まずは小手調べにこの問題を解いてみてくれたまえ。
諸君の健闘を祈る。




問題.01



 俺、高須守(38)は今日もいつもと同じ時刻に目覚めた。

 時刻は朝6時。今日は火曜日だ。いつものように、まず新聞受けに新聞を取りに行った。
 新聞を手に持って、俺はダイニングルームへと足を運んだ。妻の一恵(32)はすでに起きていた。台所の方からはいい匂いがする。おそらく、味噌汁の匂いだろう。台所の方に目をやると、煙がたちのぼっているのが見える。煙たちが進んでいく方を見やると、換気扇が勢いよく回っている。おそらく、おかずは魚料理だろう。テーブルに座った俺の目に飛び込んできたのは、スーパーで買った魚のトレイだった。トレイに巻かれていたと思われるラップには、「さんま」とある。先ほどの、妻が焼いていたと思われる魚の魚種はさんまだろう。俺はいろいろ推理しながら、あと数分でテーブルという名の舞台にあがってくるであろう、朝食たちを今か今かと待ちわびていた。
 「あら、あなた起きてたの?」
妻は言う。
「あぁ。」
俺は、愛想なく答えた。
 起きたばかりだからというのも勿論だが、俺が妻に対してそう愛想なく答えたのには、もう一つ理由があった。
 俺は、もう妻に対して愛情がないのだ。

やがて、ダイニングルームのテーブルに朝食が並ぼうというとき、息子の宏行が匂いにつられてか、まだ眠そうな目をこすりながら起きてきた。宏行は、俺や妻におはようの一言も発せぬまま、洗面所へと向かった。
 やがて、じゃ〜・・と勢いのよい水の音が聞こえてきた。おそらく、手か顔を洗い始めたのだろう。俺は思った。
 宏行が洗面所からダイニングルームに来るのとほぼ同時に、朝食たちも一皿ずつテーブルへと歩を進めてきた。
 ふと、俺の目を奪ったのは新聞を1枚めくって三面記事に目をやり、少し読んだところだった。
 そこには、自分の息子の宏行と同じ中学2年生の男の子が、いじめを苦に自殺したという記事があった。確かに、この記事は俺の目を奪ったが、この時はまだそれほど詳しく読もうとしたり、深く考えたりはしなかった。
 いつものように、たいした会話もなく、俺・一恵・宏行の3人はそれぞれのはしを進めていた。
「あっ、今日の天気予報見なきゃ。」
一恵は急に思い出したように、誰にともなく言った。彼女はテレビのリモコンを手にとり、スイッチをいれた。
パチッとテレビから軽く音が鳴り、テレビは明るさを少しずつ表していった。やがて、テレビの中の女性は昨晩あったニュースに伝えているようだった。彼女の言うことを、ご飯を口に運ばせながら聞いていた俺は、その内容がどこかで聞いたことのある内容だなと思った。果たして、その思いは当たっていて、その内容はちょっと前に読んだ、新聞の3面記事に載っていた、あの内容だったのだ。すかさず一恵は、このニュースについて俺に意見を求めてきた。
「や〜ね〜・・」
俺は言葉は発せず、ただ頷いた。
 またしても、多少の沈黙・・・聞こえる音といえば、テレビの中の女性の声と、俺と一恵と宏行の使用しているはしがお皿等に当たる音だけだった。ニュースキャスターは、この中学2年生のいじめを苦にして自殺した事件を、結構大きく取り挙げていた。
 少しすると、またしても妻の一恵は訪ねてきた。
「この事件、宏行の通ってる学校じゃない?」
「そうだよ。」
ちょうどさんまを食べていた宏行が、さんまの中骨を取り外そうとしながら答えた。
 俺は驚いた。自分の息子は、自分の通っている学校の自分と同じ学年の男の子が、いじめを苦に自殺をしたというのに・・・しかも、それらの全てを解っていたというのに、そんなにびっくりしていないようだったのだ。

 7時過ぎ、俺は会社に向かった。いつもと同じ時間のいつもと同じ車両に俺はいた。
 2度ほど乗り換えをしながら、1時間ほど電車に揺られると、会社に向かうのに一番近い駅へと到着した。

 時刻は午後6時。仕事を終えた俺は、寄り道もせずにまっすぐ家に向かった。

 我が家が見えてきた。
 何かがおかしい。何かがいつもと違ったのだ。
 家の中がまっ暗なのだ。
 俺は家へ急いだ。

 鍵を使って家へ入った俺をまちうけていたのは、妻の一恵の後ろ姿だった。彼女は肩を小刻みに震わせていた。おそらく泣いてるのであろう・・・
「一恵、どうしたんだ?電気もつけないで・・・」
俺は問うた。一恵は、一瞬自分に質問を投げ掛けられたことも、さらには夫の俺が帰ったきたことさえも気付かないでいる様子だった。
「あら、あなた・・・おかえりなさい。」
やはり一恵は泣いていた。泣きながら発した言葉だからか、多少聞き取りにくい感じだった。俺は、
「あぁ、ただいま。」
そう言ってから、
「一恵、どうしたんだ?電気もつけないで・・・」
と、また今さっきと同じ質問を投げ掛けた。一恵は、少しの沈黙を得てから、
「今電話があって・・・宏行が自殺したって。」
俺は、一瞬妻が何と言ったのか解らなかった。つい、
「・・・え?」
と聞き返したぐらいだ。すると一恵は、
「宏行が自殺したらしいの。」
先ほどの俺とは違って、少し言葉を変えて繰り返した。俺は、やっと妻が伝えたかったことが解った。
「なんだって???」
驚きすぎて、ついつい「?」を3つも付けてしまったぐらいだ。

 その後、俺と妻の一恵は警察から電話をもらい、息子の自殺した現場へと足を運ばせた。

 自殺現場へと行き、小1時間ほど警察からいろいろ聞かれて、我が家へと戻ってきた俺たちは、まだ息子の温もりが少しでも残っている息子の部屋へと足を踏み入れた。そこには、「遺書」と丁寧な文字で書かれたレポート用紙が1枚置かれていた。そこには、こう書かれていた。

 「所詮、僕の人生はこんなモノなんだなと思った。
 憎むものなどはなかったことだけは理解してもらいたい。
 ただ、僕が勝手に自分の人生に終止符を打って、命を無駄にしただけ。
 悔しいことを一つ挙げるとすれば、それは夢をはたせなかったこと。
 何もかもを失くすことになると思う・・・死は。
 今はでも、ソレに後悔はない。」

 このたった6行で形成されている息子の遺書。
 これは、私たち夫婦に沢山の宿題を残してくれることとなった。

 息子の夢とは、サッカー選手になりたいということだ。

 それから、息子の通夜、葬儀と事を済ませ落ち着いた我々が、実は息子はいじめられていたという事実を知るのには、多少の時間を費やした。




さぁ、ここで諸君に問題である。

高須宏行が遺書にて本当に伝えたかったことは?




このページは GeoCitiesです 無料ホームページをどうぞ