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夏は賑わう海の近く、9回目の引越し先はそこだった。 9回目とはいえ、海の近くは初めてだったので、新鮮だった。 非日常が日常になったのだ。 夜眠るときには窓を開けて潮の香りを取り込む……越してきてからの私の日課だ。 「お姉ちゃん!海行こ」 弟の多貴が私を誘う。彼も海に興奮しているに違いない。 夕方の散歩は弟と私の日課だった。 「お姉ちゃん、多貴について行ってあげてね」 「はい」 ついて行ってあげてというのは建前で、本当は保護者だ。 7歳の子供が一人で海岸を散歩するなんて危ないってとこかな。 「今日は天気があまりよくないよ?」 「大丈夫だよ!早く!お姉ちゃん」 弟が私の手を引っ張って、促す。 「じゃあ行ってきます」 私は言い、母はゆっくり頷いた。 今日の海は少し荒れていて、遊泳禁止のオレンジ色の旗が揺らめいている。 犬の散歩をしているおじさんに、弟と私は挨拶をする。 「今日はね、きれいな貝殻を拾えると思うんだ!」 弟は浜辺で拾ったいろんなものを家に持ち帰っては、飾っている。 弟の部屋はもちろん、リビングや玄関など彼のコレクションでいっぱいだ。 砂浜を走って、波打ち際にたどり着いた多貴が私に手を振っている。 私が手を振り返して笑うと、彼は宝探しを始めた。 かわいい弟。 しばらくすると、満面の笑みを浮かべて私の元へ帰ってきた。 「貝が見つかったの?」 弟は首を横に振り、何かを握り締めた小さな手を私に差し出した。 私がそれを受け取ると、また波打ち際へと戻って行った。 弟から渡されたそれは、物凄く錆びているけれど、確かに以前は黄色いものだったとわかるピンだった。 先端には申し訳程度の小さな花が付いているものだった。 私と弟とは血がつながっていない。 父が今回の引越しを機に、再婚した義母の息子なのだ。 私の本当の母は、4年前、私が高校3年生のときに病気で死んでしまった。 私は今でも母親は一人だけだと思っているが、義母を認めていないわけではない。 母として認めているかというと嘘になるが、父の再婚相手、一人の女性として接している。 決して仲が悪いわけではない。 むしろ、普通の家庭よりも仲は良いと思う。 私は弟が好きだし、弟も私になついてくれていると思っている。 弟が持ってきた黄色いピンは昔母が生きていた頃、私に買ってくれたものにとてもよく似ていた。 私はなぜだか涙が止まらなくなっていた。 いつの間にかしゃくりあげながら泣いていた。 遊んでいた弟もそんな私に気づいたようだった。 「お姉ちゃん、どうしたの?大丈夫?」 優しい弟は、泣いている私の髪を一生懸命撫でてくれた。 私はその感触が気持ちよくて、黄色いピンを胸にいつまでも泣いていた。 |