NEWSによる事例
2001年5月30日(水) 6時0分
東京都町田市の会社員、宮下亜紀子さん(31)方で29日、三男の保育園児、直(なお)ちゃん(4)が死亡した虐待事件。女性保育士が直ちゃんの体に異常を見つけて20日後の無残な死だった。この間、市も児童相談所も疑惑を持ちながら家庭へ接触していなかった。幼い子への暴力を止める手立てはなかったのか。
<保育園>
保育士が直ちゃんの左手人さし指のばんそうこうに気付いたのは9日だった。直ちゃんは「やけど」と話した。1週間後の16日、保育士は直ちゃんのはれた左ほおを見て驚いた。背中や腹にもあざがあった。直ちゃんは「ママがたばこをじゅっとした」と重い口を開いたという。
園側の問い合わせに、母親は「夢遊病のようで、夜中に外に出て傷を負った」と電話で答えた。園は、不自然な点が多く虐待の恐れもあると17日、町田市児童福祉課に通報した。保育士は「直ちゃんは大人を怖がるところがあった。笑顔のかわいい子でした」と涙ぐんだ。
<町田市>
児童福祉課は保育園と協議、母親を問い詰めると逆効果と判断して様子を観察することにした。18日には、八王子児童相談所に通報。同所の保護司も経過を観察するとの判断だった。このため市として保育園や家庭への訪問などは行わなかった。
24日に再び保育園と連絡を取り、出席状況や様子について尋ねた。特に変化はないとのことで、新たな措置は取らなかった。鈴木正課長は「残念でならない。もう少し積極的なアプローチが出来なかったのか、課題が残る」と話している。
<児童相談所>
同相談所によると、市の相談を受けた担当児童福祉司は係長職の女性で、任用4年目。国の児童相談所運営指針では、福祉司は相談内容を速やかにカードに記載し、受理会議に報告。全職員の合議で対応を決める。しかし、今回は報告されなかった。
真野由美子所長は「受理会議が形がい化されている訳ではない」と困惑している。
<団地周辺>
団地の住民はほとんど直ちゃん一家と付き合いはなかったという。近所の男性(75)は趣味のカメラで直ちゃんを写したことがある。「子供にカメラを向けたらおどけた顔をするものだが、あまりに無表情で驚いた」と話す。
直ちゃんの兄2人が通う市立藤の台小の森田芳博教頭は「お兄ちゃんたちに虐待など変わった様子はなかった。26日の運動会も母親と一緒にご飯を食べていた。残されたお兄ちゃんの精神面が心配」と語った。 【佐藤大介、石原聖、清水健二】
[毎日新聞5月30日] ( 2001-05-30-02:07 )
2001年4月4日(水) 21時0分
1997年から3年間に、少年が単独で起こした殺人などの凶悪事件で、多くが自殺未遂を起こしたり自殺願望を抱くなど、少年が事件直前に自分を否定したいほど追い詰められた心理状態だったことが4日、最高裁「家裁調査官研修所」の研究で分かった。家裁調査官らが、深刻化する少年事件に的を絞り、外部の研究者を交えて行った初の研究。研修所は「突発的に見える事件でも前触れ的な行動があり、適切に対応していれば防げたケースもあった」と指摘し、周囲の理解の大切さを訴えている。
研究の対象は97〜99年、単独で殺人・同未遂事件を起こした10少年と、集団で人を死なせた5事件10人(うち2人が少女)の計15事件20少年・少女(事件当時13〜18歳)。全国の家裁で審判が行われた事件記録を基に、家裁調査官と裁判官、学者、医師ら計16人が事例検討方式で原因を探り「重大少年事件の実証的研究」と題した報告書にまとめた。
これによると、単独で凶悪事件を起こした10少年は(1)もともと幼少期から問題行動を繰り返していた(2)表面上は問題がなかった(3)思春期に大きな挫折をした――の三つに分類できた。すべての少年が「いじめられていた」「母に干渉され、精神的に参っていた」など、事件前に追い詰められた心理になっていた。いずれも事件に向かう「分岐点」として、ものを壊す、暴力的なゲームにふけるなど、何らかの前触れ行動がみられた。自殺を考えたり、実際に試したケースも7例あった。
表面上問題がないと思われていた少年の場合、感情に乏しく、周囲に合わせていただけで現実世界では傷ついていた。傷つくことのないアニメなどの空想世界に閉じこもり、研究では「空想と現実とのギャップに直面した時、空想で育てた『自分』を守るための無意識的な防衛反応が殺人という形を取ったのではないか」と分析している。
一方、集団で起こした5事件の研究では、リーダー格とそれ以外の各2人の心理状態を考察、どちらも少年らが被害者を殴ったりけったりしているうちに「他のメンバーに見くびられたくない」などの集団心理が働き、激しい暴力に歯止めが利かなくなるケースが大半だったことが分かった。
研修所は、研究結果を6月をめどに小冊子にまとめ市販する。また、要旨を近く最高裁のホームページに掲載し、少年事件の防止にも役立てる考え。問い合わせは最高裁広報課(03・3264・8111)へ。
★重大少年事件の実証的研究対象事例一覧★
学年・性別・年齢=罪名(処分)特徴
<単独>
高3男(18)=殺人(中等少年院送致)進路問題から親を殺害
無職男(16)=殺人未遂(特別少年院送致)街で通行人を襲う
中3男(15)=殺人・死体遺棄(初等少年院送致)金銭トラブルから殺害
中3男(15)=殺人(医療少年院送致・相当長期の処遇勧告)進路問題から親を殺害
中1男(13)=殺人(児童自立支援施設送致)注意した大人を殺害
中2男(14)=強盗殺人(初等少年院送致)侵入盗が発覚し家人を殺害
中3男(15)=強盗殺人未遂(初等少年院送致)街で通行人を襲う
無職男(17)=強盗殺人、死体遺棄(検察官送致)訪問先で家人を殺害
中3男(14)=強盗殺人(初等少年院送致・相当長期の処遇勧告、環境調整命令)侵入盗が発覚し家人を殺害
高3男(18)=殺人(検察官送致)訪問先で家人を殺害
<集団>
高校生ら男(16歳ら9人)=傷害致死(中等少年院送致・比較的長期の処遇勧告、中等少年院送致・一般短期の処遇勧告)公園でホームレスを襲う
中3男(14歳5人)=傷害致死(初等少年院送致)公園で会社員を襲う
中3女(14・15歳)=強盗致死(初等少年院送致、医療少年院送致)金銭目的で暴行
無職男(16歳2人)=殺人(検察官送致、中等少年院送致)金銭目的で暴行
高校生ら男(18歳2人、17歳5人)=傷害致死(検察官送致、中等少年院送致)公園で集団リンチ
[毎日新聞4月4日] ( 2001-04-04-20:40 )
2001年4月2日(月) 10時15分
愛実(まなみ)ちゃん(当時3歳)は、身長186センチの父に思いきりけられ、台所の床に転がった。つかみ起こされ、また下腹をけられた。3月7日朝、神奈川県相模原市のマンションの4階。「おなか、痛い」。小さな声を出し、運び込まれた病院で息を引き取った。小腸など内臓破裂による失血死。顔や体に無数のあざがあった。
「台所で勝手にドッグフードを食べ、床にぽろぽろこぼしていた。カッとなり頭の中が白くなった」。殺人容疑で逮捕された父親の小沼信行被告(32)=傷害致死罪で起訴=は供述した。
聴覚障害のある小沼被告は、子供のころ両親が離婚し、母親に育てられた。中学は普通学級に通っていたが、いじめに遭って、ろう学校に変わったという。音響機器の工場、フィルムの現像処理会社、デパートなどを転々。職場での人間関係がうまくいかず、孤立することが多かった。
同じ聴覚障害者の妻(26)は地元の手話サークルの仲間だった。4年ほど前にマンションに引っ越したところ愛実ちゃんが生まれた。今年1月に小沼被告は失業した。勤めに出る妻に代わって、小沼被告が自転車で愛実ちゃんを保育園に送っていた。
マンションの住人たちは、愛実ちゃんの泣き声や、小沼被告の怒鳴り声をよく聞いていた。夜中に大きな物音がして飛び起きたこともある。一昨年9月、洗濯機のホースがはずれ階下の部屋が水浸しになった。2階まで水が流れ落ちた。この部屋の主婦に知らされ、やっと騒ぎに気付いた小沼被告は、愛実ちゃんがいたずらをしてホースをはずしたと思い、怒鳴りだした。
その後、主婦は目の周りにあざがある愛実ちゃんを見掛けた。心配して近付くと、「転んだんだよね」と小沼被告が言った。
□ □
はっきり虐待に気付いていたのは保育園だった。2年前の春、愛実ちゃんのあざに気付いた園長が「お迎えに来た時に寄って下さい」と小沼被告に呼び掛けた。園長室で事情を聞くと、「家の中で転んだ」と筆談で答えたという。
だが、あざは顔だけでなく胸、腹、足などに無数にあった。思い余って園長は相模原市福祉事務所や相模原児童相談所に通報した。体のあざを写真撮影し、園を訪れた保健婦に見せた。福祉事務所職員や保健婦は自宅を2回訪ねた。だが、小沼被告と妻が「脱衣所で転んだ」などと筆談を交えて答えると、それ以上は調査しようとしなかった。「『緊急性はないが経過を見守ってほしい』と児童相談所から言われていたので……」と福祉事務所は取材に答えた。
児童相談所は一度も調査に訪れなかった。昨年2月には匿名の住民から通報を受けたが、動かなかった。「両親が障害者であり、福祉事務所に対応を任せていた」。あざの写真は愛実ちゃんの死亡後に警察から見せられ、初めて知ったという。
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「感情が見えてこないんだよ。娘にあんな暴力を加えておきながら……」。捜査にあたった相模原署の幹部は話す。失業後はテレビゲームで時間をつぶすことが多かった。事件の2〜3日前、愛実ちゃんがゲームを壊したので怒ったという。
「同じ障害者には心を開いて相談してほしかった。立派に子育てしている夫婦は大勢いる」。小沼被告を知る聴覚障害の男性は、記者に筆談で語った。乳母車を押しながら、愛実ちゃんに笑いかけていた小沼被告の顔が今も記憶に残るという。
愛実ちゃんはよくキティちゃんの髪留めをして自転車の前かごに乗っていた。今、マンションの玄関には花束とキティちゃんの人形が置かれている。
[毎日新聞4月2日] ( 2001-04-02-03:01 )
2001年4月1日(日) 8時15分
1月23日夜、埼玉県三芳町の住宅に怒声が響いた。「なんで早くしないんだ。ばかやろう!」。父親(29)は泣き出した飛鳥ちゃん(3)の顔を平手で3回、4回とたたいた。妻が歯科医に行く時間が迫っている。長男(5)と三男(2)はすぐにジャンパーを持ってきたが、二男の飛鳥ちゃんはこたつから出ようとしなかった。
妻の治療の間、父親は肉まんとジュースを買い、車の中で長男と三男に与えて食べた。飛鳥ちゃんはもらえず、黙って見ていた。
翌日夜、家族でスーパーへ出かけようとした。「何やってんだ。もさもさしてんじゃねえ」。なかなか靴がはけない飛鳥ちゃんの頭を、父親は力任せにたたき、けった。起きあがった飛鳥ちゃんの胸を再びけった。飛鳥ちゃんはひっくり返り、頭を打った。小さな体がけいれんし、呼吸が荒くなった。近隣の病院に運んだが、飛鳥ちゃんが目覚めることはなかった。
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その5カ月前。飛鳥ちゃんは同じ病院に運び込まれていた。おう吐がひどく、衰弱して医師の声にも反応しない。体にあざがあり、虐待を疑った病院は川越児童相談所に連絡した。
父親は児童相談所に虐待を認めた。中学を出た後、製紙会社、製本会社、清掃会社、食品配送会社を転々とし、5年前からブロック工をしていた。飛鳥ちゃんが生まれるころは、収入が不安定で、家族が増えるとますます生活が苦しくなると思ったという。
暴力は生後3カ月のころから始まった。妻は不安になって飛鳥ちゃんを親類宅に預けたが、顔を見なくなるとさらに父の愛情は薄れた。半年後に自宅に戻したが、「あやしても話しかけても、シカト(無視)されたように感じた」。翌年に三男が生まれたが、どうしても飛鳥ちゃんだけがなつかないような気がした。ベッドに飛鳥ちゃんの手足を縛りつけて、家族で外出したこともある。
飛鳥ちゃんは退院した昨年9月11日から一時保護所に預けられた。両親は毎週会いに来た。「反省」を何度も口にし、「親としての自覚が足りなかった。今までしてあげられなかった分、これからやってあげたい」と手紙を職員に渡した。こわばっていた飛鳥ちゃんは父親が「おいで」と言うとひざの上に乗るようになった。
児童相談所の全職員が認め、飛鳥ちゃんは10月29日に自宅へ戻った。「父親が毎月相談所で面接を受ける」「月に一度家庭訪問を受け入れる」などの誓約書に両親は署名した。年末にかけて同相談所職員、保健婦、民生委員などが計4回家庭訪問した。「飛鳥ちゃんは明るく元気な表情だった」と相談所職員は話す。
だが、帰宅の1週間後から虐待は再発していた。父親はあざが目立たない腹などを殴ったという。おたふく風邪にかかった、飛鳥ちゃんは正月に親類に預けられた。その後、父の暴力は激しくなった。相談所はまったく知らなかった。
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児童虐待防止法は、虐待を早期発見し子供の保護を促すため児童相談所の権限を強化した。だが、虐待する親の更生や再発防止策は手つかずのままだ。
「面談を拒否したり反抗する親は多いが、飛鳥ちゃんの両親は私たち職員と関係を作る努力をしていた」と川越児童相談所の所長は取材に答えた。だが、米国の州の中には、虐待親はケアや教育を受けなければ子供の引き取りを認められず、再発した場合は担当職員が資格をはく奪される。
「なぜ見抜けなかったのか」。記者の言葉に、所長は声を落とした。「確かに、親の熱意と子育ての能力は別。その場では反省しても虐待をやめられるとは限らない。判断が甘かったのかもしれない」
父親は傷害致死罪で起訴された。検察官は冒頭陳述で父親の心理を述べた。
<親類宅に預けると、自分の子ではないような気がしてきて、ささいなことで憤りを感じ殴ってしまった。表情を失い体を硬直させる姿を見ると、なぜこんな子が生まれたのだ、とますます抑えられない憎悪を抱くようになった……>
わずか3年しか生きられなかった飛鳥ちゃん。バスタオルに包まれて病院に運ばれた時には、冷たい「棒」のようだったという。
× ×
悲惨な事件は、昨年11月の児童虐待防止法の施行後、むしろ増えている。国民の関心が高まり、通告数が飛躍的に増えているのに、なぜなのか。見落としている問題を探る。
◇今年発生(発覚)した主な虐待事件◇
1月2日 宮崎県日向市で内妻の子(6)の頭を壁にたたきつけた父(45)を逮捕。
16日 岡山県日生町で男児(3)が母親(27)から虐待され死亡。
18日 山口県宇部市で長男(9カ月)が母(27)から踏みつけられ死亡。
23日 福島県原町市で会社員(25)が内妻の娘(2)に暴行しけがをさせる。
25日 埼玉県三芳町で男児(3)が父(29)にけられ死亡。
26日 愛知県武豊町で「ハムスターにいたずらした」と長女(3)と長男(2)を熱湯につけて大やけどをさせた父(35)を逮捕。
2月7日 広島市安佐北区で女児(2)に食事を与えず栄養失調にした疑いで両親を逮捕。
7日 神戸市垂水区で長男(3)を殴り骨折させた父(30)を逮捕。
11日 福井市で泣いてぐずった男児(3)が母の内縁の夫(24)に殴られ死亡。
17日 京都市南区で女児(4カ月)に暴行してけがをさせた父(50)を逮捕。
19日 鳥取市で男児2人を殴りけがをさせた女性(37)らを送検。
21日 埼玉県川口市で内妻の長男(11)を殴りけがをさせた男(37)を送検。
25日 兵庫県姫路市で男児(1)が母(17)に頭を床に打ちつけられ死亡。
3月5日 千葉市美浜区で内妻の長男(6)を暴行して死なせた男(28)を逮捕。
8日 神奈川県相模原市で長女(3)が飼い犬のエサを食べたことに腹を立て暴行して死なせた父(32)を逮捕。
15日 群馬県太田市で内妻の長女(10)を殴りけがをさせた男(34)を逮捕。
17日 兵庫県西宮市で男児(2)が母(28)から殴られ死亡。
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[毎日新聞3月31日] ( 2001-03-31-23:34 )