管理者 (2001/2/21 08:13:17)

ケルベロス

つまり、作戦は完全に失敗したというわけである。

「地獄の番犬」作戦(オペレーション・ケルベロス)。
それは三つの部隊の連携による奇襲作戦だった。
まず先行する部隊が敵陣に側面から攻撃。時間差で、先行部隊よりも兵数の多い二つ目の部隊が正面から突撃。この二つ目の部隊を主力部隊に見せかけるわけだ。しかる後に真の主力部隊である第三の部隊が先行部隊に合流、側面から一気に敵陣を粉砕する。
以上が「地獄の番犬」作戦の概要である。

山の中は木々が絡み合うように繁茂し、陽射しは見えない。
暗緑色の天蓋の下で、野戦服の男が二人、息を潜めていた。
「…撒いた、か?」
別ルートで逃走した連中は無事だろうか。こっちは自分たち二人を残して全滅だ。
敵に情報が漏れていた。敵は「地獄の番犬」作戦を万全の態勢で迎撃した。ネタばれした奇襲ほど間抜けなものはない。一方的な殲滅戦となった。
先行部隊だったことが幸いしたのだろう。作戦を知っていた敵は主力部隊を叩くことを重視し、囮である先行部隊にはそれほど追撃してこなかった。
そして、もうひとつの幸運。自分の隣にいる男が同じ部隊にいたこと。いち早く作戦が失敗したことを判断し、適切な撤退を指示したこの男。男は《英雄》と呼ばれていた。彼は戦場の只中を横切り、主力部隊と合流する愚を犯すことなく、そのまま敵陣を突き抜け、山中を通って前線基地までの撤退を提唱したのだ。
その策は功を奏した。
敵が主力部隊を完全に沈黙させ、残党狩りを始めるまでは。

手持ちの機銃の残弾を確認、舌打ちして投げ捨てる。
「あとはこの豆鉄砲だけかよ…」
機銃に比べて威力も重量もはるかに頼りない、自動拳銃を取り出す。
まあ、ないよりはましか。
残弾8。
舌打ち。
喉が渇く。焼け付くようだ。水筒も食糧も逃走の中で投げ捨ててきてしまった。しかし、そうして身軽にならなければ、ここまでたどり着く間にやられていただろう。
まあ、いい。水も食糧も前線基地まで戻れば備蓄がある。何より弾薬がある。前線基地まで戻れば、今背後に迫ってくる追っ手を皆殺しにして尚余りある弾薬がある。そうだ、前線基地まで戻りさえすれば、現状をくつら返し再び敵陣へ討ってでることができる。前線基地まで戻れば…
ふと隣にいる男が先ほどから一言も喋っていないことに気づいた。見れば、男は背後の木にもたれてぐったりとしていた。動かない。
「…おい?」
肩をつかんで揺する。男はゆっくりと顔を上げた。酷くやつれた表情だった。それは英雄の顔ではなく、
「…さっき、腹に二発喰らっちまった…俺は、ここまでだ…すまん…」
死者の顔だった。
詫びの言葉を搾り出した男の体から力が抜けていくのがわかる。
「おい、待て! 待ってくれ! おまえがいなくなっちまったら…!」
《英雄》と呼ばれた男は死んだ。

銃声が響いた。
遠い。音が山々に幾重にも反響している。
再度、銃声。反響。
銃声。反響。銃声。反響。銃声。反響。銃声。反響。銃声。反響。
否、それは既に反響ではなかった。幾重にも重なる銃声、狙撃銃と機銃と拳銃の不気味な混声合唱。
銃撃戦だ。おそらくは、いや、間違いなく別方面からの逃走を図った仲間たちが敵に捕捉されたのだ。
やがて暴風雨のような激しい炸音が唐突に消える。静かになる。まるで運命という指揮者がその指揮をぴたりと止めたかのようだった。
静寂が何を意味するか、明白だった。
男は吼えた。

拳銃を左手で構え、右手は腰のコンバットナイフの位置を確かめる。
《英雄》の手に握られていた機銃を取る。こちらにはわずかにだが残弾が残されている。
それから、少し逡巡した後に《英雄》の首に掛けられていた彼の認識票を外し、自分の首に掛けた。
「《英雄》ってのは死なねえんだよな…?」
眠るように死んでいる男に語りかけて、もう一人の男は山中を駆け出した。振り返らなかった。
潜伏していたにも関わらず、感情に身を任せてしまった。先ほどの行為は致命的だ。殺しに来てくれ、と言ったようなものだ。ハイエナは程なく包囲を完了させるだろう。
ならば、その前に突破するのみ。
男は再び吼えていた。
走る男の胸に、二つの認識票が揺れていた。

その後、彼は三人の敵を殺し、死んだ。
善戦したと言える。



戦い終わって日が暮れて。
「あー、くそったれ! 負けちまった!」
「誰だよー、作戦相手チームにばらしたのー」
「わりぃ、それ俺かもしんねえ。始まる前トイレに行ったとき、こいつと今日の作戦のこと話してたんだけど、どーも個室に誰かいたっぽかったわ」
「…隊長、ご判断を」
「銃殺…」
「イエッサー」
「うひいー」


 三題噺の告知を出してから三ヶ月以上が過ぎた挙句に書きあがったのがこんなの。本当は企画倒れと気づいた時点で書くつもりがなかったのだけれど、じゅんぺいとの間で交わされた密約により書くことになった。が、じゅんぺいはと言えばいまだに書いてない、という・・・(2001/03/12現在)。とっとと書けやー、このチキン野郎ー!
 この話、どうにもオチがわかりにくかったようである。アイハラぐらいしかわかってなかったみたいだし。戦争ものと見せかけて、実は単にサバイバルゲームをやってただけ、というオチだったのだけど。サバゲー自体をうちのサークル連中は知らんかったようだな。うかつ。

 サイバルゲーム=いい年した大人たちの戦争ごっこ。使用される銃器のレプリカ(ガス銃とか)は専門店で結構な値段で販売されている。早稲田通りにもミリタリーショップがあったりするので興味のある人は侵入すること。異世界を垣間見れること請合いだ。


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