第四場 やはり筑紫香椎宮

登場人物 イトテ。 大臣。  大后。

イトテ 筑紫の倭国では大王が身罷られたことについて、その事は厳重に伏せていますが、神々の怒りを和らげるためにありとあらゆる罪穢を祓う大祓を行っております。

大臣 突然大王が身罷れたのには、驚きましたなあ。イトテの君も大王をお引き立ていただいただけに、筑紫の国でのお立場も苦しくなるでしょう。

イトテ ええ大王の後継ぎが決まらないと苦しいですね。大王をお迎えしたのは筑紫の倭国では内紛が続いて、強力なまとめ役が見つからなかったからです。そこで倭国王の血を引く大和政権のヤマトタケルの御子を倭国の大王にお迎えした次第です、しかしこの度の大王の崩御で筑紫内部の内紛が再燃する恐れがあります。それにこれを機会に大和政権に攻め込まれないとも限りませんから。

大臣 大和政権も相変わらず内紛が続いています。というのが大王はいったん撤回した国造制度の実施があきらめきれないのです。それで反撥が強くてうまくいっていません。

イトテ それはそうでしょう。筑紫の倭国内でもそれぞれの小国の君達が一方的な格付けに反撥していますからね。それで大和政権の支配から抜け出すためにも、ヤマトタケルの御子を立てて、対抗しているようなわけです。

大臣 大和政権は、私が抜けてからはガタガタです。息長宿禰王と日売との関係は、未だに露見しておりません。それを利用して宿禰が巧みな情報収集と地下工作を行ってくれています。

イトテ 大后の父上ですから、さぞかし知略に長けておられるでしょう。

大臣 それに私は、有力氏族からやり手を引き抜いてきましたからね。大伴武以連、物部胆咋連、大三輪大友主君、中臣烏賊津連などです。大和政権の内部にも私の勢力がしっかり根を張っていますから、筑紫攻めはできないでしょう。大王の世継ぎもご心配はごもっともですが、大王が大江王の娘大中津比売命にお生ませになられた香坂王と忍熊王が大和に潜伏していますから、まだ十四・五歳のお若さですが、お連れします。ご安心ください。そろそろ沙庭にて亥の刻の神嘗です。

大臣一人で沙庭に降りて琴を弾き始める。するとど派手な格好でケバイ異様な化粧をした大后が滑稽に見える踊りをしながら、観客席を通って現れる。大王が亡くなってなにか解放されたような、吹っ切れたような、無理に明るく振舞っているような,ヤケにハイな踊りを見せ、ひとしきり独壇場の観がある。

大臣 今夜のとりつかれている神はアメノウズメの神であらしゃいますか。

琴のメロディーがあやしげになり、大后がストリップを始めそうになる。

大后 馬鹿な何をさせるのじゃ。我こそは天照大御神なるぞ。

大臣 こりゃまた失礼致しました。あまりに神の踊りがハイテンションだったもので、つい。でも一体何があったのです。

大后 喜べ、大后には皇子が授かっていたのじゃ。

イトテ これは、これはおめでとうございます。それにしても、大和の女子は妊娠していてもこんな激しい踊りが踊れるのですか。

大后 じゃかましい。天照大御神である私の命令じゃ、よく承れ。凡そこの豊葦原水穂国は、大后の御腹にいます皇子のしろしめす国じゃ。もう世継ぎの心配などせずともよい。」

大臣 まことに恐れ多いことです。ところで大后の腹にいるのは、皇子でしょうか、それとも皇女でしょうか。

大后 心配致すな。立派な大和男子であるぞ。

イトテ では御子が大きくなられるまで、海の彼方の国を攻めるのは延期ですね。

大后 何を言う。神の言葉に逆らえばどうなるか、大王の姿を見てまだ分からぬのか。海の彼方の新羅の国は、大后の母方の祖先が王子だった国じゃ、大后自身が出陣すれば従うかもしれぬ。そして大后の腹の中で日継ぎの皇子が初陣を飾るのじゃ。早速出陣の準備をせよ。

イトテは独り言のような口ぶりだが、大きな声で観客席に向かって言う。

イトテ これは聞きしに勝る豪傑女じゃ。本当にアマテラスの神が神宿りされているのかもしれぬ。筑紫の倭国としても海の彼方の岸にある加羅の国に置いている拠点が、百済、新羅、高句麗の出現で危うくなっていると聞く。救援を求める加羅から使いが頻繁にきているので、すでに補強軍は送り込んである。それだけでも新羅と互角に戦えるだろう。そろそろここらで大軍を繰り出して、半島での覇権を打ち立てなければならないと思っていたところだ。ここは一つ神の力をかりて新羅や百済を攻めてみるか。それにしても気がかりなのが熊襲の動きだ。留守を攻められては困る。

大后 大后が熊襲をなだめて、従わせるであろう。大后には、ヤマトタケルの霊がついていることを忘れるな。熊襲タケルはヤマトタケルに名を贈ったぐらいだから、ヤマトタケルには悪意はもっておらぬ。ヤマトタケルは熊襲の人々の方が大和の人々より、素直で嘘がなく、心優しいから好きだと言っていたそうな。大后がなだめれば必ず味方につけることができよう。

大臣 神よ、大后には吉備の国から来ている鴨別をお付けします。彼は熊襲の族長と姻戚関係だそうですから、パイプ役になってくれるでしょう。こちらの方向転換を伝え、よい条件をしめしてやれば熊襲もなびくかもしれません。

     

         

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