-東女瓦版182号2面掲載作品-

「豆腐小僧」
    古屋あすか


 豆腐小僧は湿った場所にただ豆腐を持って立っているだけというシュールな妖怪だ。雨の中、豆腐を持って突っ立っているのを見たミドリがつい「その豆腐、うまそうだな。」と声をかけたらついて来てしまった。ミドリに豆腐を食べさせようとしているのかもしれないが、豆腐小僧の豆腐を食べると、身体中にカビが生えて死んでしまうと言われている。まあ、豆腐を食べさえしなければ、本当にただ立っているだけなので、かなり人畜無害と言えるだろう。
 ミドリの家は、父、母、ミドリと弟の四人家族だ。母親の再婚で出来た父親とは血のつながりがない。再婚後に生まれた弟はまだ五歳で、かわいい盛り。お兄ちゃんと呼ばれるのは悪い気がしなかった。父親とはまだうまく馴染めない。母親は弟に夢中で、来年ミドリが高校受験だということに最近気がついてくれた。
 所謂、フクザツな家庭環境に置かれたミドリはしかし、至って健全な十四歳だった。グレず、腐らず、非行に走ることもなく、家出しない。夕飯はきちんと家族で食べる。成績も良い。いい息子で、いい兄でいようと努めたが、努めれば努めるほど面の皮が厚くなっていくような気がした。いい子振るのに疲れると、次第に部屋に篭る時間も増える。成績が良いのは不可抗力だった。このごろは受験勉強を理由に引きこもれるから尚更楽だ。

<ここから未掲載分>

 今日も豆腐小僧はミドリの部屋に立っている。12〜3歳くらいだろうか、外見は着物を着た子供の姿で、弟よりは大きいが、ミドリよりは幼く見える。もっとも、妖怪にニンゲンの年齢が適用するとは思えないが。
 相変わらず、手に持った豆腐をミドリに押し付けてくる。見れば見るほど美味そうな豆腐だ。思わず出そうになる手を引っ込める。食べたらカビが生えて死んでしまう。
 一体、何だってこいつはここに留まるのか、ミドリは分かりかねていた。座敷童子や厄病神じゃあるまいし、人に付きまとうくせに、何もしない。

 一体何を企んでいるんだよ?

 聞いてみようにも、相手は妖怪だ。喋らない。ただ突っ立っているだけ。怖いかんじはしないが、存在感だけはあるので、ミドリはいつの間にか、豆腐小僧を話し相手にするようになった。もちろん、豆腐小僧は喋らないので、ほとんどミドリの独り言に過ぎない。ただ、豆腐小僧が相槌を打つかのようにミドリの話に頷いてくれるのが、せめてもの救いだった。
 今日は学校で勉強をして、放課後は委員会だった。
 帰宅は六時になったが、家は無人だった。
 インフルエンザの予防注射を受けに、弟を病院へ連れて行くという母の書置きがあった。
 そのまま父親と落ち合って、夕飯を食べて帰るので、遅くなるとのことだ。
 勉強がんばってねとのことだ。
 お腹が空いたなあとミドリは思った。
 豆腐小僧は頷いて、手に持った豆腐をミドリに押し付けてくる。
 
 食べたらカビが生えて死んでしまう豆腐。
 見れば見るほど美味そうな豆腐だ。思わず手が出そうになる。

 一体何を企んでいるんだよ?






(完)



今月の小説はいかがでしたか?
感想等ありましたら、[satsuki5_2002★yahoo.co.jp(★を@に)]まで。
次回の「文子の部屋」も御楽しみに^^



※この作品の著作権は、著者及び東女瓦版編集部に属しています。
許可なく無断転載/複写/複製/使用を一切禁止します。

[戻る]