BOOK・9

「緋色の記憶」トマス・H・クック
  原題:The Chatham School Affair
  訳者:鴻巣 友季子
  出版:文春文庫 1998年3月 (1996年作品)
  定価:543円+税
  評価:4点

 読んだ後にこの胸に残る思いはなんであろうか。静かにそして淡々と老弁護士によって、自分の少年時代のことを語る回想録の形をとった不思議な読者に考えさせる作品である。
 コッド岬という小さな村に女教師チャニングがやって来る。彼女は同僚の妻子ある教師リードと恋に落ちた。そこから悲劇が始まる。その事は後にチャタム校事件と呼ばれるようになる。校長の息子であるヘンリーは、そのことを最初から最後まで見届けた者として真相を胸に秘めつつ、チャタム校事件を振り返る。
 今なら何でもないような事が、1920年代という時代だからこそ引き起こしたこの悲劇。つまりは誰が悪いのか。いや、悪者などいないのであろう。現在と過去が入り乱れて語られ、人間のそして男女の機微がクック独自の描写で綴られていく。ヘンリーの最後の告白を読者は驚愕するとともに、共感し、やるせない思いを胸に残しならが、『そうか・・・』と一言つぶやいてしまうであろう。(00.03.27)


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