その日、いつものように仕事から帰ると、君はいなかった。
いつもの、玄関を開けるタイミングがいつもと違う。
「タメラッテイタ」
そんな無機質な自問、そして自答。
いないと言う事は今朝の最後の話し合いで分かり切っていたのに何故か
開けられずに暫くその場にいた・・・。
「ただ今」
帰ってくる言葉も無く、分かりきった現状にちょっと寂しくさえ感じ、
明らかに今朝出て行った部屋とは様子が異なり、その、半分ほど無くなっていた
家具の隙間が確かな現実となって、僕の心に押し寄せてくる。
「ダレモイナイ」
20歳そこそこの頃職場の上司に良く言われていた言葉がよぎる
「女々しい。」
僕は靴を脱ぎ捨て、そのまま2階へと駆け上がった。彼女の面影を探すために。
必死になって、我を忘れて。しかし、彼女の性格とはまるで正反対に、2階の部屋は
まるでここに引っ越してきた時のように、何も無くなっていた。
僕はちょっと笑った「何もここまで・・・。」
それくらい、全く、彼女のモノだけが無くなっていた。
暫く呆然となって、部屋中を見て回ると、部屋の片隅に「彼女らしさ」があった。
意図的か、無意識か、恐らく後者だろう・・・。
そこには変わらない夏の風景があった。
彼女と僕、そして今は忙しくて中々揃うことの少ない僕の友人2人が笑っていた。
階下に戻り、初めてテーブルの上の封筒に気づく、中には解約した貯金の半額強が入っていた。
冗談で昔彼女が、「別れたとき貯金の半分貰うよ〜」と言っていたが仲良く?半分ずつにして置いて行った。まだ全額持っていってもらった方が気が楽だった・・・。
「原因は?」
良く聞かれる、どうして?・・・・とか、まさか?・・・とか言葉の頭に付けて聞いてくる・・・。
あげればきりが無いほどの原因はあった、確かにあった・・・。
でも直接的な起爆剤みたいなものは無い・・・。
結局、僕と彼女はこうなる運命だったのだ・・・そう思うようにしている。
「女々しい」
またあの言葉がよぎる、自分で自分を男らしいとは思ったことは無いが、そんなに女々しいか?1度聞いてみた事がある、その時点ですでに女々しいのが分かるが、それは今になっての事だった・・・。
始めはそんなに好きではなかった、身近にいたちょっと可愛い、面白い娘。そんな印象だった、でも4年と言う時間は気持ちを変化させるには長すぎ、また忘れるにしても
重すぎる時間だった・・・。
初めて「愛してる」って言ったのはいつだっけ?
それくらい長すぎた・・・。
あれから2年、女々しい僕は未だにあの日の事を覚えている。
あの部屋の前で佇んだ夜と、その半日も前に吹いた風の匂い。
一人ぼっちで吹かれた春の、サクラのハナビラの匂いのする風を・・・。
多分忘れない・・・。
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