第五場 任那加羅倭国府
登場人物 加羅の民衆A・B・C 加羅の倭国兵士A・B・C
「任那加羅倭国府」の看板がかかった建物の前。看板の前に数人の民衆が集まっている。
民衆A 任那?任那なんて地名知らないぞ、それに倭国府とは何だ、加羅が倭国の植民地であったことはない。加羅から対馬や壱岐、筑紫さらに大和に植民したんで、加羅の役所が倭国にあるなら分かるがな。
民衆B そうだ、そうだ、これは明らかに歴史の偽造だ、教科書問題じゃないか。第一倭国なんて未開の国だからまだ漢字が書けるものはほとんどいない筈だ。どうせ倭国に親戚がある者が倭国の者に頼まれて、看板を出してやっているのだろう。
民衆A 加羅が倭国の植民地だったと思われるのは、後世のためにも良くないぞ。
民衆C 倭国に渡った者の話によると、倭国も随分人間や田畑が増えて、強大な軍隊があり、たくさんの国に分かれて争いを繰り返してきたそうだ。
民衆A それが筑紫の倭国と大和の二大強国ができたが、なんでも筑紫の倭国が大和を併合して、大国ができたそうだ。ところが都を大和に移したものだから、筑紫は次第に大和の支配から離れていった。
民衆B ところが大和政権の不満分子が筑紫の倭国に来て、大和政権と対抗しているらしい。それがどうもこの半島の技術や富や資源に目をつけて侵略の機会を狙っているのだそうだ。
看板の側に倭国府の兵士が立っている。
倭国府の兵士A 何をおっしゃるうさぎさん。それは誤解もはなはだしい。もう百年以上も昔から、この地は倭国に属しているんですよ。倭国が拓かれたのには、加羅の人々がおおいに活躍したのです。そのおかげで、加羅は倭国と半島の交易を仲介して栄えてきたじゃないですか。先程のお話の通り、列島では戦が絶えなかったので、武器や鉄資源を求めて母国の加羅を拠点に交易していたのです。
民衆B 加羅を拠点に交易していたことは認めるが、だからといって加羅が倭国に属していたことにはならないぞ。
兵士B 私が説明しましょう。百五十年ほど前ですが、倭国の中心が邪馬壹国だった頃です。その倭国連合にこの加羅の地は、当時は弁韓と言いましたが、狗邪韓国の名前で参加していたのです。加羅としては倭国は大変なお得意だったので、貢物をして仲間に入れてもらっている感覚だったかもしれませんが。それ以来ずっと加羅は倭国に肩入れをしてきたわけです。皆さんは御存知なかったかもしれませんな。
民衆A しかし倭国の看板など見たことはないぞ。
兵士A それが半島情勢の急変で、急遽倭国兵が大挙して加羅の支援に来てくれることになったので、倭国府の看板を掲げることになったのです。
民衆B そういえば、最近港の船の出入りが盛んで、倭国なまりの人が急に増えてきたな。すでに倭国兵が潜入しているのかもしれん。それにしても、どうして倭国に支援してもらわなければならないんだ。
兵士B 最近、高句麗の圧力が強くなって、それに対抗して独立を保つために、四世紀になってから馬韓が百済に、辰韓が新羅になったでしょう。その両国がしのぎを削って軍事力を増強し、加羅の地を虎視眈々と狙っているのです。
兵士C ご存知のように加羅は豪族連合で統一的な軍事力の編成が十分でなく、いざと言う時には自前の兵力ではとても侵攻を防げないんです。ここはひとつ倭国から支援兵力を大幅に増強しようということになったわけです。
民衆A そんなことをすると、加羅は倭国軍と新羅軍や百済軍との大戦場になってしまうじゃないか。
兵士A その御心配は無用です。何しろ倭国はしょっちゅう戦争をしていますから、文化の程度は遅れているかもしれませんが、新羅や百済が攻めてきても十分撃退してくれますよ。
民衆B 何を言う。それならこの半島全体が倭国に攻め滅ぼされ、倭国に併合されてしまうことになるではないか。
兵士C あなたも分からない人だな。だからこの加羅は、倭国の母国であって、元々倭国に属しているのです。もし倭国と三国が戦うことになって、倭国が全体を併合すれば、その倭国の中心が加羅ということになるじゃないですか。そうすれば加羅はますます繁栄するということです。
民衆A それはとんでもない屁理屈だ。三韓の一つだった加羅が、韓民族を裏切って、倭国に売り渡すことになる。海の向こうから攻めてくる連中に侵略されるのに手を貸すことじゃないか。
兵士B 韓民族と大和民族がまだはっきり区別できる時代じゃないでしょう。大和の中心は半島からの入植者が開拓した土地を譲り受けて、宮をつくり、都にしているのが現状です。倭国兵士は帰ってくるだけなんです。あくまで加羅の防衛のためにね。