1.1983−1986 BHM1
1983年アメリカのギター・メーカー、ギルド・ギターはブライアンの手製ギター、レッド・スペシャルの複製品の製作と販売の計画をブライアンに持ちかけた。
ギルドは1952年にギター製作を開始し、アコースティック・ギターにおいては高い評価を得ていたが、ソリッド・ギターの分野においては苦戦を強いられ続けていた。
特に70年代後半、エドワード・ヴァン・ヘイレンの登場と80年代のへヴィ・メタル全盛期の影響でフロイド・ローズ・トレモロ・システムやハイ・パワーのピックアップを搭載したソリッド・ギターが人気を博すようになるとギルドのソリッド・ギターの売上はますます落ち込むことになった。
この間ギルドもただ手をこまねいていたわけではなく、奇抜なボディ・デザインをもった実験的なモデルを投入したが、殆ど無視された。
こうした状況下でギルドはブライアンのレッド・スペシャルのコピー・モデルを同社の低迷するソリッド・ギターの救世主としたかったのだろう。
一方のブライアンは長い間メインのレッド・スペシャルのサブ・ギターの必要性を強く感じていたので、このギルドの申し入れを受けいれた。
製作にあたってはブライアン本人がギルドの工場を定期的に訪れて製作過程をチェックし、また以前ジョン・バーチ氏が製作し、バラバラに壊れてしまったコピー・モデルが参考にされたという。
1984年、6月にギルドはシカゴで新モデル「BHM1」を発表し、その記念パーティにはブライアン本人も参加、その場で市販モデル第1号がブライアンにプレゼントされた。
しかしこのBHM1は当時で1200ポンド、2000ドルという高値のギターであったためか、売れ行きは芳しくなかった。
その打開策としてギルドはスペックを下げた廉価モデルを発売しようとしたが、ブライアンはこれに反対し協力を撤回したため、1986年に生産終了となった。3年間の生産本数はわずか316本であった。
BHM1のスペック:
ボディ:マホガニー(ソリッド・ボディ)
ネック:マホガニー
指板:エボニー
ネック・ジョイント:セット・ネック
フレット:24フレット仕様(0フレット有)
スケール:ショート・スケール
ヘッドにはギルドのロゴが入れられ、ヘッドの角度はトレモロ使用時の弦の摩擦を軽減するため、非常に緩やかな角度になっている。
ペグは最低限必要な張力を確保しつつ、なるべく真っ直ぐに弦を引っ張れるように3対3に配置されている。
ピックアップはディマジオ社のブライアン・メイ・モデルが3つ搭載され、ピック・ガードに固定する形がとられた。
ディマジオのこのピックアップは通常のシングル・コイル・ピックアップのサイズで、マグネットにはバー・タイプのフェライト・マグネットが採用されている。
外観はブラックのカバーで覆われており、初期のモデルは真っ黒であったが、後にBHMという金色の文字が入れられた。
ピックアップの配線は、通常シングル・コイル・ピックアップが2つ以上搭載したギターの場合、ハーフ・トーン時はパラレル接続となり、単独時の音量との差はそれほどでないのだが、BHM1はオリジナル同様にシリーズ配線となっており、ハーフ・トーン時には音量の増加がおこる。
コントロール部にはオリジナル同様にボディ・エンド側にマスター・ボリューム・ノブ、そしてその上にマスター・トーン・ノブが配置され、フロント、センター、リアそれぞれのピックアップのON/OFFスイッチとフェイズのIN/OUTスイッチを装備し、13+1通りのセッティングを可能にしている。
セッティング・パターンは以下の通りである。
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
1
|
off
|
off
|
off
|
-
|
-
|
-
|
注:このセッティングでは音は全く出ない。スタンバイ状態である。
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
2
|
on
|
off
|
off
|
-
|
-
|
-
|
注:PUの単体使用時にはフェイズ・スイッチは音に影響しない。(以下同)
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
3
|
off
|
on
|
off
|
-
|
-
|
-
|
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
4
|
off
|
off
|
on
|
-
|
-
|
-
|
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
5
|
off
|
on
|
on
|
-
|
in
|
in
|
注:ブライアンが最も好むセッティング
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
6
|
off
|
on
|
on
|
-
|
in
|
out
|
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
7
|
on
|
on
|
off
|
in
|
in
|
-
|
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
8
|
on
|
on
|
off
|
in
|
out
|
-
|
注:ブライアンお気に入りのセッティングで、"Bohemian Rhapsody"のギター・ソロはこのセッティング
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
9
|
on
|
off
|
on
|
in
|
-
|
in
|
注:"Stone Cold Crazy"のサウンド
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
10
|
on
|
off
|
on
|
in
|
-
|
out
|
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
11
|
on
|
on
|
on
|
out
|
in
|
in
|
注:ロウ・レンジがかなりカットされたサウンドで、初期のビートルズを思い起こさせるサウンド
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
12
|
on
|
on
|
on
|
in
|
in
|
out
|
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
13
|
on
|
on
|
on
|
in
|
out
|
in
|
|
Setting No.
|
Front PU
|
Center PU
|
Rear PU
|
Front Phase
|
Center Phase
|
Rear Phase
|
|
14
|
on
|
on
|
on
|
in
|
in
|
in
|
トレモロにはケーラー・ロッキング・トレモロ・ユニットが採用され、ナットも同様にロック式が使われた。
ボディ・カラーはレッドが殆どであるが、ごく僅かなカスタム・メイド・モデルとしてブルーのモデルもあり、これらはボディ・トップに素晴らしい木目をもつメイプル材を採用している。
ピック・ガードには1プライのブラックが用いられ、形状はオリジナルをふまえたものの、幾分丸みを持ったデザインになっている。
ブライアンが「One Vision」のプロモーション・ビデオなどで弾いていたBHM1は、市販モデルではなくプロト・タイプである。
ブライアンは何本かのプロト・タイプやカスタム・メイドの物を所有しており、それらのギターは上で述べた市販モデルとはスペックが異なっている。
例えばブライアン所有のすべてのプロト・タイプや、前述したブルーのフレーム・メイプル・トップのカスタム・モデルでは、ピックアップのマウント方法が市販モデルと異なり、オリジナルのレッド・スペシャル同様にボディに直付けされている。
Index