第4 口述試験対策

<細目次>

一 口述試験の特徴
   1 (a)法律問題を口で「対話」する試験
   2 (b)「瞬時の判断・解答」が要求される試験
   3 (c)「既知の知識」を利用して「未知の問題」を解答する試験
   4 (d)「超一流の学者・実務家」に面と向かって試される試験
   5 (e)合格率90%強の試験
二 口述試験の対策(総論)
 ――「少々の失敗(小失敗)」は受験生全員につきもの。「大失敗」をしないことが大事。
三 口述試験の対策(各論)
   1 (I)「とにかく言葉を発すること(黙ってはダメ)」。そして「簡潔に」答えること。
   2 (II)条文(条文の趣旨も含む)・定義は、完璧に押さえておくこと。
   3 (III)学者・実務家の思考のライン(相手の考えている流れ)に乗ること。
   4 (IV)口述模試は必ず受けること

 

一 口述試験の特徴

 1 (a)法律問題を口で「対話」する試験
 まず、口述試験の特徴として挙げられるのは、筆記試験である短答試験・論文試験とは異なり、口で「対話」する試験であるということです。試験官が問い、受験生が答え、また試験官が問い、というように口頭で一問一答形式で法律問題を「対話」することによって行われるのが、口述試験です。

 2 (b)「瞬時の判断・解答」が要求される試験
 口述試験においては、試験時間は1科目につき「20分程度」しかありません。さらに、1で述べたように「対話」の試験である以上、相手(試験官)は、受験生がどのように答えるのかを面と向かって待っている状態にあるわけです。
 そのため、口述試験では、短答試験・論文試験とは異なり、「じっくり考える時間」というものが存在しません。短答試験は3時間30分という持ち時間がありましたし、論文試験においても2時間という持ち時間があり、30分くらいの答案構成の時間がありました。これに対し、口述試験は試験時間が20分程度しかないうえに、考えることができる時間は、「『対話』が途切れてしまわない程度の時間」(=せいぜい10秒程度)だと思います。その意味で、口述試験では「瞬時の判断・解答」が要求されるのです。

 3 (c)「既知の知識」を利用して「未知の問題」を解答する試験
 口述試験においては、受験生にとって既知の問題だけを問われて終わるということは、まずないといっていいでしょう。必ず受験生にとって「未知の問題・今まで考えたことのない問題」が問われます。なぜなら、口述試験は、法曹実務家登用試験たる司法試験の最終関門であり、法曹実務家になれば時代の進展などに伴って生じてくる未知の問題にも対処できなければならないからです。その意味で、口述試験は「未知の問題」を解答する試験といえます。
 もっとも、対話をはじめた当初(口述試験開始当初)からいきなり「未知の問題」を聞いてくるわけではありません。未知の問題を解決しようとするにあたり、法曹実務家は、「既知の知識」という手掛かり・とっかかりも用いて考えようとします。そのため、対話をはじめた当初では、未知の問題を解決する前提として、「既知の知識」を問うことから始まります。すなわち、「既知の知識」として、条文・条文の趣旨・定義、あるいは、類似論点についての知識(判例・学説の理解)がきちんと分かっているかが、まず問われるのです。
   したがって、口述試験は、「既知の知識」を利用して「未知の問題」を解答する試験であるといえます。

 4 (d)「超一流の学者・実務家」に面と向かって試される試験
 そして、口述試験は、超一流の学者・実務家2名に面と向かって試される試験です。短答試験・論文試験では試験委員と顔を合わせることはなかったわけですが、口述試験では試験委員(超一流の学者・実務家)と顔を合わせることになります。

 5 (e)合格率90%強の試験
 また、口述試験は、短答試験・論文試験とは異なり、合格率「90%強」の試験という特徴があります。短答試験の合格率は「20%」くらい、論文試験の合格率は「短答を突破してきた者のうちの16.6%」くらいであることを考えますと、相当に合格率の高い試験ということになります。

口述試験の特徴
   →(a)法律問題を口で「対話」する試験
     (b)「瞬時の判断・解答」が要求される試験
     (c)「既知の知識」を利用して「未知の問題」を解答する試験
     (d)「超一流の学者・実務家」に面と向かって試される試験
     (e)合格率90%強の試験

二 口述試験の対策(総論)
  ――「少々の失敗(小失敗)」は受験生全員につきもの。「大失敗」をしないことが大事。

 前述のように、口述試験は(b)「瞬時の判断・解答」が要求される試験であって、しかも(c)「未知の問題」を解答する試験です。そして、(b)「瞬時」に判断・解答しなければならないわけですから、判断をし損なっておかしな解答をしてしまうことはあり得ることですし、また、(c)「未知の問題」を解答するわけですから、いったいどういう解答をすればよいのかよく分からずに、おかしな解答をしてしまうことはあり得るわけです。さらに、(d)「超一流の学者・実務家」に面と向かって試される試験なのですから、緊張してしまっておかしな解答をしてしまうこともあり得ますし、(a)法律問題を「対話」することへの不慣れから、おかしな解答をしてしまうこともあり得ます。とすれば、「少々の失敗(小失敗)」は口述試験の受験生全員につきものなのです。
 このようにおよそ口述試験の受験生全員が何らかの失敗をしているのであって、完全に成功している受験生はまずもっていないと思います。それにもかかわらず、(e)口述試験の合格率は90%強にものぼっています。では、この90%強の口述試験合格者と10%弱の口述試験不合格者とを分けるものは、何なのでしょうか?完全に成功している受験生がまずいない以上、分かれ目は「成功」したか否かではないでしょう。分かれ目は、「大失敗」をしたか否かにあるのではないかと思います。
 したがって、口述試験においては、失敗した点があったとしても、それが「少々の失敗(小失敗)」であったのであれば、「小失敗は受験生全員につきもの」だと割り切って、以後にひきずらないようにすべきです。口述試験は、あくまで「大失敗をしない試験」と考えるべきであって、「成功しようとする試験」とは考えるべきではないのです。「大失敗」をしないことが、口述試験では大事なのです。

口述試験の特徴
    → (a)法律問題を口で「対話」する試験
        → 「対話」への不慣れによる緊張 
      (b)「瞬時の判断・解答」が要求される試験
        → 「瞬時の判断」のし損ないの発生
      (c)「既知の知識」を利用して「未知の問題」を解答する試験
        → 「未知の問題」ゆえ、解答がよく分からない
      (d)「超一流の学者・実務家」に面と向かって試される試験
        → 「超一流の学者・実務家」を前にした緊張
      (e)合格率90%強の試験
        → 受験生はみんな失敗しているのに合格率が高い 
      ↓
    したがって、「少々の失敗(小失敗)」は受験生全員につきもの。大事なのは、「大失敗」をしないこと。

 

三 口述試験の対策(各論)

 では、口述試験で「大失敗」をしないようにするために、具体的にどのような対策をとるべきなのでしょうか。以下では、この具体的対策について見ていくことにします。

 1 (I)「とにかく言葉を発すること(黙ってはダメ)」。そして「簡潔に」答えること。
 前述のように、口述試験は(a)法律問題を口で「対話」する試験です。そして、「対話」というのは、@「自分がしゃべること」とA「相手がしゃべること」の両方があって成立するものです。口述試験においては、「受験生がしゃべること」と「試験官がしゃべること」の両方があってはじめて、試験として成立するということになります。

 (一)@とにかく言葉を発すること(黙ったらダメ)
 したがって、口述試験においては、「対話」を成立させるために、@「自分がしゃべること」が必要になってきます。すなわち、どんなことを試験官に問われたとしても、@「とにかく言葉を発すること」が大事なのです。「黙ったらダメ」なのであり、「黙ったら大失敗」なのです。「対話」する試験である以上、考えることができる時間は「『対話』が途切れてしまわない程度の時間」(=せいぜい10秒程度)に限られるのであり、その考えている間であっても、「対話」を成立させるために「えーっと」とか何とかのつなぎ言葉を言うなりして、言葉を発していた方がよいのです。

 たしかに、おかしな解答をしないようにしようと考えて、黙りこんでしまいたくもなるかもしれません。しかし、黙ってしまったら「対話」にならないのです。それに、おかしな解答・矛盾とも思われかねないような解答をしてしまっても構わないのです。とにかくしゃべっておくことが大事なのです。後になって試験官から、「最初の解答と今の解答は、矛盾するのではありませんか」と問われたら、その問われた時点で、一方の解答を撤回するなり、これこれの理由で両方の解答は矛盾はしていないと説明するなりして、自分の解答の調整を図ればよいのです。また、「矛盾するのではないか」と問われなかったのであれば、全く気にしなくて良いのです。
 なお、後になって撤回するというのは、結構あることなのです。私もいくつかの科目で何度か撤回をしました。総論でも述べましたように、諸々の理由によって「少々の失敗(小失敗)」があることは受験生全員につきものなのです。ですから、後になって間違いに気づき撤回することになることは、十分にあり得ることなのです。ですから、後になって撤回することになっても、気にすることはありません(もっとも、あまりにも撤回が多すぎるのは、試験官の印象が良くないでしょうけども)。

  (二)A簡潔に答えること(聞かれたことだけに答えること)
 他方、口述試験においては、「対話」を成立させるために、A「相手がしゃべること」も必要になってきます。そして、自分がしゃべりすぎてしまいますと、相手がしゃべることがなくなってしまい、対話が成立しなくなってしまいます。
 また、自分が答えすぎてしまうと、試験官が想定している試験の流れを崩すことにもなってしまいます。
 したがって、口述試験では、A「簡潔に」答えることが大事になってきます。要は、試験官に聞かれたことだけに答える、ということです。たとえば、「結論がどうなるか」を聞かれた場合には、その「結論だけ」を答えればいいのです。理由付けまで答える必要はありません。また、結論を言うにしても、長々と言う必要はなく、最小限のことを言えばいいのです。
 もし試験官がその理由も聞きたい(その理由についても対話をしたい)のであれば、受験生が結論を答えた後に、試験官が「その理由は?」と聞いてくるはずです。受験生はその時点ではじめて、理由づけを答えれば足りるのです。他方、試験官が理由について聞いてこなかったのであれば、理由については今回の試験で聞きたいことではないということになるわけですから、受験生が理由について解答する必要はないのです。口述試験は20分程度しか時間がないわけですから、試験官が聞きたいことではないことに時間を使ってしまうのは無駄なことなのです。

口述試験は、(a)法律問題を口で「対話」する試験
     ↓
@ とにかく言葉を発すること(黙ったらダメ)!!
 ∵ 「対話」が成立するためには、「自分がしゃべること」が必要。
A 簡潔に答えること(答えは、小出しにすること)!!
 ∵ 「対話」が成立するためには、「相手がしゃべること」も必要。自分で全部しゃべってしまったら、相手がしゃべることがなくなり、「対話」が成立しない。

2 (II)条文(条文の趣旨も含む)・定義は、完璧に押さえておくこと。
  (一)@「『対話』の起点」としての重要性
 口述試験は(a)法律問題を口で対話する試験ですが、対話をするためには、まず「対話の起点・出発点」が必要となります。そして、口述試験は(c)「既知の知識」を利用して未知の問題を解答する試験です。そのため、対話の起点・出発点としては、未知の問題を解決する前提としての「既知の知識」を問うことから始まることになります。すなわち、「既知の知識」として、条文・条文の趣旨・定義、あるいは、類似論点についての知識(判例・学説の理解)がきちんと分かっているかが、まず問われるのです。この既知の知識の中でも根本部分となるのは、条文・条文の趣旨・定義です。
 したがって、条文・条文の趣旨・定義については、口述試験においては@「『対話』の起点」としての重要性があることから、完璧に押さえておく必要があります。

  (二)A「未知の問題」を考えるときの、「思考の出発点」としての重要性
 口述試験は、(c)「既知の知識」を利用して「未知の問題」を解答する試験でもあります。そのため、受験生は、単なる論証の吐き出し・知識の丸暗記だけでは対応できない「未知の問題」、今まで考えたこともなかったような問題に遭遇することになります。
 では、今まで考えたこともなかったような未知の問題に対して、どのように解答すればいいのでしょうか。前述のように、未知の問題を解決しようとするにあたり、法曹実務家は、「既知の知識」という手掛かり・とっかかりも用いて考えようとします。ですから、受験生としても、「既知の知識」を利用しつつ「自分の頭で考える」ことにより解決を図ることになります。この「既知の知識」になるものが、条文・条文の趣旨・定義、あるいは、類似論点についての知識(判例・学説の理解)といったものになります。殊に、論文試験対策においても述べたように、条文・条文の趣旨・定義は、「法の適用・解釈」の結果を論証するにあたって、「形式的理由付け(形式的論理プロセス)」の「絶対的」出発点(揺るぎのない出発点)になっています。ですから、条文・条文の趣旨・定義を出発点として、きちんと筋道を立てて思考すれば、大きく間違えてしまうことはないといえます。
 したがって、条文・条文の趣旨・定義については、口述試験においてはA「未知の問題」を考えるときの「思考の出発点」としての重要性があることから、完璧に押さえておく必要があります。

口述試験は、(a)法律問題を口で「対話」する試験
口述試験は、(c)「既知の知識」を利用して「未知の問題」を解答する試験
       ↓
条文・条文の趣旨・定義は、
→ @「『対話』の起点」としての重要性
   A「未知の問題」を考えるときの、「思考の出発点」としての重要性
       ↓
  ゆえに、条文(条文の趣旨も含む)・定義は、完璧に押さえておくこと!!

 3 (III)学者・実務家の思考のライン(相手の考えている流れ)に乗ること。
 口述試験は、(d)「超一流の学者・実務家」に面と向かって試される試験です。試験官は各科目における超一流の学者・実務家であるわけですから、受験生の「知識」が試験官の足元にも及ばないことは、重々承知していると思います。
 では、超一流の学者・実務家は受験生のどこを見ようとしているのでしょうか。また、なぜ激務を抱えている「超一流の学者・実務家」が、わざわざ自分の仕事の時間を割いてまでして出てくるのでしょうか。それは、「将来法曹実務家になるにあたって必要な潜在能力を有しているか否か」を、超一流の学者・実務家が自分の目で見て判断するためだといえます。

 では、法曹実務家になるにあたっての潜在能力の有無は、どうやって見るのでしょうか。それは、法曹実務家と同じ思考方法をとれるかどうかにあるのではないかと思います。すなわち、「法曹実務家と同じような」「論理プロセス」を経て、「妥当な結論」を出すことができるかどうか、にあるといえます。
 ただ、法曹実務家とは異なり、(c)未知の問題を解決するにあたって、受験生のレベルで思考の最初から結論に至るまで全部きっちりと考えることは難しいと思います。そこで、口述試験では、まず未知の問題を考える前提として「既知の知識」が問われ、そして対話をしていく中で、受験生の解答が意味不明のものであったり、間違っていたりすれば、試験官が「ヒント」を出していくことになります。このように、超一流の学者・実務家から、「既知の知識」が確認され、「試験官からの思考のヒント」を与えられることにより、受験生レベルでは及ばない部分が補充されていき、法曹実務家と同じ思考の土台が与えられることになります。そして、この土台をもとにして、きちんとした「論理プロセス」を経て「妥当な結論」を出すことができたならば、法曹実務家になるにあたっての「潜在能力」はあるといえることになるのです。

 としますと、口述試験においては、学者・実務家の思考のラインに乗ること、学者・実務家と同じ思考を追いかけてゆくことができるかが、みられていることになります。そして、「学者・実務家の思考のライン(学者・実務家の作る流れ)に乗る」ことができれば、それで必要十分なのです。
 なぜなら、超一流の学者・実務家のヒントを得ながら、超一流の学者・実務家の思考のラインに乗ることができるということは、超一流の学者・実務家と同じ思考をたどっていける力があることを示せることになります。そして、司法試験は、新しい学説を作り出す学者の登用試験ではなく、法曹実務家の登用試験です。とすれば、学者・実務家の思考のラインに乗れば、司法試験受験生としては十分なのです。
 裏を返せば、司法試験は新しい学説を作り出す学者の登用試験ではない以上、口述試験は学者・実務家と「議論をする」場ではないのであって、断じて議論をしてはいけないのです。

 少々変なたとえをすれば、口述試験は、ビッグウエーブに向かって行う「サーフィン(波乗り)」のようなものなのかもしれません。超一流の学者・実務家がビッグウエーブで、司法試験受験生がサーファーになります。そして、「サーフィン(波乗り競技)」としては、「ビッグウエーブに逆らうことなくうまく波乗りができる」のであれば、それで大成功なわけです。逆に、ビッグウエーブに逆らっていこうとすれば、ビッグウエーブにのみこまれるだけであって、サーフィン(波乗り競技)としては無様な姿になるのです。

 4 (IV)口述模試は必ず受けること
 口述試験は、前述の(a)〜(d)の特徴を有する点で、短答試験・論文試験と大きく異なっています。それなのに、いきなり口述試験に臨んでしまいますと、口述試験の特徴を分かっていないまま、大失敗をしてしまう危険性があります。そこで、口述試験を擬似体験しておき、口述試験の特徴を自分の実感として分かっておく必要があります。この「口述試験の擬似体験」となるのが、「口述模試」になります。口述試験は、短答試験・論文試験と大きく異なる特徴を有していますので、「口述模試」は必ず受けておくべきです。学者・実務家によって行われる口述模試を受けてみることで、自分自身で気がつくことも多々ありますし、試験終了後の学者・実務家による講評によって得るものも多々あると思います。
 ただし、口述模試を受けるにあたっては、1つだけ注意をしておかなければならないことがあります。それは、口述模試の定員が限られている関係で、「口述模試の申込」は実際上「論文試験の合格者発表日当日」にしかできない、という点です。したがって、論文試験の合格者発表日当日には、合否の如何に関わらず「口述模試の申込をしに行く準備」だけはしておく必要があります。


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