• ロシア人のお姉さんのお話

  • 私の所属している研究室には、いろいろな国の人たちがいる。一番多いのが、中国人で、次にアメリカ人、インド人、ほかに、ロシア人、ブラジル人、台湾人、日本人である。(台湾を中国に含めるか、含めないかは微妙な問題ではあるが、ここでは、別の国であるとした。)その人たちの国の話を聞くのは、面白いことである。ここでは、私と同じポスドクのロシア人のお姉さんから聞いたお話を書いてみよう。

    このロシア人女性のお父さんもまた科学者だそうで、彼が日本に行った時の話を、聞かせてくれたことがある。ちなみに、ロシア(あるいは、ソビエト連邦)では、インテリ層というものが厳然と存在していて、その人たちは、普通そのなかの人たちとのみ付き合うのだと、彼女は言っていた。私が驚くと、「それは、他の人たちを見下すというんじゃないのよ。話が合わないのよ。」と言った。「たとえば、ある学者は、出世して自分では良い給料をもらっていると思っていたとするでしょ。でも、タクシードライバーをやってる人は、違法なことをして、それよりはるかに稼いでいることもあるわけよ。そういう人は、その学者を馬鹿にしていたりするわけよ。そんな人たちとは、話が合わないでしょ。」などと、補足した。

    それから、彼女には、ユダヤ人の血が流れているそうで、ロシアでは差別を受けたと言っていた。たとえば、行きたい大学に行けないということがあったらしい。彼女は、ここRutgersで博士の学位を得た。宇宙物理専攻である。しかし、今では、DNAの研究を行っている。

    彼女のお父さんの話にもどる。彼女のお父さんは、学会で京都に来たそうだ。京都に滞在中、彼女のお父さんは、あまりにも日本の物価が高いので、食事はコンビニで、弁当を買っていたらしい。あるとき弁当を買って、ホテルに戻ると、どうも警察官が多いことに気がついた。さらには、ホテルの中で、警官に捕まえられてしまった。どうやら、あやしい人物と判断されたらしい。彼女のお父さんが、非常にラフな格好でいたためだろう。

    学会は、そのホテル内で開かれており、彼女のお父さんは、警官に連行される途中、学会が開かれている最中の会場のそばを通った。そのとき、彼女のお父さんは、その会場にいたロシア人の知り合いに助けてくれと、手で合図すると、その知り合いは、司会者に何か言ったらしい。すると、司会者は、お父さんを指して、日本語で何か言ったそうだ。すると、連行していた警官が飛びのいたそうだ。

    その司会者は、「彼は、ロシアで非常に高名な科学者の、だれだれです」と言ったのだった。警官が飛びのくのもうなづける。その後の話が、笑える。なんと、その会場には、天皇陛下が出席されており、彼女のお父さんは、そのすぐ後で、天皇陛下と握手を交わしたそうだ。そのときの、彼女のお父さんの格好は、シャツに半ズボン、しかも、弁当の入った買い物袋を手に下げていた。弁当は、その会場にいる間に冷めてしまったそうだ。

    「お父さんの着ていたのは、青いシャツでね、それは、私がお父さんにプレゼントしたものなのよ」と、ロシア人のお姉さんは、楽しそうに語り終えた。

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