直線上に配置
バナー

大西ゼミ論文集
 2002年度に行われた国際関係論(基礎)演習の授業に於いて提出されたゼミ論を掲載しています。皆さんに読んでいただき、感想や意見などを頂ければと思います。感想・意見などは掲示板にどうぞ♪
直線上に配置

ヨーロッパにおける極右台頭

            

 東北大学法学部4年 泉史有子

 


はじめに

 

 本稿では、20024月に行われた第1回フランス大統領選を手がかりとして、フランス及びヨーロッパにおける極右台頭の背景を探る。

 今回このテーマを選ぶに至ったのは、フランス大統領選の結果を伝える新聞を目にし、移民排斥を声高に唱えるルペンの躍進に不安を覚えたことによる。フランスのような国でなぜ今極右が台頭するのかという疑問から、その原因を明らかにしたいと考えた。

 以下、まず極右とは何かを論じた後に、20024月第1回フランス大統領選における極右政党国民戦線のルペン党首の政策、支持者像、躍進の原因について考察し、次にヨーロッパ各国における最近の極右台頭の状況を概観し、最後に極右台頭とヨーロッパ統合との関連性についても言及したい。

 

 

 

第一章、「極右」とは

    

 今日ヨーロッパで見られる新しい右翼は、1980年代以降ヨーロッパの経済繁栄を支えた外国人労働者の排除と「秩序の維持」を主張することから出発し、新たな難民の受け入れを拒否することで若者、失業者、零細自営業者の支持を獲得している。さらに、ヨーロッパ統合の進展とともに浮上してきた民族的アイデンティティーの維持をめぐる不安や新たな地域主義の感情に訴えて、ヨーロッパの広範な国々で無視できない勢力まで成長してきている[1]。このような新しい右翼は古い伝統主義的・エリート主義的な右翼や秘密結社的なネオ・ファシズムやネオ・ナチとは区別される。山口定が著書『ヨーロッパ新右翼』で新右翼の定義を試みているが、以下これに従って本稿で言う「極右」とは何かを明らかにしていくこととする[2]

 この新しい右翼は、支持拡大のために、体制や既成組織から疎外された大衆の不満に感情的に訴え、議会への進出を戦略的に最重視する。

 また、ドイツのプファール・トラウクバーの指摘する極右イデオロギーの4要素をてがかりとすることができる。それは、@ナショナリズムA権威主義B反多元主義C不平等のイデオロギーである。ただ、新しい右翼を把握するにはこれでは不十分であり、以下順にこの点を指摘していく。

@ナショナリズム:非ヨーロッパ世界に対してヨーロッパ文明を擁護する一方、自国の利害や文化・伝統を失わせるかたちでのヨーロッパ統合には反対する立場をとる。しかし、ドイツの国家民主党は、ヨーロッパ統合やNATOに反対し、従来の国民国家を擁護するという立場をとり、ベルギーの極右勢力はヨーロッパ統合によって国民国家の力が弱まるのに乗じてこれまで抑圧されてきた地域民族主義を貫徹しようとする立場をとるなど、さまざまな立場があり得る。また、今日の右翼ナショナリズムは防衛的、とりわけ文化防衛的であることも注目に値する。

A権威主義:かつてのナチズムのような身分制的権威主義ではなく、業績的権威主義であると言える。かつてのナチズムは、「民族への奉仕」という目的を前提に、手段として階統制を要求していたが、新しい右翼では、個人の能力や業績による階統制の再確立を、手段ではなく目的として要求している。

B反多元主義:リベラル派の主張する異文化間の共生につながる多文化主義に反対するという意味であって、種を異にする外国人を自分たちの領域に立ち入らせないという「棲み分け」の権利を主張するという意味では多元主義と言える。

C不平等のイデオロギー:民族間の生物学的優劣よりも文化的差異を重視する差異主義的人種主義である。

 このようなネオ・ファシズム、ネオ・ナチズムという表現では説明しきれない現在の新しい右翼を本稿で言う「極右」とし、フランス及びヨーロッパにおける極右台頭の現状を探っていくことにする。

 

 

 

第二章 フランス大統領選

 

 2002421日に行われた第1回フランス大統領選挙は予想外の、そして衝撃的とも言える結果となった。

 共和国連合の現職大統領シラクが約20%、社会党のジョスパン首相が約16%、国民戦線のルペンが約17%という得票率で、予想されたシラクとジョスパンという組み合わせではなく、シラクとルペンが決選投票へ進んだのである。

 以下、ルペンがどのような政策を主張し、どのような人々の支持を受けて躍進できたのかを明らかにしていきたい。

 

1、ルペンの政策

 ルペンは外国人排斥主義、自国中心主義に基づいた以下の公約を掲げて選挙戦に臨んでいた。

EUからの脱退とそれに伴うフランスへの回帰

国内産業保護のため、EU諸国に対する関税の復活

移民流入の阻止

外国人犯罪者、非正規滞在者の国外追放

犯罪抑止のための厳罰主義と死刑の復活

所得税の廃止と法人税の軽減

雇用におけるフランス人の優先権と外国人労働者ポストへの課税

家族控除や住宅手当などの公的扶助のフランス人への限定

「フランス国民優先権」の憲法化

 

2、支持者像

 1972年に創設されたルペンを党首とする国民戦線は、1980年代に進んだ経済の自由化・国際化や政治・文化のヨーロッパ化に取り残されたブルーカラー、失業者、退職者、老人などの低所得者・社会的弱者、移民の急増で伝統的価値を脅かされる中都市の中産階級の支持を得てきたと言われる[3]

 今回の第1回大統領選においても、世論調査会社IPSOS社によると労働者の3割、農民の2割がルペンを支持したと言われる。またリベラシオン紙の調査では、大学入学資格のない者の間で25%、収入1万フラン以下で23%がルペンを支持したという結果が出ており、低学歴・低所得者から広く支持を得る傾向にあると言える。

 また、国民戦線の言説はフランスの抱える問題を指摘し、民衆に分かりやすい説明を提供した上で民衆の感情に訴えるという特徴を持っている[4]。つまり、人々の身近な脅威や恐怖に訴えて、単純で明快な説明で人々を引きつけるのである。今回の選挙では、特に失業問題と治安問題をめぐるルペンの発言が有権者の心を捉えたと考えられる。

 現在フランスでは犯罪件数が増加傾向にあり、不景気のあおりを受けて失業率も高くなっている。ルペンはこの点について、国内の外国人や不法滞在者こそが諸悪の根源であると説き、移民をフランス人から職と安全を奪う「敵」と見なして、彼らを排除することでフランスはかつての静かな生活を取り戻せると主張している。

 ルペンの支持基盤は、このような移民や失業による大都市郊外の暴力や治安の悪い地域である。フランスのほぼ東半分、つまり英仏海峡に臨む北方の諸県からドイツと接するアルザス国境地帯、南方の地中海に臨む諸県に至るまでの地域がこれにあたる[5]

 実際に、決選投票への進出が決定的になったルペンは、「EUのグローバル化主義でひどい目にあった労働者、悲惨な退職者、農民、治安悪化の犠牲者たち、結集しよう。」と呼びかけるデモを行い、ルペンを支持する1万人が集まった。この中の一人である元ビル整備会社社長は、「ルペンはファシストでも人種差別主義者でもない。真のフランス男だ。」と言ってルペンを支持し、また移民の多いパリ郊外で育った若者は、「大量の移民でフランスのアイデンティティーが失われた。日本のように移民を制限するべきだ。」とルペンの移民排斥論に同調した[6]

 

3、極右躍進の理由

 しかしながら、55日の決選投票ではシラクが史上最高の82.2%という得票率で大勝利を収めている。

 その背景には、51日にフランス全土で約112万人が参加した反極右デモが行われたり、社会党が極右に票を投ずるよりも宿敵である共和国連合のシラクへ投票する道を選んだことが挙げられる。フランス国民は共和主義を守るために結集したのである。

 では、なぜ第1回大統領選においてルペンは予想を越える票を得られたのであろうか。

 そこには、フランス国民の政治の現状に対する不満があったと考えられる。

 フランスでは、右翼の大統領と左翼の首相という考え方の対立する両者が共存するというコアビタシオン(フランス語で男女の同棲を指す言葉が、政治用語に転用された)と呼ばれる保革共存の政治権力の形態が、シラクが大統領になって2年目の1997年、議会の繰り上げ選挙の結果左翼が勝利し、ジョスパンが首相に就任して以来続いていた[7]。このため、シラクとジョスパンの「出来レース」は5年間続いていたことになる。この間両陣営は一緒に国政を担っていただけに、政策的に明確な対立軸を見出せないでいた。そして、このような新鮮味のなさが、フランス国民の政治に対する不満を招いたと考えられる。その結果、コアビタシオンに対するフランス国民の抗議として極右へ票が流れたという見方ができるだろう。また、左翼陣営が治安の悪化という現実に正面から取り組む姿勢を示すことができなかったことに対する、国民の異議申立てであるとも言えるだろう。さらに、フランスでは2回の選挙で大統領を選ぶため、1回目には有権者は抗議と報復の票を投じがちであるとも考えられている[8]

 以上から、極右勢力は、移民問題を争点にすることでフランス国民の現在の社会・政治に対する不安や不満を票として取り込んでいったと考えられる。

 

 

 

第三章 その他ヨーロッパの極右台頭

 

 ここまではフランスにおける極右台頭について論じてきたが、実はヨーロッパ各国で極右勢力の台頭が見られる。

 90年代後半、EU加盟国15カ国中12カ国で、社会民主党ないしは中道左派が政権を担当するか連立政権の一翼を担っていた。それがここ2年ほどの間に中道左派が政権を担当する国はイギリス、ギリシア、スウェーデン、ドイツの4カ国となってしまった。その背景には極右の強い推力が働いていると言われる。

 まず、EU加盟国において最初に極右政党が政治に直接インパクトを与えたのがオーストリア自由党である。オーストリアでは、赤の党と言われる社会民主党と黒の党と言われる保守党による連立が13年間続いていたが、1999年にハイダー率いるオーストリア自由党が第2党となり保守党と連立政権を組んだ。これが先駆的なできごととなって、極右の波がヨーロッパに押し寄せたと言える。オーストリア自由党は旧東欧と隣り合わせにあるオーストリア国民の、移民流入に対する危機感に訴えるかたちで支持を得ている。オランダにおいては、左翼・右翼・リベラルの3勢力による連立政権が8年間続いていたが、極右政党であるフォルタイン党党首ビム・フォルトゥインがそこに一石を投じるかたちで登場した。20025月に、ビム・フォルトゥインが暗殺されるという事件が発生したが、ビム・フォルトゥインは国民に人気が高く、同情票を集めたかたちでフォルタイン党は総選挙で第2党の座を確保した。オーストリアとオランダにおいては、フランスと同様に既成の体制に対する国民の反抗として極右が台頭したものと考えられる。イギリスにおいては、英国民党が200252日に行われたイングランド統一地方選挙で、パキスタン移民の多いマンチェスター北郊の町バーンリーで移民排斥などを訴え、9年ぶりに地方議会の議席を獲得した。また、イングランド全体の同党候補の平均得票率も20%に達した。イタリアでは、南北分断を主張する北部同盟が政権入りした。デンマークでは、デンマーク人民党が第三勢力に躍進し、200111月の選挙で左派から保守が政権を奪取するのに貢献した。ドイツにおいては、旧東ドイツを中心にネオナチ系の独人民同盟や独国民民主党などが約3万人の党員を集めている。

 200256日号のNewsweek誌では、このような最近のヨーロッパにおける極右の台頭を「THE FEAR FACTOR」として特集するなど、極右台頭はヨーロッパの政治現象として見過ごすことのできないものとなっている[9]

 一方で、ヨーロッパは階級社会であるということから極右台頭に歯止めがかかるとも考えられる。なぜなら、階級社会ではエリートに対する根強い信頼が存在し(フランスでは特に顕著であると言われる)、政治はエリート層が担当するものという感がある上に、政治を担当するようなエリート層は移民による不利益を生活の場で直接受けることはないため、極右の主張する移民排斥論を支持することはないと言えるからである。よって、ヨーロッパにおける極右台頭を楽観視する考えもある。しかし、極右台頭の危険は以下に述べるヨーロッパ統合との関連でも触れるように、移民の人権を否定する点にあるため、決して軽視してはならないと考える。

 

 

 

第四章 極右台頭とヨーロッパ統合

 

 最後に、ヨーロッパにおける極右台頭とヨーロッパ統合の動きとの関連性について言及する。

 この点について、現在ヨーロッパ各国で見られる極右台頭の現象を、ヨーロッパ統合の反作用としてとらえる見方もある[10]

 現在、ヨーロッパではヨーロッパ統合の波に乗りヒトの移動の自由が進むことによって、移民が増大し、外国人労働者問題・失業問題が大きく取り上げられるようになっている。1998年の時点でEU総人口の約5%が外国籍人口であり、そのうち30%がEU域内出身の外国人で、70%が域外出身外国人、つまりは旧植民地出身者である[11]。そこで、移民排斥論が注目を集めるようになり、極右勢力の台頭しやすい状況が生まれていると言えるだろう。ヨーロッパ大陸内の極右勢力は多かれ少なかれ地域分離主義を取り、それによってナショナリズムの高揚を計っている。各国によって極右勢力台頭の要因は様々考えられるが、社会・経済的困難に対する国民の不安、現状の政治に対する不信・不満が背景にあることは確かであり、その責任を移民に転嫁し、反移民のテーマを政治的に利用して支持を得ている点で各国の右翼勢力には共通点がみられる[12]。このように移民排斥を唱える極右勢力が台頭することによって、ヨーロッパ統合の進展にどのような影響があるかは未だ未知数であり、今後の動きを注意深く見守る必要があるだろうが、ヨーロッパ統合に懐疑的な立場をとる極右勢力の台頭によって、ヨーロッパ統合の動きがゆるやかになる可能性もあるのではないだろうか。ただ、経済的な視点からすると、ヨーロッパ統合は経済的動機から推進されてきた面が大きく、2002年にはユーロが導入されるなど経済的統合の度合いは深まっていて、ヨーロッパ統合が後戻りするとは考えにくい。さらに、ヨーロッパ経済の成長はこれまで移民の労働力に頼ってきた上に、今後もその依存の度合いは高まるものと考えられている[13]。このような経済的ニーズがある一方で、高い失業率や治安の悪化に悩まされ、アイデンティティーの危機にさらされている市民はヨーロッパ統合に不満や不安を持っていて、このことが極右の伸長を促していると考えられる。そして何より、極右台頭の危険は移民の人権を否定する思想にある。移民の人権については1999年のEU閣僚理事会が、旧植民地出身者にEU市民と同様の権利を認めることがレイシズムや外国人排斥を撤廃し、社会統合を進める上で不可欠であるとしている[14]。しかし、実現に向けた具体的な措置は欠いているため、ヨーロッパ共通の問題である移民問題に正面から取り組み、適切な政策を打ち出すことなしにヨーロッパ統合の成功はありえないだろう。

 

 

 

むすび

 

 今回のフランス大統領選における極右躍進のニュースは、フランスはもちろん世界にとって衝撃的な出来事として伝えられた。フランスでは20026月に行われた総選挙の結果、ルペンを党首とする国民戦線からは一人の議員も選出されなかった。しかし、フランス及びヨーロッパの極右勢力台頭は各国そしてEUの抱える政治や社会に根ざす問題と深く関わっていて、一過性のものであるとして看過することはできないと思われる。今後とも極右勢力の動きに注目する必要があるだろう。



[1]『知恵蔵2002』(朝日新聞社)

[2]山口定 高橋進『ヨーロッパ新右翼』(朝日選書 1995pp.25-29.

[3]長部重康『変貌するフランス ミッテランからシラクへ』(中央公論社 1995pp.275-276. 

[4]前掲『ヨーロッパ新右翼』p.115. 

[5]『世界』20029月号 p.161.

[6]フランス関連ニュース http://salut2.tripod.co.jp

[7]前掲『世界』pp.158-159.

[8]前掲『世界』p.162.

[9]Newsweek200256日号 pp.28-32.

[10]鈴木邦成『パリの野望 ヨーロッパの夢―ミッテラン仏政権と欧州統合』(西田書店 1996p.97.

[11]宮島喬・羽場『ヨーロッパ統合のゆくえ 民族・地域・国家』(人文書院 2001) p.140.

[12]畑山敏夫『フランス極右の新展開―ナショナル・ポピュリズムと新右翼』(国際書院 1997pp.61-62.

[13]前掲『Newsweekp.32.

[14] 前掲『ヨーロッパ統合のゆくえ 民族・地域・国家』p.145.