検証!BAY AREA THRASHの歴史
1980年代,サンフランシスコの湾岸域を活動の中心として活動していたThrash Metal系のバンドとしてEXODUS,BLIND ILLUSION,TRAUMA,POSSESSED,ANVIL CHORUS,LAAZ ROKIT,SENTINEL BEAST, HEATHEN,TESTAMENT, DEATH ANGEL, FORBIDDEN, VIO-LENCE, MORDRED, SADUS, MERCENARY,GRIFFIN,DEFIANCEなどなど数多くのバンドが存在したその殆どは姿を消し現在はわずかなバンドのみが活動を続けている.そう,これらのバンドの一群がThrash Metalをメジャーに押し上げた原動力の一つであった歴史上の事実は否定できない.ここで挙げたバンドの多くは「ベイエリアスラッシュ」と一括され,ある意味ブランド的扱いをうけていた.ブランド品にはしばしば偽物が出回る.残念なことに偽物と本物を一緒にBAY AREA THRASHと称された.このままでは私自身がBAY AREA THRASHが好きか嫌いかと問われた時にどう答えたらよいかわからない.そこで改めてBAY AREA THRASHについて検討してみたいと思う.もちろん,私の独断的な意見が主となるが,私の知っている初期Thrash Metalファンの意見も少しは参考にさせていただいた.
BAY-AREA THRASHとは?
サンフランシスコのベイエリアを活動中心としていたThrash Metalのこと.特にベイエリアクランチと呼ばれる独特のジャギジャギのリズムギターの音によって特徴づけられる・・・と一般にはこのように紹介されていることが多い.しかし・・・
初期Thrash Metalファンの多くはBAY-AREAはダメというが?
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そうなんです.ベイエリアスラッシュといえば第二世代のThrash Metalなんで,年寄りには理解できない問題が数多くある.じゃあ,どこがダメか?
では,どういった面が良く,どういった面がダメなのかを考えてみよう.そのためにまずはベイエリアスラッシュの歴史を振り返っておこう.
ベイエリアのスラッシュ寄りメタルシーン(80年前後)
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ベイエリア在住の友達とかにきくと,やはりANVIL CHORUSって名前が挙がってくる.ANVIL CHORUSはHEATHENの前身バンドとして知られているが,少なくとも81年には活動しており,当時メタルバンドが少なかったサンフランシスコのシーンではそれなりに有名だったらしい.オフィシャルな音源は82年に7inchをリリースしているほかは知らないが,かなりオーソドックスな当時のHMであり,Thrashっぽさはない.このバンドと同じく古くから活動しているバンドとしてBLIND ILLUSIONが挙げられる.彼らは少なくとも78年くらいには原型が完成していたようである.初期79〜85年まではVoはDavid Godfrey(後に HEATHENに加入)が参加していた.デビューアルバムは88年になるが,これは当時ベイエリアのバンドと契約したがったレコード会社が古くから活動していた彼らに着目したからだと思われる.BLIND ILLUSIONはそのバンド名の如く妙な空間を作り上げた独特のバンドであった.thrash色もあったが,もっと不思議なインパクトを持ったバンドだった.少なくともベイエリアスラッシュとは全く異なるサウンドだ.ちなみに,MarcはBLUE OYSTER CULTの「Imaginos」のレコーディングに参加している.また,87年に出されたコンピレーションアルバム「Eastern Front-Live At Ruthies Inn」に曲を提供したっきり全く活動が伝わってこなかったSTONE VENGEEANCEも結成は78年にまで遡る.彼らに至っては90年にデモを発表,解散後再結成して98年に1stアルバムとかなり不思議な活動をしているが,サウンドは昔と変わっていない.80年代のサウンドでthrashでもあるんだが,ベイエリアの一般的なサウンドとはまた全然異なる音であり,クリーンなトーンのヴォーカルにジャギジャギには刻まないギターが特徴である.ちなみに彼らは黒人トリオ編成という世界的に見ても極めて珍しいメンバー構成である.
上記バンドのうち,活動中なのはSTONE VENGEANCEだけであり,よりファンク色を強めた様々な音楽が混在としているサウンドをやっている.BLIND ILLUSIONのメンバーのうち,BassのLes Claypoolと元POSSESSEDのLary LalondeはPRIMUSに籍をおいている.ANVIL CHORUSはHEATHENへと移行していった.
ベイエリアスラッシュ・ベイエリアクランチの元祖は?
まず間違いなくベイエリアスラッシュの元祖はEXODUSということになるだろう.現METALLICAのKirk HammettとDrのTom Hauntingが中心となって1980年に結成された.そう,バンドとしてはMETALLICAよりも歴史が長い.当初はIRON MAIDEN,JUDAS PRIEST等のカヴァーなどをやっていたらしい.1stデモは1982年に制作している.Kirkの脱退後Gary Holtがバンドのイニシアティブをとるようになり,よりコアなサウンドになっていった.1983年には名曲「Pirahna」等を含む2ndデモを作成している.彼らの1stアルバムの「Bonded By Blood」は初期Thrash Metal必須アイテム.初期Thrash Metalファンでこのアルバムを「ダメ」という奴には今まで出会ったことがない.作品の発表年代などからいっても,このアルバムが恐らく元祖「ベイエリアスラッシュ」である.この作品は楽曲の良さもさることながら,Paul Baloffの狂ったVoが要であり,Thrash Metalの魅力である攻撃性が強烈に出ている.彼のVoのインパクトの凄さは1997年に発売された再結成Liveアルバム「Another Lesson In A Violence」で十二分に理解できるはずだ.リズムギターは当然”ジャギジャギ”のベイエリアクランチ.ということでベイエリアクランチの生みの親はGary Holtということになるか?
ベイエリアクランチ
ベイエリアスラッシュの代名詞ともいえるのがベイエリアクランチと呼ばれるギターサウンドであり,殆どのベイエリアのバンドはこのベイエリアクランチと呼ばれるジャギジャギのリズムギターであった.ベイエリアスラッシュの代表的なバンドは好き嫌いは別としてTESTAMENTだと思う.ベイエリアが熱い・・・と(海外で)騒がれ出したのは1986〜1987年頃であり,ベイエリアスラッシュという言葉が頻繁に用いられたのはTESTAMENTやDEATH ANGELのデビュー以降である.商業的にはこのTESTAMENTは大きな成功を収めたバンドであろう.ちなみに,日本では初期のEXODUSとかも日本盤などは出ていなかったし,日本盤が最初に出たベイエリアのバンドもTESTAMENTとDEATH ANGELである.TESTAMENTの音はベイエリアクランチによって特徴づけられる.デビューアルバム「Legacy」は1987年の発売されたがそれ以降,TESTAMENTのようなサウンドのバンドが数多く出てきた.例を挙げるとSLAMMER,XENTRIX,ATROPHY,DEFIANCEなどである.はっきり言ってこれらのバンドの少なくとも初期の音はTESTAMENT風である.それはベイエリアクランチに似せた音づくり,微妙なメロディを伴うシャウトまでは行かない唱法に特徴づけられる.何も知らなかったらSLAMMERがイギリスのバンドとは思えないはずだ.しかしながら,この中でベイエリアスラッシュはDEFIANCEだけなのだ.その理由は「彼らがサンフランシスコ湾岸地域の奴だから」である.
ベイエリアスラッシュじゃないベイエリアのreal thrash
ベイエリアスラッシュのお気に入りとゴミ音源
お気に入りベイエリアスラッシュ: やはり,EXODUS「Boneded By Blood」(1985)これしかないでしょう.TESTAMENTも,唯一デビューアルバムの「Legacy」(1987)は格好良い.また,FORBIDDEN「Forbidden Evil」(1988)は劇的なデビューアルバムであった.私にとってはこの3枚がベイエリアスラッシュの合格ライン.MORDREDの「Fools Game」も素晴らしい出来であるが,これはベイエリアスラッシュの中ではかなり異端児的な音である.とはいっても,彼らのデビューアルバムではEXODUS,LAAZ ROKIT,TESTAMENT,DEATH ANGEL,VIO-LENCE,FORBIDDEN等のメンバーからなる「Bay Area All Stars」がバックコーラスをとっていたりするし,リズムギターは確かにベイエリアクランチである.また,VIO-LENCEは安定しており個性もあり,1st「Eternal Nightmare」は悪くなかった.EXODUSの2nd「Pleasures Of The Flesh」はVoはともかく,曲や演奏は好きである.その他,HEATHENはVoは弱いながらもなかなかいい音を出していた.あと,Thrashのカテゴリーに入れるには微妙だが,LAAZ ROKITの3rd「Know Your Enemy」は青春してて良い.
ダメベイエリアスラッシュ: TESTAMENTの2nd以降やEXODUSの3rd以降,FORBIDDENの2ndなどは全く面白味がない.しかし,不幸にもベイエリアスラッシュというものはこれらの音と思われていることが多く,ファンもそれなりにいるようである.私に言わせればこんなのはThrashじゃないし,音楽としてクソつまらない.もし,こういった音がベイエリアスラッシュと言うのであれば私はベイエリアスラッシュは大嫌いである.でも普通,ベイエリアスラッシュと言ったらこの辺りを指すのが普通のようであるが.
考察
こういった例を挙げているうちにおかしな点に気付く.私がダメと感じるベイエリアスラッシュは曲も確かにつまらなくはなっているのであるが,実はベイエリアのみならずThrashをダメにしていったのはVoにも大きな原因があるのではなかろうか?「Another Lesson In The Violence」で聴くことのできるPaul BaloffのVoでの2nd収録曲はSteve Zetro Souzaのものより遥かに格好良い,いや比べものにならない.
例えば私が挙げたベイエリアスラッシュの好きなアルバムに関してであるが,まずEXODUS「Boneded By Blood」のVoのPaul Baloffはとにかく狂っている.予想できないシャウトからなる彼のVoスタイルは誰もまねできない.2nd以降は贅肉が首の回りに絡み付いたような発声のSteve Zetro SouzaのクソつまらないVoスタイルがEXODUSの魅力を完璧にかき消している.まあ,曲もつまらなくなったことは否めないが.
TESTAMENT「Legacy」はデビュー直前にSteve Zetro SouzaがEXODUS加入のために脱退したため,Chuck Billyがとったわけだがこれにも裏がある.LEGACYという同名のアーティストが存在したため,バンド名変更を余儀なくされTESTAMENTの名でデビューを果たした.LEGACYのデモテープは2万本売れたらしい.確かにデモテープの出来はかなり高いレヴェルのものであり,EXODUSでは何の魅力もなかったSteve Zetro SouzaのVoもLEGACYの音には合っている.もともと歌えるVoであったChuckだが,1stはデビュー前からデモテープで有名になった曲ばかりでありZetroのVoスタイルを真似して歌っている.2nd以降は自分のスタイルでChuckが歌いだした.これが最悪であった.アルバム「Low」収録曲のうち,もっともいけてたのは「Dog Face」だったのを思い出してほしい.奴の声は恐らく歌っちゃダメなのだ.吠えないといけない.1stでは吠えていた.まあ,2nd以降は曲もつまらなくなったことは否めないが.
では,FORBIDDENはどうか?数々のThrash MetalバンドがVoが歌いだしたことによって魅力を激減させていった中(例;KREATOR),FORBIDDENは特殊な例である.要するにVoのRuss Andersonは1stで完璧なことをやってしまったのである.抑揚のあるメロディーを歌わせてもうまいし,はき捨て型の歌い方も格好良い.そして彼の(体格から来る?)声量の多いシャウトは誰もが度肝を抜いたことであろう.そんなにうまい奴が2ndではこともあろうにTESTAMENTのChuckような歌い方に転向したのだ.「巧い」という個性があった1stと比べて2ndは「何で???」と首を傾げたくなる.彼はメロディがあった方が格好良いのに.このことは先にも述べたがLAAZ ROKITにも言える.VoのMIchael Coonは決して巧いVoではなかったものの3rdではメロディアスで誰も真似できない熱のこもったシャウトを聴かせてくれたのに,4thではそれが皆無であった.
結局自分のスタイルでいってくれればそれなりにもっと良いものになったのではなかろうか(2人を除いて)?で,2人とはSteve Zetro SouzaとChuck Billyのこと.ZetroはLEGACY時代は良かった.あのままLEGACYに在籍していてくれれば歴史は大きく変わったであろう.少なくともEXODUSがあそこまでダメになることはなかったであろうに.あと,Chuckである.彼はインタビュー等でしばしばメロディアスに歌えることを強調している.でも,はっきり言って彼はメロディアスになればなるほど魅力を感じないヴォーカリストである.素直にDEATH系で歌えば声量あるし格好良いのに・・・.
このように考えると,Paul BaloffがずっとEXODUSにいたら総てが丸く収まって狂ったVoを擁するバンドが流行っていたかも(んなアホな).そもそも,EXODUS自身が自らの歴史を否定するかの如く再結成何故あれほどまでに初期の曲にこだわったかに答えが出てると思う.再結成後,再解散,再再結成して闘病中のTESTAMENTのChuck BillyとDEATHのChuck Schuldiner(2001年12月13日に他界)のためのチャリティーコンサートをこなし,その後もアルバム作成予定があったのだが,皮肉なことにPaul Baloff自身が2002年2月2日に亡くなってしまった.これはあまりにも悲しい出来事である.
近年の流れ
好き嫌いは別として元VIO-LENCEのメンバーが結成したMACHINE HEADはもはや現在のモダンヘヴィネスシーンの中心的なバンドである.その他,FORBIDDENのメンバーが結成したMANMADE GOD,そしてEPIDEMICのGuyが手掛けた若手バンドのSIFTなどのモダンヘヴィネス系バンドがいくつかいるようである.一方,シーンの中心であったDEATH ANGELのメンバーはSWARMとして活動しており,地元でのライブもかなり頻繁にこなしている.こちらは彼らが得意とするファンク色が強いサウンドであり,他には類を見ない音楽を確立している.その一方で,正統派Bay Area Thrashを引き継いでいるバンドがいる.そう,IMAGIKAである.彼らはベイエリアのバンドの良い部分ばかりを集めてきたようなバンドであり,正統派のHeavy Metalとして評価が高かったベイエリアのVICIOUS RUMOURSの影響も強いと言っている.まあ,現在活動中のベイエリアのバンドとしては一押しであろう.また,異端児的なバンドも幾つか存在している.中でもPCPはベイエリアらしからぬDEATH METALを信条としている.しかも,今風じゃなく90年前後のDEATH METAL創成期のようなサウンドである.こういったバンドがまだまだ存在するからベイエリアは侮れない.
まとめ
Thrash Metal全体の衰退の頃にベイエリアスラッシュって名前が頻繁に使われだし,ベイエリアスラッシュの名の下にクォリティの低いアルバムがたくさん出された.粗悪なベイエリアスラッシュ(と私が捉えているアルバム)は1989年以降に量産されている.1989年以降は世界的に見てもThrash Metalは質の低下が伺われ,表ではSEPULTURAが唯一の救世主の様な時期であった.1990年代以降になると拍車がかかり多くのバンドは活動を停止した.このころでも真の意味でのThrash Metalをやっていたバンドは数少なく,中でもSACRIFICEやEXHORDERは貴重な存在であった.そう考えると,ベイエリアスラッシュだけが粗悪だったわけではなさそうだ.ただし,TESTAMENTやEXODUS(もちろん,1st以外)のリフって本当に格好良いと思っていた奴がいたんだろうか?あんな音が売れ出したから衰退を早めてしまったと思うのは私だけではないはずだ.
出来れば多くの良質なベイエリアのバンドに復活して貰いたいものである.メジャーになったバンドも初期の荒々しいスリリングなリフを奏でていた頃のサウンドに戻って貰いたいものだ.ベイエリア勢に限らず,1986年前後までの勢い100%のThrash Metalが復活してほしいものだ.やっぱ初期Thrashがいいよ,ホント.
(この記事は2002年2月12日時点に更新したものです.活動中のバンドが解散してしまったり,再結成したりすることがありますので,その点はご了承下さい.)
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