☆自分色☆


黄色いピンと海の音

夏は賑わう海の近く、9回目の引越し先はそこだった。
9回目とはいえ、海の近くは初めてだったので、新鮮だった。
非日常が日常になったのだ。
夜眠るときには窓を開けて潮の香りを取り込む……越してきてからの私の日課だ。
「お姉ちゃん!海行こ」
弟の多貴が私を誘う。彼も海に興奮しているに違いない。
夕方の散歩は弟と私の日課だった。
「お姉ちゃん、多貴について行ってあげてね」
「はい」
ついて行ってあげてというのは建前で、本当は保護者だ。
7歳の子供が一人で海岸を散歩するなんて危ないってとこかな。
「今日は天気があまりよくないよ?」
「大丈夫だよ!早く!お姉ちゃん」
弟が私の手を引っ張って、促す。
「じゃあ行ってきます」
私は言い、母はゆっくり頷いた。
今日の海は少し荒れていて、遊泳禁止のオレンジ色の旗が揺らめいている。
犬の散歩をしているおじさんに、弟と私は挨拶をする。
「今日はね、きれいな貝殻を拾えると思うんだ!」
弟は浜辺で拾ったいろんなものを家に持ち帰っては、飾っている。
弟の部屋はもちろん、リビングや玄関など彼のコレクションでいっぱいだ。
砂浜を走って、波打ち際にたどり着いた多貴が私に手を振っている。
私が手を振り返して笑うと、彼は宝探しを始めた。
かわいい弟。
しばらくすると、満面の笑みを浮かべて私の元へ帰ってきた。
「貝が見つかったの?」
弟は首を横に振り、何かを握り締めた小さな手を私に差し出した。
私がそれを受け取ると、また波打ち際へと戻って行った。
弟から渡されたそれは、物凄く錆びているけれど、確かに以前は黄色いものだったとわかるピンだった。
先端には申し訳程度の小さな花が付いているものだった。
私と弟とは血がつながっていない。
父が今回の引越しを機に、再婚した義母の息子なのだ。
私の本当の母は、4年前、私が高校3年生のときに病気で死んでしまった。
私は今でも母親は一人だけだと思っているが、義母を認めていないわけではない。
母として認めているかというと嘘になるが、父の再婚相手、一人の女性として接している。
決して仲が悪いわけではない。
むしろ、普通の家庭よりも仲は良いと思う。
私は弟が好きだし、弟も私になついてくれていると思っている。
弟が持ってきた黄色いピンは昔母が生きていた頃、私に買ってくれたものにとてもよく似ていた。
私はなぜだか涙が止まらなくなっていた。
いつの間にかしゃくりあげながら泣いていた。
遊んでいた弟もそんな私に気づいたようだった。
「お姉ちゃん、どうしたの?大丈夫?」
優しい弟は、泣いている私の髪を一生懸命撫でてくれた。
私はその感触が気持ちよくて、黄色いピンを胸にいつまでも泣いていた。


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