グレッグ ・フライヤーによるレストア
By Tri-Sonic
1.レストア以前
レストア以前のレッド・スペシャルの状態について振り返ってみよう。
外観から気がつくことは、5フレットのマーカーが他のポジションと色が違うこと、ボディの消耗──特にボディ・バックはベルトのバックルによる傷が激しいこと、スイッチのそばの穴が黒いテープでふさがれていることなどだろうか。また斜めの角度から見るとボディ表面が波打っているのも見て取れる。
このように、ファンのレベルで写真や映像を通してみても、レッド・スペシャルが長年の酷使によって、歴戦の兵士のような、満身創痍の状態だったことは想像に難くない。
2.グレッグ・フライヤーが修復するに至った訳
グレッグ・フライヤー(Greg Fryer)はオーストラリア・シドニーの楽器製作者である。
グレッグは元々ブライアンに修復を持ち掛けた訳ではなく、別に論ずるレプリカの作成を提案したのだった。
1996年に最初のコンタクトが有り、1997年にグレッグの持参したレプリカの完成度、彼のレッド・スペシャルに接する態度に心を打たれたブライアンは、傷みつつあったレッド・スペシャルの修復を任せるに値する技術と誠意を持った人物であることを認識し、依頼に至ったらしい。
実際に修復が始まったのは1998年の1月である。
当時ブライアンはアルバム"アナザー・ワールド"の製作中であり、彼はなんと同アルバム収録予定の残りの4曲にグレッグのレプリカを使用した。
そのころオリジナルのレッド・スペシャルは、「体の一部」とまでいわれたブライアンの元を離れ、グレッグとともにオーストラリアに旅していたのだった。
修復に当っては、事前にかなりのディスカッションが行われた模様である。
つまり、由緒あるギターに敬意を表して「オリジナル状態を保存するか」もしくは「稼動可能な状態に最新化するか」という議論である。
結果として、ブライアン自身がレッド・スペシャルは飾りではなく、これからも使いつづける自らの片腕であるという論点から、全面的な修復に至ったとのことである。
いうまでもなく、決めるのは「彼」である。
3.グレッグ・フライヤーの修復個所
グレッグ・フライヤーの修復は、多岐に渡る。以下、各部位毎に見ていくことにしよう。
3.1 ネック
ネックは伝説となった200年前の暖炉の一部が使われたものである。暖炉の一部ということから、楽器の材料としては理想的な乾燥が得られたものと思われる。
グレッグが修復に際してトラス・ロッドをゆるめる時に、レンチが要らず指でナットを回すことが出来たというエピソードが紹介されている。
また、この完全な乾燥のゆえか、ブライアンは30余年の間、トラス・ロッドの調整をしたことが無かったらしい。
驚いたことにネックはボルト・オンである。
ネックの外されたボディの、ネック寄りにボルト穴の空いた画像を見ることが出来る。
93年の日本の雑誌では、ボディ・バックにこのボルトの頭が写っている写真が掲載されている。
なお、ボルトのほかに、2本の木ネジがブリッジ側のピックアップのすぐ手前で、ネックをセンター・コアに固定している。ボルト・オンのネック・パーツとしては異例に長い部品である。
(通常は指板の終わりがネックの終わりである)
ペグはこれまでに何度も交換されているが、最後に使われていたゴトー製のものはブライアンが気に入らなかったらしく、シャーラー(Schaller)製のものに交換され、つまみだけゴトー製のものが残った。
また、これまでの度重なる交換でつけられたネジ穴が埋められた。
フレットについては交換の必要が無かったようだ。ライト・ゲージの弦を使っていること、かなりのロー・アクション(弦高が低い)であることが原因と思われる。
指板はこれまでのレプリカで用いられてきたエボニーではなく、黒く塗ったオーク(樫)である。何個所か塗装の剥がれてきている部分が有り、その補修を行っている。
第5フレットのポジション・マークについては10年以上もの間、抜け落ちた貝ボタンの替わりに木片が埋め込まれていたが、今回その木片は削り取られ、オリジナルと同じ製法、同じ材料で再度作成された貝ボタンのマークと置換えられた。
3.2 ボディ
ボディは仕上げとして貼られたマホガニーの薄板が剥がれかかってきていた。
ボディのバインディングも剥がれてきていたらしい。
バインディングは一旦外され、全く新しいものと交換された。
マホガニーの薄板もオリジナルと同様の材から切り出され、交換されたようである。また、耐久性と光沢を高めるため、ラスティンズ・プラスティック・コーティング(Rustin's Plastic Coating)という塗料で仕上げられた。本来は屋外のボートなどの塗装に用いるものらしい。
ボディ内部の空間には6ペンス硬貨の削りかすが相当侵入していた様だ。
修復直前期の写真を見ると、ピックアップ廻りのリングが外れて落ちていることから、このあたりから侵入したものではなかろうか。演奏時、スタンバイ時ともシールド・ジャックの位置がボディ内部の空間のほぼ下端に位置するため、ジャック廻りは6ペンス硬貨のかすまみれであった。
当然ながら今回これらのかすが取り除かれた。
さらにボディ向かって右側の空間部分は、銅の粘着テープでシールドされ、ノイズ対策が施された。
純粋なボディではないが、ピック・ガードにも加修が入った。初期にファズが組み込まれていたスイッチ群の横の穴は永くテープでふさがれてきたが、"アナザー・ワールド"で使用された「球に十字星」のロゴ・バッジで埋められたそうである。
98.11の日本公演時に、このバッジを確認された方は是非ご連絡頂きたい。
3.3 電送系
電送系ではピックアップに修正が加えられた。
ブライアンがコイルを巻き直したというのは俗説で、彼のインタビュー記事によると、コイルの巻き直しは行われておらず、ストックのままであり、3つのピックアップのうち2つをアラルダイトという樹脂につけこみ、ハウリングを防止したらしい。
金属のカバーとベース・プレートを持つピックアップは宿命的にハウリングが起こりやすいのである。
筆者は最近、再発売されたバーンズ社製トライ・ソニック・ピックアップ(Burns Tri-Sonic)を入手したが、これは元からロウが含浸されているようだ。
(カバーとベース・プレートの隙間からロウがはみ出している)
ブライアンが入手した当時のトライ・ソニックも同様だとすると、ロウの含浸より樹脂の含浸の方が効果が高いとの判断からアラルダイトで含浸し直したのかもしれない。
今回グレッグはピックアップをすべて分解し、ハウリング防止のための措置を施したと言っているが、その詳細は不明である。
二つのノブも補修を受けた。特にボリューム・ノブはガタが来ていた。再度正しい位置に穴あけが施され、ノブはブレがなくなった。
なお、特徴的な彼のノブは学生時代に学校の旋盤で彼自身が削り出したものである。
4.修復を終わって
今回の修復はこれまでのペグの交換や、抜け落ちたポジション・マークの応急対処といったレベルと全く異なる、全面的な修復であった。
修復は6ヶ月間を要し、ついに完了した。
ブライアンはレッド・スペシャルを最近"Old Lady"と称しているが、その老婦人は生まれ変わり、老婦人の息子たち(何故息子なのかは、次章で語る。)であるグレッグによるレプリカを手に入れ、なによりも、これからさきレッド・スペシャル・ファミリーを診てくれる信頼できる主治医を得たのが今回の修復の最大のポイントだったといえるだろう。