日下部太郎前回、日下部太郎の墓参りをしたことを書きました。 今回は、日下部太郎について、記しておきたいと思います。 日下部太郎は、1845年6月6日、現在の福井市で生まれています。 生まれたときの名前は、八木八十八(やぎ やそはち)。 アメリカに来る前に、彼は日下部太郎という名前に変えています。 彼は13歳のころから、幕末の名君福井藩主松平春嶽の創設した藩校 明道舘で学んでいます。この藩校では、 安政の大獄で処刑された橋本左内が、1856年から1年ほど教師および校長をしていました。 橋本左内が24歳のときです。彼は26歳で処刑されています。 日下部太郎が学んでいた時期に、橋本左内がこの藩校で教えていたかどうか はわかりませんが、橋本左内が郷土のヒーローだったことには間違いないでしょう。 さて幕末の最中1865年9月、日下部太郎は、藩の命令で長崎に行って勉強に励んでいます。21歳のことです。その当時、西洋の学問を学ぶには、長崎に行く必要があったわけです。 そこで、彼は米国人宣教師フルベッキが校長をしていた幕府の洋学所「済美館」に入学し、英語などの語学や数学などを学んでいました。 彼と同様に長崎で学んでいた学生の中には、長崎での勉学には飽き足らず、外国船に密航して海外に渡った者もいたようです。 その当時、海外への渡航は禁止されていたからです。 1866年4月ペリー来航から13年目にしてようやく、幕府は海外への渡航を許可することにしました。これを機に、各藩も海外へ留学生を送る準備もはじめました。そして、その年の9月、福井藩は、正式に日下部太郎を海外留学生として、アメリカに送ることに決定しました。もちろん、日下部太郎が大変優秀だったからです。彼は、福井藩最初の海外留学生です。 1867年2月13日、日下部太郎は、長崎を出発しました。目指すは、RutgersのあるNew Brunswickです。New Brunswickに到着したのは、7月13日。150日の長い船旅でした。ここで、彼は二人の日本人の出迎えを受けています。横井小楠の甥、伊勢佐太郎と沼川三郎です。彼らは密航者として、1年前に、ここに来ていたのです。 Rutgersに入学する前に、彼はグラマースクールで英語と基礎教育を受けています。ここで、教師として教えていたウィリアム・E・グリフィスと出会っています。グリフィスは、日下部太郎との出会いを縁に、後に日本に渡り、日本の近代教育に貢献しました。 日下部太郎の秀才ぶりはここでも発揮され、グラマースクール終了後はいきなりRutgersの2年生に編入されています。大学で彼が学んだのは、天文学、地理学、数学、物理、化学、植物学、機械学、建築学、製図学、鉱物学、生理学、歴史学といった広い範囲に及ぶものでした。 ところで、今Rutgers周辺で暮らしている我々でさえ、家賃の高さには苦労しているわけですが、その当時のアメリカは驚くほど物価が高かったようです。平均して日本の物価の数倍はあったということです。藩からの手当てに頼っている日下部太郎にとっては、これは深刻な問題でした。食事を切り詰め、冬の寒い時期も暖房なしで過ごしたかもしれません。結局、無理がたたって、体調を崩してしまいました。それでも、相変わらず勉学に打ち込む毎日を送ったようです。 このような無理な生活が続いて、卒業を目前に日下部太郎は病に倒れました。肺結核だったのです。 入院してもまだ勉学を止めず、医者に注意されることもあったようです。その当時、結核に対する特効薬はなく、病院に入院しても、結局病状は悪化する一方でした。そして、とうとう絶対安静を医師に言い渡されました。 それでも、医師に隠れて本を読んでいたようで、担当医は日下部太郎の全部の書物を取り上げたということです。 1870年4月13日、日下部太郎は26年の短い生涯を閉じました。 彼の遺体は、親しかった学友、大学関係者、それに一般市民にまで見送られて、墓地(ウィロー・グローブ・セメタリ)に埋葬されました。 Rutgersは、日下部太郎の優秀さを認め、卒業と同等の資格を与え、さらには、大学卒業の優等生ばかりで組織されているファイ・ベータ・カッパー(ΦΒΚ)の会員に彼を推薦し、その印として名誉ある金の鍵を贈って、日下部太郎の生涯をたたえたということです。この鍵は翌年、教師として福井に招かれたグリフィスによって彼の父のもとに届けられました。 以上の文章のほとんどは福井市立郷土歴史博物館発行の冊子「よみがえる心のかけ橋―日下部太郎/W・E・グリフィス―」を参考に書きました。この冊子は、前回書き記した日下部太郎の墓参りに同行して下さったハインラインさんにお借りしたものです。 残念ながら日下部太郎についての資料は、現在Rutgersにはほとんどないようです。ただ、College Avenue キャンパスにあるAlexander図書館や、同じキャンパスにあるZimmerli美術館には少し展示があります。なんとZimmerli美術館には、日本語によるビデオ展示があります。図書館への入館はもちろん無料ですが、美術館への入館は有料です。ただし、RutgersのIDを持っていれば無料、18歳以下の子供は無料、そのほか毎月第一日曜日だけは一般人に無料で開放されています。 |