【連載:茂木宏子のスポーツコラム】

<アメリカンフットボール:スーパーボウル>

★最新のハイテクが支えるテレビ中継

 アメリカ人が最も熱狂するNFL(ナショナル・フットボールリーグ)王座決定戦の

スーパーボウル。このイベントが持つ経済波及効果はケタ違いである。

 大リーグやNBA(バスケットボール)など他のプロスポーツの視聴率が伸び悩んで

いる中で、スーパーボウルだけは高視聴率を堅持。今年は微減したとはいうものの40

.5%の視聴率を上げ、全米で推定1億3000万人が試合中継を見たという。

 そんな怪物番組は、CM料も超破格だ。試合の合間に入る30秒スポットは、今年、史

上最高の約2億7000万円に達した。たった30秒に約3億円……。昨年までは広告主のほ

ぼ半数を占めていたハイテク企業が、今年は株価の落ち込みを反映して急減。代わっ

て、ビール、コーラ、自動車などの常連企業が復帰した。

 注目のビッグイベントだけに、放映するテレビ局も“魅せる”工夫が欠かせない。

日本でテレビ中継を見ていた人はご存じと思うが、今年は『アイ・ビジョン』と呼ば

れる画期的な撮影技術が導入された。これにより、1つのプレーを270度までのアング

ルから自由自在に映し出すことが可能になった。きわどいプレーやエキサイティング

なプレーの直後にはこの技術を駆使した映像がリプレイされるのだが、時間が止まっ

たかのように選手の動きが一瞬止まり、アングルだけがグルグルグルッと4分の3回転

する。映画『マトリックス』で使われた技術そっくりで、初めて見たときは思わず興

奮して「おー、スゴイ!」と声を上げてしまった。

 この技術についてもっと知りたいと思っていた矢先、アメリカ出張中の友人が1月2

3日付の『USA TODAY』紙スポーツ欄に掲載された記事から情報を送って

くれた。

 その内容によれば、アイ・ビジョンはスーパーボウルの中継を担当するCBSが1999

年の秋から研究開発を行ってきた技術とのこと。開発に投じた費用はおよそ250万ド

ル(約3億円)。フィールドに設置された33台のカメラを駆使して、270度の角度から

選手たちのプレーを3Dで再現する。このために開発されたカメラ1

台あたりのコストは2万ドル、9万本の光ファイバーケーブルを使って作動しているの

だそうだ。

 このカメラの動作をコントロールして最適なアングルを実現しているのが、三菱製

のロボティックス・ヘッドと呼ばれるもので、この開発に携わったのがカーネギー・

メロン大学Takeo Kanade教授(日本人?)だった。

 おかげで、審判団はきわどい判定も正確に行うことができるようになった。現にタ

ッチダウンかどうか人間の目ではなかなか判定できないプレーもあったが、アイ・ビ

ジョンを使えばまさに一目瞭然。このリプレイを見て確認した上で、審判団がジャッ

ジするシーンも見られた。

 スーパーボウルで“デビュー戦”を飾ったアイ・ビジョンだが、CBSによれば、今

後はアメフト以外にも野球、ゴルフ、テニス、オリンピックなどの中継にもこの技術

を導入していく予定という(あと4カ月早ければ、シドニー五輪柔道の篠原誤審問題

はなかったかも?)。将来的にはアングルも広がって360度が実現可能になる。

 プレーとは関係ない選手を消すことや、ゴールライン上に白い線を引くことも可能

だそうだ。

 テレビ局が視聴率アップを目論んで開発した技術とはいえ、単純に見ている者を興

奮させる力をアイ・ビジョンは秘めている。今後のビジネス拡大に向けてCBSはこの

ための会社も設立し、5万ドル〜7万5000ドルをメドにリースするらしい。

 スーパーボウルがアメリカ文化を象徴する代表的なイベントであると同時に、スポ

ーツビジネスの壮大なショーケースになっていることを、あらためて思い知らされた

・NFL JAPAN 公式サイト http://www.nfl.gr.jp/

・NFL公式サイト(英語) http://www.nfl.com/

●著者:茂木宏子(もぎ・ひろこ)

1962年7月24日生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、1年間の編集プロダクショ

ン勤務を経てフリーに。取材対象はスポーを中心に、ビジネス、最先端テクノロジー

、バリアフリー活動など。著書に「メダルなき勝者たち」(ダイヤモンド社)、「お

父さんの技術が日本を作った!」「同2」、「夢をかなえるエンジニア」(ともに小

学館)。「お父さんの技術が日本を作った!」の2冊で、第46回小学館児童出版文化

賞を受賞(97年)。

*茂木さんのスポーツコラムは、毎週金曜日に連載しています。

@出展 Nikkei Biztech