金井ちゃん放浪記
第2章:岩井にて
「ねえあと何駅くらいー?まだつかないのー」
金井ちゃんが前に座っている梅に聞いた。
「あと30分くらい。」
「ふー」
金井ちゃんはため息をついた。
結局、千葉ちゃんの心配をした梅と佐藤、そしてジョイント資金の心配な金子、あとイヤイヤ連れてこられた金井ちゃんの4人全員、内房線に乗ることとなった。
電車の外に見える景色はもう真っ暗であまり見えない。
ちょっと寝ようかなー。
金井ちゃんは思った。遅くまで起きているのは髪の毛にも悪い。
別に岩井についたら誰か起こしてくれるでしょ。
当事者意識の一番ない金井ちゃんは寝始めた。
「おい金井ちゃん、ついたぞー。」
岩井駅に着くと梅が起こしてくれた。
「うーん、やっと着いたのー。」
岩井駅はもう10時過ぎであった。
辺りを探そうとしたがもう暗くて探すどころではなかった。
「とりあえずかわきん行こうよ。」
佐藤が言った。
かわきんの近くまで来ると梅が急にそわそわしだした。
「あー夏まで来ないと思ってたのに。」
かわきんの事務所にはいるとママさんがいた。
「あーら、ウメちゃん、お久しぶりねー。どうしたのー。」
「あ、こんばんわ、あの、うちの千葉って奴こっちに来てませんか。」
「どんな子ー?」
「首の長いひょろっとした変な奴です。」
梅が千葉のマネをしながら聞いた。
「あーら、そんな子来てないわよー。でも大きいお兄さんなら、来てるわよー。」
「おう、おめーら何しに来たんだよ。」
食堂から見知った顔が現れた。
それは白畑であった。
「あれー、白畑ー、どおったのー。」
金子が意味ありげな顔でにやにやしながら言った。
「お前等こそどうしたんだよ。」
「ちょっと金井ちゃんのせいで千葉が失踪しちゃったんだよ。それでこっち来てないかと思って。」
梅が言った。
「こんなとこまで来るわけないじゃん。お前等バカだなー」
「で何でお前がいるんだよー。」
佐藤が言った。
「いや別に、車でドライブしてたついでによっただけ。」
「ふーん、ドライブねー。」
金子がニヤニヤして言った。
「そうかー千葉来てないかー、どうしよう、終電ないしなー」
「お前等どうするの?ペンションなら泊まれるってママさんが言ってるけど。」
「んー、いいよ、白畑車でのっけ帰ってよ。」
梅が言った。
「えっ俺今日泊まってく。」
「んー、帰んないの?」
梅はなぜか、とても帰りたそうだった。
「ウメちゃん、泊まっていくんでしょ?」
「あっ、はい泊まらせていただきます。」
ペンションにはいると梅が騒ぎ出した。
「あー夏までママさんに会うとは思ってなかったのに」
「梅なんか嬉しそう。」
金井ちゃんがぼそりと言った。
「あー、べつに嬉しくねーよ。」
梅がいつものようにプロレス技をかけてきた。
金井ちゃんが倒れたところに白畑と佐藤も金井ちゃんのズボンを脱がそうとしだした。
「うぇ〜い、金井ちゃーん」
「ちょっと〜、やめてよー、もー。」
金井ちゃんは何か危険を感じた。
上を見るとやはり金子であった。
金子は倒れた金井ちゃんを見下ろしてにやにやしている。
やはりこれもいつものように金子が嬉しそうにのしかかってきた。
「ちょっとー、おいデブ、どけ!」
急に梅の足が動いて金井ちゃんのメガネに当たった。メガネが外れてそこに金子が被さる形になった。
「あーメガネがー!」
「メガネ、メガネ、金子はやくどいてよー」
金子が動くとメガネがつぶれてしまっていた。
「ちょっとー、またかよー。」
メガネはレンズは壊れてなかったものの縁が曲がってしまっていて掛けられる状況ではなかった。
「金子、弁償しろよ。」
金井ちゃんの口調が荒くなった。
「んー。」
金子がちょっととぼけた。
「何で人のもの壊すのー信じられない。」
千葉のポケットピカチュウを壊してあんな態度をとっていた金井ちゃんが責めた。
不意に誰かが言った。
「メガネが壊れた。目がねー」
「ン?誰だいま千葉のマネしたヤツ?」
しかし、誰も千葉のマネをした様子はなかった。
みんな静かにしたがなんの声もしなかった。
「今、メガネがどーだとか聞こえたよなー。」
白畑が言った。
「あー、そんな声したか?いいよ、ねーしらはたー酒持ってきてよー」
この隙にメガネの話題から話をすり替えようと金子が言った。
「酒は避けたい。」
「どっかに千葉がいるぞー!」
梅が押し入れを開けると中から千葉が飛び出してきた。
「キー!!!思わずギャグを言っちまったぜ。みんな、あれほど探すなと言っておいたのに。何でかわきんにいるとわかったんだ?」
「いや、千葉だけに千葉にいるかなーと」
「ナニー、ヌネノ。俺の行動パターンが読まれているなんてー。」
「千葉ちゃんジョイント会計のハンコと通帳どこにあるのー」
と金子が言い終わる前に千葉ちゃんが金井ちゃんに襲いかかった。
「ピカチュウの恨みー!」
千葉ちゃんは金井ちゃんをひっかこうとしてきた。
「やめてよー。」
戦う意志を見せない金井ちゃんに千葉ちゃんの手がゆるんだ。
しかしそれは金井ちゃんの罠であった。
隙を見せた千葉ちゃんの首にノールックの地獄づき、いわゆる金井パンチをはなったのだ。
見かけによらず強烈で、急所を狙い澄ました金井パンチはもともと体のほそい千葉を倒すには十分すぎた。
「・・・!」
声を上げることもできず千葉は膝を落とした。
「千葉ちゃんが引っかいてくるから悪いんだよー」
何事もなかったように金井ちゃんが言った。
「金井ちゃんにはかないませんなー。」
結局ハンコと通帳は家に置きっぱなしであったらしく、千葉も金井ちゃんには力ではかなわないと解ったらしく、ピカチュウのことは何も言わなくなった。それどころか金井ちゃんに服従したらしく金井さんと「さん」付けで呼ぶようになってしまった。
朝ご飯を食べながら金井ちゃんは考えていた。
(もー、やっと帰れるよー。帰りは白畑に車で送ってもらえるからいいや。そう言えば白畑の車は確か五人乗りだったからー。
一人二人・・・一人多い!)