多事匠論


秋のサンマ

 やっと夏らしい暑さが訪れ、ここ二・三日は寝苦しい夜が続いている。
だが、気がつけば、八月も今週で終り。先週の土曜日は二十四気の一つ、
処暑。暑さも一段落し、涼しさを感じるころだ。暦の上では、もう秋。
秋といえば「秋刀魚」が思い浮かぶ。スーパーの生鮮売り場にも秋刀魚が
並び、ついつい立ち止まってしまう。子供のころ、七輪で秋刀魚を焼き、
団扇で扇いだことを思い出す。
 今年は映画監督、小津安二郎生誕百年にあたる。「東京物語」「彼岸過
ぎまで」「秋日和」など、日本映画史に残る数多くの名作を生み出した。
フランスには小津映画専用の映画館があるらしい。黒澤明とともに日本を
代表する名監督だ。小津映画の代表作に『秋刀魚の味』(1962年松竹)が
ある。娘を嫁に出す父親の心理変化が軽快なリズムで描き出されている。
「踊る大捜査線」もいいが、是非とも小津映画のような文化的水準の高い
映画を見てほしいものだ。
 さて、さんまについてもう一つ。古典落語の『目黒の秋刀魚』を紹介す
る。世間知らずの殿様が目黒で初めて秋刀魚を口にした。屋敷に戻っても
殿様はその味が忘れられない。しかし、秋刀魚のような下魚は身分の高い
人が食べるものではない。ある日、親戚からのお呼ばれで秋刀魚を注文し
た。家来は日本橋魚河岸から高級な秋刀魚を取り寄せるが、秋刀魚を焼か
ずに、蒸して小骨を抜き、だしがらのようになった秋刀魚を出した。それ
を食した殿様が一言「秋刀魚は目黒にかぎる」という落ちだ。
 目黒で秋刀魚が捕れるはずがないし、魚河岸のほうがおいしいに決まっ
ている。目黒の秋刀魚が一番と決め込んでいる殿様のとんちんかんぶりが
面白い。この小噺を得意としているのが、古今亭志ん生だ。 詩人、佐藤
春夫は秋刀魚の味を「さんま、さんま、さんま苦いか、塩っぱいか」と、
詩に詠んだ。スポーツの秋。食欲の秋。芸術の秋。読書の秋。今年の秋は、
テニスに燃えた後、苦く塩っぱいさんまを味わいながら、小津映画を見て、
古典落語を聞き、詩を鑑賞しては、どうだろうか。夏の暑さで疲れた心を癒
してくれるはずだ。




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