やすいゆたかの哲学入門
同時多発テロの意味
佐々木肇:9月11日の同時多発テロの以前と以後では世界が変わったといわれますね。
やすいゆたか:なにしろ資本主義世界の中枢である世界貿易センタービルが旅客機を使った自爆テロでズズズズーと崩れ落ち、覇権国の軍事中枢であるペンタゴンも炎上したのですからね。
佐々木:資本主義世界経済が蒙った打撃は、計り知れませんね。あれ以来アメリカ経済は深刻な不況に陥り、日本経済もますます悪化していますから。
やすい:たとえアルカイーダやタリバンが敗北し、オサマ・ビンラディンが殺されても、パレスチナ問題やイスラム世界の窮状が続く限り、国際テロは収まらない。もっと大きな規模の攻撃もあり得るだろう。
佐々木:ええ、最終兵器と言われた毒ガスや細菌兵器、さらには核兵器が、小型化・低廉化し、国際テロ組織や宗教カルトでも入手可能になりつつあります。それらと自爆テロという攻撃が結合すると、とんでもない事態が予想されます。ニューヨークやワシントン、東京などが消滅しないとも限らない。そこまでいかなくても今回の規模のテロが数年に一度起こるだけで、世界は経済的に大混乱します。
やすい:環境問題でグローバルな協力体制を作らないと人類のサバイバルができないと言われている時代に、これではとても人類は21世紀を乗り切れません。
佐々木:ということは、あの世界センタービルの崩壊は、世界のカタストロフィー(大崩壊)の始まりだったということになりますね。
やすい:その意味では黙示録的な終末に成りかねない危機だということです。梅原猛は「湾岸戦争」を「地獄の一丁目」と表現しましたが、今回のテロとアフガン戦争はそのことをしっかり認識した上で事態に対応しないと、本当に終末になってしまいかねないのです。
佐々木:第一次世界大戦で毒ガスが登場して以来、そういう危機には慣れっこになってしまっていて、「狼が来た」の嘘つき少年みたいなことになっているのじゃないでしょうか。
やすい:それは言えますね。アフガンが一段落して、しばらく平穏な事態が続いたとすると、覇権国がテロを甘く見て、どんどん報復攻撃を繰り返し、取り返しのつかない事態を呼び起こす危険があります。アメリカやイスラエルは、軍事的優位を確信していて、断固とした軍事行動だけが有効なテロ対策だと思い込んでいるところがありますからね。それは墓穴を掘りかねないのです。
佐々木:軍事的優位も神話に過ぎないことが今度の同時テロが示しているとは受け止めないでしょうね。
やすい:ブッシュは最初に「これは戦争だ」と言いましたからね。もちろん戦争なのだけれど、もうアメリカの軍事的優位というのは相対化しているのです。科学技術や生産力、巨大な軍備これらが圧倒していれば勝てるというものではない。アメリカの旅客機が経済と軍事の中枢を崩壊炎上させたのです。
佐々木:その意味では旅客機や超高層ビルなんていうアメリカ文明のシンボルが、単なる偶像あるいは物神にすぎなかったことが暴露されたといえますね。
やすい:ええ、ある意味ではね。旅客機は乗っ取られることを前提には作られていなかったし、超高層ビルも旅客機がまさか突っ込んでくるとは予想されていなかった。だから自爆テロの犯人たちに乗っ取られれば、脆いものでしかなかったわけです。ああいう巨大なものを作っていれば、アメリカは世界の支配者だ、という考えは確かに甘かったということですよ。もちろんそのことは旅客機や超高層ビルが、それなりに凄いものであることは少しも変わりません。すぐに物質文明の脆さというところにもっていくのもどうかと思います。
佐々木:やすいさんは今回のテロは物質文明の自己疎外の典型であり、旅客機や超高層ビルは物神だったと仰っていましたね。
やすい:ええ、アメリカが作ったものによって、アメリカがやられたのですから、アメリカの物質文明の自己疎外です。旅客機や超高層ビルに対してかくも脆いものだとは、アメリカ人たちは気づいていなかった、その意味で旅客機や超高層ビルを単純に信仰していたところがあります。その意味では物神であったという指摘は重要です。でもそういう意見がでてくるとすぐ、物質文明やその成果を過小評価し、それに対して東洋の精神文化なるものを対置したがる人がでてきます。
佐々木:でもたとえ自爆テロに備える設備を旅客機や超高層ビルにつけても、また別の方法で必ず崩壊させられるでしょう。つまり科学技術がいかに進歩しても、人間の破壊衝動、憎悪のエネルギーにはかなわないわけです。その結果、科学技術は自らの成果を破壊するために使われることになります。
やすい:その通りです。でも東洋の精神文化というのも、戦争や破壊のために動員されないとは限りません。憎悪や破壊も精神の働きですから、物質文明の中に破壊的なものが発展してくるのも、精神の働きと見なければなりません。