1.「答案用紙」からして求められるもの
司法試験の論文本試験では、その本試験の「答案用紙」に解答を書くことになります。そして、その本試験の答案用紙には、「88行分の文字を書くスペース」が設けられています。では、この「88行分の文字を書くスペース」が設けられていることには、どういう意味があるのでしょうか。
(一)短答本試験の「答案用紙」
この意味を考えるにあたり、短答本試験の答案用紙と比較してみましょう。短答本試験では、答案用紙には「1〜5のマーク欄」があるのみです。そのため、受験生が「答案用紙」にする行為は、1〜5のいずれかにマークをし、「結果を示すのみ」です。としますと、試験官は、答案用紙上で1〜5のうち正解の肢にマークがされているかどうかのみで、受験生の能力(合否)の判断をするしかないわけです。したがって、1〜5のうち正解の肢にマークしているかどうかという「結果さえ合えば足りる」のが、短答試験なのです。
もちろん、正しい「結果」を出すには、ある程度の知識があり、正しい論理過程があることは前提となっていると思います。ただ、論理過程自体は答案用紙に現れない以上、論理過程が「不十分であったとしても」問題にされないのです。
たとえば、「次のアからオまでの5つの記述のうち正しいものはいくつあるか」という個数問題が出題された場合を考えてみましょう。この場合、5つすべての記述の正誤を正確に判断できれば、正解にたどり着いており、かつ、正しい論理過程を経ているわけです。しかし、5つの記述のうち「2つ」正誤の判断を間違えたという誤った論理過程を経たとしても、正解にたどり着いてしまうことがあるのです(下図参照)。このように「論理過程が不十分であってもよい」という意味で、「結果さえ合えば足りる」と言っているわけです。
|
正解 |
正しい論理過程を |
誤った論理過程を |
ア |
正 |
正 |
正 |
イ |
正 |
正 |
「誤」 |
ウ |
誤 |
誤 |
「正」 |
エ |
誤 |
誤 |
誤 |
オ |
正 |
正 |
正 |
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3個 |
3個 |
3個 |
(二)論文本試験の解答用紙
以上のような短答本試験の答案用紙に対して、論文本試験の答案用紙には、「88行分の文字を書くスペース」があります。この場合に、もし、「結果」だけ書けば足りるのならば、何も「88行」もいらないはずであり、「10行くらい」あれば足りるはずです。とすると、わざわざ「88行分」用意するのは、結果以外のことを書いてほしいからだと考えることができます。すなわち、結果のみならず、結果に至る論理過程も問いたいからこそ、わざわざ88行の答案用紙を用意しているといえるのです。
2.「答案」ということから求められるものpart1(問題文と答案との関連性)
(一)その問題において、ある論点・論述を書くか否かの選択
答案とは、ある問題が出された場合に、「その問題」に対する解答を示すものです。いいかえれば、答案とは、出題された「その問題」を「どのようにして解決するのか」を示すものです。そのため、答案は、「その問題を解決するのに必要な限度」で書かなければならないわけです。
としますと、「その問題を解決するのに必要なこと(後掲@A)」については、答案に書かなければなりません。これに対し、「その問題を解決するのに不要なこと・関係のないこと(後掲B)」については、答案に書いてはいけないことになります。
なお、「その問題を解決するのに必要なこと」といいましても、必ずしも一律ではありません。その問題を最終結論・最終解決を導くにあたり大きく左右するような重要な部分(たとえば、どの説を採るかでその問題の最終結論が大きく左右されてしまうという部分)(後掲@)と、書く必要はあるもののそれほど重要ではない部分(後掲A)とに分かれるのです。
| 「答案」=「その問題を解決するのに必要な限度」で書かなければならないもの ↓ @解決するのに必要であり、重要 A解決するのに必要ではあるが、それほど重要ではない B解決するのに不要・無関係 |
以上のことからしますと、答案を書く前(答案構成の段階)においては、まず、その問題の問題文を見た後、@ABの振り分けをしておかなければならないことになります。具体的に言えば、答案に書く前の段階(答案構成の段階)で、まず、答案上に、(a)その問題においてある論点・論述を書くか否か(@AとBとの振り分け)を決定し、次に、(b)ある論点・論述を書くとしても、どの程度の分量を用いるのか(@とAとの振り分け)、ということを、決定する必要が生じるのです。
(二)@ABに分けていることを、どのようにして示すのか
(1)示すためにすべきこと――「書く分量」のコントロール
では、このように@ABに分けて適切に処理していることを、どのようにして示せばよいのでしょうか。
論文試験においては、受験生が問題を適切に解決できているか否かを判断する材料となるものは、「答案の記載のみ」しかありません(その意味で、答案は、いわば手形の文言証券性と同じようなものといえます)。とすれば、@ABに分けて適切に処理していることは、「答案上」において示すしかないことになります。
また、ある問題(別に司法試験の問題に限ったことではなく、一般的な問題のこと)にぶつかったとき、その問題に対してどのように自分が考えているかを、相手方に「効果的・に」分かってもらうためには、
@自分の考えの重要な部分につき多くの説明を割く一方、
A重要でない部分については軽く触れるにとどめ、また、
B関係ないことは言わない(関係ないことを混ぜてしまうと、相手方が関係あることと関係ないこととを混同してしまうおそれがあるため、自分の考えを相手方に効果的に伝えることができなくなる)
というのが、よいといえます。
以上より、@ABに分けて適切に処理していることを示すには、@解決するのに必要不可欠・重要な部分については、答案に「多く」「書く」、A解決するのに必要ではあるが、重要ではない部分については、答案に「少なく」「書く」(あくまで「書く」ことは必要)、 B解決するのに不要な部分については、答案に「書かない(書いてはいけない)」ことになります。
| @解決するのに必要不可欠・重要 | → | 答案に「多く」「書く」 |
| A解決するのに必要ではあるが、重要ではない | → | 答案に「少なく」「書く」 |
| B解決するのに不要 | → | 答案に「書かない(書いてはいけない)」 |
たとえば、【case2】の答案の「一、甲の罪責について」のところを見てください。
ここで、甲の罪責として問題となるのは、恐喝罪(249条)の成否です。そして、恐喝罪の構成要件には、(1)暴行・脅迫行為、(2)それによる畏怖、(3)処分行為、(4)財物or財産上の利益の移転、(5)以上の4つが因果関係によって包摂されていること、があるわけですが、本問で重要なのは、(4)「預金口座への振り込み」ということをどのように評価するのか、すなわち、(4)「預金口座に200万が振り込まれたこと」は、現金200万円という「財物」の移転なのか、それとも200万円の預金債権という「財産上の利益」の移転なのか、という点です。この点が、@問題解決にとって重要な部分ということになります。
他方、(1)(2)(3)(5)は本問では重要ではないのですが、甲に恐喝罪が成立するといえるためには、当然恐喝罪の構成要件をみたしていることは述べる必要はありますので、(1)(2)(3)(5)については、A重要ではないが必要な部分ということになります。これら以外については、甲の罪責につきB解決するにあたっては必要がないことになります。
では、私の【case2】の答案の「一、甲の罪責について」(1〜22行目)ではどうなっているでしょうか。(1)(2)(3)(5)というAの部分については、6〜9行目の4行を用いて論述がなされています。(4)という@の部分については、10〜20行目の11行を用いて論述がなされています。そして、Bの部分については、答案上論述をしてありません。このような@ABの書き分けがなされているわけです。
(2)してはいけないこと
なお、@ABについて以上のように述べたことからして、次のような注意点が出てきます。要は、@ABに述べたことと逆のことはしてはいけないということです。
まず、@を書かない・書き忘れたというもの、すなわち「論点落ち」です。
次に、Aを書かないというもの、いわば「前提欠落」です。「まず原則からの帰結をきちんと書いてください」と添削者に書かれるようでしたら、このAの点において答案が十分でないということになります。実は、このAを書かないというミスが結構多いのです。おそらく答案を書いている側からすれば、こんな前提のことはわざわざ書かなくてもいいと思っているんだと思います。しかし、「前提」なく結論を導いているということになると、それは「論理過程をきちんと経ていない」ということになってしまうのです。そうなると、「論理過程の正当性」も問われる論文試験の答案としては、十分でないということになるのです。
そして、Bを書いてしまうというもの、いわば「余事記載」です。
3.「答案」ということから求められるものpart2(問題が変われば、解答も変わる)
前述のように、答案とは、出題された「その問題」を「どのようにして解決するのか」を示すものです。ここで、「その問題」を、という点に注意をしておいて下さい。ここでいう「その問題」というのは、1つ1つの個々具体的な問題文のことを指しています。そうであるとすれば、「問題文」にちょっとした変化が生じれば、その問題に対する解答も変えて行かざるを得なくなるのです。
そのため、ある問題文が出されたときに、「これと似ている問題を見たことがある」と思って、その似ている問題の答案例を「そっくりそのまま」書いてしまうと、誤ってしまうことになるのです。似ている問題と論点が一緒だなどと思って、似ている問題のときと全く同じように書いてしまうと、この「ある問題文」がその似ている問題と違っている部分があることをきちんと分かっていない、ということになってしまうのです。
4.「論文試験」の実施内容からして求められるもの
また、論文試験の答案については、「1科目につき2時間で2通、1通につき88行以内」という「指定時間・指定分量」で作成しなければならないという条件があります。
まず、「1科目につき2時間で2通」という点です。この点で注意すべきは、1科目は「2通」で評価されるということです。「2通そろってなんぼ」の世界だということです。ですから、1通がいくら良くても、もう1通があまりにもひどいと、どうしようもなくなってしまうのです。そのため、答案作成にあたっては、各科目2問のうち「どちらの問題にどれだけの時間を割くか」ということを、問題文を読み終えたときに判断しておかなければなりません。
次に、「1通につき88行以内」という点(指定分量)です。この点については、前述の2.(二)(1)の「書く分量」のコントロールとの関係で注意をしてください。このコントロールの箇所で、@解決するのに必要不可欠・重要なことについては、答案に「多く」「書く」こと、A解決するのに必要ではあるが、重要ではないことについては、答案に「少なく」「書く」ことと述べましたが、この「多く」「少なく」というバランスは、答案を書く前に、「88行」の中できちんと割り振っておく必要があります。この割り振りを怠ったまま答案を書き出してしまいますと、後になって「書きたいことがあるのに答案用紙の書くところが余っていない」ということになってしまい、バランスを失した答案になってしまいます。
なお、答案に書くのは88行「以内」です。ですから、@Aのバランスを考えた結果、3ページ(66行)で十分ということであれば、66行で終えても構わないのです。
5.「論文試験」の採点者からして求められるもの(形式面・内容面の両面において、読み手に分かりやすい答案)
論文試験の試験官は、答案の採点をし始めた段階で1日で50通採点し、数日後には1日で100通の答案を採点するそうです(元試験委員による)。とすると、試験官が1通の採点に費やす時間は、10分にも満たないものなのではないかと思われます。
したがって、答案を書く側としては、「10分にも満たない」という「ごく短時間」で、試験官に対し、「私はこの問題解決にあたって必要な限度」の解答をきちんとしているということを説得しないといけないことになります。そうであれば、少しでも読みやすくするよう工夫をして、試験官に読みやすい答案を作成する必要があるのです。
そして、「少しでも読みやすくする」には、少しでも多くの部分につき読みやすくする工夫を施すべきでしょう。まず、答案の形式面(ナンバリング・段落分け等)を適切にすることによって、文章の流れ・文章がひとかたまりとなっている部分を視覚的に分かりやすくする工夫をすべきです。見出しが適切に付けられていて、また、文章のかたまりの区分けが適切になされていれば、答案全体の構造を読み手が的確に理解できることになります。そして、答案の内容面についても、工夫をすべきです。答案のある部分において、答案の前で書いた部分と「同じこと」を述べるときには、「同じ言葉」を用いるというようにすれば、前で書いた部分とある部分とは「同じこと」を述べているのだということが、「同じ言葉」が使ってあることによって視覚的に瞬時に判断することができるのです。
この5.の点が、私の第4回以降の論述の核心になります。このうち、まず答案の形式面につき、次回の第4回で述べていくこととします。
| 合格答案のイメージ=読み手に読みやすい答案・分かりやすい答案 |
| 形式面での分かりやすさ | → | 「適切なナンバリング」がなされていること(第4回) 論理過程における論理関係をわかりやすくする。 |
| 内容面での分かりやすさ | → | 「言葉がつながっている」こと(第5回〜第7回) 論理過程の正当性をわかりやすくする。 |
<第3回終わり> H.A