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『ファンタスティック12』 リブロポート

1.「水中の驚異」
私が博物学に本格的に夢中になるきっかけを作ってくれた一冊であり、またこのシリーズの中では最初に入手したという思いで深い本です。収録されている図版の色や構図、主要モチーフと背景の関係についてなどとてもおもしろくて、何より図譜が美しかったので感動しました。どの図版もきれいですが、個人的には黒い背景と透明で透きとおるクラゲの体の対比が素晴らしい「ナポリ湾海洋研究所紀要」がお気に入りです。

2.「神聖自然学」
ショイヒツァーなる名前はこの本ではじめて知りました。「神聖自然学」は当時の科学知識を一般に広めることを目的としながら、聖書の図解を意図していたようです。そのため、ノアの大洪水やバベルの塔といった聖書場面を中心にしつつも、その周囲に当時の有数の科学書から転用したさまざまな図像を散りばめたようです。だから図版だけ見たら、聖書に詳しくない(というかほとんど知らない)私などはバロック記のグロテスク系書物なのかなと思うに違いないような本です。ショイヒツァーがどの本の図譜を転用したか荒俣氏が詳しくコメントをつけて下さっているので、とても楽しめます。

3.「エジプト大遺跡」
ナポレオンの「エジプト誌」について荒俣氏がいろいろ書いているのを読んだことがあります。どの本なのかははっきり覚えていないのですが、「エジプト誌」のすばらしさ、そしてまたその高価さについて読んで「世の中には高い本があるのだな」と思ったものです。私は今のところ学生という身分ですので、つつましく安めの本をがばがば買っているのですが(>どこがつつましいのだ)、将来は一歩一歩珍本買いに足を踏み入れていくのでしょうか。この本を見ると、エジプトに行きたくなります。最初の方の彩色図はほれぼれするほどきれいです。ちなみに彩色図は鹿島茂氏所有の本だそうです。

4.「民俗博覧会」
人間の図版を集めた一冊です。私はまだこの分野にはあまり詳しくありません。冒頭の「摩擦と共感の原点」はじっくり読みました。個人的にいろいろ考えるところがあるのですが、それにしても図譜が興味深いです。 一枚の絵の中に風俗や慣習などを描く技がおもしろいですね。服装や仕種など、知れば知るほど楽しめて、もうちょっと勉強してからまた読み直したい一冊です。

5.「地球の驚異」
私が今まで見てきた博物学書や辞典は主に魚や貝・鉱物などわりとこまごましたものを収録したものばかりだったので、最初に見たときはパノラマ的な風景ばかりのこの本がちょっと異色な感じがしました。7巻の「熱帯幻想」にもたくさん景観モノが収録されていますが、それに比べてこちらは火山の噴火や洞窟など、ユートピア的ではない景観が中心です。この一冊は他の巻に比べて地味かなとも思うのですが、大地の神秘が感じられていいなとも思います。

6.「悪夢の猿たち」
この本はビュフォンの「一般と個別の博物誌」とシュレーバーの「哺乳類誌」の猿の図譜より成り立っています。人間は猿の図版を描くとき、人間自身の要素を流用しがちだったそうです。猿が人間のポーズをとってしまい、これは他の動物の図譜にはない特徴のようです。実際図譜を見ると、ポーズがどうにも人間臭くておかしいです。また、猿が悪魔の寓意を持つということをこの本ではじめて知りました。シュレーバーの時代は博物学的リアリズムが普及したため胴体がようやく獣を再現できるようになった分、人間的な「顔」が際立ち、それが奇妙なゆがみ、悪魔的な猿を生み出すようです。こういうことを知ると、図版は奥が深いななどといろいろ考えさせられます。

7.「熱帯幻想」
これを書いている現在、私は探検航海記にいささか夢中になっていますので、そういう意味でとても刺激になる一冊でした。クックやラ・ペルーズ、デュプレやデュルヴィルの航海記からの図版を収録し、西洋人の熱帯に対するユートピア幻想を再現しています。最後の「スリナム黒人奴隷叛乱実記」はとても生々しくて衝撃を受けました。この本にはいろいろな図版が収録されていますので、大変おもしろく眺めました。ユートピアの発見とその滅亡に悲哀があり、何とも言えない感じです。

8.「昆虫の劇場」
荒俣氏の著作の中でたびたび名前を見かけるマリア・シビラ・メーリアンと彼女の「スリナム産昆虫の変態」がどのような本なのか、ずっと気になっていました。この本は想像していたよりさらにインパクトの強い図譜で、とても夢中になりました。メーリアンは52歳で南アメリカまで渡り、この図譜を作った女傑だそうです。画面に見られるスリナムのエキゾティックさ、そして卵から成虫へのプロセス描写という「時間の経過の表現法」のはじめての実践・・・「昆虫の劇場」にはエーレトの「花蝶珍種図録」とハリス「オーレリアン」も収録されていますが、私は断然メーリアンの「スリナム産昆虫の変態」が好きです。

9.「極楽の魚たち」
これは「モルッカ諸島産彩色魚類図譜」の復刻本です。荒俣氏曰く西洋の図鑑の三大奇書はコンラート・ゲスナーの「動物誌」(12巻の「怪物誌」に収録)、マリア・シビラ・メーリアンの「スリナム産昆虫の変態」(8巻の「昆虫の劇場」に収録)、それにこのルイ・ルナールの「モルッカ諸島産彩色魚類図譜」だそうです。この本を眺めるとその極彩色の色合いに圧倒されますが、どうもこれらの魚は我々の目からすると奇妙です。魚の大部分は特徴を性格に捉えていて同定が可能だそうですが、このような奇妙な形に至ってしまった経緯は荒俣氏の「真実を目にした幻想」に書かれていますので、ぜひ読んでみて下さい。何度見ても奇妙な形と鮮やかな色彩に目を奪われる本です。

10.「バロック科学の驚異」
「バロックの恐竜」ことアタナシウス・キルヒャーの「ノアの方舟」「支那図説」「地下世界」「キルヒャー博物館自然史標本目録」を収録した本です。私はキルヒャーについては詳しくありませんが、このキルヒャーの図譜は極めて刺激的でした。ノアの方舟は人体各部の比率を忠実に反映させた建造物である(方舟はノア一族の魂を運ぶためのものなので、魂の置かれるところは人体に似ていなければならない)とか、「アルファベットの化石」を発見しただの、発想がおもしろいなと思います。今度「キルヒャーの世界図鑑」でも読んでみようと思います。

11.「解剖の美学」
高校1年生の頃、解剖にちょっとはまりました。養老猛司さんの「解剖学教室へようこそ」などを読み、切り裂かれた人体に想いを馳せていたものです・・とこう書くとあやしげですが、NHKで放送された「驚異の小宇宙・人体」に夢中になっていた影響だと思われます。大して深くも勉強しなかったのですが(頭がついていかなかった)、最近科学史の授業で有名なヴェザリウスの「人体構造七書」などを学んでから、解剖図版に興味を持ち出しました。「解剖の美学」に載っているのは私のあまり知らない本ばかりでしたが(私の勉強不足です)、どの図版もすばらしくてじっくり眺めてしまいました。アルビヌスの「人体筋骨構造図譜」(死体が皮膚や肉を脱ぐポーズがおもしろく、まるでストリップショーのよう。背景の寓話的意味についての荒俣氏のコメントも大変興味深い)、それにダコティの「人体構造解剖図集」(色合いが好き。ポーズがエロティックで、また切り裂かれている人体が生き物のようにいきいきしている、というよりは切り裂かれても美しく生きている様は驚異)が特にお気に入りですが、どの図版も本当にすばらしいと思います。ただ、けっこうグロなので、食事中には見ない方が賢明かと。言われなくても誰もそんなことはしないかもしれませんが。

12.「怪物誌」
私はそんなに怪物に興味を持っているわけではないですが、この本は大変おもしろく読みました。なにやら珍奇なものがゾロゾロと出てくるのです。図版を眺めるのも、つけられている荒俣氏のコメントを読むのも楽しかったです。個人的には怪物の幻想が破れて遺伝的畸形に走ってからの怪物よりも、未知なる情報に人間が不可思議な要素を加えて生み出された怪物の方がおもしろくて好きです。こういったものはいうなれば「博物学の闇の部分」と呼べるのでしょうか。ゲスナーの「怪物誌」がやはり圧巻でした。あとはレチフの「南半球の発見」もストーリー・図版共に奇想天外でわくわくしました。邦訳が創土社から出版されているようなので、入手できればぜひ読んでみたいです。

            

『世界大博物図鑑』 平凡社

1.蟲類 2.魚類 3.両生・爬虫類 4.鳥類 5.哺乳類
別巻 1.絶滅・希少動物 2.水生無脊椎動物    

この「世界大博物図鑑」も大絶賛したいです。おそろしく読みごたえがあり、また図版も本当にきれいです。名前の由来・博物史、また種類によってはことわざ・成句・神話・伝説・発見史・文学・寓意・象徴・星座・民話伝承・医療史や公害問題、映画や漫画などにも言及されています。個人的には博物史の記述が一番好きでした。アリストテレスやプリニウスの著作をはじめ、古今東西のさまざまな文献に言及されていますので、読んでいて本当に刺激的です。古い文献だけでなく、須賀原洋行の漫画や仮面ライダーについてコメントするなど、自由な発想がとても好きです。

読み物だけでなく、図版も本当にすばらしいと思います。「蟲類」では蝶の図版がとてもきれいでした。 本当に華やかできれいなものばかりです。爬虫類は個人的には蛇の図版が圧巻でした。ダイナミックで、そしてほれぼれするほど美しいです。恐竜、そしてドラゴンや竜などの怪物などにも言及されているのがおもしろいです。また「哺乳類」ではヒトに関する項が多彩で読みごたえがありました。「魚類」ではかんづめの歴史などにも言及されていますし、また食べ物の歴史も詳しいです。

おもしろいところを書いていくときりがない本ですが、本当にすばらしいと思います。索引もしっかりしていますので、索引からおもしろそうなものをピックアップして読んでも楽しいと思いますし、また参考文献を読むのもいいと思います。ちなみに「世界大博物図鑑」は値段が高めなので(内容の濃さからすると妥当な値段ではあるのですが)、私は一冊も所有していません。いつかは全部そろえようとは思っているのですが、学生のうちは無理かな・・・。いつも手元に置いておいてふとした時に開いて読みたい、そんな本です。


            

『大博物学時代』 工作舎
この本の帯には「奇想天外な進化論」と書かれています。確かに現代的な生物観にたどりつくまで、さまざまな袋小路が発生したようです。誤った考え方を私たちはすぐに切り捨てたり、価値を見い出さなかったりしがちですが、荒俣さんはそうやってこぼれ落ちたいかがわしいものをちゃんとすくいとっている人だと思います。この本は進化論だけではなく「The Dream of Natural Hisutory」と書かれているように、幅広く論じられています。荒俣さんへの入門書ともいわれているとか。最後についている参考文献も興味深いです。

            

『地球観光旅行』角川選書
この本は前半は南洋探検史(クックやその他の航海)について、後半はフンボルトや、自然物の体系化→分類学の完成→進化論の衝撃と生物学史をたどってきます。最後には江戸の博物学にも触れており、コンパクトながら幅広く概論を取り扱っています。そういう意味で入門書として最適で、この本で知識の下積みをしてから図版系の本を読むと楽しめると思います。

            

『ビュフォンの博物誌』監修荒俣宏 工作舎
これはビュフォンの「一般と個別の博物誌」に収められている1123葉の図を収録した画期的な本です。やはり膨大な「博物誌」をそのまま復刻するのは難しいようですが、これだけでも「博物誌」に収録されている図譜を堪能できると思います。巻頭の荒俣氏のビュフォンに対する解説も簡潔ながらポイントをおさえてあります。ちなみにビュフォンの詳しい伝記は同じく工作舎から出版されています。 読みごたえたっぷりの本です。実は私はなぜかあまりビュフォンが好きではなく(食わず嫌いというところもありますが)、この伝記は購入したものの途中で止まってしまっているという次第です。

            

『太陽』1991年11月号 特集「荒俣宏の想像力博物館」
この号は荒俣宏さんの特集だったということで、古本を漁って探し出して買った一冊です。荒俣氏は多作な人なので今となっては91年に出されたこれをだいぶ古くなってしまった感じがありますが、充分おもしろかったです。立花隆さんとの対談とかはじっくり読みました。荒俣宏100著作総カタログは初期の幻想文学での仕事をほとんど知らない私にとってとても興味深かったです。

            

『大東亞科學綺譚』 ちくま文庫
まぼろしの日本科学再訪。通常の科学史では埋もれてしまうような胡散臭いというか変で面白い人物がいっぱい。こうした科学者たちに注ぐ荒俣さんの眼差しは優しい。仮に業績が埋もれてしまっても、彼らの残した夢の痕跡を愛する人たちはいるはず。私のお気に入りの一冊です。
                    


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