結論本稿ではインドのIT産業を中心に見てきた。そして、それがインドにもたらしたインパクトは大きなものであった、といえる。産業構造の変化や中産層の増大などがそのことを示しているだろう。
もちろん、最貧困層に対してまでその恩恵が直接的に届くわけではない。ソフトウェア開発は一部のエリート技術者のみがおこなえるものであるし、貧困層の人々がそれらの技術を身につけることは容易ではない。
しかし、ソフトウェア開発は国際競争力を持ち金額的にはインドの主力な輸出産業に成長しつつある。ITバブルが崩壊したことによってその成長の勢いは鈍化することになるだろうが、依然としてインドの中心的な産業であるのは見てきたとおりである。その更なる拡大を目指すにはアメリカだけに依存しない市場の多角化が重要である。それはリスクの分散にもつながるし、IT産業の更なる拡大のためには新規市場開拓が不可欠だからである。そして、近年盛んにいわれているように知的集約型社会が今後の世界の中心を占めることになるとすれば、更に優秀な人材を送り出していくことがインド政府には求められるだろう。それは重工業化戦略を取らず、サービス産業中心の社会に直接移行したインドにとっては避けることのできない道である。
とはいうものの、インドの巨大な雇用を吸収するためにも従来型の製造業が重要であることに変わりはない。例えば、ソフトウェア産業との相乗効果でハードウェア産業が発達すれば輸入代替工業化での製造業の遅れも取り戻すことができるのではないだろうか。また、IT部門の技術革新による製造業や物流など、新たな周辺産業の創出にともなって、貧困層の雇用や中産層の拡大が見込めるはずである。
「IT革命」の熱狂は、高度なIT技術だけに注目し、貧困解決や生産性の向上につながるという短絡的な議論が多かったが、その影響はむしろIT技術の革新によって生じる周辺産業の創出や発展のなかにある。そして、それこそが国の全体的な発展につながるのではないだろうか。