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「第2 論文試験対策」においては、答案の形式面及び内容面において、どのようにしたらよいのかということが中心になります。そして、答案の形式面及び内容面をどのようにしたらよいのかにつき、具体的に理解していただくためには、具体的な問題及び答案例があったほうがよいと思います。そして、私が考える方法論について論述していくわけですから、答案例については私自身が書いたものを用いるべきことはいうまでもありません。
そこで、今回は、「第2 論文試験対策」の論述を進めていく前提として、具体的な問題及び答案例(私の書いた答案)を2つ、提示することにします。【case1】は一行問題、【case2】は事例問題です。
第3回以降、私の論述内で、【case1】【case2】という言葉が出てきた場合、その【case1】【case2】とは、「この第2回に掲載された【case1】【case2】の問題あるいは答案例」のことを指しています。この点は、予め把握しておいて下さい。
また、答案例の横には、5行おきに行番号が付けてあります。第3回以降の論述で、私がこの【case1】【case2】の答案例を引用する場合には、「○行目のどこそこの部分」といった形で引用することになります。そのため、答案例に行番号があった方が、みなさんが【case1】【case2】の答案例にあたったときに探しやすいだろうと思うからです。
なお、この【case1】【case2】における<参考答案>は、私が論文本試験で実際に書いたものを再現したものです。論文本試験の2時間で2問という時間のない状況下で書いたものですので、「完全な正解」というわけではありません(実際に【case2】においては、書き忘れがあります)。この点は注意しておいてください。
【case1】民法 論文本試験平成11年度第2問(一行問題)
<問題>
民法の規定によれば、1詐欺による意思表示は取り消すことができるとされている(第九六条第一項)のに対し、法律行為の要素に錯誤がある意思表示は無効とするとされており(第九五条本文)、2第三者が詐欺を行った場合においては相手方がその事実を知っていたときに限り意思表示を取り消すことができるとされている(第九六条第二項)のに対し、要素の錯誤による意思表示の無効の場合には同様の規定がないし、3詐欺による意思表示の取消しは善意の第三者に対抗することができないとされている(第九六条第三項)のに対し、要素の錯誤による意思表示の無効の場合には同様の規定がない。
「詐欺による意思表示」と「要素の錯誤のある意思表示」との右のような規定上の違いは、どのような考え方に基づいて生じたものと解することができるかを説明せよ。その上で、そのような考え方を採った場合に生じ得る解釈論上の問題点(例えば、動機の錯誤、二重効、主張者)について論ぜよ。
<参考答案(私の再現答案)>
| 行番号1 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 |
一、規定上の違いはどのような考え方に基づいて生じたものか 1 民法の規定によれば、詐欺による意思表示(96条)と 要素の錯誤のある意思表示(95条)とには、@ないしB のような違いがあるとされている。では、これらの規定上 の違いは、どのような考え方に基づいて生じたものと解す ることができるか。 T まず、第一に、このような規定上の違いは、詐欺によ る意思表示が瑕疵ある意思表示であるのに対し、要素の 錯誤のある意思表示は意思の欠缺であると考えたことに 基づいているといえる。 すなわち、法律効果を発生させる意思表示は、内心的 効果意思、表示意思、表示行為からなるところ、詐欺に よる意思表示は、内心的効果意思と表示行為との間に不 一致はなく、内心的効果意思の前提となる動機に瑕疵が あるに過ぎない。これに対し、要素の錯誤のある意思表 示は、内心的効果意思と表示行為との間に不一致がある のである。 U そして、第二に、これらの違いに基づいて、詐欺によ る意思表示の場合には、法律行為の効果を一応有効とし 取り消しうるにすぎないのに対し、要素の錯誤のある意 思表示の場合には、法律行為の効果を絶対的無効と考え たことに基づいているといえる。 すなわち、詐欺による意思表示の場合には、内心的効 果意思の前提となる動機に瑕疵があるに過ぎないので、 錯誤の場合に比べれば表意者を保護する必要性が薄いの に対し、要素の錯誤のある意思表示の場合には、内心的 効果意思と表示行為の間に不一致があるので、表意者を 保護する必要性が高いと考えたのである。 2 以上の第一、及び第二の考え方に基づいて、伝統的な考 え方によれば、@ないしBのような規定上の違いが生じた ものと解される。 もっとも、後述のような動機の錯誤が認められる場合に は、錯誤と詐欺いずれの要件もみたすことがある。それな のに、詐欺と錯誤とで@ないしBのような大きな違いが生 じるのは、不都合を生じる。そして、95条の趣旨は表意 者保護にもとづくから、表意者保護を図る必要がある場合 にのみ無効とすれば足りる。 そこで、現在では、錯誤無効は、表意者のみが主張しう る相対的無効と考えられるようになってきており、取消に 近いものとして解されるようになってきている。 二、解釈論上の問題点 では、伝統的な考え方を採った場合に生じうる解釈上の問題 点について、以下において具体的に検討する。 1 動機の錯誤 まず、解釈上の問題点として、動機の錯誤が「錯誤」( 95条)に含まれるかが問題となる。 この点、伝統的な考え方によれば、動機の錯誤の場合は、 内心的効果意思と表示行為との間に不一致はないから、「 錯誤」(95条)には含まれないと考えることになろう。 しかし、錯誤の多くは動機の錯誤によるものであるから、 このように考えると表意者保護を趣旨とする95条の存在 意義が没却される。 そこで、取引の安全と表意者保護との調和の見地から、 動機が明示又は黙示に表示された場合には、動機が意思表 示の内容となって、「錯誤」にあたると解するべきである。 2 二重効 次に、詐欺取消と錯誤無効の要件をともに満たす場合に、 表意者がいずれも主張することができるかが問題となる。 この点、伝統的な考え方によれば、錯誤無効は絶対的無 効であるから、一応有効であることを前提とする詐欺取消 は主張できないと考えることになろう。 しかし、無効とはいっても、自然的な無ではなく法律行 為の効果を否認するための手段に過ぎない。この点では、 無効は取消と類似する。 そこで、詐欺取消も錯誤無効も、いずれも主張すること ができると解すべきである。 3 主張者 さらに、錯誤無効(95条)を誰が主張することができ るかが問題となる。 この点、伝統的な考え方によれば、錯誤無効は絶対的無 効であるから、誰もが無効を主張できると考えることにな ろう。 しかし、95条の趣旨は表意者保護にもとづくから、表 意者が望む場合に限って無効とすれば足りる。 そこで、表意者のみが錯誤無効を主張できると解すべき である。そして、第三者は、表意者が錯誤無効を認めた場 合に限り、錯誤無効を代位行使(423条)しうるという べきである。 以 上 |
【case2】 刑法 論文本試験平成11年度第2問(事例問題)
<問題>
甲は、食料品店主Aに対し、「指定した口座に四○○万円振り込まなければ、商品に毒を入れるぞ。」と電話で脅し、現金の振込先としてB銀行C支店の自己名義の普通預金口座を指定した。やむなくAが二回に分けて現金合計四○○万円の振込手続を行ったところ、二○○万円は指定された口座に振り込まれたが、二回目の二○○万円は、Aの手続ミスにより、同支店に開設され、預金残高が三七万円であった乙の普通預金口座に振り込まれてしまった。その直後、乙が、三○万円を通帳を使って窓口で引き出したところ、なお残高が二○七万円となっていたので、誤振込みがあったことを知り、更に窓口で一○○万円を引き出した。乙は、家に戻りその間の事情を妻丙に話したところ、丙は、「私が残りも全部引き出してくる。」と言って同支店に出向き、乙名義の前記口座のキャッシュカードを用い、現金自動支払機で現金一○七万円を引き出した。
甲、乙及び丙の罪責について、他説に言及しながら自説を論ぜよ。
<参考答案(私の再現答案)>
| 行番号1 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 |
一、甲の罪責について 甲は、食料品店主Aに対し、400万円振り込まなければ、 商品に毒を入れると電話で脅し、自己の預金口座に200万 円を振り込ませている。そこで、当該行為につき恐喝罪(2 49条)が成立しないか。 1 まず、甲は、食料品店主Aに対し、400万円振り込ま なければ商品に毒を入れると脅迫し、それによってAは畏 怖して、現金を振り込んでいるから、「恐喝して」(24 9条)にあたる。 2 としても、甲が得たのは「財物」(249条1項)か「 財産上の利益」(249条2項)か。 この点、現金が振り込まれることによって、当該金銭に つき預金債権が成立する。とすれば、預金債権という「財 産上の利益」を得たことになるとも思える。 しかし、自己名義の預金口座に現金が振り込まれれば、 その振り込み時点から、犯人は現金を引き出すことが可能 になる。とすれば、振り込みの時点で現金自体を取得した のと同様に考えられる。 そこで、現金という「財物」を取得したと考えるべきで ある。 3 以上より、甲には、200万円について1項恐喝罪(2 49条1項)が成立する。 二、乙の罪責について 1 まず、乙が30万円を通帳を使って窓口で引き出した行 為については、何ら犯罪は成立しない。なぜなら、乙の普 通預金口座の預金残高は37万円であったのであるから、 その範囲内である30万円については乙は正当な払戻権限 を有しているからである。 2 次に、乙は誤振込みがあったことを知って、さらに窓口 から100万円を引き出している。そこで、当該行為につ き1項詐欺罪(246条1項)が成立しないか。 T この点、誤振込みがあったことを知った場合には、口 座名義人は、その旨を銀行に告知する義務を負っている。 それなのに、乙は、その旨を告知することなく、窓口で 100万円を引き出したのであるから、不作為による欺 もうがあったといえ、「欺いて」(246条1項)にあ たる。そして、銀行の窓口職員は錯誤に陥っている。 U 処分行為(現金の占有) @ では、錯誤に基づいた銀行の処分行為があったとい えるか。現金の占有が銀行にあり、窓口で現金の占有 の移転があったといえるかが問題となる。 A この点、誤配された郵便物の場合と同様に考えて、 現金の占有は、口座名義人にあるとする説もある。こ の説によれば、本問では遺失物横領罪(254条)が 成立しうることになろう。 しかし、誤振込みがなされた場合には、預金債権は 正当に成立しておらず、口座名義人には正当な払戻権 限がない。そして、占有とは事実上の支配をいうとこ ろ、現金自体の事実上の占有は、銀行にある。 そこで、現金の占有は、銀行にあると解する。 よって、窓口で、銀行から口座名義人に現金の占有 の移転があり、錯誤に基づいた銀行の処分行為があっ たといえる。 B なお、このように解すると、現金の占有が甲の場合 には口座名義人にあり、乙の場合には銀行にあること になるが、これは矛盾しないと考える。なぜなら、甲 の場合には、振込前に既に実行の着手があり、占有の 有無は既遂・未遂の区別の基準として問題になってい るのに対し、乙の場合には、振込前にまだ実行の着手 はなく、占有の有無は犯罪が成立するか否かの基準と して問題となっているからである。 C したがって、乙には1項詐欺罪(246条1項)が 成立する。 V なお、7万円については乙は正当な払戻権限を有して いるものの、払戻権限なき残りの93万円との区別は困 難であり、両者は不可分一体であるといえる。したがっ て、100万円全額について、詐欺罪が成立する。 三、丙の罪責について 1 丙は、乙名義のキャッシュカードを用いて、現金自動支 払機で現金107万円を引き出している。そこで、当該行 為につき、丙に窃盗罪(235条)が成立しないか。 前述のように、現金自体の占有は銀行にあるので、「他 人の財物」(235条)にあたる。そして、正当な払戻権 限なく占有を自己に移転していることから、「窃取」(2 35条)にあたる。 したがって、当該行為につき、丙に窃盗罪(235条) が成立する。 そして、この107万円については、正当な払戻権限が 全くないことから、107万円全額について成立する。 2 なお、機械は錯誤に陥らないから、乙の場合とは異なり、 丙には詐欺罪(246条1項)は成立しない。 以 上 |
※ なお、実際には、甲につき残り200万円の恐喝未遂罪を書く必要があろう。
<第2回 終わり> H.A