第八場 山代の戦い
登場人物 忍熊王(オシクマノミコ)軍の兵士A・B・C・D。小隊長。
大后側の伝令。大后側の兵士数人。
敗走してきた忍熊軍の兵士たちが、整列して態勢を立て直している。
忍熊軍の兵士A 棺の喪船を攻めたら、そこから軍勢が出てきた。あの棺は空だったらしい。ということは、大后は品陀和気皇子が亡くなったというデマを 飛ばしていたんだ。
兵士B そんな小細工をしなくても、香坂王と忍熊王は乱を起こすつもりで明石で待ち構えていたんだ。なんでも母君から父王はオキナガタラシヒメに呪い殺されたと教えられていたらしい。
兵士C 父大王の御陵を明石に作るという口実で、淡路島の石を船団を作って運びながら、待ち構えていたんだ。
兵士D しかし相手が悪かった。なにしろ相手は新羅を征服して帰ったばかりの息長帯比売命の軍団だ。自信たっぷりで、堂々としていたな。
兵士C 斗賀野で謀反の成否を占う<うけひ獦>をしたとき、大きな怒った猪が出てきて櫪の木に登って避難していた香坂王が襲われたんだ。なんと櫪の木を倒して、香坂王に食いついた。とうとう香坂王は食い殺されてしまわれたんだ。
兵士B せっかく占いで凶とでたんだから、あの時諦めて思いとどまるべきだったんだ。凶が出てもやるくらいなら、最初からそんな占いやるべきじゃなかった。全く縁起でもないとはこのことだ。
兵士A いや忍熊王にすりゃあ、この大凶が大吉に思えたのかもしれんぞ。だって、兄の香坂王という皇位継承のライバルが一つ消えたわけだ。後は大后と品陀和気皇子さえ始末すれば天下は転がり込むのだから。
兵士D おいおい、まだ十四・五の子供だろう忍熊王というのは。子供がそんなこと考えるものかね。
兵士B さあそこが母親や御付の臣下たちの期待があって、その期待に応えないと自分の生きてる意味がないような気にさせられていたんだろう。哀れなもんさあ。まあ我々下々には大王の位の重さなど分からないけどね。
兵士A しかし我々は、その皇子の決断の為に命を張って戦わねばならん。哀れなのは我々の方だせ。
兵士C いやあ我々だって勝てば大王直属の兵士で、立身出世は思いのままなんて宣伝文句にまんまと乗せられたんだから、自業自得だよ。
急に小隊長が現る。
小隊長 気をつけ、ピシ。前へならえ、ピシ。番号、ピシ。
兵士A 1、ピシ
兵士B 2、ピシ
兵士C 3、ピシ
兵士D 4、ピシ
小隊長 ピシ、ピシ言うな、ピシ。ようく聞け。明石での蜂起は敵の策略にかかって失敗し、ここまで退却してきた。だが、ここ山代には将軍伊佐比宿禰様の一族が居られて、兵力の補充はできた。敵は深追いし過ぎて疲れている。こちらは充分に休憩も栄養もとれた。さあ反撃だ。ここで一気に優勢に転じてみせようぞ。エイ・エイ・オー
兵士たち エイ・エイ・オー
応援団の踊りのような剣舞をひとしきり繰り広げ、士気を鼓舞している。そこに敵の一団が押し寄せる。
押したり、引いたり互角のたたかいを繰り広げる。
そこに交通巡査の使う笛を吹き、一人の大后側の兵士が告げにくる。
伝令 建振熊命将軍よりの伝令だ、建内宿禰命より息長帯日売命は既に崩御されたとの知らせがあった。従って戦いを続ける意味はない。直ちに新しい大王忍熊大王に帰順せよ。
一瞬両軍の兵士たちは凍りついたようになる。そして大后側の兵士は剣を置き、弓の弦を断ち切り始める。
兵士C ええ?戦が終わった?ウッソー。ええ?本当に?うっわあー、敵さんたち皆、丸腰になっている。本当に本当なんだ。我々が勝ったんだって?ついさっきまで負けていると思い込んでいたのに、戦って本当に分からんもんだな。
これで勝てば官軍で、俺たちにも運が回ってきたんだ。
兵士B これで筑紫と大和に分かれて戦うことも、大和の中で殺しあうことももうないのだな。忍熊大王の下で本当の平和がきたんだな。平和だ平和だ平和万歳!忍熊大王万歳!
四人の兵士が並んで観客席に向かって叫ぶ。
四人の兵士 平和だ平和だ平和万歳!忍熊大王万歳!
を連呼する。そして自分たちも剣を置き、弦をはずして、ホークダンスを踊り出す。
マイムマイムマイムマイム、マイム、ヴェ・サソン
勝った、勝った、勝った、勝った、我らが勝った。
平和、平和、平和、平和、平和はいいぞ。
出世、出世、出世、出世、出世をするぞ。
酒、酒、酒、酒、酒はうまいぞ。
女、女、女、女、女を抱くぞ。
すっかり勝利にはしゃいでいるが、大后側の兵士はその間に物陰に集まり髻から隠してあった弦を取り出し、弓につがえ始める。
「ギャー!」
という悲鳴と共に笛がなり、一斉に矢が放たれる。そして完全武装した兵士たちが丸腰の兵士たちを斬殺し始める。生き残りの兵士が逃げ出し、それを武装した兵士が追いかける。