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郵便局がコンビニになる日。
1998/10/17 by akko
*はじめに
橋本政権下の総選拳で、各党が揃って公約に掲げた「行財政改革」も、金融危機が叫ばれる中で今やすっかりカスんでしまったような感がある。私は先日の参議院選挙で初めて選挙権を行使する機会に恵まれ、政党には行革に最も積極的だと思われる「新党さきがけ」に投票した。しかし彼らは先の選挙では行革より「環境主義」を前面に押し出しており、ひとりの当選者も出すことはなく、結局事実上の解党の道を辿ることになった。
その惨状から、行革とは一時のブームに過ぎなかったのだろうか、とむなしささえ感じたが、行政改革とは行政のスリム化つまり規制緩和のために行うものであるので、日本の現状から見ればまだ道半ばである。行革という国レベル、国際レベルのテーマをしつこく蒸し返し、身近な郵便局を題材にして考えてみたいと思う。
1.日本の郵政事業
日本において、郵政省が管轄している郵便・郵便貯金・簡易保険の3つの現業部門をまとめて「郵政三事業」という。手紙を書かなくてもダイレクトメールなどで郵便は身近なものだろうし、民間の銀行のキャッシュカードを持っていない人でも郵貯のカードを持っている人は多い。何せ郵便局は全国に2万5000局のネットワークを持つ上、国営なので、この金融不安の時代でも信頼できるからだ。そして超低金利時代の今でも、小口であることを条件に、他の都市銀行などに比べて金利が高いのがメリット。簡保も経営が株価の変動に左右される民間の生保に比べて、一応、国営で安心だといえよう。だから「郵便局は庶民の味方。どうして民営化する必要があるのか」という議論が出てくるのである。
しかし、考えてみてほしい。現業の行政サービスというものは、本来、民間に任せれば採算がとれない分野にのみ行われるベきものではないだろうか。郵政三事業のうち、郵貯は先程も述べたように民間の銀行と競合している。そして、郵貯は日本人の個人貯蓄の20%以上を占める220兆円を超える預金残高を持っており、郵貯こそ世界最大の金融機関なのである。簡保も生保と競合しており、郵貯と同じく「国家の信頼を背景にして、民業を圧迫している」と批判を受けている。そして郵便は“国家の独占事業”であり、民間は「信書*1」と呼ばれる葉書、手紙を宅配便で配達することができない。つまり、宅配便の小包の中に手紙を入れて送ることも、信書であるという理由で禁止されているのだ。でも、利用者は中身を見られるとは思わないため、手紙も平気で入れたりできる。民間に信書を配達させないのは、秘密を守れないからだと郵政省はうそぶいているのだが……。
*1「信書」=「特定の個人の間で意志を通じ合う平紙」のこと。信書の秘密は憲法21条で「通信の秘密」にあたるので、秘密を守るために国がやる、というのが信書配達の独占の根拠とされる。しかし現在、電話など通信の分野では民間が続々と参入しているのでこの論拠は既に崩れている。それなのに未だに国家の独占事業なのは、信書配達に民間を参入させると、実は信書で支えられている郵便事業が大変なことになるかららしい。
咋年の行革会議で、郵政三事業の民営化問題が取り沙汰されたのを耳にしたことも多いだろう。行政改革とは本来、公務員の仕事を減らして政府をスリム化し、財政支出を減すのが目的なので、先に述べたように郵政三事業が民間と同じような仕事ならば、民間に任せてしまえばいいのでは、という考えから来ている。しかし、当初は「一部民営化(郵貯は民営化準備、簡保は民営化。郵便は国営維持)」まで踏み込んだものの、郵政族や郵政省、郵便局長らの猛反発を浴び、民営化どころか独立行政法人(*2)にすらならず、結局「郵政三事業は国営維持、但し5年後に新型公社とする」に落ち着いた。ところが、この「新型公社」というものは明確な定義づけがなく、国営維持が明確になったのか民営化への足掛かりなのか、はっきりしていない。そのため、民営化派と国営維持派はお互いに都合のよい解釈をしており、事実上、結論は5年後へ先送りになったと言った方が正しいのかもしれない。但し、国家の独占だった郵便事業に民間の参入が認められたことなどが民営化への道筋がついたと見るのが自然だと思われる。いずれにせよ、変動が激しい政治の世界でいう「5年後」の約束がどこまで通用するのか、不透明ではあるのだが。
*2「独立行政法人」=政府が全額出資するが、独立性を確保しながら民間の経営手法を取り入れたもの。民営の一歩手前。この場合、日本版エージェンシー(*3)と呼ばれる。独立採算で、特定の公共事業を専門的に行うという意味では、郵政三事業・財政投融資とのからみでよく問題とされる特殊法人と同じ。しかし周知のように、特殊法人が非効率で赤字体質という批判を強く受けているのに比べ、独立行政法人は業績評価システムを導入することにより、効率性と透明性のアップが見込まれている。
*3「エージェンシー」=中央省庁には「(政策の)企画立案部門」とそれを実施する「制度執行部門」があるが、その制度執行部門を本省から切り離したものをエージェンシーという。
2.のぞましい郵政事業の運常形態
諸外国との比較にあたり、郵政三事業の中でも、最も身近だと思われる郵便事業を例にとって考えてみる。・・・・私たちが手紙を出すような年齢になった頃、葉書や封書の郵便料金はいくらだっただろうか。当時は基本的に葉書が40円、封書が60円だった。それが消費税の導入で41円、62円となり、今では50円と80円にまで値上がりしている(そして現在では7桁の郵便番号の導入・・・市も郡もこれまで通り、書いているのに!)。
しかし、それとは逆に、例えば「ゆうパック」を一年以内に10回利用すると、1回無料になるという回数券割引のような、事実上値下げのサービスも始まっている(これは宅配便に負けそうだから、というのが定説)。ただ、最近始まった「チルドゆうパック」に見られるように、サービスのための施設をつくる予算を申請(つまり税金を使っている!)してまで行うっていうのは、ちょっと筋違いの気がしないでもないのだが……とにかく、郵便局も自らの生き残りを賭けて、顧客サービスに努めているのである。これまで郵政事業を民営化すべきだという意見が度々出されてきたため、国営のまま存続させるべきだという世論づくりの一環でもあるのだろう。郵便局は国営でなければならないという理由、「民間は採算が取れない地域からは撤退する。つまり、民営化すると過疎地が切り捨てられる」というのが国営維持派の言い分だ。
しかし、ライフラインと呼ばれる電力やガスについても考えてみてほしい。中部電力、東邦ガス……すベて民間企業なのだ。これらの会社は採算がとれないからといって、過疎地から撤退してはいない。きちんと法律などでサービスの提供を義務づけられていれば、国営だろうと民間企業だろうと、過疎地だからやめる、というようなことは起こらないのである。特に郵便のような事業であれば、たとえ末端の地域で赤字になったとしても、全体として黒字になれば、企業の社会的責任として事業を行う義務があるのではないだろうか。・・・・ちなみに、電力料金、ガス料金、水道料金……これらは地域ごとにバラバラである。宅配便も、そしてゆうパックまでバラバラである。しかし何故、葉書や封筒だけが全国一律料金である必要があるのだろうか。私個人としては、信書に関しては民間との競争原理が働いていないためでは……と考えてしまうのであるが。
・ニュージーランドの改革と郵政事業
ところで、海外に目を移してみると、日本においては国営が当然の郵政事業が、多く民間に委ねられていることがわかる(→資料「各国の郵政事業の経営形態」)。もちろん、民営化するということはそれ相応の人員削減が行われることなどから、国民が無傷でいられるわけでは決してない。かつて「鉄のカーテンのこちら側で最も統制された経済」といわれ、現在では「行革先進国」と呼ばれるニュージーランドを例にとってみたい。
ニュージーランドはかって、世界で指折りの福祉国家だった。しかし、1970年代後半から80年代前半にかけ、深刻な経済不振に陥ってしまう。危機感を抱いた政府は、規制緩和や行財政改革を断行。郵政事業も3つの公社に分割し、一部を除いて民営化した。その中でも特にお荷物的存在だった郵便事業は、それまで赤字続きだったのが、現在は逆に毎年のように収益を伸ばしている。しかし一時は、規制緩和による外資系企業の進出で失業率が11%を超えるなど(日本では失業率4.2%で過去最悪と騒いでいるが、当時のNZのアパレル業界は9割が廃業した)国民生活に与える影響も大きいものだった。そして改革を進めた政権は総選挙で必ず苦戦を強いられ(事実、政権交代があったが、後継内閣も前内閣の改革を引き継いできた)、閣僚の落選、政権の交代・・・と政治的な犠牲の大きさも見逃せない。日本でも行財政改革を行う決意表明をした時、橋本前首相が「火だるまになって」と大見得を切ったのも、政革の難しさを示しているといえるだろう。
ニュージーランドには郵便・通信・郵貯の3部門があったが、行財政改革の一環としての87年の国有企業法の制定で、3つの公社に分割された。そのうちまず、通信事業はアメリカの電話会社などに売却し、郵便、郵貯は同年、政府が株式を保有する特殊会社(*4)となった。このうち郵貯は、民間に銀行があることから89年に民間に売却。郵便は特殊会社の「ニュージーランド・ポスト社」が担っているが、一部で民間の参入が認められ、98年には全面的に自由化されることになっているという。
*4「特殊会社」=資料「各国の郵政事業の運営形態」を見ると、わかりにくいのは「公社」と「特殊会社」の違いである。公社も特殊会社も政府設立の公企業であることでは相違ないが、公社が国営の事業体であるのに対し、特殊会社は株式会社の形態をとるもの。利点としては、経営の自主性が実現し、財務諸表の公開などで経営の透明性が高まるといったところらしい。
この郵便事業の国有企業(特殊会社)化はもともと、赤字解消が目的だった。86年には赤字が4000万NZドル。それが国有企業化で黒字に転じ、ここ数年は5%ずつ収益を伸ばしてさえいる。・・・・ニュージーランド・ポスト社は赤字解消のため、まず、それまでは全国に1200か所あった郵便局を400か所に減らした。ここだけ見ると、やはり「過疎地を切り捨てている」という批判もあたるのだろうが、代わりにガソリンスタンドやコンビニなどに切手販売などの業務を委託し、窓口の数を1600か所に増やしたのである。窓口で見ると、結果的に400か所、増えたのである。更に経営の効率化によって、郵便の最低料金45セント(約36円)は40セント(約32円)にまで値下げされたのだ。日本の郵政省は宅配便に負けないように、税金をつかってまで新しいサービス(*5)の開発に必死になっているが、究極のサービスが料金の値下げ以外にあるかどうかを考えてみるべきだろう。
*5「新しいサービス」=前述「チルドゆうパック」は民間の「クール宅急便」を真似たもの。企業はこのために、一台のトラックに普通の冷凍庫・保冷庫とマイナス18度の冷
凍庫をつけたが、これには50億もの研究開発費がかかったという。しかし採算が取れ始めたところで、郵政省は各地に保冷庫と冷庫庫をつくる予算を国に要求してきたのだ。
3.コンビニ化する郵便局
ニュージーランドはコンビニなどに業務を委託している、と述べた。これは別にニュージーランドに限ったことではない。これらの国ではコンビニが郵便局の役割を果している。郵便局内に文房具などが売られているのである。
日本の郵便局はどうかといえば、国営であるがために文房具などの販売はできない。国営だと、郵政事業以外のことを行えば、国家公務員の服務規程に違反することになるからである。一方、コンビニはどうだろうか。今や、公共料金の払い込みや宅配便の受け付けなども扱っている。通信販売も企業によっては郵便振込をコンビニで受け付けてくれるし、何よりコンビニは24時間営業である。そして当然のことではあるが、郵便局では買えないものも買えるわけで……。
郵便局は最も身近な行政機関だが、これを民営化するとどうなるのだろうか。海外の例からもわかるように、郵政事業以外の業務も行えるようになるので、経営を多角化できるようになる。つまり、郵便局とコンビニを足したようなものができると予想される。コンビニに郵貯のATMが置かれたり、郵便の業務などが行われたり……。
もちろん、既存の郵便局もコンビニのように雑誌を売ったりすることになるだろう。利用者から見れば、国営だろうと民営だろうと便利ならばいいのである。宅配便ができたばかりの頃は、民間だから心配だということで「OOを発送しました」と、前もって葉書で先方に知らせた人が多かったというが、今、国営だから安心、民間だから心配という人はいないだろう。
郵便局が民営化されれば、全国的ネットワークを持つ会社ということで、ニュージーランドなどのように、コンビニなどの小売業者やさまざまな企業が業務提携を求めてくることになると思われる。業務を多角化し、民間企業にふさわしい合理化を進めれば、今以上の業績をあげることは十分可能だといわれている。それに、独立採算性をとっている郵政三事業は今のままでもいけるのであるし、まして民営化を行えば十分な設備投資ができるようになるのである。利用者サービスという点だけでなく、郵便局自体も民営化された方が結果として、のぞましい方向に向かうのではないだろうか。
行革会議での結論は「国営維持、5年後に新型公社化」という曖昧な結論に終わったが、民間の参入が認められることなどから、コンビニ的な郵便局が生まれることもそう遠い話ではないのかもしれない。
<参考文献> 松原聡 「郵便局が見る見るわかる」/「現代の郵政事業」など
(資料)
◎各国の郵政事業の経営形態
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
日本 郵便 〇
貯金 〇
簡保 〇
電話 〇
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
NZ 郵便 〇
貯金 〇
電話 〇
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
蘭国 郵便 〇
貯金 〇
電話 〇
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
独国 郵便 〇
貯金 〇
電話 〇
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
米国 郵便 〇
貯金 〇
電話 〇
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
仏国 郵便 〇
貯金 〇
電話 〇
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
伊国 郵便 〇
貯金 〇
電話 〇
国営 公社 特殊会社 私企業 廃止
英国 郵便 〇
貯金 〇
電話 〇
三事業国営は見られない。公社化、特殊会社化したケースが多い。
簡保の国営は欧米には見あたらない。アジア諸国の一部が運営している。
◎各国の郵政事業民営化の現状
イギリス
郵便…1990年民営化。「ポスト・オフィス・カウンターズ株式会社」となる。ただし、1ポンド未満の郵便物の配送は、公社「ロイヤル・メール」が独占。
郵貯…国営。国民貯蓄庁(ナショナル・セービング)と改称されている。
オランダ
郵便…1989年、PPTポスト(郵便)とPPTテレコム(電気通信)とに分割民営化。政府45%出資の持ち株会社の傘下の株式会社となっている。
郵貯…1986年民営化。株式会社「ポスト・バンク」 となる。
ドイツ
郵便…1989年、公社となり、その後株式会社化、「ドイツ・ポスト」となる。完全民営化は98年末。
郵貯…郵便と同様、「ポスト・バンク」へ。完全民営化は99年頃
アメリカ
郵便…国営。民間輸送会社の台頭で苦戦。
郵貯…1966年に廃止。
ニュージーランド
郵便…政府100%出資の特殊会社。郵便事業への民間の参入が1998年完全自由化される予定。
郵貯…1987年特殊会社となったが、2年後民間銀行に売却された。
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