落下

ブレーキが利かない。
それに気付いたのは、だいぶ時間が経った後だった。
道は九十九折で上り坂。
「おい! 何やってるんだ!」
後ろから洋輔の叫ぶ声が聞こえた。
「ブレーキ!!」
一言、叫び返した。
横目に見える位置に洋輔が現れた。
「捨てちまえ!」
その言葉に頭を振る。
崖の下には街がある。
どこに落ちるともしれないのに捨てられるわけがない。
道はどんどん細く、急勾配になる。
スピードが上がる。

もうここは来たことがない道だ。
目の前は、もう急勾配というよりは壁のようになっている。

「馬鹿! 無理だ。
このまま、滑り落ちたら、圭子まで巻き込むぞ!」
後について来ているはずの彼女の顔を思い浮かべる。
巻き込めない。
でも、今更、どうすることもできない。
そのまま、直進する。
どれほど行ったのか、上り始めたと思ったら、タイヤが空回りした。
どんどん滑り落ちる。
道から外れた。
風景が流れる。
落ちる。
落ちる。
地面を感じた。
そのまま滑る。
また、落ちる。
落ちる。
落ちる。
落ちる。
ぱっと目の中に飛び込んできたのは、救急車、白い車、白いバイク、人、人、人。
下から衝撃。
エンジンから白い煙。
投げ出される。
サイレン。
声。

何故か、俺はそのとき気付いていたいた。
彼らが俺を助けようとしていたことを。
洋輔がきっと連絡をしたのだと。

| back | top | p.s. |