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大西ゼミ論文集
 2002年度に行われた国際関係論(基礎)演習の授業に於いて提出されたゼミ論を掲載しています。皆さんに読んでいただき、感想や意見などを頂ければと思います。感想・意見などは掲示板にどうぞ♪
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核拡散の危険についての考察

東北大学3年 荒木大輔


はじめに

 

広島に原子爆弾が投下された時の凄まじい破壊力は、核兵器の恐ろしさを世界に知らしめた。その時から、人類は核兵器使用によって明日にも地球が壊滅してしまうのではないかという恐怖の下に生きることになった。そして、人類は核廃絶を願い、核兵器の拡散防止と核軍縮に取り組んできた。

核兵器廃絶を求める声は、長い間被爆者をはじめ多くの人々から強くあがっていた。その中には、かつて核兵器に関する実際の作戦計画および指揮命令に関わっていた退役軍人による核廃絶の訴えもあった[1]。また、199822日には、カーター元米大統領、ゴルバチョフ元ソ連大統領、日本の5人の元首相など46カ国117名もの文民指導者が、核兵器廃絶に向けての声明を発表した[2]

しかし、これらの願いとは反対に、現在も核拡散の危険性は依然高く、核軍縮もなかなか進んでいない。核兵器は、たった一発でも何百万人もの人々を殺すことができる大量破壊兵器である。私はこのような恐ろしい兵器の存在自体が人類の滅亡につながるので、そのようなものは廃絶しなければならないと強く感じる。

そこで本稿の目的を、特に核戦争の危険を増大させる要因の一つである核拡散をいかにして防いでいくかについて考えることとする。まず、核拡散とは何かについて明確にする(序章)。次に核拡散が人類の存続にとって大きな脅威となることを念頭において、核拡散の危険性が高まっている現在の状況を指摘すると共に(第一章、第二章)、いかにして核拡散を防いでいくかについても考えていく(第三章)。

 

序章、核拡散とは何か

 

ここでは本稿における核拡散の定義を明確にしていく。

19703月に発効した核不拡散条約(NPT[3]ではその前文において、核戦争の危険を増大させるのが核兵器の拡散であるから、核兵器の保有国を5大国以上に広げないようにすることを目的として掲げている。つまりNPTで想定している核拡散とは、核保有国としてNPTに認められている5大国以外の国家が核兵器を保有することを指している。

しかし現在、5大国以外に事実上、核兵器を保有する国としてインドや、パキスタン、イスラエルなどが挙げられている。これらの国家はNPTへは加盟していない。また、核兵器を保有する可能性がある主体も、国家のみならずテロリスト集団などが挙げられる。

こうした現状を踏まえたうえで、本稿における核拡散の定義とは核保有国5大国と事実上の核保有国であるインド、パキスタン、イスラエル、以上これら計8カ国以外の国家で、NPTに加盟している国家あるいはNPTに加盟することのない国家以外の主体(例えばテロリスト)が核兵器を保有することとする。

本稿ではこうした核拡散の定義のもと、現在ある核拡散の危険性について、またいかにして核拡散を防いでいくかという2点についてについて論じていく。

 

 

 

第一章、核に関連した闇取引は核拡散をうむ

 

核に関連した闇取引とは、核兵器を製造するのに必要不可欠なものを、非合法的な市場において手に入れることを言う。核兵器の製造には、核兵器の原料になるウランやプルトニウムなどの核物質、核兵器を製造する技術、核兵器に関する特殊な知識を持った専門家が必要である。これら核兵器製造のための三要素が、現在闇取引によって拡散する危険にさらされている。

ここでは、第一節 秘密裏に核兵器を作るには闇取引を用いることが有効であることを述べた後に、第二節 核物質の闇取引、第三節 核技術の闇取引、第四節 核専門家の闇取引の順でそれぞれの現状を述べていく。 

 

第一節  闇取引は秘密裏に核兵器を作るのに有効である

 

非核保有国が秘密裏に数発の核兵器を製造する場合、核の三要素(核物質、核技術、核の専門家)をもつ他の国や主体から闇取引でそれらを手に入れたほうが、核物質製造施設建造や核技術開発、核の専門家育成をはじめから自国で行って核兵器を開発する場合に比べはるかに安い費用での核兵器製造が可能になる。

公然とプルトニウムを作る場合、出力400メガワットの原子炉を用いれば、年に1020発の核爆弾を製造するのに必要なプルトニウムの生産が可能になる。しかし、このような大型の原子炉は考案が難しく、原子炉を作るだけで5から10年の時間がかかる上、4から10億ドルの費用がかかる。

 秘密裏にプルトニウムを作るとすれば、プルトニウムの生産を発見されないようにしなければならないので、地下に原子炉を作るのが理想的である。しかも、原子炉が放出する熱を赤外線で検出されないようにしなければならない。これらのことを考慮に入れると、秘密裏に核物質を大量生産する施設を建造するには、公然とプルトニウムを作る施設を建造する場合に比べ、10から50倍の費用がかかるといわれている。

 これに対して、闇取引を利用して核兵器を製造しようとする場合、アメリカの民間シンクタンクであるプリンストンエネルギー環境研究所によれば、核兵器に関して公開されている資料と2億ドルの資金さえあれば、数人の技術者だけで広島に落とされたような初期型のウラン核爆弾を製造することができるということだ。

 

核兵器はほんの数発だけ保有していても人類にとって脅威となる。闇取引を利用して核兵器を製造すれば、数発の核兵器なら秘密裏に安い費用で製造できる。このような点で核関連の闇取引は秘密裏に核兵器を製造するのに有効であるし、核拡散につながる重要な問題であることが分かる。

 

第二節  核物質の闇取引がおこなわれている

 

一、 核物質とは何か

 国際原子力機関(IAEA [4] では、ウラン233、ウラン235、ウラン238、プルトニウム239、トリウムのことを核物質と呼んでいるが、ここでは説明の便宜上、次の三つのカテゴリーに分類する。(1)民生用核物質[5]、(2)軍事用核物質[6]、(3)民生用と軍事用核物質の中間のカテゴリー[7]。 

 

二、 核物質の国際的管理

核物質の国際管理に重要な役割を果たしているのはIAEA である。しかし、IAEAにはいくつかの問題点がある。

まず、IAEA保障措置が十分に行われていない。保障措置とは、平和利用を目的とした核物質が核兵器などの平和目的以外に使われていないかどうかを確認する措置である。1997年になってIAEA追加議定書がIAEA特別理事会で採択され、そこで、保障措置を行う権限の強化が認められた。しかし、200211月現在、IAEA追加議定書の締結国は28ヶ国にとどまり[8]、しかもそのなかにはいわゆるならず者国家[9] と呼ばれる国々は含まれていない。そのうえIAEAには強制力がないため、問題が国連安全保障理事会で取り上げられない限りいかなる制裁も発動できない。

また、巨大再処理工場や、プルトニウム生産工場では核物質不明量(MUF[10] とよばれる誤差を、プルトニウムは1キロ、低濃縮ウランなら20トンまで認めている。これは誤差にしては大きすぎて、この程度の量の核物質紛失が数回積み重なれば核兵器を作ることもできる。

 

三、 核物質の国家管理

 核物質の闇取引を防止するための国家による対応は様々である。刑法上は、どの国でも原子力施設から核物質を盗み出す犯罪などは最も重大な窃盗とみなされていて、厳しい刑罰が加えられることになっている。しかし、核物質の管理自体に関しては国によっては相当ずさんなところもある。特に,ソ連崩壊後の独立国家共同体(CIS)に所属する国々は大量の核物質を保有しているにも関わらず、核物質の管理はかなりずさんであるため盗難の危険にさらされている。

() ロシアの核物質管理

 現在、ロシアの民生用の原子力施設設備は悪化している。まず核物質の計量管理[11] がきちんと行われていない。また、計量管理の技術も時代遅れのものをそのまま採用しているので、大量のMUFが発生しているうえに、それが黙認されている。このような状況を、核物質を秘密裏に欲しがっている密売人たちが見過ごすはずがない。民生用原子力施設からMUFの基準に違反しないように定期的に核物質を採取していけば、核兵器製造に十分な核物質を秘密裏に手に入れることが出来るからである。

 

() ロシア以外のCIS諸国の核物質管理

 ロシアには大統領付属機関の原子力・放射線安全監視国家委員会(GAN)が設置されており、民生用、軍事用も含めロシアにある全ての原子力施設が安全に運転されるように監視する権限が与えられている。(しかし、GANにはこの任務を遂行するのに必要なだけの職員がいるとはいえないし、設備もないため不十分な機関といわざるを得ない。) ロシア以外のCIS諸国は、GANのような行政機関がいまだ設立されていないのでさらにひどい状況だといえる。

 

四、 実際に行われた核物質の闇取引の例

 実際に核物質の盗難事件は相次いでいる。また、パリでは、20017月核爆弾の原料となる高濃縮ウラン5グラムが押収された。9412月にプラハで発見された高濃縮ウラン2.7キロは、ロシアで盗まれていたものだったことが明らかにされている[12]。そしてロシアの民間シンクタンク、PIRセンターによると、1990年から2000年までの10年間で23件の核物質盗難事件がおきたという。

 

第三節  世界中へ広がっていく核技術

 

一、 核技術の国際管理

(ア)ミサイル技術移転規制制度(MTCR)による管理

 MTCRの目的は核兵器などの大量破壊兵器を拡散させないことであり、その実現のために大量破壊兵器の運搬手段となるミサイルやその開発に役立つ関連汎用品・技術の輸出を規制している。現在33カ国が参加していて、参加各国にはMTCRで定められた綱領をそれぞれ国内法に取り入れる義務がある。しかし、MTCRだけでは世界中のミサイルを取り締まることはできないだろう。なぜなら、中国や北朝鮮のようなミサイル製造国がMTCRに加わっていないからであり、このような核技術をもった非加盟国によりミサイルの売買が考えられるからである。

実際に20021210日には、北朝鮮の貨物船をスペイン軍やアメリカ軍の艦船がイエメン沖において臨検したところ、その積荷からスカッドミサイルが少なくとも12基とミサイル部品が見つかった[13]

 

(イ)原子力供給グループ(NSG)による規制

 ロンドン・クラブと呼ばれるNSGは核拡散を防止するために、核開発を行っている疑いのある国に転売してはならない原子力資材のリストを作成した。さらに、ロンドン・クラブに参加している国々から原子力技術を輸入した国は、その技術を使用している施設だけでなく、国内の全原子力計画についてIAEAの査察を受けることが義務付けられている。

しかし、核技術輸出国がどれだけ原子力資材を輸出したかということは、自主的にIAEAに報告するだけであり、軍事利用できる資材なのに報告の義務がないものもある。また、現在世界には原子力に関する協定を守られているのかどうかを調査する国際機関が存在しない。今のところこうした協定を守ることは各国の自発的な意思に任されている。

 

二、 核技術の国家管理

核技術の国際管理がうまく機能するためには、核技術をもつ国々がそれぞれ自国の核技術の輸出について真剣に管理していくことが必要である。しかし、それは必ずしもうまく機能しているとはいえない。

例えばロシアについてだが、ロシアはソ連崩壊後、ソ連の核関連資材の輸出管理に必要不可欠な設備や方法を全て受け継いだ。しかし、ソ連時代は厳しく核物質を管理できたが、現在のロシアではその管理システムが有効に機能しなくなっている。その理由として、まず、取締りにあたる警官がほとんど輸出を管理する法律を知らないし、実際上はまったく適用されていないことが挙げられる。また、関税制度が整備されておらず、国境での人やものの出入りはほとんど管理されていない。そのうえ社会全体に買収が蔓延していて、国境警備員も簡単に買収されてしまう[14]

 

第四節  世界中へ広がっていく核の専門家

 

核の三要素の中で、核兵器製造の知識を持った専門家の行動を管理するのが一番難しい。何十万人もの核開発の専門家は、冷戦終了後、世界各地を自由に行き来できるようになった。彼ら全員の旅行や行動を逐一監視するのは不可能である。

また、冷戦終結と共に、旧ソ連などの国において核開発に携わってきた学者達の生活水準や社会的地位が急落した。 例えば1994728日には、スモレンスクの原子力施設の職員350人と、コラの原子力施設の職員150人が3ヶ月間給料をもらっていなかったのでストライキを行った。また19946月、チェリヤビンスクの7369人の職員が、エリツィン大統領に手紙を書き、原子力施設内で事故が起こる危険性が高まっていることを訴えた[15]。このような事件を見てみると、かなりの数のロシア人科学者がロシアを離れてより条件のいい他国で働きたいと考えているのは確かであろう。

さらに、現在はインターネットなどを使って、誰にも規制されずに遠く離れた場所から核兵器製造に参加することが可能である。

 

第五節  小括

 

 以上見てきたように核兵器製造のための三要素である核物質、核技術、核の専門家が闇取引によって世界中に広がろうとしている。第一節でも述べたが闇取引を利用して核兵器を製造すれば、数発の核兵器なら秘密裏に安い費用で製造できる。このような点で核関連の闇取引は秘密裏に核兵器を製造するのに有効であるし、核拡散につながる重要な問題である。闇取引によって核兵器製造のための三要素が世界中に広がることと核拡散の危険性が高まることは同時におこることなのだ。

 

 

 

第二章、原子力発電は核拡散をうむ

 

現在、原子力発電は核燃料の平和的に利用するための有効な手段だと考えられている。しかし、原子力発電で生じる使用済み核燃料は核兵器の製造に使用できるし、民生用の原子力技術が軍事利用される可能性もあることに注意しなければならない[16]。つまり、原子力発電をしているときは核燃料を平和利用していても、その後に残った使用済み核燃料は核兵器を作る原料として軍事利用されかねず、原子力発電の技術は、直接に核兵器を作るための技術に結びつくといえるのである。原子力発電を利用することを止められなければ、核拡散につながる可能性が高いといえる。

ここではまず、1 原子力発電をすると残る使用済み核燃料が核拡散へつながっていくということについて詳しく述べた後、2 現在の原子力発電の運用状況について述べる。

 

第一節  使用済み核燃料は核拡散に結びつく

一、 使用済み核燃料とは

原子力発電を用いると大量の使用済み核燃料が発生する。現在どの様な技術を用いても、原子炉で核燃料が使用(照射)されれば、軍事利用できる新しい人工的な放射性元素[17] が生産されてしまう。そして、原子炉で照射された後に残る使用済み核燃料は非常に毒性が強く、放射能がもとの鉱石以下になるには何百年以上もかかる。

 

二、 使用済み核燃料の処理方法

(ア)使用済み核燃料を貯蔵する。

使用済み核燃料は現在、そのほとんどが地上に保管されている。しかし、この方法は管理していくのに非常に費用がかかるうえ、政治情勢が安定していないと安全に保管していけないので、最終的な処分方法とはなりえない。なぜなら、原子力発電を行っている全ての国の政治的情勢が将来にわたって安定し続けるということなど、誰にも保証できないからである。つまり、現在は使用済み核燃料を貯蔵施設に保管していても、いつ政治情勢が不安定になって核兵器製造に用いられるかは分らないのである。また、地上に保管されている使用済み核燃料が盗難にあう可能性も否定できない。

そこで、これらの危険を回避するために、使用済み燃料を再処理するという方法の研究が進められてきた。

 

(イ)使用済み核燃料の再処理

化学的な方法で使用済み核燃料を再処理することによって、ウラン[18] とプルトニウムを抽出し民生的に再利用することが可能になる。(ここで抽出されるプルトニウムは、軍事用核物質である高純度プルトニウムである。)プルトニウムは増殖炉で燃料として使用されたり、低濃縮ウランと混ぜて混合酸化物燃料(MOX)として通常の原子炉で使用されたりする。増殖炉で照射されたプルトニウムは再々処理することによってほとんど無制限に再利用することができる。しかし、プルトニウムを増殖炉でリサイクルしていくという計画は実現しなかった。というのも、この計画は経済的に採算が取れないからである[19]

そこでこの計画は断念されるが、それでもなお使用済み核燃料から、プルトニウムを抽出し続けた。なぜなら、プルトニウムは再処理した状態のほうが貯蔵するのが容易であるということと、プルトニウムを再処理して低濃縮ウランと混ぜることでMOXになり、通常の原子炉で使用できるようになるという二つの理由からだ。

しかし、上記の方法をとったとしてもMOXを使用した後に生まれる使用済み核燃料をどう処分するのかという問題が依然残る。また、アメリカのシンクタンクであるランド研究所によると、MOXを使用して収益をあげるのもかなり難しい。そのうえMOXを使用すると、生産工場から各原子力発電所までMOXを輸送しなければならなくなる。そうすると、事故や盗難にあう可能性が高まる。輸送段階での盗難の危険性は一番高い[20]。 さらに、できるだけ多くのMOXを生産、消費しようとも、現在の技術では大量のプルトニウムがMOXに変換されないまま貯蔵されることになるのは避けられない。

現在、大量の使用済み核燃料からプルトニウムが抽出されている。だがプルトニウムをどんなに万全な防護体制や管理体制で守ったとしても、プルトニウムが盗まれる可能性は否定できない。(前章参照。) 各国が保有している莫大な量のプルトニウムは核物質を闇取引している密売人にとって非常に魅力的な物質である。

結局、現在のところ使用済み核燃料を確実に削減する方法はない。再処理は使用済み核燃料の削減を先延ばしにしているにすぎない。また、再処理は闇取引や核拡散の危険を増大させ、原子力産業に関わる民間産業に軍事用核物質を扱わせる機会を与えることになっている。

 

 

原子力発電を行うと使用済み核燃料が生まれ、現在その適切な処分方法はない。たとえリサイクルしていっても、それは使用済み核燃料をこれ以上増やさないためであり、削減するためではない。結局、原子力発電がある限り、その運営のために多量の核物質は存在し続けることになるし、核に関する技術も専門家も世界中に広がっていく。前章で述べたとおり、核物質、核技術、核の専門家の拡散が核拡散につながるので、原子力発電は核拡散の危険性を高めているといえるだろう。

 

第二節  現在の原子力発電の運用状況

今日の日本のエネルギー政策において、核燃料を用いた原子力発電は大変重要なものになっており、総エネルギー量に占める割合は約34.6%となっている[21]。 また原子力発電所の設備容量は、アメリカ、フランス[22] についで世界第三位の地位を占めている。

世界のエネルギー政策に目を向けても、世界全体の総エネルギー量に対する原子力発電の占める割合は、2000年には16%にものぼっている。

原子力発電は、多くの国々にとって経済的であり、天然資源はほとんど使用されず、直接環境を汚染しないエネルギー源である。それに対して、世界の電力の約半分を生産している石炭や、天然ガスを用いた火力発電は、地球上で排出されている二酸化炭素の十分の一を放出している。したがって、もし全ての火力発電所を原子力発電所に変えることができたなら、温室効果の原因となる炭素の量を年に20トンずつ減らすことができる[23]。 また、原子力発電は、水力発電や石油を用いた火力発電よりも原料を節約できるというメリットがある。

それに対して、原子力発電を使用することに反対する考えもかなり多く存在する。チェルノブイリ原子力発電所の事故など、いくつかの原子力発電所の事故が国際世論に大きな不安を与えているし、一部の国では原子力発電の経済的効率の悪さが主張されている[24]。 

こうした反対があって、実際にヨーロッパの国々では原子力発電が放棄されつつあり、フランスを除いて1990年から原子力発電所は建設されていない。また、アメリカでも1976年以降建設されていないし、1993年を最後に日本の原子炉建設に融資を行っていない。このままいくと、今後アメリカでは、現存する原子力施設が老朽化していくにつれて、原子力発電は中止されていくだろう。スウェーデンにおいては、1980年の国民投票で原子力発電を漸次縮小し、停止するという方法が選択されており、ドイツやリトアニアでも原子力発電を放棄することが決定している。

しかし、多くの国々はいまだに原子力発電に電力供給を依存したままで、原子力発電を完全に放棄する努力まではしていない。このままでは世界中の原子力発電が全て停止されるにはまだまだ時間がかかるだろう。全て停止されない限り、今後も核物質と核技術、核の専門家、そして核拡散の危険性は残り続けることになる。

 

 

 

第三章、核拡散防止のための提案

 

第一節  IAEA権限の強化 

 核拡散防止にはIAEAの存在が欠かせない。IAEAには保障措置を行う権限が与えられている。保障措置とは、IAEAと各国との間の国際的な条約に基づいて行われるものであるが、平和利用を目的とした核物質が、核兵器など平和目的以外に使われていないことをIAEAが確認する措置である。具体的には、IAEAが原子力関連施設を査察することなどにより、原子力事業者に対し核物質の計量管理とその検査、確認などを行う措置を言う。しかし、IAEAの査察体制はとても万全とは言えない。例えば、長年の査察にもかかわらず、湾岸戦争以前にはイラクの核開発を見抜けなかったし、査察を拒んできた北朝鮮が最近になって核開発計画の存在を認めたこともIAEAの限界を浮き彫りにした。

 現在は、IAEA保障措置の強化のために1997年に導入された追加議定書がある。これは、IAEAと保障措置協定締結国との間で追加的に締結される保障措置強化のための議定書である。追加議定書に締結した国々には、IAEA保障措置協定よりも広範な保障措置が行われる。具体的には、未申告の施設や活動による核物質の兵器転用を検知するため、直前の通告による追加的な査察(いわゆる抜き打ち査察)、さらには原子力活動確認のためのサンプリングといったこれまでの保障措置では認められていない活動を行うことができる。

 しかし、この追加議定書に締結している国は200211月現在で、28カ国にしかすぎず、この中にはならず者国家と呼ばれる国や核開発疑惑のある国は含まれていない。これでは、いくら追加議定書によってIAEA保障措置を強化しようとしても実際の効果はほとんどないといえるだろう。今後は一カ国でも多く、追加議定書を締結させる必要がある。

そのためには、@追加議定書に加わる国には経済、技術支援を強め、加わらない国には援助を減らすこと。A地道に根気強く加盟国を増やすことにより、追加議定書への加盟をしやすくすること。B市民に対して、いかに核兵器が恐ろしいかということと、追加議定書に加盟することの大切さを教育していくこと。C核保有5大国が率先して核軍縮していくことにより、5大国の核兵器の脅威を減らしていき、それと同時に核兵器の必要性もなくしていくこと。などの方法が考えられるだろう。これは、核保有5大国はもちろん、核兵器廃絶を求める国や団体が率先して行っていくべきである。

 

第二節  原子力発電を廃止する

前述したように、原子力発電を行うことによって核拡散の危険は高まる。原子力発電で生じる使用済み核燃料が核兵器の製造に結びついたり、民生用の原子力技術が軍事利用される可能性があるからである。そうだとすれば原子力発電所を減らしたり、無くすことによって、核拡散の危険は減らすことが出来るのではないだろうか。

しかし、原子力発電をゼロにしていこうとした場合、そこにはいくつかの大きな問題が生じる。まず、一つ目は環境問題である。一般に原子力発電は二酸化炭素などを大量に放出する火力発電などに比べると環境汚染につながりにくいといわれている。もし原子力発電を止めて、環境に負担がかかる火力発電にエネルギー供給割合の比重を高めたら、環境破壊を加速させることになる。

二つ目は、経済的な問題である。経済的にも多くの国で効率がいいといわれている原子力発電を放棄することは、その国の財政にも影響してくる。わざわざ高いコストのかかるエネルギー供給システムに変えようとする国などないだろう。

三つ目は、エネルギーの安定供給の問題である。現在世界の総エネルギー供給量の16%を担う原子力発電は、いつも安定してエネルギーを供給できるエネルギー源としても有効だった。これを放棄してしまい、より安定性のない供給源に変えることも問題だ。

これらの3つの問題を解決するために現在注目されているのが燃料電池[25]である。まだ普及についての問題点が残るが、今後投資するものが出てきてこの問題が解決されれば、原子力発電のみならず、最大の電力供給割合を持つ火力発電にも代わるといわれている。

原子力発電を廃止するという提案は国家にあたらないテロリスト集団などに対する核拡散対策にも有効である。なぜなら、国家にあたらないテロリスト集団などに対してはIAEAによる保障措置だけでは核拡散は防げないからである。したがって、いかにして核物質を拡散させないようにしていくかという段階から核拡散を防止するしかないからである。

ただし、今後は原子力発電をなくすだけでなく核物質を削減していく努力も当然必要であり、その技術開発にも積極的に取り組んでいかなくてはならない。

 

 

 

おわりに

 

核拡散は核戦争の危険性を増大させる大きな要因の一つである。その意味で今後これ以上、核兵器を保有する国を増やさないことは重要であり人類存続の問題にも関わってくる。私たちは一人一人が危機意識をしっかり持って、いかにして核拡散を防ぐかについて真剣に考えていかなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

     ジョセフ・ロバートフットほか/編『核兵器のない世界へ』(かもがわ出版 1995

     浅井基文『非核の日本無核の世界』(労働旬報者 1996

     立木洋『非核の世界か核の独占か』(新日本出版社 1994

     ロバート・D.グリーン『核兵器廃絶への新しい道』(高文研 1999

     ジャック・アタリ『核という幻想』(原書房 1996)

     広瀬隆/著『原子力発電で本当に私達が知りたい120の基礎知識』(東京書籍 2000

     館野淳『廃炉時代がはじまった』(朝日新聞社 2000

     広瀬隆『燃料電池が世界を変える』(日本放送出版協会 2001



[1] 1996124日、元米戦略軍最高指令官のL・バトラーと、元欧州最高統合指令官のA・グットパスターが世界中の全ての核兵器を廃絶すべきであるという声明を発表し、翌日には、17カ国の61人の退役軍人も同様の声明を発表した。

[2] ここでは、冷戦の終結により核兵器による壊滅的な脅威のない世界の実現が手の届くものとなったとの認識の下に、核兵器国と事実上の核兵器国の指導者はその作業を開始し、最終的に核兵器を廃絶することを明確に宣言すべきであると述べている。黒沢満軍縮と国際平和(有斐閣1999)145頁。

[3]NPTは以下3つの目的をもつ。(1)核保有する5大国(アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国)以外への核兵器の拡散を防止すること。(2)各締結国が誠実に核軍縮交渉を行う義務。(3)原子力の平和的利用が軍事技術へと転用されることを防止する。200211月現在での締結国は188カ国である。

[4] IAEAは原子力の平和利用を監視し,核物質の軍事転用を検出するために1957年に創設された。200211月現在での加盟国は137カ国である。

[5] 天然ウラン、ウラン235の含有率が3から4パーセントの低濃縮ウラン、プルトニウム23980パーセント以下しか含んでいないプルトニウム、トリウム。

[6] ウラン23590パーセント以上含んでいる高濃縮ウラン、ウラン233、プルトニウム239の含有率を90パーセント以上に高めた濃縮プルトニウム。

[7] 軍事転用できる核物質である。

 

[8] 署名国は67カ国。

[9]ならず者国家とは、イラン、イラク、シリア、リビア、北朝鮮などを指しているが、米国やその同盟国に敵対的で、テロリズムに対する支援を行い、核兵器や生物化学兵器などの大量破壊兵器の獲得を目指している国で、攻撃的な反西洋的信念を信奉する独裁的指導者に支配されている第三世界の国家とでも定義できるかもしれない。」遠藤誠治冷戦後紛争の政治経済学」坂本義和編『核と人間U 核を超える世界へ』(岩波書店、1999)、59頁。

 

[10] 核物質が原因不明に消失したとき用いられる。

[11] 計量管理とは、たとえ原子力施設の核物質が不法に持ち出されたとしても、すぐにそのことを発見できるように、常に核物質の量をチェックしておくことである。

[12] Yomiuru On-Line (アドレス http://www.yomiuri.co.jp/melt/r0129_06.htm)

[13] 朝日新聞朝刊20021212日。

[14] ジャック・アタリ「核という幻想」(原書房P107)

[15] ジャック・アタリ前掲注14110頁。

[16] 実際に冷戦時代から原子力発電における、日本のプルトニウム利用政策を問題視する見方もあった。1977年に誕生したアメリカ・カーター政権は核拡散を防止する観点から、アメリカ国内のプルトニウム平和利用を中止させ、日本に対しては完成したばかりの東海再処理工場の運転断念を迫ったことがあった。このとき日本は日米交渉を経て条件付のもと運転開始にこぎつけた。また、クリントン大統領は19939月、国連総会での演説においてプルトニウムについては軍事利用だけでなく平和利用についても禁止するように提唱している。この政策は核分裂物質のグローバルな拡散を阻止することが、世界の安全保障にとって必要であるとの見方から生まれたものである。

[17] ウラン235、プルトニウム239,241などで燃料全体の1パーセントが軍事利用できる。

[18]再処理によって抽出されたウランは低濃縮ウランの形で原子力発電所で使用される。

[19] 欧米諸国において、増殖炉を使用する計画で収益を上げるには、天然ウランの価格が少なくとも1キロあたり440ドル以上でなければならない。しかし、現在の状況を考えるとそれはありえない。現在の天然ウランの価格は1キロあたり25ドル以下である。

[20] ペンタゴン(アメリカ国防総省)の研究によると、MOXを船で輸送する際、どんなに万全な防護対策をとっていても、小型ミサイルを装備した高速艇に攻撃されれば、船が沈没する前にあるいは援軍が到着する前にプルトニウムは奪われてしまうという。

[21] 2010年には40%に増加すると予想される。現在運転中の原子炉は53基あり、建設中、建設準備中のものを含めると65基になる。

[22] フランスにおいては、発電電力量に占める原子力発電によるエネルギー量の割合が、1973年の8%から、2000年の76.4%に増加している。

[23] もし原子力発電によるエネルギー供給を、石油でまかなおうとすれば、現在年間36億トンの石油に加えて、5億トンの石油が必要になる。

[24] 石炭や、天然ガスを使用した火力発電に比べて、原子力発電を用いた場合にかかる費用は、イギリスでは120パーセント、アメリカでは150パーセントとなっている。

[25] 燃料電池とは水素が酸素と結合する際に電気を発生するという性質を生かしたものである。発電の際、排出されるのが水であるため環境汚染にもつながりにくい。また、水素と酸素はどこにでも存在するためエネルギー安定供給の問題も解決される。ただし、まだ開発途中段階ということもありその普及には至っていない。