「死者が蘇るという話を聞いて、最初に浮かんだのは失笑だった。
 このご時世に、そんな使い古された怪談が流行っているのか?
 そもそも日本という国は火葬である。
 残っていた土葬も既に六十年前――戦後にはほぼ姿を消している。
 外人墓地だって大昔の話だ。
 死体ってのは、土の中に埋めると大体四、五年で白骨化する。
 スケルトンならともかく、ゾンビなどというファンタジーの入り込む余地は無い。
 ――だが、ネットで見たという同僚の話から数日と経たず、それが事実らしいということを思い知らされた。
 ここがイギリスみたいにシャレの分かる国で、その日が四月一日でもない限り、新聞やテレビのニュースは正しいはずだ。
 意外なことだが、今現在でも土葬を行っているところはある。
 多くは山奥の田舎村だが、宗教的な理由から街中でやってる奴らもいる。
 そして……大きな病院には、まま死んだばかりの生死体が安置されている。
 そいつらが一斉に息を吹き返し、手当たり次第に生きた人間に喰らいついたんだとか。
 死んだばかりでも気味悪ぃが、腐った死体が起き上がったりしたら、当たり前だがパニックになる。
 なにせ、同じ人間相手でも、実戦経験の無い新兵はビビっちまって役に立たないって言うくらいだ。
 脳ミソの腐って、動きも鈍くなったの相手だろうと、不覚をとるのも仕方の無いことだろう。
 噛まれたからって感染るもんでもないらしいが、死ねばゾンビになって起き上がってくる。
 ほら、単純に考えても分の悪い話だ。
 そんなわけで鼠算式に増えた死体によって、この国は終わった。
 ライフラインが機能しなくなって十二日。隙間風だらけのボロアパートよりはと、仕事場の交番に同僚と二人で立て篭もって五日目。
 とうとう狂っちまったヤツを撃ち殺して、残りの弾は三発。
 食料その他を鑑みるに、もって十日といったとこだろう。
 ――そんなわけで、相棒に少し遅れて会いに行くことにした。
 生き返られても厄介なので、同じく火葬することにしよう。
 銃で自殺はまんまホラー映画のノリなので、とりあえず火をつけた後首を吊ることに決めた。

 で、わざわざこの日記帳を金庫に突っ込んどくのは……。
 まぁ、種族を残そうという本能が、知性を持って変化した結果だと思ってくれていい。
 後から見る人間に対し、なんらアドバイスとなることを残せないのは遺憾だが、ま、世の中はそう上手くいかないものだと諦めてほしい。
 そんなわけで、一足先に失礼する。願わくば、これを読む君が無事$カき延びることを」

 銃の一つでも拝借しようと入った交番で見つけた日記は、結局何の役にも立たなかった。
 ご大層に金庫に入れてるくらいだから何かあると思ったのに、大いに時間を無駄にした。
「なんていうか、その場で読むなんてのは、俺自身のミスなんだけどね」
 囮役の友人は殺られたか逃げたのか。
 数分のあいだに、すっかり囲まれているようだ。元々が石造りの上に、窓に打ちつけてる頑丈な板は放火の後も少し焦げてるだけでその役目を果たしてる。
 気配からして、数十体か。広くも無いたった一つの出口からじゃ、生きたままの脱出はとても無理だろう。
 ――そんなわけで、机やなんかで簡単なバリケードを作った後、残った時間で俺も日記をつけることにした。
 幸いページは沢山余ってる。二ページくらい間を開けとけばいいだろう。
「……さて、と。後はこれを金庫に入れておしまい、だな」
 四度目≠ノここを訪れる人間が、ヘマをせずに逃げられることを願いつつ。
 先人達≠ノ倣って、部屋に火をつけた後に首を吊ることにした。


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