第六場 新羅征服 再び加羅任那倭国府の前
登場人物 倭国兵士たち−勝利の歌を歌い、舞を舞う。
加羅の民衆A・B・C・D 倭国兵士A・B
倭国の兵士たちが勝利の歌を歌い、舞を舞っている。
灰撒き撒き、箸撒き撒き、葉盤撒き撒き、灰撒き撒き、箸撒き撒き、葉盤撒き撒き
船は行く、船は行く、波頭を蹴立てて、船足軽く、新羅をめざして
鮫こぎこぎ海豚こぎこぎ鯰こぎこぎ亀こぎこぎ鮫こぎこぎ海豚こぎこぎ鯰こぎこぎ亀こぎこぎ
先行く船には神がかりの大后、大きな腹抱え、宝の国めざして
その腹にいますは戦の神、ヤマトタケルの生まれ変り
民衆A どうも解せないのだが、後につくられた高句麗好太王碑文によれば、倭軍が新羅を攻めたのは辛卯の年、三九一年の筈だが、『日本書紀』では仲哀天皇九年ということになっている。辛未(三七一年)の年が仲哀天皇の元年で閏年があるので、三八一年ということになる。どうも十年程ずれているんだ。
民衆B お前はどうして後世に作られた碑文の内容を知っているのだ。記紀の年代のずれで史実を疑っていれば切りがないんだ。ともかく高句麗好太王碑文から言っても、倭国による大規模な新羅攻めがあったことは否定できないだろう。ただし神功皇后のような女傑の話は、後世の作り話かもしれんがな。
民衆C おいおい聞いたか、倭国の大后は、今にも赤ちゃんが飛び出しそうな大きな御腹を抱えて、倭国に凱旋されたそうだ。聞きしに優る女傑だったな。
民衆D 赤子を孕んだ女体には神秘的な力があるというのは迷信ではないかもしれんな。それにしても新羅は倭国の前にひとたまりもなかったな。このまま高句麗や百済が放っておかないだろうから、当分半島では戦乱が続きそうだ。
民衆C 百済や高句麗も恐れをなして、倭国への貢ぎを約束して災難を免れたという噂だ。
民衆A そりゃあ倭国側が流したデマだろう。
兵士B 皆さん、加羅は何の被害もなかったでしょう。その上、筑紫からたくさん兵士がきて大賑わい、大変な戦争ブームじゃないですか。
兵士A 私も海からの新羅攻めに参加したが、海は見渡す限り倭国船だったな。それがまるで津波のように新羅に押し寄せた。
民衆D 先に加羅に来ていた連中がどんどん船を加羅で作っていたらしいな。
兵士B 我々は、新羅が海から攻め寄せる倭国軍に気を取られている間に、加羅から新羅に潜入して、あっというまに新羅の城を攻め取ったんだ。ほとんど抵抗出来ずに、新羅王は降伏されたそうだ。
民衆C ところで新羅王は殺されたのか。
兵士A 私の情報では、新羅王は、これからは倭国王に貢物を絶やさないようにし、馬飼いとして倭国王にお仕えすることになったようです。
兵士B いや私の情報では、新羅王は殺されて砂浜に埋められたようだ。新羅王の后が埋めた男に色仕掛けで近づき、新羅王の遺体を取り戻した上で、抱かれたくないものだから、遺体を埋めた男を殺してしまったということだ。これに対して大后が猛烈にお怒りの御様子で、また新羅攻めになるかもしれないそうだ。
民衆A えらいことになったものだな。今は加羅は一時の繁栄があるかもしれないが、これからは半島全体が国の興亡をかけて、総力戦の時代になるから、いずれ戦で荒れ果ててしまうだろう。
兵士A こら、倭国の悪口を言うとしょっぴかれて殺されてしまうことになるぞ。
兵士Bともかく戦は無事我ら倭国の勝利に終わった。これで百済や高句麗も加羅に侵略してくる心配はない。
民衆B これからは半島が倭国に貢物を要求され、どんどん搾り取られることになるんだろう。
民衆A それが嫌なら半島の三国が手を結び、倭国を撃退しようとするだろう。そうすれば当然、倭国の拠点である加羅が危うくなる。
兵士A 大丈夫だ、倭国が加羅を守ってくれるということは、この戦いで実証されたじゃないか。
民衆D それは甘いぜよ。倭国は海の向こうの国やいか。そいで戦ばっかやっちゅうろ。ほいじゃけん加羅くんだりまで出兵はえっころ難しいぜよ。おっつけポイじゃいか。三国のどれかに呑み込まれることになるかもしれんぜよ。
民衆A おみゃあさま、どこの国で生まれんしゃったんかいの、さっぱ分からんわの。