TDR(東京ディズニーリゾート)


テーマ:夢の力と人の情熱の輪〜なぜTDRは顧客の圧倒的支持を集めるのか〜

序論

T.はじめに…問題意識と課題の設定

T―1.問題意識
 近年、多くの日本企業から連想されるものは、不況、顧客不在、リストラ、不祥事など、マイナスイメージのものがほとんどである。それは、テーマパーク業界では特に顕著に見られる現象であり、TDRとともに日本二大テーマパークともてはやされたUSJも、今やすっかり影をひそめている。しかし一方ではTDRのように顧客の圧倒的支持を集め、成長し続ける企業も存在する。果たしてその差は何なのか―少なくとも、それはUSJの不祥事などという「結果」の問題ではなく、もっと根本的な何かであるはずだ。だとすれば、USJにはなく、TDRにはあるものとは?この問題を考える私の頭に一つのキーワードが思い浮かんだ。それは、TDR、つまり「ディズニーはブランドである。」ということだ。そして、「ディズニーがブランドである」ことは「ディズニーは熱き血の流れる生き物である」こと、「その出発点は創業者のただ一つの夢である」ことを意味する。ここでいう夢とは、単なる希望や意志といった抽象的なものではない。それは創業者や経営者が描く将来のあるべき世界像を指す。そこで私は自問する。一人の人間によって生みだされた生き物、つまり夢が、時空を越えて私たちを魅了するのはなぜか―。それは、その生き物のもつ生命力の圧倒的な強さと、それを育む環境の奇跡のような恩恵という二つのベクトルの中に見出すことができるのではないか。と同時にそこから、USJをはじめ、現在の多くの悩める日本企業が真に直視すべきものも得られるのではないだろうか―という問題意識が深まっていた。

T−2.課題の設定
以上の問題意識から、下記の課題を設定してテーマを考察することとする @なぜ夢にこだわるのか。ATDRの夢とは何か。BTDRはいかに夢を実現するのか。

U.考察方法

 ブランドという軸に依拠する意味で、考察課題を主に経営資源のうちのソフト面に限定し、関連文献・資料からの引用事例でテーマを考察することとする。なお、その際、米フロリダ・ディズニーワールドの引用事例も使用するが、それはその経営ノウハウをTDRが受け継いでいるという主旨のものである。

本論

第一章:なぜ夢にこだわるのか。

 なぜ夢にこだわるのか―それはズバリ、実際にTDRが多くの顧客の支持を集めている、つまり多くの顧客に支持されているという事実に起因する。TDRには、TDRでなければ満足できない、どうしてもTDRの仲間になりたいという人々が後をたたない。しかもそこに、価格の安さといった数字の要素は全く見られない。それは、夢という要素抜きにしては決して説明のつかない問題なのである。以降、この「顧客をひきつけている」という事実を、より詳しく掘り下げていきたい。

第一節:顧客をひきつけるとは?

 それは、その「モノ」が、顧客の頭の中に@圧倒的な存在感とA独自の世界観を持つものとして存在していることを意味する。そして、この@・Aを持ち合わせているものこそ、ブランドとよばれるものであり、その意味でTDRは間違いなく世界のトップ・ブランドの一つといえる。では、TDRを含む全てのブランドのように@・Aを顧客の頭に築きあげることに成功している企業と、そうではない企業の違いはどこにあるのだろうか―。

第二節:ブランドとそれ以外を隔てるものとは?

 結論からいって、それは、何よりもまず、創業者や経営者が将来のあるべき世界像、つまり夢をいかにダイナミックに描けるか(夢の固有性・生命力)、そして次に、後継者や従業員がいかにそれを実現しようという情熱を持てるか(夢が育つ環境の暖かさ)にかかっている。では、これから実際に、この二つの点をTDRの中に見ていこう。

第二章:TDRの夢〜いかに生命力のある夢か〜

第一節:TDRの夢とは何か

 先述したように、ブランドの夢は創業者の夢を原点としており、特にTDRは懇意著もその夢を忠実に掲げている。では、その創業者W・ディズニーの夢とは何か―。それは、ウォルトの次の言葉に集約されるであろう。「人びとの本当に喜ぶ姿。幼い子どもたちの目の輝き。こうしたハピネスをすべての人びとに感じてもらいたい。」私はこれほど勇気のあるダイナミックな夢を描こうとした人物を他に知らない。では、こうしたハピネスという極めて大胆かつ普遍的な夢を、ウォルトはどのように具現化したのであろうか―。それは、その夢のスケールの大きさにふさわしいダイナミックなものであった―。

第二節:TDRの夢の結晶とは何か

 夢の結晶―それはすなわち、先述した夢が具現化したものを意味する。創業者の頭の中に描かれた夢は、何らかの媒体を与えられて初めて顧客に伝わり、実現の可能性を持つ。ウォルトがその夢の結晶に選んだもの―それこそが、現在のTDRのコンセプト・「夢と魔法の王国=マジック・キングダム」である。では、なぜウォルトはこの「夢と魔法の王国」に自らの夢のすべてを託したのか―。そこにはきっと、ディズニーの夢の生命力の秘密が隠されている。次節では、その点にスポットをあててみたい。

第三節:ハピネスとマジックの共存〜なぜハピネスはマジックと結びつくべきなのか〜

 結論からいうと、それはハピネスが、誰もが感じることができる、又、それを感じたいと願うものであるのに対し、マジックは、誰もがそれを獲得したいと願っても、決して獲得できないものであるからだ。人は皆、幸せになりたいという根源的な欲求を持っている。この欲求を夢と置き換えるなら、その「幸せになりたい。」という夢の実現は、必ず現実的な努力や苦労・困難を伴う。人はこうした無限の努力や苦労を重ねながら、一つ一つ、その夢の実現への階段を上っていく。しかし、実はその見方は夢の一部の側面を捉えているにすぎない。夢とは、現実の世界とそうでない非現実の世界とを、自由に行き来するものであり、この非現実の世界の象徴こそが、マジックであるのだ。マジックは一瞬にして、幸せを感じたいという夢を叶えてくれる。この「現実から非現実へのトリップ」、つまりマジックにかかることは、一種の逃避であることは拭い去れない。しかし、それは人が長い人生をいつまでも自らの人生として愛し、生き生きと今を生き抜くためには、必要不可欠な小休憩であり、だからこそウォルトはマジックをハピネスの具現化にふさわしいものであると考えたのだ。TDRのゲートを出て現実の世界に戻ったゲストはこう言う。「明日もがんばってみよう!」非現実の世界での一時の休息は、現実世界での夢の達成(究極的にはそれらは皆ハピネスの追及であろう)にプラスに作用する。その意味でTDRという世界は現実の苦々しさを十分に知っている大人にこそ必要なのかもしれない。そして、そういった「すべての人が求めるハピネスという夢を、すべての人がマジックを通じて味わえるのがTDRという唯一の場所である。」という点にこそTDRの夢の生命力の源がある。「ファミリーエンターテイメント」―この言葉こそ、その源にふさわしい。それは、家族を一つに結びつけ、世界中の互いによく知らない人びとの間に共通の絆を作りあげるとてつもない力を持っているのだ。しかし、先述したように、夢は生き物であり、それゆえそれが育つには環境からの恩恵を享受しなければならない。いくら生命力があっても、つまりいくらその夢に圧倒的なパワーと魅力があっても、それを育て実現するのは人である。そしてそれが実現するか否かは、その夢を受け継ぐ人びとの、それを本気で実現しようとする情熱にかかっているのである。そこで次章では、TDRやそこで働く人が、夢の実現のための環境作りにいかに情熱をもって取り組んでいるかにスポットをあててみたい。

第三章:TDRの夢の実現〜いかに情熱をもって夢を追うか〜

第一節:ゲストにどのように魔法をかけるか?

 ここでは、誰がどのようにゲスト(TDRの顧客を指す。)に魔法をかけるのか(ゲストを幸せにする)のかに焦点をあてることとする。

T.ゲストに魔法をかけているのは誰?

 言うまでもなく、それはTDRの「すべての人」であり、この「すべての人」とは、TDRのキャスト(TDRの従業員を指す。)全員を意味する。ゲストはよく、「TDRのキャストは最高だ。彼らがいなければ、あんなに楽しい時間は過ごせない。」と言う。現にゲストの満足調査でも、キャストの質がいつも上位にランクインされており、やはりキャストの魔法の魅力こそがゲストのハピネスを生み出しているということがいえる。では、彼らはどのようにして、ハピネスという世界で一番素敵な魔法を操っているのだろうか―。

U.キャストの魔法のかけ方は?

 米の学者、トム・コネラン氏は、著書「ディズニー7つの法則」の中で、それについて次のように述べている。「すべての人が語りかけ、歩み寄ること。」―この「語りかけ、歩み寄り」という不思議な魔法は、次の例に最もよく表れている。(この例は、米・フロリダのディズニーワールドの話であるが。)あるキャストが、一人の女性ゲストから次のような相談を受けた。そのゲストの息子は、不治の病いにおかされているが、ディズニーが大好きで、この日は彼にとって最高の一日になるはずであった。しかし、彼はパーク内で何より大切な宝物であるサイン帳―そこには数々の有名人のサインが並んでいたという―をなくしてしまった。その話を聞いたキャストは、自分の業務の手を休めてパーク中をくまなく探したが、結局サイン帳を見つけることはできなかった。そこでキャストは彼の母親から、サインをした人びとの名前、サインの色・大きさ・形など、すべてのサインの詳細を聞くことにした。そしてその後すべての有名人とアポをとり、彼がもらったものと全く同じサインをもらって帰り、彼にプレゼントしたという。このような話は、ディズニーでは珍しいことではない。もしもそのキャストがそうしていなければ、誰か別のキャストがそれをしていたであろう。このように、ディズニーではすべてのキャストがゲストに語りかけ、歩み寄るが、何が彼らをそうさせるのか。それは、そこがディズニーであるからだ。そこはすべてのゲストが不思議の国に迷いこんだような経験をするところ、そして、目一杯楽しむところ―。キャストはそのためにできることならなんでもする。彼らはいつもゲストとの出会いの瞬間を魔法の瞬間にしたいと考え、それを演出する機会を心待ちにしているのだ。しかし、いくらキャストといっても、彼らも人間である。時には不愉快であったり無気力になることもあるかもしれない。しかし、TDRにおいてそのように見えるキャストは一人もいない。これは実にすごいことではないか。おそらく、彼らの一貫した魔法のかけ方を裏で支えているものがあるにちがいないが、果たしてそれは何なのか。

V.キャストが常にベストの状態でゲストに語りかけ、歩み寄るのに必要なことは?

 それは、「一人一人がTDRのキャストであることに誇りを持つこと」と、「一人一人のキャストが自分はTDRのキーパーソンであると自覚すること」である。では、この誇りと自覚は何によって生まれるのか。

V−1.キャストとしての誇りは何から生まれるのか?〜ディズニー精神の一貫性〜
 トム・コネラン氏によると、それは「すべてのものが語りかけ、歩み寄る」ことと、「細部へのこだわりを実感すること」ことによって芽生える。次の例が、前者の「すべてのものが語りかけ、歩み寄る」ことがどういうことであるのかをよく示しているので、紹介したい。テーマパークにメリーゴーランドはつきものだが、もちろんディズニーにもそれはある。しかし、ディズニーのそれが実は本物の23金で塗られていることを知る人は少ない。そもそも専門家でない限り、それが金箔か否かは分からないので、一般のゲストがそれに気づくはずもない。しかし、キャストは全員この事実を知っており、それゆえこの金箔はディズニーにとって特別の意味を持つ。それは、「ゲストの幸せのためならば、どんなことにも全力をあげ、最善を尽くす。」というディズニーのゲストへの姿勢や原点を、キャストに実感として理解させるものであるのだ。キャストは金箔を見るたび、自分は誰のために何のために存在するのかを再確認できる。広いパーク内の清掃という単調な仕事に飽き飽きしてきたキャストに、金箔はこう語りかける。「君は、ゲストのハピネスに貢献するためにここにいるのだろう?そのためには、目には見えないところこそ大事なのだよ。」又、後者の「細部へのこだわりを実感すること」については、次の例が適切であろう。TDRや敷地内のホテルの色調を設計したジョン・ヘンチは、歩道の色調を決める際、太陽が沈むところは季節によって少しずつ異なるという実に細かいところまで考慮したという。魔法をかけつづけるには、どんな細かいこともないがしろにはできないからだ。こういったところから、キャストはディズニーの精神を肌で学び、自分もその一員であることに誇りを感じるのだ。それと同時に、自らの魔法のかけ方を自問し、より高いクオリティを目指していくのである。

V−2.キャストに「自分はキーパーソン」という自覚をもたせるには?〜ディズニーに見る日本的企業モデル〜
 ここでいう自覚は、自信と置き換えることもできる。なぜならば、自信のないキャストにキーパーソンとしての自覚は芽生えないからだ。ディズニーの広いパーク内には、数え切れないほどのキャストが日々ゲストに魔法の瞬間を演出している。そんな中で、「自分こそがキーパーソンなのだ。」という自信・自覚をもつことは、そんなに容易なことではない。 自信は、ただもくもくと一人で仕事をしているだけでは決して生まれない。というのは、自信とは決して自己完結型の概念ではなく、他者からのプラスの反応の蓄積によって形成されるものであるからだ。それゆえ、ディズニーは、この他者からのプラスの反応をキャストが最大限享受できるシステムを持っており、それが、トム・コネラン氏の言う「報い、認め、讃える」制度である。例えば、あるキャスト宛てにゲストからの感謝の手紙が送られてきた場合、その手紙は必ずそのキャストのみならず、その部署の全員にまわし読みされる。そうすることによって、そのキャストは仲間から認められ、讃えられ、キャストとしての自信をつけることができ、又その他のキャストも「自分も次こそは―」という意欲を持てるのである。ここで留意すべきことは、ディズニーがこのようなシステムを確立しているということは、それがいかに「フラットな組織」であるかを物語っているということだ。そこには、「部下だから、上司だから」などという関係や、昇進のための醜い足の引っ張り合いは存在しない。わたしはここに、ブランドとしてのディズニーを見る。それはTDRが、ナイキやメルセデス・ベンツといった世界のブランドに共通の、「フラットな組織構造」を持っているからだ。ブランド企業は一つの夢をみんなで追う「チーム」であり、「ファミリー」でもある。それゆえ、いくつもの階層構造は不要である。ウォルトはよく、キャストにこう言っていたという。「ここではキャストはみんな平等だ。ゲストにハピネスを与えるにはみんな友達でなければ―。」

第二節:魔法の呪文を間違って唱えないように〜キャストはなぜいつも正しい呪文を唱えられるのか?〜

 前節では、すべてのものからの語りかけや細部へのこだわりといったディズニー精神、また、互いに尊敬しあう仲間からの賞賛によって、キャストとしての誇りや自覚を持ったキャストが、ゲストに語りかけ、歩み寄りことによって、ゲストにハピネスという魔法がかかることを述べた。しかし、ここで一つの疑問が生ずる。キャストは一人一人個性を持った人間であるし、ゲストへの接し方に対する考え方もキャストにより様々である。いくら誇りや自信を持ったキャストでも、時にはゲストへの接し方に迷ったり、自分は正しいと思ってとった行動が実はゲストを不快にしてしまう可能性もおおいにある。もしもこういったケースを無視し、キャストを野放しにしておくと、次第にゲストの不満が蓄積され、やがてTDRはゲストがハピネスを感じる場所ではなくなってしまう。だからこそ、TDRは何よりも一貫性、つまりいつまでもディズニーらしさ(ハピネス、マジックというディズニーの原点・夢)を失わないことを重んじる。そして、この「一貫性」に大きく貢献しているのが、TDRの「法律・掟」ともいうべきマニュアルの存在である。マニュアルと聞くと私たちは、画一的・機械的というイメージを抱きがちであるが、TDRのそれは、TDRの独自性、つまりハピネス・マジック・ドリームというコア・コンセプトを維持するのに必要不可欠なものだ。又、それはゲストにとってはいつも正しく魔法の呪文を唱えるための指針となる。例えばその顕著な例が有名な「SCSE」であり、キャストは、この法則に順ずる限り、大きな間違いを犯さずにすむ。しかし、決して忘れてはならないことがある。それは、彼らがいかに正しく呪文を唱えても、その魔法自体に問題があれば、ゲストに魔法をかけることはできないということだ。つまり、魔法は常に「効く」魔法でなければならないのである。では、TDRはこの「効く」魔法をどのように管理しているのであろうか―。次節では、その点に着目したい。

第三節:魔法が魔法であるために〜なぜTDRのマジックはとけないのか?〜

 TDRの魔法がとける―それはゲストがTDRでハピネスを感じられなくなること、すなわちTDRの夢の終わりを意味する。ゲストの価値観が多様化するこの時代、昨日までの勝者がいつ「裸の王様」になるとも限らない。ゲストが魔法にかかるのは、ゲストが「これこそ本当に自分が求めていたものだ。」と感じることに他ならないが、それは「入り口を重視する」、「革新を続ける」、ことであるが、そのためには、まず「ゲストの声を聞く」、「スーパーゲストの声を聞く」ことから始めなければならない。

T.ゲストの声を聞く

 TDRの母体、米フロリダのディズニーワールドでは、ゲストの声を直接聞くことを専門とするキャストがいる。彼らは「スーパー・グリーター」と呼ばれ、常にノートPCを持ち歩き、ゲストから聞いた意見をすぐにその場で打ち込むのだ。そしてそのデータは毎週ごとに集計され、キャストにフィードバックされる。これにより、ゲストを満足させる目標にどれだけ近づいているかを判断するのである。しかし、それだけでは情報が偏ってしまうし、実はディズニーにはもっと貴重な情報源があるのである。

U.スーパー・ゲストの声を聞く

 スーパー・ゲストの声―これこそ、TDRにとっての最も貴重な情報源といえる。このスーパー・ゲストとは、ブランドでいうところの「スーパー・カスタマー」であるが、それは文字どおりゲストを超えたゲスト、つまり特別なゲストを指す。TDRの特別なゲスト―それはTDRのキャスト自身に他ならない。多くのキャストは、休日になるとゲストに姿を変えてTDRを訪れる。彼らは当然他のどのゲストよりもTDRに詳しく、どこに着目すればよいかを明確に認識している。しかも、ゲストとしての自分の声が、明日にはキャストとしての自分の耳に入ることになるため、いいかげんな意見は出てこない。それゆえTDRにとって、彼らからの情報は単なるデータを超えた特別なものであるのだ。こうして、ゲストやスーパー・ゲストの声をもとに、TDRが行うべきこと―それは、新しいゲストに魔法をかける準備をしつつ、既存のゲストに「効く」魔法を作り続けることの二点である。

V.TDRへようこそ!新しいゲストの皆さん〜入り口を重視する〜

 ここでの「新しいゲスト」とは、はじめてTDRの世界を経験する小さなゲストを意味する。これは、「いかにブランドの老朽化」を防ぐかといった問題に関わってくるのであるが、その有効な策が、この「入り口を重視する」こと、つまり小さなゲストとの最初の出会いを重んじることなのである。幼き日のTDRでの良き思い出は、必ずのちにゲストのロイヤリティの形成にプラスに働きかけるからだ。しかし、いくら新しいゲストの獲得が大切であるとしても、既存のゲストに「効く」魔法をかけ続けることを忘れてはいけない。それは、次のように行われている―。

W.あなたはまだTDRのすべてを知らない〜革新を続ける〜

 ここでの「あなた」とは、TDRの既存のゲストやロイヤル・ゲスト(リピーター)を指す。彼らが魔法にかかり続けるには、彼らがTDRで何らかの新しい発見、驚き、興奮といったものを味わう必要がある。そして当然それらは皆、彼らのハピネスを生み出すものでなければならない。ここで威力を発揮するのが、先述した「細部にこだわること」である。例えば、TDRでは、その「細部へのこだわり」はパーク内の城の建て方にも反映されている。実際よりも城を大きくみせるため、上部の石ほど小さいものにしてあるのだ。ゲストは初めてTDRを訪れたときは、それに気づかない。しかし、何度も足を運ぶうち、ふとしたことがきっかけで、それを発見する。その発見を、TDRはパーク内の乗り物やアトラクションといったすべてのものに用意しておくのだ。ウォルトは言った。「私たちのやり方には何の秘訣もない。ただ新しい扉を開き、新しいことをしながら前進してきただけだ。好奇心の命ずるままに。」そして、この「革新」の目的が、TDRは魔法によってゲストにハピネスを感じさせる場所であり続けるという夢を一貫して追うことにあるということを、私たちは決して忘れてはならないだろう―。

結論

 以上、第一章から第三章にわたって、TDRが多くの顧客の支持を集めている理由を自分なりに分析してきた。そして分かったことは、TDRにはやはり従業員(キャスト)を奮い立たせ、顧客を歓喜させる固有の夢があり、その夢を実現させようという情熱があるということだ。ディズニーが顧客の圧倒的支持を集めるのは、その夢が、「すべての人びとにハピネスを感じてもらいたい」というあまりにも単純で純粋な、しかしそれゆえ何よりも熱く強い生命力を持つものであるからだ。そして、その夢を実現する人びとが、その夢の熱さに匹敵するだけの情熱を持ちあわせているからだ。人々は、ハピネスという夢を求めて、そのような人間的な心をあらわにして、TDRを訪れる。ならばそのような人々を迎える側も、ハピネスを生み出し、それを与えることを喜びとするような人間的な人々でなければならない。しかし、TDRを訪れる人々は、そのハピネスという夢を一人で見ることを望んでいない。彼らはそこでは、そのハピネスを家族やまわりの人々と共有することを望んでいる。そしてそこにいる間は、TDRの魔法によって、本当に家族の結びつきや家族のような絆を感じられることを知っている。ならば、その魔法をかける人々も、人との結びつきや家族らしさやその暖かさがいかに人間にとって大切かを知っており、そのハピネスという夢を実現する情熱を互いに共有できる人々でなければならない。ディズニーのマイケル・D・アイズナーは言う。「われわれをみちびいてくれるもの、それは根底においてはディズニーが、ただひたすら人々の笑顔が見たいだけの愚かしいほどお人よしの「家族企業」であることを我々自身がわかっているということである。」ここでいう「家族」とは、単に現在の仲間同士の横つながりのみを意味するのではない。それは、W・ディズニーという一人の人間と、彼が描いたハピネスという夢の熱き血を受け継ぐ者との精神的つながり、つまり「伝統」をも意味する。一人の人間の一つの夢が、時空を越えて多くの人々の心をひきつけ動かし、そして今度はそれらの人々が、その夢を実現へと動かしてゆく。この、夢の力とそれを叶えようとする人の情熱の輪―これこそTDRが今なお、いや、これからもより一層顧客の圧倒的支持を集め続ける確固たる根拠であり、同時にここにこそ現在の悩める日本企業が学ぶべき多くのことを見出せるのではないだろうか。今回のレポートで、そのことに気づかされた意義は大きい。

参考文献

・トム・コネラン 著/仁平和夫 訳「ディズニー7つの法則」1997年 日経BP社
・デイブ・スミス、スティーブン・クラーク 著「ディズニークロニクル1901−2001」   2001年 講談社
・小宮和行 著「東京ディズニーランド脅威の経営マジック」1989年 講談社
・志澤秀一 著「ディズニーランドの人材教育」平成6年 創知社
・藤井剛彦 著「東京ディズニーランドの魔術商法2000年度版」 1999年 エール出版社
・片平秀貴 著「パワー・ブランドの本質」 1997年 ダイヤモンド社