或る青春の日記
著者 北杜夫 本体価格 定価1450円
発行年月日 1988年11月7日 出版社 中央公論社
北杜夫が東北大学医学部に入学した昭和23年4月から昭和28年までの日記。著者によってある程度削除されている部分もあるが、「その当時は私の分裂気質から、激しく感傷的な部分が多く、年老いた私の目から見ていかにも恥ずかしいが、あえて発表することにした」と記されている。
 この『或る青春の日記』は絶版になっており、書店では手に入らない。どうしても、この本を私に読ませたい、と知人が言うので古本屋を探し歩いたものだ。偶然、デパートで開かれていた古本市に於いてこの本を見つけたときは、とても嬉しかったことを覚えている。
 最初、散文的な文章に戸惑い、読むペースも遅くなってしまった。現実の出来事の合間に夢の話や、詩などが書かれていたからだ。しかし、人の日記を読む面白さに次第に夢中になっていった。ホームページの日記サイトが人気だというのも、分かる気がする。いつも素敵な本を紹介してくれる知人に感謝しつつ、多くの詩の中で、気に入った1編を紹介しておこう。

   人間

 ある時くらげが言ひました
 <こんなにぐにやぐにやしてるから
 いくら鉛色の波にもまれても
 あたしや平気で漂ふばかり……>

 ある時コガネムシが言ひました
 <こんなに翅鞘が堅いから
 いくら硝子にぶつかつても
 あたしや平気で猪突する…>

 神様が僕に言ひました
 <あらゆる意味で柔らかくも堅くもなく
 人間を造つた俺のはからひを
 まあようく考へるんだな>
2003/04/29