インドという国はしばしば「神秘的な国」といったステレオタイプの文脈で語られることが多い。しかし、実際にはインドはダイナミックに発展を続ける有望な市場でもある。WTOに加盟し、さらに発展を続ける中国に次ぐ人口を持つ国であり、近い将来その人口は世界一になるといわれている。日本では、ようやく経済のパートナーとしてのインドが注目されるようになってきた。そのきっかけとなったのが優秀なIT技術者の存在である。欧米各国に比べてまだまだ、日本への移住は少ないが、メディアでもとりあげられ、注目は増している。そのきっかけとなったのは2000年8月の森首相(当時)によるインド訪問であろう。その最初の訪問先はバンガロールであったが、このことからも日本がインドのIT産業に対して非常に注目しているということがわかる。この森首相の訪印が行われた背景には、日本側が立ち遅れている情報技術分野での協力を推進するために、1998年5月の核実験以降冷え込んでいたインドとの関係改善を推進することが不可欠であった、という事情もある。そして、この訪印ではインドとの技術交流拡大が示され、「日印IT協力構想」が表明された。
インドは英語を使いこなせるIT技術者が多いという点で、欧米諸国もインドに急接近しており、2000年3月にはクリントン大統領(当時)が、2000年10月にはプーチン大統領が訪印した。
そうした流れに加えて、アメリカにおける「IT革命」やニューエコノミーなどの熱狂もあり、インドのITも盛んに取り上げられるようになった。しかし、それらは検証されたかどうか疑わしい短絡的な議論が多い。それは議論がマスメディアやビジネス関係者の中にとどまっていることや、IT産業があまりに急速な発展を遂げたため、学術的な考察がなされてこなかったからではないだろうか。
インドは工業化に挫折したことによって、1991年の自由化以降、ITを中心としたサービス産業が大きな比率を持つようになった。これは今までの、工業化からサービス業へ移行するという発展モデルとは明らかに異なっている。本稿ではそもそもIT革命とはなんであったのか、そしてそれがもたらしたインパクトはどれほどのものだったのか、インドのIT産業を中心にして論じていきたいと思う。