blue heaven――多分、天国――#7

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「ここって応接室じゃないんですか?」
 文哉が連れてきたのは能力遮断材が施されていない、一月前敦子と文哉が深雪を待っていた部屋だった。
「来るわけないだろ、こんな山奥にお客さんなんか」
「ですよね」
「座ったら?」
 文哉は紙コップのコーラを二つテーブルの上に置いた。
 真実はそれを一気に飲み干す。
「はあっ、生き返ったー! ふうっ」
 大げさにソファに身を沈めるのを、文哉は足を組んで冷静に見つめていた。
「鈴木さんて十年もここにいるんでしょ? よく平気だね」
「残念ながら、君達ほど能力がないんでね」
「君達ってオレと真理のこと? 言っとくけどオレは真理ほどじゃないよ」
 真実は髪をかき上げる。その拍子に、手首に巻いたチェーンがじゃらっと音を立てる。
「それが事実だとしても、君の能力だって半端じゃないはずだ」
「興味津々って顔してる。真理も不思議がってた、鈴木さんはなんであんなに熱心なんだろうって」
 自身の能力を嫌悪する者が多い中で、レベルアップを望む文哉は稀有な存在といえた。
「僕が何を考えてるか“読んで”みれば?」
 今度は文哉が挑発する番だった。
「別に。のぞきの趣味はないから」
「今の発言は“読む”能力(ちから)があるって認めたってこと?」
 真実はため息をついた。
「うざいな、いちいち」
「ここは国を挙げて、そういううざいことを研究してる所なんだよ。真理から散々“聞いて”るだろ? 君はモルモットじゃないって言ったけど、ここいる以上質問攻めにあうだろうね。嫌だったら帰るしかない」
「帰れるんなら深雪を連れて今すぐ帰りたい。でも深雪の能力が消えない限り、四年間はここにいなきゃならない。だからオレもいる」
 真実は即答した。
「……ふうん。深雪君がここにいるのが心配なんだ」
「真理みたいなことになったら取り返しがつかない」
 文哉の顔色がさっと変わった。
「失踪の原因が研究所にあるとでも?」
「少なくともオレはそう思ってる」
 文哉は首を横に振った。
「考えられない。真理だって五年もここにいた。突然いなくなる理由なんてない。……君、真理と“話せる”んだろう? だったら」
「ダメ。あれ以来、気配も感じない」
 文哉は探るような目つきで真実を見た。
「ホントだって。嘘なんかつかないよ」

 
「応接室で?」
 敦子は目を丸くして振り向いた。
「……大丈夫だったの?」
 やはり、真実に他人の考えが読める能力があったら、と心配しての質問だった。
「あいつが“読める”のかどうかわかりませんでしたけど」
「そう……」
「心なんて読まれたってどうってありませんよ」
 文哉は強がる。
「それ以上に興味あるじゃないですか。あいつ、真理に準ずる能力者なんですから。敦子さんと一緒ですよ」
 これも本心だ。
「私は“読まれて”まで、話したくないわ」
 敦子は眉間にしわを寄せる。
「おや、仕事熱心な敦子さんの言葉とは思えないですね」
「からかわないで。それで真実君、なんて?」
「肝心なことは全然。真理がいなくなったのは、ここで何かあったからじゃないかって。深雪君が心配だからここにいるって」
「……研究所が原因とは思えないわ」
「僕もそう言ったんですけどね」
「彼、知ってるのかしら。真理の行方」
「知らないって言ってました。で、あいつ本当にここに置いとくんですか? 能力の話する気、ゼロですよ」
「そうね。でも深雪君にとってはプラスだもの」
 曇っていた敦子の顔に一条の光が射す。
「プラスねえ。今まで兄貴がいることだって知らなかったんでしょ? 初めて会った人間をどうして兄弟だってわかるんです?」
「そんなこと私が聞きたいわよ」
「あいつの生活費とかどうするんです? 研究に協力しないんなら、国の補助だって下りないでしょ?」
「自分で払うって言うのよ。部屋代と食事代、請求してくれって」
「自分で? まだ二十歳でしょ、そんな金どこにあるんです? アルバイトでも――まさか能力(ちから)使って強盗とか」
「文哉君」
 たしなめられても、慣れっこになっていて反省する様子もない。

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