。あたたかくやわらかなもの同士が触れ合い、熱くざらざらした舌の感触が絡み合った。ちゅっ、ちゅっ、という愛らしくも官能的な音が何も見えない中で聞こえる。相手の唇を舐め合い、その唾液を吸い合う。
「んっ…んんっ…はぁ…んっ…」
高まってくる興奮にアルマは喘いだ。メアリアーナもよほど興奮しているのか、荒い息遣いでアルマの唇をむさぼるように求めてくる。
アルマは口付けを続けながら、メアリアーナの背中に回した手でその尻を撫で回した。尻の谷間をなぞって、股間までも手を伸ばす。ぬるりとした感触。すでにメイドの股間は濡れていた。
「あっ、駄目です、アルマ様!」
メアリアーナは秘所に触れられて、慌てて体を起こした。
アルマはメイドの可愛らしい反応に微笑みながら、からかうようにいった。
「リアーナ、もう濡れてる」
「わ、私のことはいいんです。私の役目はアルマ様をお慰めすることなんですから」
再びメイドはアルマの上に覆いかぶさり、体をまさぐってきた。わき腹に触れられて、そのくすぐったさに思わず腰をよじってしまう。メアリアーナの手はさらに下腹部へと下りていき、ようやくアルマの秘所を探り当てた。すでに開いていた割れ目に、指先が驚くほどスムーズに入り込んできた。
「あっ」
アルマの体がびくりと震えた。
「アルマ様だって、こんなに濡れてるじゃないですか」
メアリアーナが少しあきれたようにいう。
「ご、ごめんなさい」
アルマが恥ずかしそうに言うと、メアリアーナの指が動き始めた。ゆっくりとアルマの中を動く。
「はあっ…あっ…くっ…うぅ」
「気持ちいいですか」
耳元でメアリアーナの艶っぽい声が囁いた。
「うん…」
とアルマも小さく答える。
闇の中でくちゅくちゅと音が響き、アルマの股間からは少女の匂いが立ち上った。やがてメアリアーナの指は、探るようにアルマの中を刺激し始めた。
「アルマ様、一番感じるところはどこですか?」
「…あっ、そこっ」
「ここですか」
「ちがっ…もう少し…おく…」
「ここ?」
「あっ! あぁああっ!」
アルマは一番感じるところに触れられて、腰をよがらせた。
「じゃあ、もっと気持ちよくしてあげます」
メイドのいたずらっぽい声に続いて、その指先が次第に動きを速めながら、アルマの中の弱点を突いてきた。
「あっ! あっ! らめぇ! そんなにしたら! あっ! ああっ! あぁーっ!!」
暗闇の中であるにもかかわらず、視界が真っ白になった。体が自分のものではなくなったかのようにびくびくと痙攣する。下腹部で煮えたぎっていた熱さが全身へと伝播し、過敏になった乳首からは今にも出るはずのない母乳がほとばしりそうだった。
宙に飛んでいた魂が戻ってくると共に、心臓は再び鼓動を打ち始め、肺は空気を求めて喘いだ。
呆然と横たわっているアルマの耳元で、少し心配そうな声がいった。
「大丈夫ですか、アルマ様」
「…うん」
「アルマ様、すごい声出すから」
からかうようなメアリアーナの声に、アルマは闇の中で赤くなった。
「ごめんなさい」
「アルマ様が感じてくれて、私うれしいです。もっと、もっと、逝かせてあげますからね」
再びメイドの手がアルマの体をまさぐり始めた。闇の中に少女たちの荒い息遣いと、愛らしい喘ぎ声が満ち始める。メアリアーナの言葉どおり、アルマの体は少女の手で慰められ、愛液にまみれながら、何度も絶頂に達した。アルマの意識は、夜の闇と快楽の中に、ゆっくりと溶けていった。
カーテン越しに差し込んでくる朝の光で、アルマは目覚めた。アルマは全裸だった。そして傍らには、結局自室には戻らなかったメアリアーナが、やはり全裸のまま寝息を立てていた。アルマは淡い光の中に浮かび上がっている少女の顔を、まじまじと見つめた。この少女の寝顔を見るのは初めてだった。起きているときの元気のよさは影をひそめ、子供らしいあどけなさだけがそこにあった。
「アルマ様…」
アルマの気配に気づいたのか、メアリアーナはうっすらと目を開けた。まだ眠そうな様子。手を伸ばし、アルマの首筋に回す。そのまま引き寄せて唇を重ねる。アルマも抵抗はしなかった。恥ずかしさを覚えながらも…キスするためには体を密着させねばならず、そして体といえば裸のままなのだ…アルマはメアリアーナの口付けに応えた。
ゆっくりと舌と舌を絡み合わせる。エロティックで、生々しく、そしてあたたかな時間がゆったりと過ぎていく。
短いノックの音に続いて、問答無用でドアが開かれた。
アルマとメアリアーナは驚いて上半身を起こした。毛布が腰までずり落ちる。入ってきた人物を見て、互いの身を守るように相手の体を抱き寄せた。
「ディアさん、これは…えーと…」
アルマは約束を破った罪悪感に駆られながら弁解を試みたが、相手のディアトリリスがこちらを見向きもしなかったので、その言葉は空中に消え去ってしまった。
メイド長はカーテンを開けて部屋の中を光で満たすと、ようやくベッドに近づいてきて、裸のまま抱き合っている二人の少女に視線を向けた。眼鏡が陽光を反射して輝いているおかげで、表情が見えない。
ディアトリリスは冷たく言った。
「メアリアーナさん、旦那様の奴隷に手を出すのは規則違反です」
メアリアーナは子供らしく対抗意識を剥き出しにして言い返した。
「ディア様だって同罪じゃないですか」
「その通りです」
ディアトリリスがあっさり肯定したので、メアリアーナは口を開けたまま馬鹿みたいに相手を見つめた。
「アルマレーナ様、メアリアーナさん、朝食が済んだら私の部屋へ来てください。大事なお話があります」
ディアトリリスはそういうと、何事もなかったように部屋を出て行った。
二人がいわれたとおりにやってくると、ディアトリリスはベッドに座るようにいい、それからいきなり言った。「アルマレーナ様、あなたは解雇されます。残念です」
「どうしてですか!」
メアリアーナが立ち上がって叫んでいた。
「…私とあんなことをしたからですか。だったら悪いのは私です。アルマ様は何にも悪くありません」
アルマはしばらくの間呆然としていたが、メアリアーナがまくし立てている間に我に返った。アルマはメイドの肘を掴んで促した。
「リアーナ、落ち着いて。私もあなたも悪くないと思う。たぶん…」
メアリアーナは驚いてアルマを見つめた。
「座って」
アルマがさらにいうと、メアリアーナはおとなしく腰を下ろした。
アルマはディアトリリスに視線を向けて訊ねた。
「私は捨てられるんですか。旦那様に」
ディアトリリスはうなずいた。
「規則です。あなたはこの一ヶ月間、旦那様に必要とされませんでした。あなたは旦那様の子供も卵も産んでいません。あなたは奴隷市場にいかなければなりません」
「そんな…」
絶望的な声を出したのはアルマではなくメアリアーナだった。
「…そんなの酷過ぎます。ディア様だってアルマ様が好きなんじゃないんですか。アルマ様があんな大勢の前で裸にさせられるなんて私いやです」
アルマは話を聞きながら真っ赤になっていた。奴隷商人の所にいた間、何人もの少女たちが奴隷市場の舞台の上に立たされ、裸にされ、大勢の人々の視線を浴びながら、競りにかけられる光景を見た。小さな町でもあれだけ大勢の人たちが集まったのだ。この都ではそれがどんなことになるか、想像しただけで失神しそうになる。
「わたくしも、そう思います」
思いもよらないディアトリリスの答えを聞いて、アルマとメアリアーナは「えっ」という驚きの声をはもらせた。ディアトリリスは続けた。
「奴隷市場に連れて行くのが普通ですが、別の方法もあります」
「どんな方法ですか」とメアリアーナが身を乗り出した。
「アルマレーナ様を買い取って自由の身にします。これならあなたも納得するでしょう」
「ディア様が買い取るんですか?」
「そうです」
「知りませんでした。ディア様がそんなお金持ちだったなんて」
「お金はありません」
「えっ」
再び二人の少女は声を上げた。
ディアトリリスは立ち上がり、何でもないことのようにいった。
「お金はありません。ですが、この屋敷の帳簿を預かっているのはわたくしです」
彼女は少し笑って続けた。
「…二人とも、そんな顔をしないでください。ばれたときはそのときです。責任はわたくしが取ります。ご存知の通り、旦那様はわたくしには甘いところがおありですから、それほど酷いことにはならないと思います」
アルマは門の外に立って、屋敷を見上げた。門の外に出るのは、ここに売られてきて以来、初めてだった。もはやアルマは貴族の愛人ではなかった。夜毎に陵辱される性奴隷でもなく、主人に仕える使用人ですらなかった。メアリアーナからもらった私服を着込んだアルマは、子供っぽさが抜けないただの少女に過ぎなかった。
見送りはディアトリリスとメアリアーナだけだった。主人であったエレレーネはいなかった。彼女にとってアルマは生きた玩具であり、生殖のための道具でしかなかったのだ。
「お元気で、アルマレーナ様」
ディアトリリスがいった。
「アルマレーナ様…」
メアリアーナが泣きそうな顔をしたので、アルマは少女の頬に軽くキスした。
「ありがとう、リアーナ」
それから、ディアトリリスの方を向き、
「ありがとう、ディアさん」
そしてアルマは小さな鞄を手に取ると、背中を向けて歩き出した。