Kid's
by Tri-Sonic
  Kid'sギターはギター製作者、木戸宏氏の工房であった。残念なことにKid'sギターは本稿執筆時の1999年5月現在、営業停止してしまっている。木戸氏の現在の連絡先をご存知の方は是非筆者までお知らせいただきたい。 
1.Kid's ギターのラインナップ

キッズギターには下記のラインナップがあった。

 a)BM-260
 b)BM-Dragon
 c)BM-Special
 d)BM-Standard
以下、各モデルの仕様を簡単にさらってみよう。
BM-260
BM-Special
BM-Standard
BM-Dragon
ボディ マホガニー、ソリッド マホガニー、セミホロウ 同左 トップ・バック:フィギュアド・メイプル 
センター:マホガニー
ネック マホガニー、セットネック 
635mmスケール
同左、610mmスケール 同左 同左
指板 エボニー、24F 同左 ローズウッド、24F エボニー、24F、ドラゴン・インレイ
P.U. BM−1 BM−2 ストラト・タイプ BM−1(後にBM−2)
ブリッジ オリジナル・ローラー・タイプ 同左 ロトマチック・タイプ オリジナル・ローラー・タイプ、ゴールド
トレモロ オリジナル・ダイナミック・トレモロ 同左 同左 同左、ゴールド
ペグ クルーソン・タイプ シャーラー・M6、パール・ボタン 同左 同左、ゴールド
価格 ¥260,000 ¥200,000 ¥130,000 ¥500,000
 BMシリーズの生産は1990年に始まった。バブルの時期で、生産が追いつかないほどよく売れたらしい。
BM-SpecialはBM-260の後継機種、Standardは後に追加されたSpecialの廉価版という位置付けである。Dragonは受注生産であった。またSpecial以降落とし込みタイプ(ボディ形状にくりぬかれたもの)のハードケースが別売された。
 

2)Kid'sギターの特徴

a)木部
 ボディ、ネックは基本的にマホガニーが主体であり、Dragonのみトップとバックにフィギュアド・メイプルを使用している。初期のBM-260、Dragonはソリッド、Specialと時期を前後してDragonもセミホロウになったと思われる。(理由は後述)
 ネックはすべて、セットネックで仕込み角(ボディ表面と指版表面の成す角)は浅い。実物から採寸したといわれるSpecial以降は610mmのスケールが採用されている。 指板はStandardを除きすべてエボニーで、0フレット仕様。ナットはカーボンである。
 BM-Specialではボディはセンターブロックと左右のパーツからなり、左右のパーツは輪郭から数センチ残してすべて切りぬかれている。 この3つのボディパーツの表裏をマホガニーの薄板でサンドイッチしてボディが構成されている。 細かい点だが、バック側のバインディングはボディを完全に1周している。

b)金属パーツ
 BMモデルの忠実なレプリカを製作するとき最も問題になるのが、トレモロ、ブリッジ、コントロール・ノブのパーツであろう。なにしろブライアン本人も自作したパーツである。世の中のどこを探しても見つかるものではない。Kid'sではこの部分のパーツをすべてオリジナルで作成している。
 ローラー・タイプのブリッジは真鍮にめっき処理を施したもので、ベースとなるブロックに6つのローラー部が乗せられている。ローラー部はコの字型のガイドにローラーが軸を介して固定されている。ローラー部はベース・ブロックに単純に乗せられているだけである。ブライアン自身のものは高さ調節の機能が見えない(あるのか、ないのかも不明だ)が、Kid'sの場合、ベースブロックの4隅にネジ穴が切ってあり、呼び寸法1.5mmの6角レンチで調整するイモネジが埋め込まれている。このイモネジがベースブロックのさらに下にセットされたベースプレートと、ベースブロックとの距離を可変としている。
 次にトレモロだが、他のレプリカモデルと決定的に違うのはその支点の実装方法である。Kid'sでは試行錯誤の結果、ボディ側に金属のベースブロックを埋め込み、ベースブロックをザグって埋め込んだ極めて小さいベアリングを介してトレモロユニットを支えている。スプリングはボディに刻んだ溝にベースプレートを埋め込みボルト支持のプレートを介して支えられている。
アームは次のような方法でトレモロユニットに固定される。トレモロユニットの上部がスイッチ部のほうに飛び出しており、ネジ穴が切ってある。そこに太いイモネジをねじ込み、真横からブリッジと同じ小さいイモネジでカシメられている。アームは根元がワッシャーとなっており、そのワッシャーをイモネジにねじ込んで固定する。イモネジの上部は袋ナットで保護される。この方法は外見的にはブライアンのオリジナルをかなり忠実に再現したものであるが、アームの付け外しが非常に面倒なのが弱点である。(筆者の感想だが、アーム側のメスネジは不要である。)ちなみにアームの素材はステンレスである。
 ボリューム・ノブもブライアンのオリジナルをかなりイイ線で再現したものだが、惜しむらくはボリューム位置を示す赤いドットがついていない。素材はアルミで削りだしである。
 パーツで唯一、オリジナルでないのはペグである。BM-260ではクルーソンタイプのプラスティック・ノブ、以降のモデルではシャーラーのM6ミニにパール・ボタンのついたものが使われている。

c)電装系
 ピックアップも木戸氏のオリジナルである。ピックアップカバーは真鍮削りだしにクローム・メッキしたもの。マグネットはBM-1では通常のストラトと同様のポールピース・タイプ。コイルの上部、カバーから覗いて見える部分には銀色のテープが張ってある。サイズは氏が目測で原型を作ったものだが、実物のTRI-SONICと比較しても、かなりイイ線いっている。 残念ながらKid'sは一般的なギター同様、ピックアップがパラレル(並列)接続となっている。最も重要な改造ポイントと言えるだろう。
 スイッチはコントロール部をカバーするサブプレートにネジ止めされるため、ネジ頭がピックガードから見えない。ボリュームは1V1Tだが、ある人によると、VとTの位置が逆になっている。(ブライアンのオリジナルはVがボディ・エンド側にあり、一般的なレイアウトとは逆である。Kid'sは一般的なレイアウトになっているという説があるが、私が中古で購入したBM-260はVがボディ・エンド側についていた。前のオーナーが変更したのかもしれない。)
 
 
(3)Kid's BMシリーズ製作秘話

 筆者は98年9月にKid'sを尋ね、木戸氏から直接、お話を伺うことができた。ここにそのときのエピソードなどを紹介したい。

・木戸氏とブライアンの邂逅
 93年の来日にあわせて氏は試作品のBM-Dragonを製作し、アポなしでホテルを訪問、本人には会えず、顔見知りのプロモーターにDragonを託して帰宅。その夜、連絡があり、翌日の会見申し出を受けたそうだ。翌日ツアーの打ち上げに招待された木戸氏はそこで、実物のRedSpecialを見ることとなる。BM-Specialは実物からの採寸だという話が伝わっているが、恐らくこのときに実測したものと思われる。ボディの構造がセミホロウであることもこの時に知ったのではないだろうか。
 木戸氏がブライアンに会ったのがこの時だけだとすれば、Dragonの1号器はソリッドであったというのが筆者の推論である。

・パーツ製作苦労話
 Kid'sのパーツは前述のとおり、殆どオリジナルである。原型は木戸氏が製作され、外部の加工業者に発注したものである。オリジナルのパーツはブリッジ、ローラー、トレモロ本体、アーム、ノブと多岐にわたり、さらにはトレモロ・スプリングまで特注である。氏の工房には、こうした試行錯誤の過程の試作品があちこちに散らばっていた。
 市販品選択にも苦労があった。最たるものはスイッチ。自作を試みた人には判る筈だが、白いスライド・スイッチは現在おそらく作られていない。また、あのスイッチレイアウトを実現しようとすると、かなり小ぶりのスイッチでないと収まらないのである。スイッチのマウント方法から、スイッチ・ノブの長さもある程度長いものが要求される。氏は結局アンリツ製のスイッチを自分で白く塗装して使用したのである。
 氏の話では、木部はNCルーターによる加工を行っているので、こうした外注品の価格がBMシリーズの原価の大半を占めていたそうである。

(4)さいごに

 氏は、突然訪問した私に、仕事の手を時に休めながら2時間もの間お話してくださった。しかも分かれ際に「遠くから遊びに来てくれたから」と、企画段階で発売中止となったBMショートスケールギターのネックとボディの半完成パーツを下さった。ブライアンにDragonをプレゼントしたことといい、本当に欲の少ない方であった。Kid'sギターが営業を中止してしまい、オーダーできなくなったのは残念な限りである。
 Kid'sギターの復活を心より祈る次第である。
 

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