ブライアン・メイのギター・プレイ・テクニックについて
チョーキング&ヴィブラート編
By Kumasan/Guitarist of "Mustapha"
それでは、ブライアン・メイ奏法の最大の特徴である「チョーキングおよびヴィブラート」について、述べてみたいと思う。
「ブライアン・メイのギターを一言で表すとすれば、それは”チョーキング・ヴィブラート”だ」と言い切ってしまう評論家もいるくらい、これはブライアンのギター・テクニックの最も個性的な部分であるが、クイーン・サウンドにおける役割として考えても、フレディのボーカル、そして、ロジャー、ブライアン、フレディの3人による重厚なコーラスと並んで、特筆すべき音楽要素であると言える。
(1)ヴィブラート
あえて日本語で言うと、いわゆる「こぶし」となるのだろうか?
音を細かく震わせるテクニックであり、ギター・ソロやフレーズの中で、その震わせ方によって各ギタリストの個性が最も顕著に表れるテクニックである。
ちなみに、クラシックやフォークなど、アコースティック・ギターでのヴィブラートは、押弦した指を弦と平行に揺らすフィンガー・ビブラートが多用される(ブライアンも「Is This The World We Created ?」等、 ガット・ギターでのプレイは、そうプレイする)が、ここではエレクトリック・ギターでよく使われるフレットと平行に弦を上げ下げする「ハンド・ヴィブラート」に絞って記してみたい。まず、ヴィブラートについて、大まかにタイプを分類すると、
・スピードが遅く、揺れ幅が大きい「ユッタリ系」
・スピードが速く、揺れ幅が小さい「チリメン系」
・スピードが速く、揺れ幅が大きい「ダイナミック系」
の三つに大別できる。
ブライアンの場合は、まぎれもなく3番目の「ダイナミック系」に該当すると思う。
(ちなみにこのタイプの著名なギタリストとしては、ニール・ショーン、スティーブ・ルカサー、ランディー・ローズ、ポール・コゾフ等が挙げられる)
「ダイナミック系」であるがゆえ、ブライアンのギター・ソロ等においては、いつもヴィブラートが掛かっていることが、はっきりと認識できる。
ブライアンの場合、通常時でも、チョーキング時においても、単音でプレイするときは、ヴィブラートを掛けてしまうことが「自然」なのであり、あえて「ヴィブラートを掛けよう」という意識は、特に無いと思われる。
時にダイナミックで、時に優しく、いずれにしても、手首のスナップを利かせた、スムーズながら激しい揺れが特徴の、耳障りの良いヴィブラート・サウンドであると思う。
また、単音のプレイだけではなく、「Keep Yourself Alive 」等の複音系のリフや、人差し指で弦3本をバレーする和音フレーズ等でも、適度なヴィブラートを掛けている。これは複数の弦を同時に揺らすというプレイなので、かなり難易度の高いテクニックでもある。
しかし、何と言ってもブライアンの最も得意とするプレイは、チョーキング状態でのヴィブラートであろう。
このテクニックは、(ちょっとしたコツも必要だが)かなり指の力と手首の柔軟性が必要で、スムーズにプレイ出来るようになるためには、通常のヴィブラートより遙かに練習を要するものである。
「ダイナミック系」のチョーキング・ヴィブラートを多用する場合、よほど力に自信のある方を除けば、使用する弦は「0.08セット」といったゲージが細い方が有利であろう。
筆者も元々は「0.09〜0.46」の弦を愛用していたが、Queenのコピー・バンドに参加してからは、「0.08〜0.42」という(低音側が0.09セットの変則)を使用している。
Queen(ブライアン)以外のロック・ギターであれば、ゲージを細くする事など考えなかったと思うが、やはりこの点でのプレイが辛かったので、ゲージの変更を決心するに至った。
ちなみに「0.08セット」であるが、その昔、多くのギター雑誌の記事においては、「音が細い」「弦が切れやすい」と「軟弱者用」「女の子用」とか言われていて、全く良いイメージが無かった。(なるべく使わないように、というくらいの記事さえあった)大げさに言うと、魔女狩り的だったような気もする。
しかし、使ってみての感想は、決してそんなことはない。確かに、音は太いとは言えないが、少なくともブライアン的な音作りで使うのであれば、むしろ細い方が向いていると思う。
あまり頻繁に弦を交換しない筆者であるが、今までこのセットで弦が切れたり、チューニングが不安定とかで悩んだことはことは、皆無である。
(2)チョーキング
「チョーキング」という呼び方は日本独自の用語らしく、海外では「ベンディング」(曲げる)と呼ばれている。その名の通り、押弦した弦をネックに対して、垂直方向(または垂下方向)に曲げて音程を上げるもので、ロック&ブルーズ・ギター専門のテクニックとも言える。(ジャズやクラシックでは、基本的にあまり使用されない)まずは、チョーキングを「音程」によって分類しながら説明してみよう。
◎1音チョーキング
最もオーソドックスなもので、2フレット分の音程をアップする。使用頻度はどんなギタリストでも(当然ながらブライアンも)最も高い。
「これぞ元祖ロック・ギター!」というイメージであろうか・・・?◎半音チョーキング
これも「1音」の次に多用されるもので、1フレット分の音程をアップする。弦を持ち上げる力が比較的少ないため、初心者でもプレイしやすい。
雰囲気としては、{3度〜4度}{7度〜8度}{4度〜♭5度}等の半音のコントロールであるため、「美しい」「ブルージーな」メロディーの中にこのテクニックを挿入すると、「哀愁」や「色気」がより効果的に表現されるので、筆者は「安くて美味しい?チョーキング」とイメージしている。◎1音半チョーキング
3フレット分の音程を上げるもので、結構力が必要な(指の痛い)プレイである。多くのロック・ギタリストが時々「ここぞ!」という場面で使用する。
イメージ的には、チョーキングのダイナミックさをより強くアピールするというプレイで、{6度〜8度}や{1度〜♭3度}のパターンで、一気に「グイーン」と弦を持ち上げる。ダイナミックさと共に音程のキープも力が必要で、慣れるまでの練習が必要である。
有名どころとしては、イーグルスの代表作「ホテル・カリフォルニア」のギター・ソロにおける出だしのチョーキングが、最もポピュラーかもしれないが、ブライアンも多用しており、「Killer Queen」のソロの最後の音程アップや「Spread Your Wings 」の間奏ソロ等が、思い浮かぶプレイであろう。◎2音〜2音半チョーキング・・・?
2音は4フレット、2音半は5フレット分の音程をアップするもので、ここまで来ると、相当な力と勢い(気力)が必要になるため、使用頻度は少ないが、ジミー・ペイジやスティーヴィー・レイ・ヴォーンなどは、ブルーズ系の曲において、時々勢いで「グィーンー!」とプレイしてしまう。慣れない方がいきなりやると、指を痛めかねない(禁断の!)チョーキングである。
このプレイの場合、一般的には音程の正確さはあまり重要ではなく、引きつったような緊張感が全てであり、当然、聴いている方も、かなりの緊張感に包まれるプレイだ。
見た目にも「力持ち!」とはお世辞にも思えないブライアンの場合、これほどのパワー・プレイは多分行ってはいないと思う。
ところが、ある有名な音楽雑誌に「Lazing On A Sunday Afternoon 」のエンディング・ソロの最後「♪キュ〜イキ」の部分は、2弦17フレットからの2音半チョーキングであると、以前掲載されていた事があった。
しかし、これについては、我々スタッフのみならず、外部のマニアの方とも検証してみたが、この説は少々現実味の無いものではないかという結論に達した。ちなみに、華奢な筆者自身、実際に2音半チョーキングで弾いてみようと何度か試みたが、どうしても不可能であった。
スタジオ・バージョンは元より、ライブ・バージョン(ブート音源)においても、あまりにもスムーズに(あっけなく)弾いていることからも、我々スタッフの検証では、2弦17フレットを1音チョーキング後に1弦17フレットに移ってピッキングするというプレイではないかと推測している。
しかし、ニュアンス的には(前述の雑誌記事での判断のとおり)1本の弦でのプレイに聞こえるのも、また事実である。
この件について、もし真相をご存じの方は、当サイトまでご一報いただけると幸いである。
◎クオーター(1/4)チョーキング
前述の半音チョーキングの半分である「4分の1」音だけ音程をアップさせるもので、フレットで言うと「半フレット」アップという事になる。
1/4音上というと、キーボード上にある「12個の音以外」のものである訳だが、簡単に言うと、これは基本的にブルーズ音楽特有のギター表現法であり、別名「ブルーズ・チョーキング」と呼ばれることも多い。
元々はブルーズ音楽のみでのテクニックであったが、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジミ・ヘンドリックス等のブルーズ系のロックギタリストの多用によって、使用頻度が高まったチョーキングの表現法と言える。
使い方であるが、9割方が「♭3度」の音でプレイされる。また、スケール・ポジションの都合上、人差し指でプレイされる事が多い。
ご存じの通り、この「♭3度(短3度)」を半音上げると「長3度」となり、曲のメロディーがマイナー(短調)からメジャー(長調)に変わるのであるが、この「クオーター・チョーキング音」を挿入すると、その中間の音であるため、マイナー(短調)とメジャー(長調)との区別が曖昧になってしまう。実はその曖昧な「クオーター・3度」こそが、ブルーズ音楽の醍醐味なのである。実際、この音を使わないプロのブルーズ系ギタリストはまずいない、と断言しても良いくらいであろう。
エリック・クラプトンを尊敬するブライアンも、当然ブルージーな曲では効果的に使いこなしている。「Sleeping On The Sidewalk 」「See What A Fool I've Been 」「Now I'm Here(ライブ)」等。
次に、プレイ・スタイルによるチョーキングをタイプ別に分けて、説明してみよう。
◎通常(ノーマル)チョーキング
いわゆる普通のチョーキングである。左指で押弦した弦を、ピックや指でピッキングして、音が出た直後に「グィー」と持ち上げるやり方で、通常のソロ等で自然にチョーキングを行うと、普通はこうなってしまう。
よって、ほとんどのギタリストにおいて使用頻度が最も高いが、ブライアンの場合は一概にそうとも言えない。次に紹介する2つのタイプのプレイに注目してもらいたい。◎ポルタメント・チョーキング
Queenファン、ブライアン・ファンの方が、最もイメージとして思い浮かぶスタイルのチョーキングがこれではないだろうか。
日本語で言うと「音程がなめらかに上昇する」チョーキングのことある。 この「ポルタメント」というテクニック用語は、ボーカル等にもよく使われるもので、要はメロディー中の2つの音の移り変わりを、意識的に(わざとらしく?)なめらかに、ゆったりと、チョーキングする事である。
ニュアンス的に表現すると、まさに「キュゥ〜ィ〜イ〜ン」・・・・と言えばお解りだろうか?
代表曲としては、「Dead On Time」(特にイントロ)、「The Hero」等が思いつくが、色々な曲の随所で、まるでオペラ歌手や演歌歌手が歌い上げるかのようにプレイされている。
これはもう、ブライアンの専売特許と言ってもいいくらいのチョーキングであるが、大変難しいプレイでもあり、実際ブライアンのように、スムーズでなめらかな「ポルタメント」を決めるには、やはり熟練を要する。
◎アップ・チョーキング
前述の「ポルタメント」については、ギターを弾かれない方でも、ブライアンの演奏を思い起こすことにより、イメージ・理解が十分出来るものであるが、この「アップ」については、実際ギターでチョーキングをプレイされた方でないと、なかなか理解できないかもしれないので、冒頭で紹介したビデオ「Brian May奏法」を是非ご覧になって欲しい。実はこの「アップ」こそが、「ポルタメント」以上にブライアン奏法の中で最も彼の個性を打ち出しているプレイであり、まさに「ワン&オンリー」の奏法なのである。
「アップ」とは、「通常チョーキング」のように弦をピッキングした後にベンドするのではなく、「先に弦をベンドして音程をアップさせておいてから、ピッキングする」というチョーキングである。ギター譜上では、その音符の上に「 U 」と表示されることが多い。
この奏法の難しい点は、やはり正確な音程の出し方であろう。なぜなら、音を出さずして(ミュートして)のチョーキングなので、通常だと耳で確認すべきチョーキングの力加減を、「勘と熟練」に頼るしかないからだ。
ちなみに、この「アップ」は、ブライアン以外の著名なギタリストもよくプレイするのであるが、ブライアンがこの奏法において「ワン&オンリー」である理由は、その使い方や使用頻度が半端ではないからである。
他のギタリスト達が「アップ」を使うときは、一般的にその前のフレーズから適度に間をおいて準備を行い、「ここぞ!」とプレイする。しかも、その後は必ずと言ってよいほど、音程を元に戻す「チョーク・ダウン」のプレイとなる。(イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」のソロ等が有名)
もちろん、ブライアン自身もこのパターンのプレイは頻繁に行うのであるが、彼が他のギタリストと一線を画しているのは、フレーズ(メロディー)の冒頭だけではなく、その中間(経過音)においても「アップ・チョーキング」をさりげなくプレイしている点である。しかも、その後に「チョーク・ダウン」も行わない、というパターンも数多い。
代表曲としては、「Somebody To Love」「Bohemian Rhapsody」「Death On Two Legs」等で効果的にプレイされているが、使用頻度は相当高いようである。
例えば「レ、ミ」というメロディーについて、「ミ」をチョーキング状態で早めに弾くように指示されたとする。すると、一般的にはこの2つの音は途切れることなく「レ〜ミ」とつながった状態でプレイされるのが常であろう。しかしブライアンの場合、通常押弦の「レ」とそれをアップした「ミ」を、あたかもフレット移動でのプレイであるかのごとく、正確に音の分離した(しかもヴィブラート付き!)プレイを展開するのである。ここで「でも、リスナーがチョーキングしていると気づかないんだったら、意味が無いのでは・・?」と感じる方も、多数いらっしゃると思う。
しかし、個人的に断言してしまうと、ブライアンのギター・ソロの独特なニュアンスを愛しているという方は、実は自分では気づかないながらも、この「アップ」のテクニックに魅了されてしまっているのである。
具体的に説明すると、このブライアン式「アップ」のプレイにより、2つの音符の間に微細な空白が生じる訳なのであるが、この空白の中において、ブライアンは”驚異的に”素早いチョーキングを行っているので、これが単なる空白ではなく、勢い・ノリ・エネルギーを微妙に醸し出す役割を果たしている。つまり、この”偶発的な空白”こそが、ブライアンのギター・ソロを、彼独特の個性溢れるものへと昇華させている要因なのである。
とにかく、あまりに正確な芸術的プレイなので、実際の演奏やビデオを見ない限り、このプレイに気づくことは困難であろう。事実、前述のビデオが発売される以前のギター雑誌・楽譜等においても、ほとんどが「アップ」によるプレイを「2フレット上への押弦移動」として採譜していた。
つまり、実際の「アップ」の使用頻度については、多くの方が耳で確認しているよりも、遙かに高いはずなのである。
そして、これこそがブライアン・メイというギタリストの(言葉では言い表せない)唯一無二の「個性」「ニュアンス」ではないかと思う。