教育基本法を考えるためのブックガイド

(「*」は、私による寸評…参考にするもよし、参考にしないもまたよろし…)

 

       日本教育法学会編『教育基本法改正批判』日本評論社、2004年

       編集手伝いました(ちょっとだけだけど)。法学者による「改正」への批判的検討。資料も精選されています。個人的には成嶋・世取山・野村・中田・市川・安達・横湯論文が興味を引きました。

       堀尾輝久『いま、教育基本法を読む−歴史・争点・再発見』岩波書店、2002年

* 授業で配布、検討してもらった文献です。

       堀尾輝久『日本の教育』東京大学出版会、1994年

* ところで、「教育学やってました」という人で堀尾輝久を知らないのは、「野球やってました。ところで長嶋茂雄って、だれ?」ってのとおなじくらい、モグリということになります(…ホンマか?)。これは堀尾さんの退官年度の講義録。戦後教育史のレビューに役立ちます。ところで堀尾さんと言えば、この本。『現代教育の思想と構造』岩波書店、1992年(岩波同時代ライブラリー版)・1974年

       堀尾輝久『人権としての教育』岩波書店(同時代ライブラリー61)、1991年

* 堀尾さんの仕事のうち、「学習権」や「教育への権利」といった「教育をめぐる権利問題」についてコンパクトにまとまった本。家永教科書裁判や北海道学力テスト判決などへ与えた理論的影響は大きいだけに、法学の人以外も一回は目を通していただきたい本。

       堀尾輝久『教育基本法はどこへ−理論が現実を切り拓く』有斐閣、1986年

* 堀尾さんの、教育基本法に関して書かれた本。今は絶版で手に入れるにはオンデマンド出版しかない。駿大の図書館にはあったかな?

       堀尾輝久、右崎正博、山田敬男『「日の丸・君が代」と内心の自由』、新日本出版社、2000年

* 教育基本法「改正」の問題と並んで、今話題の「日の丸・君が代」の強制について考える際参考になる本。右崎さん=憲法学、山田さん=教育史学というチームでの執筆なので、「強制」が持つ他面的な問題を一冊で通覧できる。

       西原博史『教育基本法「改正」 私たちは何を選択するのか』岩波書店(岩波ブックレット No.615)2004年

* 「思想・良心の自由」という権利研究に大きな業績を残しているのが、西原さん。彼の教育基本法の「改正」問題についての考え方をコンパクトに読めるのが、この本。

       西原博史『学校が「愛国心」を教えるとき 基本的人権からみた国旗・国歌と教育基本法改正』日本評論社、2003年

* 「思想・良心の自由」という権利論から「日の丸・君が代」の強制の問題を考えた本。西原理論は堀尾理論を批判の対象にしており、堀尾をどう乗り越えようとしているのか知るためにはこれは必読。西原さんに興味がわいたら、この本をどうぞ。『良心の自由』成文堂、2000年

       大内裕和『教育基本法改正論批判−新自由主義・新国家主義を超えて』白澤社、2003年

* 大内裕和は主に『現代思想』をフィールドに活躍中。教育基本法「改正」問題のうち、堀尾さんのだとちょっと切込みが浅い、新自由主義の諸問題についてこの本はレビューできる。

       高橋哲哉『「心」と戦争』晶文社、2003年

* 高橋の主著は『戦後責任論』岩波書店、1999年。「有事法制」「靖国問題」と並べて「心のノート」の問題や教育基本法「改正」=愛国心の問題を論じているのがこの本の特徴。これらに通底している時代の精神をえぐり、その問題を読む人に見せつける本。

       渡辺治「いまなぜ教育基本法改正か?」『ポリティーク05』旬報社、2002年

* 渡辺は、憲法学・日本政治史。戦後、「保守」政治によっていかに憲法が解釈≒改正されてきたかについて分厚い研究が、彼にはある。その彼が教育基本法「改正」問題をどう見ており、その背後にどんな政治的思惑があるのかについて書いたのが、この論文。個人的には日本の大国化とネオ・ナショナリズムの形成 天皇制ナショナリズムの模索と隘路』桜井書店、2001との併読を、激しくお勧め。

       教育科学研究会/編集『いま、なぜ教育基本法の改正か』国土社、2003年

* 渡辺さんは、この本にも論文を寄せている。成嶋さんも、寄せている。「朝ナマ」(テレ朝)で元気にナショナリズム批判している小森陽一も。といった具合に、教育学者に限らないさまざまな人の教育基本法「改正」問題への考えが読める本(あ、堀尾さんも、もちろん書いていました。忘れちゃいかん)。教育基本法の逐条解説もあり、詳しい。

       市川昭午『教育基本法を考える−心を法律で律すべきか』教育開発研究所、2003年

* 市川氏は、中教審委員。その経験から、中教審の教育基本法「改正」論の問題を論ずる。…彼にしか書けないと思われるのは、委員だった経験から、中教審がどんな議論をしていたのか、また、「そもそも議論できてないんではないか?」との(大)問題を書き上げているところ。読んだあと正直、こんな議論レベルで「改正」をやすやすと進められたくないなぁ、と、トホホ感がただよう。

       野田正彰『させられる教育−思考途絶する教師たち』岩波書店、2002年

* ここにも「日の丸・君が代」の強制がもたらす問題が描かれている。野田氏の専門は精神分析。「強制」によって教師が神経を病んでいく様子が切々と、この本では書かれている。また、多忙化して思考を途絶していく/させられる教師も書かれており、教育現場のありかたについて考えさせられる本。

       小熊英二『<民主>と<愛国>』新曜社、2002年

* 戦後政治(史)について考えるにあたって、スタンダートな文献になりつつある本。…ただ問題は、その分厚さだ! 文章は読みやすいので、是非チャレンジしてもらいたい。これを読むと、「サヨク」「ウヨク」などというレッテルで政治を見ていくことがいかに陳腐で不毛か、政治ってのがダイナミックな(節操ない?)動きをしていたかが分かるはず。…もっと手近なのでは、石川真澄『戦後政治史』岩波書店(岩波新書新赤版367)、1995年…もう、古いかなぁ…

       小熊英二・上野陽子『<癒し>のナショナリズム』慶応大学出版会、2003年

* 「新しい歴史教科書をつくる会」(彼らの本はたくさんあるので、いちいち紹介しません)を議論の中心とする「歴史教科書問題」については、何らかの形で見聞きしていると思います。この団体・考え方の批判を正面からした本として、例えば小森陽一/ 坂本義和/ 安丸良夫/編『歴史教科書何が問題か 徹底検証Q&A』岩波書店、2001など。小熊・上野の本は、「なぜ新しい歴史教科書をつくる会に、ひきつけられる人がいるのか?」を明らかにしようとしたところが、新しい。上野はある地域の新しい歴史教科書をつくる会をフィールドにエスノグラフィーを実施。会にはどんな人がおり、どんな議論がされているのかを描いているところが興味深い。

       姜尚中・森巣博『ナショナリズムの克服』集英社(集英社新書 0167)、2002年

       姜尚中『ナショナリズム』岩波書店、2001年

* 姜氏はこれまた「朝ナマ」でおなじみ。対談という形で「ナショナリズム」のはらむ問題を論じたのが前著。作家の森巣のウィットがちょこちょこ出てくるので、読んでいて飽きない(森巣の著作は『無境界の人』集英社文庫、2002年、『無境界家族』集英社文庫、2002年、『非国民』幻冬社、2003年など)。もう一方のは、姜氏のナショナリズム論についての理論書。戦前の「国体」論と現在のナショナリズム論が切れ目のない連続として存在していると論ずるあたりは、「戦後責任(論)」(高橋哲哉)を考えさせられる。

       香山リカ『ぷちナショナリズム症候群 若者たちのニッポン主義』中央公論新社(中公新書ラクレ 62)、2002年

* 若い人のナショナリズムの動態と意識を描き出した本。…彼らに戦前の「日の丸・君が代」のことを語っても、それは届かない。その若い人がノリと気分で「日の丸・君が代」を振って歌ってしまうのはなぜか?この動態の背後には、階層の断絶とその隠蔽があると香山は分析する。結構話題を集めた本。続編として福田和也との対談「愛国」問答 これは「ぷちナショナリズム」なのか』中公新書ラクレ 872003。福田と香山の考え方の違いが、ガチンとぶつかる。

       西沢潤一編著『新教育基本法6つの提言』小学館文庫、2001年

* 教育基本法「改正」について賛成の人の本も。西沢編のは、「いじめ、登校拒否、学級崩壊など、今や日本の教育は崖っぷちにある。本書執筆陣は「その元凶は、教育基本法に他ならない」と語る。戦後、GHQの強い指導のもとでつくられた教育基本法は、教育現場から伝統や愛国心、道徳・宗教的情操といったものを排除した。その結果、日本の教育は崩壊の一途をたどったのだ。」とし、その処方箋として教育基本法の「改正」を主張する。

       教育学関連15学会共同公開シンポジウム準備委員会/編『制定過程をめぐる論点と課題−シリーズシンポ:教育基本法改正問題を考える 4』つなん出版、2003年

* 教育基本法の「改正」問題でたびたび挙げられるのは、それが「押し付けられた」ものであるとの認識。これについて教育史の古野博明は「田中二郎のリードで進められた」と分析する。対して教育行政学の杉原誠四郎は「教育基本法は教育勅語への尊敬の念でもって作られた」とし、教育基本法も教育勅語と連続させて解釈すべきと主張する。さいごに憲法史の古関彰一は教育基本法の問題に「愛国心」が言われる背景をグローバリズムに見て、「「国民」に統合されない「市民」、「国民の教育権」ではなく「市民の教育権」の確立なしに新たな地平は拓けてこない」との考えを述べる。

       田原総一朗・西部邁・姜尚中『愛国心』講談社、2003年

* 鼎談。西部氏は、「新しい歴史教科書をつくる会」を飛び出した人。彼と田原氏、姜氏とが言葉を交わすことによって、「愛国心」論の何が問題かが浮かび上がってくる仕掛け…でも、それがクリアーになったとはいえないのがこの鼎談のつらいところ。

       E・W・サイード『戦争とプロパガンダ』みすず書房、2002年

       ノーム・チョムズキー『メディアコントロール』集英社(集英社新書0190)、2003年

* この2冊は、「平和」の文献案内でも触れます。「戦争報道」というものの問題点を明らかにする本。ちょっと脇にそれるが、広河隆一編の写真週刊誌『DAYS JAPAN』も推薦しておきたい。

 

などなど・・・まだまだあるが、ここらへんで一区切り。