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008
ホクロのいざない
Book Jocky yuito a.k.a. イトウユウ
2003年4月19日。500円を持って向ったのは、悪名高き某新古書店。目指すは、このチェーン店の名物「100円コーナー」だ。21世紀のコミック作家の著作権を考える会には悪いけど、ここでなら本が5冊も買える!
フランチャイズと言えど品揃えは店舗によって違う。ぼくがいつもお世話になっている店は回転も早く、毎週行っても飽きない品揃えだ。実を言うと数日前、同じ店に「500円で探せ!」をしに行ったのだが、あまりに多分野にわたるお気に入り本がみつかり、これは何かテーマを決めてから行かないと原稿も書けない、とその日は一旦引き上げたほどである。
そして数日後。この日ぼくが準備していった買い物テーマは、「口の下にホクロのある人物が登場するマンガ」というものだった。
なぜ「ホクロマンガ」?
実は最近、あるマンガ雑誌を読んでいて、ホクロというものがマンガ表現の重要な記号として働いていることに気が付いたのである。とりわけ、口の下にホクロが描き込まれていることが多く、そのとき読んでいたマンガ雑誌には、別々の作品に3人もの口下ホクロの人を発見したのだった。
堀口九萬一の「東西ホクロ考」(1931)によると、その語源が「ハハクソ」・「ホクソ」であることからもわかるように、ホクロは、特に顔のそれは疎まれるべきものだった。この感覚はおそらく現在も同じで、ネットで「ホクロ」を検索すると、ほとんどがホクロ除去をうたった美容外科のページにつながる。
ところが、「ホクロ 口の下」とすると、「チャームポイント:口の下のホクロ」といった記述が含まれるページがズラーっと検索された。場所や大きさによっては、ホクロも美を演出する記号となり得るのだ。先の九萬一はそうした感覚を西洋に求めており、その例として、17世紀フランス貴族の間で流行った付けボクロ「ムーシュ」を紹介している。付けボクロの文化は現在まで続いており、「ANNA
SUI」が付けボクロセットを発売したのは、記憶に新しい。
ところで、先の「チャームポイント:口の下のホクロ」のページに行くと、ほとんどすべてが風俗サイトや出会い系サイトにおける女の子たちの自己紹介なのだった。そう、この位置のホクロは「セクシー」の記号であることが多い。
そう認識されるようになったのはいつからなんだろう?答えはまだみつかっていない。現在とりあえず口下ホクロの表象を集めているところだ。最近、昭和21年発行のカストリ雑誌に口下ホクロ(左)がある淫婦のイラストを発見したから、少なくともその起源は、南野陽子(右)でも乙葉(右)でも、もちろん保田圭(右)でもない。ちなみに、マリリン・モンローもマドンナ(この人は、レコジャケによって位置が変わるので、モンローを意識した付けホクロかもしれない。)も口上ホクロの人である。お間違えのなきよう。
さしあたり口下の左にあるか右にあるかは問わずに集めているが、個人的統計では、左側の方が若干多いような気がする。ちなみに、18世紀英国では、王権擁護派は左、議会派は右に付けホクロを付けたと言う。
さて。前置きが長くなってしまった。そんなわけの今回の探書テーマなんである。
しかし、そうそう簡単に500円分(つまり5冊ってことだが。)もホクロマンガがみつかるのかと心配される向きもあろう。ところが、見つかったのである。それも、わずか2時間で8冊も!結局、
350円もした山岸凉子『白眼子』は論外として、小谷憲一『17ANS』、須磨ヨシヒロ『イケナイBOY』を泣く泣くあきらめ、以下の5冊を購入。([ ]は定価。)
@ 北条司『キャッツ・アイ』@集英社文庫¥100[¥581]
ご存知美人泥棒3姉妹のお話。口下にホクロ(左)があるのは、長女の泪姐さん。姉妹をまとめる落ち着いた感じのオトナである。(ちなみに、林海象監督の映画版では、藤原紀香が演じていた。)北条司の絵は(後になればなるほど)女性の区別がつきにくくなるので、ホクロは個人を判別するための重要なメルクマールになっていると言える。
A 清水玲子『輝夜姫』@白泉社花とゆめCOMICS¥100[¥379]
『月の子』等の透明感溢れる絵で人気の作者が描く口下ホクロ(右)の人は、なぜかボンデージを着た米軍教官の美少女マギー。ムチなんか持って、屈強な兵士たちをビシバシぶってます。作者は、空きページに、SM&SFテイストのピンナップ・イラストで世界的に有名な空山基が好きだと書いてあったが、彼の描く女にも必ずと言っていいほど口下にホクロが描かれていることは、偶然ではないだろう。
B サガノヘルマー『BLACK BRAIN』A講談社ヤンマガKCスペシャル¥100[¥505]
この作家の作風を何と表現したらいいのか。SFにかこつけたグロテスクな(セックスを含む)身体描写と精神世界の表現は、ほとんど病気。(この作品の連載先が『ガロ』とかじゃなくて『ヤンマガ』というのが真にスゴイところなのだが。)口下にホクロ(右)があるのは、主人公と、人間を昆虫に改造しようとする科学者や人体を粘土のように変形させるフェミニスト団体との変態的戦闘に巻き込まれる、ヒロインのリカ。
C 江戸川乱歩著、小池一夫監修、バロン吉元画『陰獣』小池書院ひゅうまんコミック¥100[¥657]
『柔侠伝』等、挿絵作家的に生真面目な画風で知られる作家による、乱歩の猟奇探偵小説のマンガ化。口下にホクロ(右)があるのは、ヒロインの小山田静子だ。静子は、乱歩の登場人物らしい被虐趣味の美女。ちなみに、歴代「陰獣」の映画・TV版の静子役には、香山美子、佳那晃子、秋吉久美子、川島なお美がいる。また、この作品でホクロは、変装トリックの鍵にもなっているが、原作では、頬にあり、しかも大きいという設定。
D 上條淳士『TO‐Y』@小学館文庫¥100[¥581]
「ベストテン」も「ヒットスタジオ」もまだあってバンドブームで盛り上がってた時代の音楽マンガ。口下にホクロ(左)があるのは、主人公冬威の音楽的才能に目を付ける、大手プロダクションのマネージャー加藤か志子。ロック・スター哀川陽司(モデルはもちろん吉川晃司。この本の巻末で、作者と対談している。)を育てた敏腕で、銀縁眼鏡に煙草、ブランド服に身を包んだ(80年代的に)カッコイイ「オバサン」である。
ところでこの5冊、既に第1巻を持っていた『BLACK BRAIN』を除けば、もしかしたら今後購入することもなかったマンガたちである。『キャッツ・アイ』なんか、中学生以来久し振りに読み直したが、『TO‐Y』と共に、当時とは違う新鮮な気持ちで読むことができたのは、嬉しい驚きである。また、『柔侠伝』シリーズ以外読んだことのなかったバロン吉元の新たな魅力も発見できた。
この年になって趣味も固まってくると、新しいジャンルや作家の本に出会うチャンスが減ってくるというのは、しかたがないことかもしれない。しかし、それではやはりもったいないという気持ちもやはり、まだ、ある。ぼくの場合、今回の「口下ホクロの人が出てくる」といったような、何らかの“オマケ”を設定することで、無理やり手に取る本を増やそうという努力はしている。「Yonda?」マークを集めるために、聞いたこともない作家の本を読むことになったのは新潮社の思惑通りだろうが、お近付きになりたい女の子が読んでいた本、という設定も個人的にはぼくの読書キャパを大いに広げている。この場合はもちろん、「Yonda?」マークのように、集めれば必ず“景品”がもらえるというわけではないのだが。
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