第七場 穴門豊浦宮
登場人物 大臣。イトテ。大后。物部胆咋連(モノノベノキモクイノムラジ)。中臣烏賊津連(ナカトミノイカツムラジ)。
大臣 大后、この度は宝の国新羅の御征服まことにおめでとうございます。倭国始まって以来の大手柄でございます。その上、若君のお誕生まことにおめでとうございます。さすがにお父上からはヤマトタケルの血を引かれ、お母上からはヤマトタケルの霊を引き継いでおられる。生まれついてのヒーローです。既に腹の中で見事に勝利を導かれた。まことに凛々しい表情をしておられる。
イトテ 実に見事な戦でした。大后は全く神々しいお姿でした。新羅の王も神を相手に勝てるはずがないと全く戦意を喪失されていたのです。海から津波のように倭軍の船が押し寄せてくると思えば、どこからともなく侵入していた倭軍にほとんど押えられているという有様でした。
大伴武以連 大和での破壊工作も見事に成功しております。熊襲の懐柔に成功され、すっかり大后のお人柄に心酔した熊襲の連中が、大和での撹乱作戦を展開したのです。彼らは大和の民草に紛れて破壊活動や奇襲をするものですから、討伐する大和政権の方は、多くの大和の民草を過って殺めてしまい、孤立してしまいました。熊襲たちは討伐に向かわれた若帯日子大王をおびきだし、山中で待ち構えていた香坂王・忍熊王の伏兵が見事に大王を討ち取ったのです。
大后 なんと香坂王・忍熊王が大王を討ち取ったと。それでふたりはどうしたのじゃ。
物部胆咋連 早速、志賀高穴穂宮に進軍されておられます。あちらの大王には有力な世継ぎかいませんから、あくまでお二人に抵抗しようという者もいないようですね。宮では既に御二人を歓迎する方向で根回しが行われている由です。
大臣 大后、いよいよ念願の大和入りです。何もかも万歳、万歳、万万歳です。
大后 大臣、あなた参謀でしょう、馬鹿じゃないの。皇位継承はまだおわってないのよ。香坂王・忍熊王の方が兄だし、家柄も悪くない。向こうが先に大和勢力を固めちゃうと、この子の出番がなくなって、邪魔者の私は消されちゃうてことなのよ。
大臣 そんなバナナ。大丈ビですって。なにしろ大后と品陀和気皇子は新羅征服の実績をお持ちですから、逆らえるものはいませんよ。香坂王・忍熊王はまだ十四・五のひょっこじゃないですか。それに命がけで大手柄を立てたばかりの皇子たちを、不具載天の敵のようにおっしゃるのはどうでしょう。味方の士気をすっかり低下させ、裏切り者を誘発することになります。どうか軽率なお言葉はお控えください。
大后 そんな建前ばかりぬかす者とは共に謀はできないではないか。私はね、ここにいる者達をこれからの国造りの同志と考えている。それゆえ腹の底を割って話しているのじゃ。
大伴武以連 たしかに香坂王・忍熊王はけなげな立派な皇子です。私も信じてさしあげたいのはやまやまですが、生まれたばかりの赤子の弟の下につくのも辛いものでしょう。その気持をお察ししますと安心できません。
大后 もし素直に香坂王・忍熊王を信頼して、のこのこ大和に乗り込んで、無事にすまなかったら、その責任はだれがどうとってくれるというのじゃ。すべて後の祭りではないか。だからこの子の命を守るために、この子の兄たちの心を試したい。
イトテ 大后の御心配よく分かります。ではこう致しましょう。
一同 そうしましょう。そうしましょう。
イトテ まだ何も申しておりません。(一同ズッコケル。)替え玉作戦を使うのです。皇子たちは幸い大后様にお目にかかったことがありません。似た者を送れば誤魔化せるでしょう。赤子も抱いているふりをすれば人形でも充分間に合います。大后と品陀和気皇子は漁船か何かで民の身なりで別に出かけて謀反の動きがないのを確かめてから宮に入られればいい。
中臣烏賊津連 香坂王・忍熊王を甘くみてはいけません。彼らには相当の策士たちがついている筈ですから。それに大和に乗り込む際に襲わなくても、いずれ謀反を起こされれば同じことです。そこで大后に対する忠誠心を試すためには、帯中日子大王の棺の船ともうひとつ別の小さな棺の船を用意するのです。ええ、品陀和気皇子が亡くなられたことにするのです。そうすれば、大后さえ亡き者にすれば天下は自分のものになると思って、謀反を起こすでしょう。
大臣 そんな無理やり謀反を起こさせるなんて。
大后がむくれているのを見て一同大臣を睨むと
大臣 ううむ、なかなかグッド・アイデアですね。やりましょう。