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「彼にとってあなたは特別な存在なんです。」 出し抜けに彼女は言い出した。 しかし、だから、なんだというのだ。私はそんなこともう当の昔から知っている。今更彼女に言われるでもない。 「そうね。私もそう思うわ。」 私が驚きもせずにその事実を認め、彼女は少しまごついたが、意を決したように再び話し出した。 「でも、私は彼と付き合っています。私一応彼の彼女です。それに私は彼のことが好きなんです。それなのに、彼はあなたのことを私よりも特別の人だと思ってるんです。これっておかしくないですか?」 おかしくないですか?ね・・・・・。あぁ、彼女はなんと愚かな質問をするのだろう。彼女は何も分かっていないのだ。私と彼の関係はおかしいなどということを超えてしまっているのだということを。しかし、彼女に罪はない。 「そうね。おかしいかもしれないわね。でも、それは彼の問題でしょ。私に聞く前に彼に聞いた方が早い気がするけど。」 「聞きました。そしたらおかしくないってそう言われました。そおいうものなんだって。」 ふむ。またなんと正確な答え方をするのだろうか。しかし、そんなことを言って納得する女は私ぐらいしかいないということを彼は未だに分かっていない。 「彼らしいわね。私もそう思うわ。でも、それではあなた納得しないのでしょう?」 私は彼女が軽く頷くのを見てゆっくりと説明し始めた。 「まず、はじめに言っておきたいのだけれど、私も彼のこと好きよ。今もすごく好きよ。あなたの好きと比べる気はないけれど、とにかくそれだけは覚えておいて。」 彼女は少し怯んだ面持ちで深く頷く。 「たぶん、あなたたち付き合う前ね。私は彼に気持ちを伝えた。そしてふられた。分かるわね?彼はあなたのことが好きだったの。私よりももっとあなたが好きだったのよ。それだけよ。だから私たちはいい友達のままでいることにしたの。本当にそれだけよ。」 彼女が納得できないという風に何か言いかけたのを私は遮って話を続けた。 「表面上としてはね。あなたが知りたいのはそこに含まれる感情のことよね。さっきも言ったけど私は彼が好き。さて、問題は彼が私をどう思っているか。そうよね?」 彼女がうんうんと二度頷く。 「これは少しややこしいわね。彼はあなたのことが好きなのよ。それは今も昔も変わりはしないわ。どんなに頑張っても私が愛される事はないわね。そう・・・確信してもいいわ。でも、彼は私を必要としている。なぜだかは知らない。でも、彼は私を失いたくないと言う。彼を好きな私がそれを拒めて?」 彼女の目に涙が浮かぶ。少し彼女には酷過ぎたかもしれない。彼のあの入り組んだ感情など彼女にとって度台理解できるものではないのだ。それは、ある意味羨ましくもあり、ある意味可哀想でもあるが・・・・・。しかし、私にどうしろというのだ。説明を求めてきたのは彼女で、私は事実を述べたまでだ。私に罪はない。 「とにかく、私に嫉妬したり私のことで悩むのは御門違いってものよ。むしろ私があなたに嫉妬していいくらいよ。あなたは彼に愛されているのだから・・・・・。」 彼女の目から涙が溢れてきた。私は間違ったことを言っただろうか。いや、彼女にとっては私の存在そのものが間違っているのかもしれない。そう思うとなんだか遣る瀬無い思いになる。しかし、私が彼の前から消えて、それで、彼がどうなるか、彼女は分かっていない。 私と彼の関係はそこまでねじれているのだ。 しかし、彼が彼女を愛し、私を愛する事はない。 事実はそれだけだ。 泣きたいのはむしろ私の方である。 それでも、愛され人は私の前で涙をこぼし、私は愛され人を置いて店を出た。 |