金井ちゃん放浪記
第四章:さらば岩井
残されたのは金井ちゃんと金子の二人だけであった。
(何で金子なんかと一緒に帰ってやらなくちゃいけないんだよ。)
金子は、そんな金井ちゃんの気も知らずキヨスクで官能小説を買って読み出していた。
ふいに金子が話しかけてきた。
「そうだ、金井ちゃん路線バスで帰らないかい?」
「エーいいよー」
金子はちょっと調べてくると言ってバスの時刻表のところへ行ってしまった。
「おう、金井ちゃんじゃん」
後ろで聞いたことのある声がした。振り返るとそれは石井であった。2年前とは少し感じが変わったようだ。前より少しやせたようだ。
「久しぶりー。何でこんなところにいるの」
「ン、オレ?オレ大紺屋で働いてるんだよ。今休み時間でマラソンやってるところ。」
「ふーん」
「で何で金井ちゃん岩井にいるんだよ。一人?相変わらず(注)グリってるの(死語)」
(注)グリークラブで活動しているという意味
「うん、みんなで来たんだけどボクと金子のこと2人だけおいてみんな帰っちゃったんだよ。」
「ま〜じ〜で。」
「ほんとはボク来たくなかったのに無理矢理連れてこられてさーそれでボクのこと置き去りにしてみんなで帰っちゃうんだよ。みんなイヤらしい奴らだよねー。自分のことしか考えてないんだよあいつら。」
最近の金井ちゃんの偽善者ぶりを知らない石井はそれを真に受けたようだ。真剣な顔で金井ちゃんに言った。
「そんな奴らだよなー、俺はやめる前から薄々わかってたけどね。金井ー、そんなサークル辞めろ」
「うん、悩んでるんだよそのことで。上司(もとセカンド)はうるさいしさー麻雀で負けた金返せとかさーストレスすごいたまってるんだよー」
「あー、ストレスたまってそうだよなー、髪の毛とかちょっと薄くなったような感じだもん。」
金井ちゃんは言われて少しムカッときた。
「そう言えばみんな元気ー、千葉とかまだ辞めてないのー」
「うん、まだ辞めてないよ。」
「ふーん、相変わらずグリってるんだー。」
「じゃ、そろそろ浜掃除の時間だから帰るわ。じゃあグリー辞めたら大紺屋来いよ。」
「金子もうすぐ来るけど」
「んー・・・別にあいつとは話すことないからいいや。じゃあな金井ちゃん」
石井は行ってしまった。
切符を買うとき金井ちゃんは迷った。
(どうしようかなー。キセルできるかなー)
いいやキセルしちゃえ
金井ちゃんは一番安い切符を買った。
金子の切符を見たところ金子もキセルする気のようだ。
内房線はガラガラでほとんど人がいなかった。
金子と向かい合うようにして座った。最初金子がちょっかいを出してきたが金井ちゃんが無視していたので飽きてきたのか、官能小説を黙々と読み始めた。金井ちゃんは疲れて眠りはじめた。
金井ちゃんが起きたときにはもう東京駅に着いていた。
「金井ちゃんメシどうすんの?」
中央線に乗りながら金子が聞いてきた。
「ん、どうしよっかなー。」
(このまま家に帰ってもやることないしなー。)
「国分寺行くー?」
「いいよ」
「やっと戻ってこれたよー。何であんな遠くまで行かなきゃならなかったんだよ。」
「金井ちゃん、キミねー。キミが原因作ったんだよ。」
そろそろ中野駅だ。そう言えば今日の演奏会は中野ゼロだった。
(まあ、あの五人はたどり着けないだろうけどね。)
金井ちゃんの頭の中には車がパンクして困っている白畑達の姿が頭に浮かんでいた。走行中にパンクすれば大事故にもなりうる。
国分寺に着くと金井ちゃんはキセルをしていることを思い出した。
あんな遠くまで行ってやったんだもん。キセルして当然だよ。
金井ちゃんが改札を定期で出ようとした。
「ピンポーン、ピンポーン」
最近はキセル防止の改札が導入されているらしく改札がしまってしまった。
(なんだよー、こんなの。知らないよー)
金井ちゃんは強引に閉まっている改札を出ていった。
「お客さーん。何やってんですか。ちょっと切符見せて下さい。」
たまたま駅員さんが改札の前にいて金井ちゃんを取り押さえた。
(しまった!)
金子を探すと金子は駅員のいる改札のところからどさくさに紛れて出ていったようだ。
金子は知らんぷりしてポケットに手を突っ込みながら向こうの方に歩いていっている。
「あいつもキセルしてます!!」
金井ちゃんは金子を指さして大声で言った。
「あの人も?ちょっとあの人連れて来てー」
駅員さんが別の駅員に言った。
「ちょっと駅員室来てくれる?」