その男の本名はオイシ、しっぽの尾に石、と書く。 その男、イシオは、車を買った。 この話をする際のポイントは、車を買ったのはいいが、なぜポンティアック(注:車種)になってしまったのか、ただ一点に絞られる。 イシオ本人曰く、本当はレガシィワゴンに乗りたかった。最初はそんな気持ちだったらしい。しかし、結果的には200万円相当のレガシィワゴンのはずが、車両本体価格67万円コミコミで90万円のポンティアックになってしまっているのだ。 「あの車は費用対効果が抜群なんだよ」 私は一度、「なんでポンティアックなんて買っちゃったんですか?」と質問した事がある。その答えは、「荷物がたくさん入るから。」「キャンプとかよく行くし。」であった。「それなら、間違いなくワゴンとかにすべきだったんじゃないんですか。」この質問は封印された。やはり、ポンティアックなんぞを買ってしまった人に、それ以上聞いちゃいけないような気がしたからである。でも、この質問だけはした、「その車でキャンプには行ったんですか?」その答えは「ああ、一回だけ。」であった。 では、ポンティアックが、選ばれてしまった本当の理由は何であろうか。 イシオがポンティアックを買ってしまった理由。そこには「つりぼんとたろう。」このコンビの力に頼るところが大きい。このコンビの名前はあからさまにいかがわしい。ばかぼんとばかぼんのパパ、と似たような響きである。「つりぼんとたろう」が一体どんな人物かというのはここではさしあたっての問題ではないので、詳しくは記述しない。 イシオはそのポンティアックを国道41号線の中古車カーショップを10件ぐらいまわって決めたらしい。その「つりぼんとたろう」と一緒に。 ここに共通点が見出せる。「つりぼんとたろうと一緒に。」である。 実際に私は現場に居合わせたわけではないので、詳細は分からないが、とにかくこの2人はそれはそれはかなりの強さで、ポンティアック購入を勧めたらしい。そこのカーショップの店員とぐるになってである。その理由は「こんな車見た事ないし、自分じゃ買う気になんないけど、一度乗ってみたいし。」それだけだったらしい。そして、イシオはポンティアックを買った。 これ以上の解説の付け加えようがないが、イシオは、強引に買わされたのではないかと推測せざるを得ない。というか、客観的に判断すれば、買わされている。 しかし、つゆどきに駐車中、窓が開けっ放しになっていてシートがずぶぬれになってしまった事もある、その海老茶色のポンティアックをこよなく愛すイシオは、現在もその車を乗り回している。 イシオは既に、転勤によりここの独身寮を離れて、東京で暮らしている。 そんなポンティアックであの名古屋ナンバーなんて、そうそう見ることができないので、ご覧になりたい方は、是非とも鷺沼までお越し願いたい。ただ、その前に、是非イシオ本人と会っていただきたい。そっちの人物像のほうがたぶん面白いからに他ならない。
イシオがなぜ車を買う事になったのか。それはさして問題ではない。なぜ、本名がオイシなのに、イシオと呼ばれちゃったのか。それもさしたる問題ではない。
コミコミ90万円の車とは思えないほどいい車だという事を、イシオ本人は伝えたいのだと思われる。
たとえ、フロントガラスに糊でくっ付けられていたルームミラーが突然落ちてきたり、車の前部が長すぎて、坂道ではがりがりとバンパーをこすってしまったり、左ハンドルなのに、左前のドアの鍵穴に鍵が刺さりにくく、刺すのにテクニックがいる、などなどの逸話を知っていて、それは費用対効果が抜群なんじゃなくて値段相応というべきだろうなどとは、思っても決して口に出してはいけない。本人は至って満足げで微塵の疑問も感じずに今日をむかえているのだ。
実際にその車を目撃した方には、分かっていただけると思うが、その車は、なにせハイセンスである。しかもアメ車である。外観は誰が何と言おうと、昆虫である。タイムボカンに出てきそうだとは思っても、口に出してはいけない風格があるのである。その風格に魅せられたのだろうか。
既に何件も見て回っていたにも関わらず、ポンティアックを見たその日、その場で購入を決めてしまったらしい。「つりぼんとたろう」と一緒に。
車検を一回通したにもかかわらず、いまだに名古屋ナンバーで、田園都市線鷺沼駅近辺を徘徊しているらしい。
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