上記の論題を受けて、下記のテーマで考察することとする。
序論
T.はじめに...問題意識と課題の設定
T−1.問題意識
近年の日本社会・市場を見た場合、その特徴は、不安・孤独型社会と自覚的消費者の出現の二点に集約される。そして、これらの点こそが、我が国における長引く不況の根本的要因であり、多くの企業が真に直視すべき問題なのだ。かつて、企業には、「つくれば売れる」という「幸福」な時代があった。しかし、現代において、もはやそのような考え方は幻想でしかない。自然環境問題、雇用問題、教育問題、医療問題...これまでにない多くの不安因子に囲まれ、同時にグローバル・ボーダレス社会の進展に伴い価値観の多様化した社会に生きる生活者・消費者は、かつての「単に商品そのものや、そのベネフィットを買う」といったライフサイクルをやめ、本物の安心・共感を求めて、自らの不安・問題を解消・解決してくれ、又、自らが真に共感できる商品に対して代価を支払うライフサイクルを採用し始めている。つまり、彼らは商品の意味・理念を買っているのだ。このように、もはや、安価な価格やベネフィットの豊かさのみでは消費者をひきつけられなくなった現代社会―企業の意識以上に、消費者の意識は急速に進み、そのギャップが近年の不況という現象を生み出している。このギャップをうめ、再び消費者との間に良好な関係を築き上げるために、今、何をどうすべきか―それは、21世紀型の新しい理念・理想、つまり、「不安・孤独の解消された安心・共感の社会」に向けて、現存のシステムを改革していくことに他ならない。 そして、その既存のシステムの改革・つまり新しい社会システムの形成に大きく貢献するのが、この論文のテーマであるユビキタス・ネットワークなのであり、それゆえ私たちは、その目指すべき方向性=ゴールの所在と、その実現可能性=いかにルートを設定するかを、明らかにしなければならない―という問題意識が深まっていた。
T−2.課題の設定
以上の問題意識をふまえ、下記の課題を設定して考察することとする。
○ユビキタス・ネットワークは何を実現すべきか?=ゴールはどこか?
○ユビキタス・ネットワークはそれをどのように実現するのか?=ルートはどうか?
○ユビキタス・ネットワークがつくる未来社会の展望
U.考察方法
関連文献(野村総合研究所著「ユビキタス・ネットワークと新社会システム」2002年 野村総合研究所etc...)・資料からの引用事例で、テーマを考察することとする。
第一章 ユビキタス・ネットワークは何を実現すべきか
序論でも述べたように、それは「不安と孤独」という二つのキーワードで示される。前者のキーワードは、「現代・未来社会は果たして持続可能な社会なのか?」という問いを意味し、後者のキーワードは、「価値観が多様化・流動化した現代社会の中で、真に自らが共鳴・共感できるものが欲しい」という要請を意味する。これらの問いや要請を持つ消費者を、一般的に「自覚的消費者」や「新しい消費者」と呼ぶが、彼らがかつての旧い消費者と決定的に違う点は、商品購入の基準をどこにおくかという点にほかならない。東京大学経済学部教授の片平秀貴氏は、著書「パワー・ブランドの本質」の中で、両者の特徴を「旧い消費者=大・同・新/新しい消費者=小・異・義」と定義している。つまり、「大企業・有名企業であるか否かを商品購入の柱とし、商品の独自性には目を向けないにもかかわらず、見かけだけの「新商品」にとびつく」かつての消費者とは異なり、新しい消費者は、企業の規模よりも、@商品のオリジナリティ(「マイ・スタイル」の追求=自分らしいかどうか)と、A企業全体の社会環境への姿勢を重視するのである。そして、この@Aこそ、先述した「共感・安心」そのものであり、こういった消費者が多くを占める社会を、「理念型経済社会」という。理念型経済社会は、「まず、社会が一つの目標・ゴールを設定し、そのゴールに向けて、目標達成のプランを企業や自治体が提言・提案(ルートを設定)し、消費者がそれを支援する」というサイクルから成るが、ここでのゴールこそが、「安心・共感に満ちた、持続可能な、夢のある未来社会の形成」であり、その実現のために設定されるルートが、ユビキタス・ネットワークに他ならない。以下、この「ゴール」と「ルート」の具体的中身について、考察を深めていくこととする。
先述したように、問題は、「不安と孤独の充満」であり、それゆえ克服すべき課題は「不安と孤独の解消=安心と共感の提供」である。
T.不安とは何か
NRIの「生活者一万人アンケート調査」によると、健康問題・社会保障問題・環境問題・自動車による事故や渋滞の問題・教育問題・雇用問題など、消費者が直面する不安は、実に多岐に及んでいる。野村総合研究書では、これらの不安の解消とユビキタス・ネットワークの可能性との関連をふまえ、これらの不安を「健康・社会保障」分野、「環境・事故」分野、「教育、雇用」分野等に分類し、それぞれの分野に対し、個別のアプリケーションを設定している。本論文では、この中から特に「健康・社会保障」分野に焦点をあて、考察することとする。
U.孤独とは何か
それは、これまで企業がいかに一人一人の生身の顧客の顔を見ずに「マス(大衆)にいかにウケルか」を戦略の軸にしてきたかを物語っている。生身の顧客を設定せずに作られた商品には主張・メッセージ性がなく、新しい消費者が求める「独自性」、つまり「これこそ自分が求めていたものだ」という共感を呼び起こす力はない。その意味において、今後企業は、「誰にでもウケル」ではなく、「『これだ!』と定めた顧客に『これだ!』と思わせる」商品を提供することを考えねばならなくなってきており、そこにユビキタス・ネットワークのもうひとつの活用領域があるのである。 以上、ユビキタス・ネットワークが解決・実現すべき課題について見てきたが、次章では、その課題をユビキタス・ネットワークがどのように解決するのかに迫ってみたい。
ここでは、「安心と共感に満ちた社会の形成」というゴールに向かうルートとしてのユビキタス・ネットワークの中味と、そのネットワークが生む新社会システム(野村総合研究所は、これを「ユビキタス社会システム」と定義している。)について述べることとする。
ユビキタスとは、ラテン語で「同時にいたるところに存在する」、つまり「偏在する」という意味である。これまでのIT環境がPCに「偏った」ものであったのに対し、これからはTV、携帯電話、車など、あまねく存在する端末を利用したネットワークの活用が可能となるのであり、このような、「偏在」ならぬ「遍在」するネットワークをユビキタス・ネットワークという。では、この「偏在」から「遍在」への変化は、どのようにして生まれるのか―それは複合的な技術の加速度的な進化によるものであり、その主要な技術要因は以下に示す5点である。@ブロードバンドによる動画を用いた情報量豊かなコミュニケーション。Aモバイル端末の利用による「いつでもどこでも」の実現。B常時接続による自然なコミュニケーション。Cバリアフリー・インターフェースにより、子供や高齢者・障害者も容易に利用できる。DIpv6による、IDを持てる端末数の大幅な増加。では、次に、これら5点の技術要素を持つユビキタス・ネットワークをベースに構築される新しい社会システム、つまりユビキタス社会システムについて見てみよう。
それは以下の図によって示されるとおりである。
〔第一層〕ユビキタス・ネットワーク:前節参照
〔第二層〕ユビキタス社会システム・プラットホーム:第三層の様々なアプリケーションを短期間で世の中に普及させ、それらの「事業性」や「利用者起点」を実現するための「共通土俵」
〔第三層〕ユビキタス・ネットワークをベースとし、さらにその上の社会システム・プラットフォームを活用して展開される個々の社会システムのサービス
以上がユビキタスネットワークとその社会システムの概要であるが、具体的なアプリケーションを設定しないと新たな社会システムの姿は見えてこない。そこで次章では、「ユビキタス社会システムアプリケーション」として、多くの社会システムの中から二つの社会システムを選び、そのビジネスモデルを具体的に示すとともに、それがもたらす豊かな未来社会について検討しよう。なお、その選ばれた社会システムは、第一章において述べた、「不安」と「孤独」の解消=「安心」と「共感」の提供という目標・ゴールの達成のためにこそ機能するルートであることはいうまでもない。
ここでは、第一章で述べた、健康・社会保障分野における「不安」を「安心」に変えるルートとして「ユビキタス健康安全システム」を、又、「孤独」を「共感」に変えるルートとして「ユビキタス顧客満足システム」を提案する。
T.何が求められているか=システムが活用されるべき領域はどこか
それは、@健康寿命の延伸による医療関連財政負担の増加A遠距離介護と独居老人の介護問題の二点である。まず、@についてであるが、高齢化社会の進展とともに増加の一途をたどる国民医療費は、現在年間30兆円を超えるまでに達している。そしてその背景には老人医療費の増大があるわけであるが、このような国民医療費増大による財政圧迫等の問題を解決する方向として、健康寿命の長い高齢化社会を目指し、国民の健康管理と疾病予防の充実により国民医療費を減少させていくことが考えられる。これは、国民の直接的負担の軽減につながることはいうまでもない。そこで、この「いかに国民の健康管理と疾病予防の充実を図るか」という点を、ユビキタス・ネットワークを活用すべき領域としたい。次にAについて。わが国の高齢化が急速に進む中、介護や介護保険制度に問題が生じている。特に、都市に住む子供が離れた地域の親の面倒をみる遠距離介護の増加や、老人の自宅での孤独死の問題は切実であり、遠距離介護や独居老人のケアを支援するシステムの充実が真に求められている。では、ユビキタス健康安心システムは、求められている「@健康寿命の延伸による医療関連財政負担の軽減とA遠距離介護サービスの 質の向上」をどう実現するのか―次節ではその点に迫ってみたい。
U.システムはどのように活用されるべきか
U−1.システムの定義とその特長
ユビキタス健康安心システムとは、ユビキタス・ネットワーク上で日常生活における健康・安心にかかわるサービスを包括的に提供するコンシェルジェ機能を持ったサービスのことであり、その最大の特長は、本システムがコンシェルジェ型サービスであるという点にある。コンシェルジェとは、個別の宿泊客向けに特別の手配を行うホテルマンで、彼らは、各顧客の人柄・行動パターン・嗜好を把握し、各顧客に応じたサービスを提供する。では、このような機能を持った本システムのコンテンツは、実際にはいかなるものか―
U−2.サービス内容
それは、以下の表に示すとおりである。
T.何が求められているのか
先述したように、これまで企業は個々の顧客を想定せず、広く大衆に向けてマーケティングを行ってきた。しかし、そのような戦略が「効かなくなった」今日、いかに適切な顧客に適切なモノを提供し、彼らの共感を勝ち取るかが問われている。
U.システムはどのように活用されるべきか
大阪府枚方市の某スーパーマーケットでは、ICチップの活用により、顧客情報のほとんどを管理している。一枚につき十個以上の機能が内蔵されたカードのおかげで、生身の顧客像がより鮮明になり、誰に何を売るのかが明確化したという。