北側国土交通大臣の発言の有効性を検証する。
まず、現在のダイヤを元にATSの信頼性を計算する。
当該区間(上り)を走る営業列車本数は
平日193本
休日192本
(臨時列車含まず)(JR「駅から時刻表」より)であり、
土休日ダイヤ運転日を120days/year(ave.)とする。
ということは、
当該区間を通過する列車は70,325本/yearである。
現場は8年使っているから
現在までに当該区間を走行した上り列車はざっと562,600本。
ここで、ATSの信頼性について論議する。
故障の少ないといわれるトヨタ社製の車でも一つ一つの機械要素(部品)の偶然故障率は6.7PPM程度。
ATSの偶発故障率は公表されていないので同じ確率でATSに故障がおこると仮定すると現場にATS-P2を設置しても、
故障は3.77件/8年発生することになる。つまり1年につき当該箇所で0.45件ほどの故障が起きる。
つまり、もし機械だけにたよって現場の速度制限を守った場合には年間0.45件の速度超過が起こる。
これに対し、人間の操作だけにより現場の制限速度を守った場合には、年間0.125件の速度超過が起こる。
ここから計算すると、人間の操作は機械の操作に比して約3倍正確であるといえる。
このため、ATSが人間の誤操作をバックアップする機構になっているとは決していえない。
なお、ATS-P2は従来のATS-SWに比べて、ハードの部品点数が多くなる上、ソフトウェアも複雑になるため、
故障率は従来型より高くなる(つまり信頼性が低下する)ことが予想される。
さらに、ATSは地上子と車上子のセットで使用するものであり、部品点数はさらに増える。
また、信頼性工学の立場から、高度な制御を必要とする制御系はそれ自体の信頼性を保障できず、
一般に低度な制御系に比して「制御系の信頼性」という観点から危険である。さらに、今回新たにATS-P2を設置した場合、
十分な試験ができぬまま運行を再開することになると予想される。一般に故障率は「バスタブ曲線」に従うため、初期故障は
発生しやすい。このことから、さらに故障率はあがると予想される。もちろん、中・長期的な観点からはATS-P2を設置することが望ましいが。
以上のことから
「現場にATS−P2を設置して運行を再開した場合のリスクの低減分は、現行のまま運行を再開した場合と比べ、無視できるほど小さい」
と結論付けられる。
以上のことから、北側国土交通大臣の発言にあるような
「宝塚〜尼崎間に新型ATSを設置しなければ運転再開を認めない」
という発言は、工学的見地から言って論理性を認められない。
ましてや現在の阪急宝塚線のラッシュ時の混雑具合から推測すると、
JRが運休することによって輸送人員がふえ、ホームに人があふれることによって引き起こされる
「阪急電鉄の各駅で電車とホーム上の人が接触する事故が発生するリスクの増分」のほうが
「ATS-P2設置によって今回の事故現場で再び脱線・転覆事故がおきるリスクの低減分」を上回ると考えられる。
「ATS-P2設置」より効果があり、かつ現実的なリスクの低減策として「現場付近の護輪軌条の設置」と「現場付近に減速を促す要員の配置(たとえば列車に向かって赤旗を振る、等)、または現場のひとつ前の信号を『黄色』にすること」を提案する。
だいたい、北側大臣や報道陣は鉄道のことをどれだけ知っているのか。
「旧型ATSが危ない・危ない」といっているが、地下鉄銀座線の例を知らないのか?
東京の地下鉄銀座線では昭和二年の創業以来、打子式ATS(自動列車停止装置)を採用ていた。
これは線路の近くに信号と連動した棒(トリップアームと言う)があって、もしも赤信号を電車が無視したらブレーキ用の空気タンクについているコックに当たって、これによって非常ブレーキが掛かるという、いたって単純な仕組みであるが(当時としては大変)スグレモノであった。
この装置は何と平成5年7月まで安全を守り続けた。
北側大臣!そして報道機関のかたがた!地下鉄銀座線が過密運転で無いとは言わせませんよ。そうでなくても地下鉄は一度事故が起これば大惨事はまぬかれ得ない。そんな線区に今回の福知山線より旧式のATSが採用されていた事実。どうして公にしないんですか。そして、「JR西日本のは旧式だ旧式だ」とJRだけを批判するんですか。(だいたい民営化のときに赤字を押し付けてまともな企業として出発させなかったのはどこの政府だったんだ、そして実態を調査せず、放置したのは国土交通省自身だろ!)事故の有無や犠牲者の多少だけが安全に対する重大な欠陥を指摘しているんではない!でしょう。そしてATSだけで再び事故が起こらなくなるわけではないでしょう!ほかの要因、特に運転時分の延長が無ければまた制限速度ぎりぎりの運転が繰り返されてまたオーバーランや事故が起こるでしょう。そこを指摘せずにATSだけのことを言うのはまったくわかっていないのがまるわかりで、自分の馬鹿さ加減を露呈しているだけでしょう。小泉首相同様「ポーズだけ」で自画自賛して事を終わらせる手法をJRに教えてあげるメッセージですか?それとも「国土交通省はちゃんとやってます」というポーズだけを国民(特に公明党・「冬柴のてっちゃん」の地元尼崎市民)にアピールするつもりですか?それでは死者は浮かばれません。
だいたい今回の事故で「こんな過密なダイヤのところに旧式のATSを取り付けていたことが問題」という国土交通省。それをほうっておいて指導をしなかったのは自分自身だろ!
マスコミもそういう行政の怠慢をいわないのも問題だ。
そして、「過密ダイヤはいけない」という。そんなら一度、東京の地下鉄の霞ヶ関周辺で全線一時間一本運転(ローカル線並みの過疎ダイヤ)
を実施してみましょうか?困るのは自分たちでしょう。
そして、過密ダイヤを作らざるを得ない大元、通勤ラッシュを生み出す近郊の職住分離型ニュータウンの建設を公団を作って推進したのは誰ですか?政府自身でしょ。「通勤地獄とその輸送の安全性」は一企業だけに委ねられるものではなく、政府を含め国民全体の問題ではないんですか?
大体、「今回の事故は新型ATSさえあればなかった」という国土交通省、じつはかつて同じように「新型ATSさえあれば・・・」という事故が九州で起こっていたことを誰もいわない。その事故の概要は以下のとおり。
2002年2/22福岡県宗像市のJR九州鹿児島線で起きた電車衝突事故である。
けが人は計90人(うち18人が入院)であった。普通電車がイノシシと衝突して停車していたところ、後続の快速電車の運転士(48)が赤信号で停止した後、旧型ATSの効力を切ってから徐行運転を開始。(ここまでは規則どおり。)規則では前方に注意しながら、次の信号まで時速15キロで走行しなければならないと定められているのに、中継信号という予告信号で「進め」のサインを見て、45キロまで加速したため、普通電車に追突した。
この事故の問題点は運転士が赤信号が長く出た場合の運転規則(その規則自体に問題があるともいえるが)に従わずに運転したことが一点、そして、旧型ATSは運転士の操作によってその効力を無効にできる点が一点である。
要は、旧型ATSは運転士の操作によってスイッチを切ることができる。実際、赤信号や減速ポイントを暴進した場合、五秒間警報が鳴って、その間にATSのスイッチをきり、安全に停止すればよいことになっている。警報が鳴っている間に運転士がスイッチを切らなければ列車は非常停止する。ただし、もしも、警報音が鳴り、ATSのスイッチを切った時点で運転士が気を失えば、前方の列車への衝突もありうる。「ATSさえあれば安全」というイメージはあるが、意外と危なっかしい装置である(もっとも、どんな機械でも壊れることを考えれば、旧式だろうと新型だろうとある程度は危なっかしい)。
翻って、新型ATS(ATS-P)は常にスイッチONであり、運転士の操作で警報音は切れても装置の効力は切れない。JR西日本の場合、東海道本線の一部などでATS−P2が使われているが、停車駅に近づいても減速しないと男や女の声で「停車です!」といわれるのを運転室の後ろでは聞くことができる。(それでもオーバーランは多発したのだが・・。そして、運転士への聞き取り調査で「停車です!」の声はあまりきこえていないという結果がある。)
実はこの九州の事故以前にも同じような原因の事故はちょくちょく起きているらしい・・・。(私は覚えていません・・・。)
で、この事故を教訓として国土交通省はJR九州に「新型ATSの設置を運転再開の条件とする」と指導したか。答えは否である。これはただ単に今回の事故に比べて列車のスピードが約半分(ということは運動エネルギーは約1/4)であったこと、九州圏のため尼崎の事故ほど乗客がいなかったことで犠牲者が一人も出なかったこと、負傷者の数が今回ほど出なかったことが影響しているに過ぎず、犠牲者数ばかりに目が行って、事故の本質(ATSの運用上、技術上の欠陥)を見過ごしている結果である。(もっとも、ATSに抜け道があることは前々から言われている。)
では、この事故を教訓として国土交通省は全国の鉄道会社に
「旧型のATSは技術的、運用的に抜け道があり、高度に技術が発達した現在の社会では、欠陥商品といわないまでもあまり使い続けることが望ましいとは言えない。特に多くの人員を過密ダイヤで輸送する鉄道会社大手においては、列車追突など重大事故の原因ともなりかねず、早急に新型への取替えが求められる。」
といった指導がなされたのか?答えは否である。つまり、国土交通省は九州での事故を、日本の鉄道行政にかかわるほどの重大事である、という認識は微塵も無かったと言わざるを得ない。(もっとも、JR西日本にもそんな認識が無かったであろう。)
歴史に「たら・れば」はないが、もし、上記のような勧告が全国の鉄道会社に配布されれば、今回の現場区間にATS-P2はすでに設置されていたに違いない。そうすれば今回の脱線、転覆事故はなかった可能性は高い。(制限速度内でも事故の起こる可能性は決して0とはいえないし、いくらATS-P2が装備されても故障、その他別の理由での脱線事故は起こる可能性があるし、まだ見つかっていないATS-P2の問題点が露呈して事故になる場合もありえるのでこういう慎重な表記にした。)
ひとつの事故(それがたとえ「負傷者なし」であっても)から、読み取るべき「(鉄道)システムの危うさ」を読み取ろうとせず、日本の鉄道会社にはどこでも起こるかもしれない問題なのに当該の会社、運行区間の問題に問題を挿げ替える、そして結果の重大さばかりに目を向ける国土交通省の姿勢、そして行政側としての職務怠慢は(どこの省庁にでも当てはまる姿勢なんだろうが)糾弾されてしかるべきである。それを差し置いて発言する今回の北側大臣にはあきれるものがある。そして、それを追求せず、JRの責任のみを追求する専門家、マスコミ、警察(これは国土交通省とは行政の身内なのである程度仕方ないのはわかっているが)にも異議を申し立てる。
最後になったが、この事故の対応に関しては国土交通省にはもっと技術的に意味のある対応を求める。
そして、不幸にもなくなってしまった100名以上の方々のご冥福をお祈りすると同時に、彼らの死を「犬死に」にしないため、JR西日本だけの特異な問題として事故の原因を追究するのではなく(勿論そういう要因も入っているだろうが)、日本(のみならず、世界中)の鉄道システムの欠陥の結果としての事故であるとの認識の上にたって事故の原因を究明し、世界中で二度と同じような原因での事故が起こらないよう対策が講じられることを切に願う。
そして、論理的に考えられ、かつ包括的に(技術)政策全体を見渡せる人間が政府首脳にいないのを憂う。