VOX AC30 amplifier By Shiro
レッド・スペシャルと共にブライアンのトレード・マークとなっているのが,ヴォックスAC30アンプである。
ここではヴォックスに関する概略的な歴史と、AC30の仕様について述べていきたい。
まずヴォックスの歴史について述べていきたい。
現在ヴォックスの商標権はコルグ社が所有しているが、オリジナルは1958年に、楽器店を経営していたトム・ジェニングス氏と、氏の友人でダンス・バンドでハワイアン・スティール・ギタリストとして活躍するかたわらでアンプのデザインを行っていたディック・デニー氏の二人が、ジェニングス・ミュージカル・インストゥルメンツ(JMI)を創設し、ヴォックスをいう商標名のアンプの製作をはじめた事に発している。
当初JMIが作っていたアンプはAC15、AC10そしてAC4という小型アンプであったが、当時は現在のようなPAシステムは存在せず、ステージでプレイするにはこれらのアンプは音量が小さすぎた。
その為ディック・デニー氏はこの問題を解決するためにAC30の開発に取り掛かった。
AC30は基本的にはAC15がベースになっているが、使用するスピーカーなどの細かい点について、かなりの試行錯誤があったようである。
完成したAC30はまず当時絶大な人気を誇っていたバンド、ザ・シャドウズの手に渡った。彼らが使用することによりこのアンプは注目をあびることとなる。
ただし本格的に製作が始まったのは1959年で、市場に広く流通し始めたのは翌年になってからである。
当時のAC30は4つのインプットを装備しており、正確なモデル名はAC30/4 Twinである。
インプットはノーマル・チャンネル・インプットが2つ、そしてトレモロ・チャンネル・インプットが2つ。スピーカーにはセレッション社のアルニコ12インチ・スピーカーが使用された。真空管はプリ管にEF86、パワー管にはEL84、整流管にはGZ34が使われたようである。
現在ヴォックス・アンプと聞いて多くの人が想像するのは、シャドウズでもブライアンでもなくおそらくビートルズであろう。
ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインは1961年に彼らがファースト・アルバムをレコーディングする際に購入している。これは当時の彼らにとってシャドウズは憧れの存在であった為である。
彼らの人気が爆発すると同時にAC30も絶大な支持を受けるようになり、ギタリストだけでなくベーシストまでもが広く使用するようになった。
しかしベース・ギターで使用した場合、その大きな低域によって回路に機械的なダメージを与えることとなるので、ディック・デニー氏はこれに対応するため、3つめのチャンネル──ブリリアント・チャンネルを増設。またプリ管をECC83に変更し、ブリリアント・チャンネルにはトーン・コントロールも装備された。
これがAC30/6 Twinと呼ばれるモデルである。このモデルはギター、ベースだけにとどまらず、ヴォーカリストやハーモニカ、またキーボードなどにも用いられた。
またより多くのゲインを求める声が多かった為、後付け用のトップ・ブースト・ユニットも開発された。
ジミー・ペイジ所有のAC30にはこのユニットが取り付けられており、アンプの裏面にL字型の金属のプレートが埋め込まれている。これは素人には取り付けが難しかったと見え、1964年にこのシステムを組み込んだAC30/6 Top Boost Twinが発売された。
これが現在のリイシュー・モデルの基となったモデルである。
当時は他にもAC30/6 Twin Bass、AC30/6 TB Super Twinなどといった色々なモデルが存在したがこれらに関しては省略させていただく。
しかしその後ヴォックスはJMIの手を離れ、他社の手に渡り、真空管仕様からソリッド・ステート仕様に変更となり、それにつれてセールス・ポイントともいえた美しいトーンは失われてしまう。
またエリック・クラプトンが名盤「John Mayall and Bluesbreakers」でイギリスの新しいアンプ、マーシャル・アンプを使用して、それまでのサウンドには無い新たなサウンドを打ち出し、その影響からか、多くの他のギタリスト達がマーシャル・アンプを使用するようになり、ヴォックスは完全に過去の存在となっていく。
ヴォックスはその後多くの企業のもとを渡り歩き、1990年に前述のコルグ社がローズ・モーリス社から権利を買い取った。
コルグ社は現在JMI時代のAC30を忠実に復元したリイシュー・シリーズを生産しており、とても品質が高い。
また90年代に入り世界的にビートルズ人気が再燃し、ビートルズ関連の商品が人気を博すようになり、これが新生ヴォックスに追い風となった。ヴォックスは今再び多くのギタリストから高い評価を得て愛用されている。
ブライアンが最初にAC30を手に入れたのは1967年頃と言われている。
すでにエリック・クラプトンはギブソンのサン・バースト・レス・ポールとマーシャル・アンプの組み合わせによる“ウーマン・トーン”と呼ばれるサウンドを作り出していた。
(クラプトンは、ヤード・バーズ時代では、フェンダーのテレキャスターとAC30の組み合わせを愛用していた)
ブライアンはある日、レッド・スペシャルを持って楽器店に行き、いくつかのアンプを試していた。既にブライアンの頭の中には理想のサウンドがあり、それを再現してくれるアンプをブライアンは探していたのだ。
そしてブライアンがレッド・スペシャルをAC30に繋いで音を出した時、ブライアンが求めていたサウンドが飛び出したと言う。
当時既に過去の存在となりつつあったこのアンプには大きな一つの特徴があった。それはクラスA動作と呼ばれる回路を採用している点である。
クラスAという回路は通常オーディオ機器などで使用される回路のようで、常に真空管に電気を送り、真空管をあまりドライヴさせずに使うためクリーン・トーンで使うには問題ないが、ロック・ギターに不可欠な歪みが生じにくく、また常に電気が真空管に流れる為に真空管の寿命が短い。
それに対しマーシャルなどで採用されているクラスB回路ではピックで弦を弾いてピックアップから信号が送られた時のみ真空管に電気が送られ、真空管を限界までドライヴさせて使うようだ。
つまりクラスBの場合、音を出していなければ、アンプがオンになっていてもスタンバイ状態にある為、真空管を長持ちさせることが出来、真空管を限界付近までドライヴさせることによって強烈な歪みと大きな音量を得ることが出来るのである。
しかしブライアンにはクラスBアンプの歪みはどうも音が濁っているように感じるようで、ブライアンにはヴォックスのノーマル・チャンネルのボリュームをフルにした時に得られる、スムースでアコースティックな歪みこそが理想だったのである。
ブライアンは以後このアンプを使用するわけだが、前述のようにAC30は後にソリッド・ステート仕様に変わってしまうがブライアンのお気に入りはあくまでも真空管仕様のAC30であることから、クイーンのファースト・アルバム「クイーン」から「ミラクル」まではオールドのAC30を使用していたようだ。
ブライアンは1991年のインタビューで、「イニュエンドゥ」ではリイシューのAC30も使用したと語っているが、これはコルグ社以前のローズ・モーリス社がAC30の誕生30周年を祝って限定生産したものであろう。
このモデルはかなりオリジナルに忠実に作られており、プリ管、パワー管ともに真空管を採用しているが、整流管にはオリジナルのGZ34ではなくソリッド・ステートを採用している。現在ブライアンがメインで使用しているのはコルグによるリイシュー・モデルで、ブライアンはかなりお気に入りのようである。
現在発売されているモデルはAC30/6TBとAC30/6TBXとよばれるモデルで、両者ともプリ管にはECC83とECC82、パワー管にはEL84、そして整流管にはGZ34を使用している。
両者の違いはスピーカーで、TBにはセラミック・マグネットを使用したモデルが、TBXにはオリジナル同様にアルニコ・マグネットを使用したモデルが搭載されている。
ブライアンが使用しているのは恐らくTBXであろう。ちなみに筆者は現在2台のAC30を所有している。
1台は1995年製のAC30/6TBで、もう1台は年式不祥、モデル名不祥のJMI時代のオールドである。実はこのアンプは以前ブライアン本人が使用していたといわれるもので、回路内にブライアンのサインが書かれており、ブライアンのもとからポール・マッカートニーのバンドのギタリスト、ヨーロッパのアンプ業者、日本の楽器店へと渡り、今は筆者の元にある。
コントロール・パネルにはJMIのロゴが入っているので、JMI時代のモデルに間違いなく、おそらくAC30/6 Twin Bassであろう。
どういうわけかスピーカー部以下が切断されて、いわゆるヘッド・アンプに改造されており、筆者はリイシューのスピーカーに接続している。
この改造はブライアンが所有していた時期に行われたようである。ギターのサウンドを形成する上で、アンプの果たす役割はとても大きい。ブライアンのあのクリーン〜クランチ〜ディストーションと滑らかに移行するサウンドはこのAC30という歴史的名器のアンプなくしては成り立たないといえる。
(追記、2000年3月2日)
ブライアンのお気に入りの真空管EL84について以前グレッグ・フライヤーさんに教えていただいたので、それをここに紹介しておきます。以下ブライアンお気に入りのメーカーのEL84を紹介します。AC30を所有している方は参考にしてはいかがでしょうか。ちなみに順不同に紹介しており、ランキングではありません。1:Mullard
AC30のヴォリュームをフルにし、またトレブル・ブースターをかまして、フルにドライヴさせて状態でもベース・ミドル・トレブルのバランスが優れ、非常に扱いやすいようです。最高の真空管ですが、それだけに値段も高価です。2:S.T.R Harma
ムラードにかなり近いサウンドを持った真空管で、ブライアンは気に入っているそうです。トレブルは温かみがありながらもエッジの利いたサウンドで、ミッドはクリ−ミー、ベースはタイトなサウンドだそうです。3:Sovtek EL84M
これはソヴテックでも普通のEL84では無く、EL84Mで軍用の管のようです。全体的にバランスの取れたサウンドですが、トレブル・ブースターをかますと強烈な歪みが得られ、ミッドもかなりコンプレスされた木目のこまかいサウンドのようでブライアンはかなり気に入っているそうです。ただしブルー・アルニコ・スピーカー以外のスピーカーとは相性が良くないようです。4:GE
ゲイン・音のバランス・音量などで優れた管のようです。トレブル・ブースターをかましてフルにドライヴさせても音の輪郭を失わず、ピッキングなどに対して非常にセンシティヴな管です。5:Philips
豊かな低音、クリ−ミーにして澄んだ中音、そしてムラードよりもブライトな高音を持っているそうです。以上がブライアンのお気に入りのEL84ですが、ちなみにベストはやはりムラードのようです。どの真空管もムラードほどの澄んだ音は持ってはいないそうです。